カキノキ

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カキノキ
柿の実(カキノキの果実)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 asterids
: ツツジ目 Ericales
: カキノキ科 Ebenaceae
: カキノキ属 Diospyros
: カキノキ D. kaki
学名
Diospyros kaki
Thunb.
和名
カキノキ
英名
Kaki Persimmon
Persimmon

カキノキ(柿の木)は、カキノキ科の1種の落葉樹である。東アジアの固有種で、特に長江流域に自生している。

熟した果実は食用とされ、幹は家具材として用いられる。葉はの代わりとして加工され飲まれることがある。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられる。現在では世界中の温暖な地域(渋柿は寒冷地)で果樹として栽培されている。

特徴

雌雄同株であり、雌花は点々と離れて1か所に1つ黄白色のものが咲き、柱頭が4つに分かれた雌しべがあり、周辺には痕跡的な雄しべがある。雄花はたくさん集まって付き、雌花よりも小さい[1]。日本では5月の終わり頃から6月にかけて[2]に白黄色の地味な花をつける。果実は(かき)と呼ばれ、秋に橙色に熟す。枝は人の手が加えられないまま放って置かれると、自重で折れてしまうこともあり、折れやすい木として認知されている。

名の由来

日本から1789年ヨーロッパへ、1870年北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われている。

英語で柿を表す「persimmon」の語源は、アメリカ合衆国東部のインディアンの言語であるアルゴンキン語族で「干し果物」を意味する名詞「ペッサミン」であり、先住民がアメリカガキ Diospyros virginiana の実を干して保存食としていたことに基づく。

生産

柿畑

国別生産量

国際連合食糧農業機関 (FAO) の統計データ(2005年)によると、カキの世界生産量は256万1732トンである。このうち、72%を中国が、99.8%を上位6国が生産している。

中華人民共和国の旗 中国 1837000 t
大韓民国の旗 韓国 0250000 t
日本の旗 日本 0230000 t
ブラジルの旗 ブラジル 0150000 t
イタリアの旗 イタリア 0051000 t
イスラエルの旗 イスラエル 0040000 t
ニュージーランドの旗 ニュージーランド 0001300 t
イランの旗 イラン 0001000 t
オーストラリアの旗 オーストラリア 0000650 t
メキシコの旗 メキシコ 0000450 t

地域別ではアジアが92%、南アメリカ(ブラジルのみ)が6%、ヨーロッパ(イタリアのみ)が2%である。

日本での生産

柿は沖縄県を除く日本の全都道府県で栽培・出荷がされており(ただし北東北と北海道はカキノキの生育には寒冷すぎるため、渋柿がごく少数出荷されているに過ぎない)、柿の栽培面積が多い県は和歌山県福岡県奈良県の順で、生産量日本一の市町村は、奈良県五條市である[3]

2011年度 20万7500トン[4]

過疎の影響

農村の過疎化や、高齢化などで、取られないまま放置される柿の実が増え、それらがニホンザルニホンジカなどの野生動物の餌になっているという指摘がある。特にツキノワグマは柿の実にひきつけられて人里に出没するという[5]

品種

品種は多く、1000を超えるとも言われるが、渋柿と甘柿に大別される。

食用の栽培品種のほとんどが 2n = 90 の6倍体であるが、一部の種なし品種(平核無や宮崎無核)は 2n = 135 の9倍体である。播種から結実までの期間は長く、ことわざでは8年とも言われるが、接ぎ木の技術を併用すると実際は4年程度で結実する。品種改良に際して甘渋は重要な要素で甘柿同士を交配しても渋柿となる場合もあり、品種選抜の効率化の観点から播種後1年で甘渋を判定する方法が考案されている[6][7]

渋柿

渋柿は、実が熟しても果肉が固いうちは渋が残る柿である。代表的な品種は、平核無刀根早生である。平核無は新潟県が発祥である。刀根早生奈良県天理市の刀根淑民の農園で栽培されていた平核無が1959年伊勢湾台風の影響で突然変異したもので、1980年に品種登録された。

主な渋柿
甲州百目、蜂屋、富士江戸柿平核無刀根早生、西条柿、市田柿、四つ溝、会津身知らず、堂上蜂屋柿、愛宕柿、紀の川柿

甘柿

甘柿は渋柿の突然変異種と考えられている。未熟時は渋いが熟すに従い渋が抜け、甘みが強くなっていく。1214年に現在神奈川県川崎市麻生区にある王禅寺で偶然発見された禅寺丸が、日本初の甘柿と位置づけられている。なお、中国の羅田県周囲にも羅田甜柿という甘柿が生育しており、京都大学の調査によると、日本産甘柿の形質発現は劣性遺伝であるのに対し、羅田甜柿は優性遺伝で、タンニンの制御方法も全く異なっているとわかった。

