ゲジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ゲジ目
Thereuopoda clunifera
オオゲジ Thereuopoda clunifera
(国立科学博物館)
地質時代
石炭紀 - 現世
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 多足亜門 Myriapoda
: ムカデ綱(唇脚綱) Chilopoda
: ゲジ目 Scutigeromorpha
学名
Scutigeromorpha
Pocock1895
英名
house centipede
下位分類群
本文参照

ゲジ(蚰蜒)は、節足動物門ムカデ綱ゲジ目学名: Scutigeromorpha)に属する動物の総称。狭義にはそのうちの1Thereuonema tuberculata の和名である。

伝統的にはゲジゲジと呼ばれるが、「ゲジ」が現在の標準和名である。天狗星にちなむ「下食時(げじきどき)」から「ゲジ」となった説や、動きが素早いことから「験者(げんじゃ)」が訛って「ゲジ」となったという語源説がある。

形態[編集]

ゲジの口器
Ⅰ:大あご
Ⅱ:第1小あご
Ⅲ:第2小あご
Ⅳ:顎肢

複眼と長い歩肢や背面の大きな気門などにより徘徊生活に特化している。ムカデであるが、触角は細長く、体は比較的短いため、見かけは一般のムカデからとは随分異なっている。

成体の胴体は背板がある程度まで融合し、背側から11節に見えるが、腹側の腹板と解剖学的には18節あり、気門も他のムカデのような胴体の両側に対をなすものではなく、11枚の背板のうちに発達した8枚(第2- 9枚目)の後縁中心に1個ずつ配置される[1]

付属肢[編集]

頭部の正面は1対の細長い糸状の触角をもち、下面には3対の顎(大顎・第1小顎・第2小顎)が集約する。他のムカデ類と同様に、胴体の第1節には毒腺をもつ顎肢が備える。しかし他のムカデに比べて、ゲジの顎肢は細長くて6節に分かれており、基腹板も融合せず、歩脚らしい形質は比較的に明瞭である[2]。歩脚は第2-16節まで備えて計15対をもつ。細長い歩脚は、後端に向けて次第長くなり、先端の節(符節)がのように伸びる。特に最後尾の1対は歩行に用いず、触角のように長く伸びている。後端の第17節には小さなはさみ型の生殖肢をもつ[1]

[編集]

ゲジの一種Scutigera coleoptrataの頭部正面、発達した複眼を持つ。

現生の多足類にしても例外的に、ゲジは複眼をもつ。かつて、この複眼は偽複眼 (pseudofacetted eyes) とも呼ばれたが、これは多足類と昆虫類(現六脚類)は近縁とされることと解剖学的構造の違いにより、多足類の単眼は退化した複眼による結果で、ゲジの目はその単眼から再び集約する「二次的な複眼」であるという仮説に従った名称である。しかしその後の分析により、ゲジの複眼からカブトガニ三葉虫の複眼との共通点が判明し、特に多足類六脚類との関係性が否定され、汎甲殻類仮説(甲殻類六脚類からなる単系統)が有力視される以降、複眼は多足類の共有原始形質であるとされ、そのうちほとんどのものは単眼へ退化し、ゲジだけにこの特徴を受け継いでいたと思われる。すなわちゲジの複眼は他の節足動物と収斂進化した同形形質ではなく、共有原始形質としての真の複眼である[3]

生態[編集]

樹皮に止まった個体

ゲジは主に昆虫などの小型節足動物捕食する肉食動物である。他のムカデと異なり、1対の複眼を有し、紫外線に敏感な高い視覚性を持つ[4]。走るのが速く、鞭のような歩脚で獲物の脚を纏うという「投げ縄」("lassoing")として記載された捕獲方法を持ち、同時に複数の獲物をも捕獲できる[5][6]

多くの多足類と同様、幼体の体節と足の数は少なく、脱皮によって節や足を増やしながら成長する。15対の脚を持つ成体になる以前の幼生段階は、6つの齢期に分かれ、それぞれ4・5・7・9・11・13対の脚を持つ[6][7]。2年で成熟し、寿命は5 - 6年である。

等の天敵に襲われると足を自切する。切れた足は暫く動くので、天敵が気を取られている間に本体は逃げる。切れた足は次の脱皮で再生する。

分布[編集]

ゲジは全世界に分布している[8]

日本にはゲジThereuonema tuberculata)とオオゲジThereuopoda clunifera)の2の生息が確認されている[8]夜行性で、落ち葉・石の下・土中など虫の多い屋外の物陰に生息する。屋内でも侵入生物の多い倉庫内などに住み着くことがある。海外では地中海盆地に原産するScutigera coleoptrata が世界中に広く分布していた。

人との関わり[編集]

カマドウマを捕食するオオゲジ

ムカデではあるが、オオムカデと違って攻撃性は低く、積極的に人を刺咬することはない[8]。噛まれたとしてもは弱く、人体に影響するほどではないが、傷口から雑菌感染する可能性があるので、消毒するなどの注意は必要である。これはゲジに限った話ではない。

