みなみじゅうじ座
Crux | |
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属格形 | Crucis |
略符 | Cru |
発音 | [ˈkrʌks]、属格:/ˈkruːsɨs/ |
象徴 | Southern Cross |
概略位置:赤経 | 12.5 |
概略位置:赤緯 | −60 |
広さ | 68平方度[1] (88位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 19 |
3.0等より明るい恒星数 | 4 |
最輝星 | α Cru(0.667等) |
メシエ天体数 | 0 |
確定流星群 | Crucids |
隣接する星座 |
ケンタウルス座 はえ座 |
みなみじゅうじ座(みなみじゅうじざ、南十字座、Crux)は、南天の星座のひとつ。全天88星座のなかでもっとも小さい。
南十字星(みなみじゅうじせい)、または英語での通称サザンクロス(Southern Cross)としても知られる。ただし、小さい上に各星の明るさがあまり揃っていないこともあって、近くにある「ニセ十字」と間違えられることも多い。
3方向をケンタウルス座で囲まれており、残りの部分ははえ座に接している。ケンタウルス座α星、ケンタウルス座β星を結んだ線をβ星方向に伸ばすと、この星座のおおよその方角を指す。
現在、天の南極には南極星に当たる目立った星がないため、大航海時代以来おもにみなみじゅうじ座が天の南極を測るために使われた。α星とγ星の間隔を、α星に向け約4.5倍すると、だいたい天の南極に到達する。
特徴
南方にある星座のため北半球では見えない場所が多い。
時期によっては日本でも沖縄県、小笠原諸島などで観望が可能であり、特に宮古列島、八重山列島からなる先島諸島では比較的観望しやすい。中でも国内最南端の有人島である波照間島では南十字星が観光資源にもなっており、切手が作られたり、観望ツアーが組まれたり、星空観測タワーなどが設けられたりしている。また、八重山列島にある石垣市は、2019年7月に南十字星を市の星に定めている[2]。この地域で観望できる時期は12月下旬から6月中旬までの約半年であり、南中時刻が午後8時から10時ごろの見やすい時間帯となる5月頃が観望に適している。先島諸島からは、星座は地平線に近く、靄が出現すると見えにくい。ポラリス(現在の北極星)から天頂に至る線を南に延ばすと肉眼でもはっきり見える。なお、本州でも最南端に位置する串本町などで、時期や気候条件などが整えば、水平線真上に先端部分のγ星を確認することができる。
アメリカ合衆国では、ほぼ北緯20度のハワイ州全体、フロリダ州南端(北緯24度のキーウェスト)は、比較的この星座を観望しやすい場所である。ホノルルのビショップ・ミュージアムのプラネタリウムでは次の時刻をこの星座の南中時刻として知らせている。
12月1日:6時半頃(日の出は7時頃)
1月1日:6時頃
2月1日:4時頃
3月1日:2時頃
4月1日:0時頃
5月1日:22時頃
6月1日:20時頃
7月1日:日没後(19時半ごろ)
(8月から1月は南中時刻が昼になるので、観望しにくい。)
おもな天体
恒星
2つの1等星α星とβ星以外に、2等星が1つ(γ星[3])、3等星が1つ(δ星)存在している。α星から順に時計回りにβ星、γ星、δ星を結んだ四角形の各対角線が、星座のモチーフである十字となる。
- α星:アクルックス (Acrux) は、全天21の1等星の1つ[4][5]。
- β星:ミモザ (Mimosa) は、全天21の1等星の1つ[5][6]。
- γ星:ガクルックス (Gacrux)[3][5]。
- δ星:Imai[5]
- ε星:Ginan[5][7]
星団・星雲・銀河
- NGC 4755:散開星団。宝石箱(Jewel Box)としてよく知られる。
- コールサック:暗黒星雲。天の川の中にあり、星雲が天の川を隠すような形で暗く見えるため、暗いゆえに見えやすい。肉眼でも識別可能である。名称は、形が石炭を入れる袋に似ていたことに由来するとされる。
由来と歴史
古代の地中海(古代ギリシア)ではこの星座を見ることができ、ケンタウルス座に付属する星として記録が残されている。歳差運動の影響で、現在は地中海地域から見ることができなくなっている。
かつてはフランスの天文学者オギュスタン・ロワーエによって1679年に設定されたと言われていたが、1598年にペトルス・プランシウスによって独立した星座として描かれたのが先である[8]。
呼称と方言
日本では戦時中まで、東京天文台系統では じゅうじ(十字)座[9][10]、京都大学宇宙物理学教室系統ではじゅうじか(十字架)座[10]と呼ばれていた。戦前戦中にかけて日本の統治地域が南方に拡大されるにつれて Southern Crossを和訳した「南十字」「南十字星」の名称が世間にも広まった[10]。これを受け、1944年に刊行された学術用語の小冊子で「南十字座」の名前が採用され[11]、理科年表でも1947年刊行の第20冊から「南十字座」とされている[12]。