甘柿は、熟せば常に甘みを持つ完全甘柿と、種の有無・多少により成熟時に渋が残ることがある不完全甘柿に分類できる。渋が残ることがあることから、不完全甘柿を渋柿の一種に含めることもある。完全甘柿の代表的な品種は、富有と次郎、御所。富有は岐阜県瑞穂市居倉が発祥で原木がある。次郎は静岡県森町に住んでいた松本次郎吉に由来する。御所は奈良県御所市が発祥で、突然変異で生まれた最も古い完全甘柿である。不完全甘柿の代表的な品種は、上記の禅寺丸や愛知県が発祥の筆柿などがある。

スペインでは、ロホ・ブリジャンテ(Rojo Brillante)と呼ばれる縦長な品種が栽培されている。

主な完全甘柿
富有次郎、太秋、愛秋豊、御所、伊豆、早秋、貴秋、晩御所、花御所、天神御所
主な不完全甘柿
禅寺丸筆柿、西村早生、黒柿

形状

形状はトマトのように横長なもの(平核無など)と、ドングリ砲弾のように縦長なもの(甲州百目など)に大別される。

柿の利用

柿は弥生時代以降に杏子などとともに栽培種が大陸から伝来したものと考えられており、鎌倉時代の考古遺跡からは立木の検出事例があり、この頃には果実収穫を目的とした植栽が行われていたと考えられている。

柿の実

甘柿の果肉ではタンニンが不溶性となっているため生食するが渋柿の果肉ではタンニンが水溶性で渋みが強いため生食できず、渋柿を食用にするには果肉が軟らかくなった熟柿(じゅくし)になるのを待つかタンニンを不溶性にする渋抜きの加工をする必要がある。湯やアルコールで渋を抜くことを動詞で「醂(さわ)す」といい、これらの方法で渋抜きを施した柿は「さわし柿」と呼ばれる。ほとんどの場合収穫後に渋抜き処理を行うが、品種によっては収穫前に樹上で渋抜きを行うことも出来る[8]。渋柿のタンニンの性質は品種間で異なっており、適する渋抜き方法は異なる[6]

渋抜き

  • アルコール漬けにする(樽柿)。
  • アルコールを掛ける。35度のアルコールを少量振りかけ(20 - 30kgに湯飲み1杯程度)、容器(何でもよい)に密封して1週間置く。
  • 乾燥させる(干し柿)。あんぽ柿市田柿は干し柿の一種。
  • 湯抜き(35 - 45℃の湯に浸ける)。鹿児島県紫尾温泉など、温泉につけることもある。
  • 米ぬかにつける。
  • 炭酸ガス脱渋(大量の渋柿を加工する業務用の方法。家庭でもドライアイスを使えば可能)。
  • 容器にりんごと一緒に入れ密封して一週間置く

干し柿以外の加工食品

生食、干し柿の他に次のような食品に加工されている。


日本料理では風呂吹きの他に和え物に使われる。繰り抜いて器にしたものは柿釜と呼ばれる。[9][10]

このほか朝鮮半島では干し柿生姜肉桂からスジョングァという飲み物を作る。また米国には柿プディング(パーシモンプディング)という伝統料理がある。製法はクリスマスプディングと似ており、本来は軟らかく熟したアメリカガキの実を用いる。

栄養価

カキ(Persimmons, japanese, raw)
100 gあたりの栄養価
エネルギー 293 kJ (70 kcal)
18.59 g
糖類 12.53 g
食物繊維 3.6 g
0.19 g
飽和脂肪酸 0.02 g
一価不飽和 0.037 g
多価不飽和 0.043 g
0.58 g
トリプトファン 0.01 g
トレオニン 0.03 g
イソロイシン 0.025 g
ロイシン 0.042 g
リシン 0.033 g
メチオニン 0.005 g
シスチン 0.013 g
フェニルアラニン 0.026 g
チロシン 0.016 g
バリン 0.03 g
アルギニン 0.025 g
ヒスチジン 0.012 g
アラニン 0.029 g
アスパラギン酸 0.057 g
グルタミン酸 0.076 g
グリシン 0.025 g
プロリン 0.022 g
セリン 0.022 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(10%)
81 µg
(2%)
253 µg
834 µg
チアミン (B1)
(3%)
0.03 mg
リボフラビン (B2)
(2%)
0.02 mg
ナイアシン (B3)
(1%)
0.1 mg
ビタミンB6
(8%)
0.1 mg
葉酸 (B9)
(2%)
8 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
コリン
(2%)
7.6 mg
ビタミンC
(9%)
7.5 mg
ビタミンD
(0%)
0 IU
ビタミンE
(5%)
0.73 mg
ビタミンK
(2%)
2.6 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
1 mg
カリウム
(3%)
161 mg
カルシウム
(1%)
8 mg
マグネシウム
(3%)
9 mg
リン
(2%)
17 mg
鉄分
(1%)
0.15 mg
亜鉛
(1%)
0.11 mg
マンガン
(17%)
0.355 mg
セレン
(1%)
0.6 µg
他の成分
水分 80.32 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)
100g中の食物繊維[11]
項目 分量
炭水化物 15.9 g
食物繊維総量 1.6 g
水溶性食物繊維 0.2 g
不溶性食物繊維 1.4 g