人間にとって基本的には無害な生物であり、ゴキブリなどの衛生害虫をはじめ様々な小昆虫を捕食する。害虫を捕食する虫であるという点では「益虫」である[8]。しかしその異様な外見や、意外なほど速く走り回る姿に嫌悪感を持つ人は多く、餌となる虫や快適な越冬場所などを求めて家屋に侵入してくることもある。このようなことから不快害虫の扱いを受けることもある[8]。特に山間部などにある温泉宿旅館等では、宿泊客が就寝中に姿を現し、苦情や駆除の要請を受けるケースもあるため、宿によっては部屋の常備品として不快害虫用の殺虫剤スプレーを置くところもある。

屋内への侵入を防ぎたければ、まず掃除を行い、屋内を清潔にするとともに、ゲジの捕食対象となる他の害虫を駆除する。次にコーキング剤などで収納スペースの密閉性を上げること。床下などの湿った場所を好むが、駆除目的で燻煙剤など使うと、燻されて屋内へ逃げ込んでくるので逆効果となる場合もある。ムカデと同じく乾燥に弱いので、部屋を乾燥させておくこと。

系統と分類[編集]

発達した複眼、節が融合しない顎肢など形態上の原始的性質や遺伝子分析による結果から、現生ムカデ綱の中にゲジ目は最も早期に分岐したグループで、残り全てのムカデの姉妹群とされる。ゲジ目はイシムカデ目ナガズイシムカデ目を加えて、側系統群であるゲジ亜綱改形亜綱 Anamorpha)を構成する[9]

下位分類[編集]

Sphendononema guildingii
ゲジ Thereuonema tuberculata
オオゲジ Thereuopoda clunifera
Thereuopoda longicornis
  • †Latzeliidae
  • Psellioididae
  • Scutigerinidae
  • ゲジ科 Scutigeridae
    • Allothereua
    • Ballonema
    • Brasilophora
    • Diplacrophor
    • Lassophora
    • Madagassophora
    • Microthereua
    • Orthothereua
    • Parascutigera
    • Pilbarascutigera
    • Podothereua
    • Prionopodella
    • Prothereua
    • Pselliodes
    • Pselliophora
    • Pselloides
    • Scutigera
    • Scutigerides
    • Scutigerina
    • Selista
    • Sphendononema
    • Tachythereua
    • Teleotelson
    • Thereuella
    • ゲジ属 Thereuonema
      • ゲジ Thereuonema tuberculata - 成虫の体長がせいぜい3cmの小型の種で、日本に広く分布する。河原の石の下から人家の床下まで広く見られる。体は比較的柔らかく、灰色のまだらがある。
    • オオゲジ属 Thereuopoda
      • オオゲジ Thereuopoda clunifera - 体長7cmにも達する大型の種である。足を広げていると大人の掌には収まり切らない。本州南岸部以南に生息する。体は丈夫で、褐色つやがある。夜の森の中を探索すると、樹皮上をわさわさと歩く姿が見られる。昼間は物陰に隠れており、沖縄では石灰岩地帯に多数の小さな洞窟や窪みがあるが、そのような所に固まっていることがある。
    • Thereuopodina
    • Thereuopriona

ゲジの名を持つもの[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b Untitled 1”. lanwebs.lander.edu. 2018年9月23日閲覧。
  2. ^ “The evolution of centipede venom claws – Open questions and possible answers” (英語). Arthropod Structure & Development 43 (1): 5–16. (2014年1月1日). doi:10.1016/j.asd.2013.10.006. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803913000893. 
  3. ^ “Mechanisms of eye development and evolution of the arthropod visual system: The lateral eyes of myriapoda are not modified insect ommatidia” (英語). Organisms Diversity & Evolution 7 (1): 20–32. (2007年4月12日). doi:10.1016/j.ode.2006.02.004. ISSN 1439-6092. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1439609206000584. 
  4. ^ Meyer-Rochow, Victor Benno; Müller, Carsten H. G.; Lindström, Magnus (2006年). “Spectral sensitivity of the eye of Scutigera coleoptrata (Linnaeus, 1758) (Chilopoda: Scutigeromorpha: Scutigeridae)” (英語). Applied Entomology and Zoology 41 (1): 117–122. doi:10.1303/aez.2006.117. ISSN 0003-6862. https://doi.org/10.1303/aez.2006.117. 
  5. ^ Lewis, J. G. E. (1981) (英語). The biology of centipedes. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9780511565649. ISBN 9780511565649. https://www.cambridge.org/core/books/biology-of-centipedes/E34738E2D242536C37DBB00CCA592351. 
  6. ^ a b House centipede | Arthropod Museum” (英語). wordpressua.uark.edu. 2018年11月2日閲覧。
  7. ^ Elsevier. “Spiders, Scorpions, Centipedes and Mites - 1st Edition” (英語). www.elsevier.com. 2018年11月2日閲覧。
  8. ^ a b c d e 気になる害虫の知識 ムカデ・ヤスデ・ゲジ対策 環境機器株式会社、2017年5月14日閲覧。
  9. ^ Edgecombe, G. D.; Giribet, G. (2002). “Myriapod phylogeny and the relationships of Chilopoda”. In Bousquets, J. Llorente; Morrone, J. J.. Biodiversidad, Taxonomía y Biogeografia de Artrópodos de México: Hacia una Síntesis de su Conocimiento, Volumen III. メキシコ国立自治大学 (National Autonomous University of Mexico, Universidad Nacional Autónoma de México). pp. 143–168. 
  10. ^ Fossilworks: Latzelia primordialis”. fossilworks.org. 2018年11月2日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]