17世紀前半に南方と往来した天竺徳兵衛ら航海者がこの星座を「クルス」「クルセイロ」と呼んでいた[13][14]。また第二次世界大戦当時、フィリピンのマニラの住民が「クルス」「クロス」と呼んでおり[13][14]、インドネシアのジャワ島の住民は十字でなく菱形に結んで小屋や蚊帳に見立てていた[13][14]。
みなみじゅうじ座の星々について「八重山諸島では「はいむるぶし(南群星)」と呼ばれる」との説が広められている[15]が、日本の星名に関する野尻抱影による先駆的な研究や21世紀に発表された北尾浩一による研究においても「はいむるぶし」の名称は一切採り上げられておらず[14][16][17][注 1]、出処不明の呼称である。
中国でもみなみじゅうじ座は中原地方では見えないので、伝統的な星座体系においては、古代からの三垣二十八宿には含まれておらず、後に南天の星座が近南極星区の星官として追加された中では、みなみじゅうじ座に相当するものは「十字架」の名称となっている。
みなみじゅうじ座に由来する事物
みなみじゅうじ座は、古くはブラジル帝国皇帝ペドロ1世のように署名に添える人物もいたほか、各地の旗や紋章に使われるなど、南半球の国や地域でアイデンティティの象徴とされた。ニュージーランドの国旗は、ε星を省略してあるが、この星座を使っている。オーストラリア、ブラジル、パプアニューギニアおよびサモアの国旗には、ε星まで5つ星全部を使ってこのみなみじゅうじ座をあしらった模様がついている。
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みなみじゅうじ座を使用した旗
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ブラジル帝国皇帝ペドロ1世の署名
脚注
注釈
出典
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ “「市の星」に南十字星 4団体36個人を表彰 市制施行72年”. 八重山日報. (2019年7月11日)
- ^ a b “* gam Cru -- High proper-motion Star”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年3月12日閲覧。
- ^ “* alf Cru -- Spectroscopic binary”. SIMBAD Astronomical Database. 2013年1月19日閲覧。
- ^ a b c d e Eric, Mamajek. “IAU WGSN”. 国際天文学連合. 2019年1月28日閲覧。
- ^ “* bet Cru -- Variable Star of beta Cep type”. SIMBAD Astronomical Database. 2013年1月18日閲覧。
- ^ “Results for * eps Cru”. SIMBAD Astronomical Database. 2019年1月28日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “Star Tales - Crux”. 2013年4月16日閲覧。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第19冊』丸善、1943年、B 21頁頁 。
- ^ a b c 原恵 2007, p. 246.
- ^ 原恵 2007, pp. 44, 246.
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第20冊』丸善、1947年、天 24頁頁 。
- ^ a b c 野尻抱影「クルス星(南十字)」『日本の星・星の方言集』中央公論社、1976年7月10日、296頁。ISBN 9784122003507。
- ^ a b c d e 野尻抱影「南十字星」『日本星名辞典』(第七版)東京堂出版、1986年4月10日、197-201頁。ISBN 4490100787。 NCID BN0129007X。
- ^ “はいむるぶし|会社概要”. 株式会社はいむるぶし. 2019年1月28日閲覧。
- ^ a b 野尻抱影「琉球の星」『日本の星・星の方言集』中央公論社、1976年7月10日、267頁。ISBN 9784122003507。
- ^ a b 北尾浩一『日本の星名事典』原書房、2018年5月28日。ISBN 978-4562055692。
参考文献
- 谷川正夫『誰でも見つかる南十字星-南天の星空ガイド』地人書館、2012年3月。ISBN 978-4805208472。
- 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日。ISBN 978-4-7699-0825-8。