権兵衛狸

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権兵衛狸(ごんべいだぬき)は、落語の演目の一つ。初めは東京のみで演じられていたが、近年は上方に移植されて演じられている。民話の香りのするほのぼのとした小品である。三遊亭金馬立川談志らの持ちネタとして知られる

あらすじ[編集]

田舎に一人住いをする権兵衛は百姓の傍ら髪結床を営んでいる。

当時の床屋は社交場でもあった。当然のことながら、夕暮れになると野良仕事を終えた村の者が集まって四方山話に花を咲かせる。その中に混じって話を聞くのが権兵衛の楽しみでもあった。

そうしているうちに夜も更け、「もうそろそろ帰らねえと、明日の仕事に差しつかえるだ」と権兵衛が帰宅を促し、その言葉を潮に村の者が三々五々と家路につく。

客を見送った権兵衛、雨戸を閉めてさあ寝ようと布団に横になりまどろみかけた頃、トン、トンと雨戸をたたく音につづいて「ご~んべ~」と自分の名を呼ぶ声がする。

はて、誰だろう。誰か忘れ物でもしたのかと、知り合いの名を呼んでも何の返事もなく、相変わらず、トン、トン、「ご~んべ~」。

一向に埒があかず、雨戸を開けて外を見ると誰もいない。変だなと思いつつ、その日は権兵衛床についた。

ところが翌日も村の者が皆家路につき、雨戸を閉めて布団に横になりまどろみかけると、戸を叩き名前を呼ぶ者がいる。戸を開けると誰もいない。これは山のが悪さをするなと権兵衛は考えた。

翌日、やはり家路につく村の者を見送り、雨戸を閉めて布団に横になりまどろみかけると、トン、トン、「ご~んべ~」

「来やがったな。ようし、どうするか見てろ」

狐狸が戸を叩くときに尻尾を使うというが、本当は後頭部で叩いているらしい[1]。権兵衛、それを見計らって叩きそうなところで、雨戸をガラッと開けた。

計略図にあたり、叩く目標を失った狸が転がり込んでくる。それからはくんずほぐれつの格闘戦。権兵衛は必死に抵抗する狸に腕を引っかかれつつも、見事狸を捕まえる。

「おめえの仕置についてはゆっくり考えるべえ」と足を縛ってに吊るし、権兵衛は床についた。

翌朝、村の者が野良仕事前にやってくる。

「『朝茶は難を逃れる』というからでも飲んでけ」と勧める権兵衛だが、茶の中に何やら獣の毛が入っているのをいぶかしむ村の者。

「ああ、それなら上見てみろや」

村の者が上を見ると、狸が逃れようともごもご動いている。

「あの狸どうしただ」という村の者に権兵衛が昨晩の武勇談を話すと、

「ああ、こいつだな。こないだおさんに化けておらびっくりさせたのは」

どうも、他にも余罪があるようで。

「お前のような狸は狸汁にして食うてやるべえ」という村の者に、「おらもそう思っただが、今日は父っつぁまの祥月命日だから殺生はいがね」と権兵衛。

村の者が野良仕事に行った後、「今日はそういう事情があるだで命までは取らんが、二度と悪さこかんように懲らしめてやるべえ」と、権兵衛剃刀を持ち出すと狸の頭を剃り始める。

さすがは本職、きれいに丸坊主に剃り上げると、「今度悪さぶちたくなったら、どうしてそんな頭になっちまっただか考えるだぞ」と言って放してやる。

数日後、いつものように村の者を送り出し、床についてまどろみかけると、戸を叩く音がして「ご~んべさ~ん」

「あんれまあ。助けてやったら『ご~んべさ~ん』だと。懲りねえ狸だなあ」

怒った権兵衛、こんどこそ狸汁にしてやると戸を開けると件の狸が飛び込んできて、

「親方ァ、今度ァ剃っておくんねぇい」

概説[編集]

話の筋も単純で登場人物も少なく、話の長さも短くやり易いので多くの落語家が演じる。渋く訥々と語る林家彦六戯画的な2代目桂枝雀などが印象に残る。また、4代目(9代目)鈴々舎馬風が演じる数少ない古典ネタであったが、馬風らしく現代風のくすぐりを交えながらも実によい出来であった。

脚注[編集]

  1. ^ ここで「知り合いの狸がそう言ってました」とクスグリを入れることが多い