ビタミンCビタミンAカロテン、糖質に富む[12][13]。ただし、干し柿に加工するとビタミンCはほとんど失われる。なお、体が冷えるという俗説があるが、柿の実は果実類の中でも栄養価が特に高く、実際には体を冷やさない食べ物とされる。柿に含まれるカリウムには利尿作用もあるが、食べ過ぎに注意すれば問題はないとされる[12][13]

柿渋

紙に塗ると耐水性を持たせることができ、和傘団扇の紙に塗られた。柿渋の塗られた紙を渋紙と呼ぶ。また、塗料としても用いられた。石鹸の原料ともなる(柿渋石鹸)。

ヘタ

成熟した果実のヘタを乾燥したものは柿蒂(シテイ、「柿蔕」とも書く)という生薬で、しゃっくり・鎮咳・鎮吐に用いられる。

ビタミンCKB類といったミネラルフラボノイドなどを多く含み血管を強化する作用や止血作用を持つとされるため、飲用する(柿葉茶)などで民間療法に古くから用いられてきた。また近年では花粉症予防に有効とされ、従来の茶葉としてだけではなく成分をサプリメント等に加工され商品化されたものも流通している。飲用方法としては、5-6月に収穫した葉を天日で乾燥させ粉末化し煎じることが一般的である。

またその殺菌効果から押し寿司を葉で巻いた柿の葉寿司や和菓子などの添え物にされることもある。

柔らかい初春の若葉は天ぷらにして食用にできる。

木材

木質は緻密で堅く、家具や茶道具、桶や和傘などの材料として利用される。ただし、加工がやや難しく割れやすいため、建築材としては装飾用以外には使われない。また、かつてのゴルフクラブ(ウッド)のヘッドには柿材(特にアメリカガキ)を使った物が多くパーシモンの名で呼ばれていたが、現在では金属製のウッドが普及したためにあまり使われなくなった。柿木は堅い樹であるが枝が突然に折れる性質があり、古来より柿の樹に登る行為は極めて危険とされている。

柿にまつわる慣用句など

  • 「柿の花」は、「柿」・「熟柿」・「木守柿」は季語である。なおこの木守柿とはカキノキになった柿の実をすべて収穫せず、木になったまま残しておく数個の柿の実のことである[14]。「こもりがき」、「きもりがき」、「こまもりがき」、「きまもりがき」と読まれる。このような風習は来年の豊作への祈願であるとも、野鳥のために残しておくともいわれる。なお、ユズなどについても同じような風習がある。
  • こけら落としの「こけら」は「杮」と書くが、これは音読で「ハイ」と読む画数8画の漢字であり画数9画の「柿」(かき・シ)とは全く異なる文字である。しかしながら、この二つの文字を別字とする根拠は明確ではない[15][16]
  • 「桃栗三年柿八年」 と言われ、播種から初回結実までの期間は長い。
  • 「柿が赤くなると医者が青くなる」と言うことわざがあり、豊富なビタミン類とミネラルが栄養価摂取の低い時代では医者いらずの万能薬として重宝された。
  • 大名に剥かせよ。柿は乞食に剥かせよ」 瓜は実の中心部が最も甘みが強く、皮を厚く剥くとよい。一方柿は皮のすぐ下が最も甘みが強いため極力皮を薄く剥くとよい。

柿を用いた俳句

柿の季語は”秋(晩秋)”であり、多くの人物に詠まれている。

脚注

  1. ^ 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科 植物生態研究室のホームページ 植物雑学事典 カキノキの花
  2. ^ 名古屋での平年値は5月13日(名古屋地方気象台 2010年 生物季節観測)
  3. ^ 柿|五條市で“食べる”|五條市観光協会(2014年10月22日閲覧)
  4. ^ 農林水産省 平成23年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量
  5. ^ 河北春秋 2010年10月26日[リンク切れ]
  6. ^ a b カキの甘渋の遺伝 園芸學會雜誌 Vol.54 , No.1(1985)pp.39–45
  7. ^ 京都大学大学院農学研究科 果樹園芸学研究室
  8. ^ カキ果実のアルコール脱渋時におけるエタノール含量と脱渋及び追熟との関係 園芸學會雜誌 Vol.53 , No.3(1984)pp.278-2 (独)科学技術振興機構
  9. ^ 『四季日本の料理 冬』講談社 ISBN 4-06-267454-8
  10. ^ 『四季日本の料理 秋』講談社 ISBN 4-06-267453-X
  11. ^ 五訂増補日本食品標準成分表
  12. ^ a b 管野浩編 『雑学おもしろ事典』 p.39 日東書院 1991年
  13. ^ a b 落合敏監修 『食べ物と健康おもしろ雑学』 p.165 梧桐書院 1991年
  14. ^ 『短歌表現辞典 草樹花編』 p.45 飯塚書店 1996年。 柿には守り神が宿るとして、「木守り柿」を一つ残しておく風習があると説明される。
  15. ^ 漢字雑文 - こけらとかきの違い・続篇 2011年10月24日
  16. ^ JIS X 0208-1997 付属書7 区点位置詳説 p.272-274

関連項目

外部リンク