自転車旅行

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二人でパイネ国立公園をツーリングしているところ
家族でのツーリング
パタゴニアをツーリングしている青年

自転車旅行(じてんしゃりょこう)とは、自転車を利用したのことである。サイクル・ツーリングとも。

自転車旅行と言っても自転車以外の交通手段を一切用いないわけではなく、広義には輪行と言って、列車・バス・船などの乗り物に自転車を持ち込んで一緒に移動して、移動した先で自転車で走行することを楽しむものも含む[1]

概要

基本的には自宅より自転車を用い目的地をめざし、帰りの道も自転車を用いる旅行のことを指してはいるが、輪行、すなわち公共交通機関に自転車を持ち込んでそれとともに移動することを望むサイクリストらの要望に応え「手荷物料の無料化」など、諸制度の改善が進んだことにより、輪行も相当に盛んになっている。

ツーリングの規模は様々であり、小さなツーリングとしては日帰りで行うようなものがあり[2]、大きなツーリングとしては何年もかけて、いくつもの大陸を横断・縦断するものや、地球を一周するようなものがある[3][4]

歴史

自転車で旅行することそのものは、自転車の先祖とされるドライジーネの時代でも可能だった。そして1870年頃、ペニー・ファージングが発明され、ロングライドイベントが行われた。しかし、安定性が悪く、転倒の危険性も高い自転車だった。

1936年、「山口スポーツ車」が発売された。この自転車は現在の自転車とほぼ同じ機構で、後部にキャリアが付いており、ある程度荷物を積むことができた。しかし、太平洋戦争の影響で発展が止まってしまう。

1955年、「東叡号」が発売された。この自転車は日本版ランドナー第1号で、ドロップハンドル、革サドル、キャリアなどが付いており、現在のランドナーと比較しても大きな違いはない。当時はサイクリングブームの最中だったこともあり注目を浴びた。しかし、値段が高く、当時は旧一級国道すら舗装率は25%に過ぎないほどの未舗装路の多さや、自転車が低性能だったことが要因となりブームは終わってしまった。

1974年、ブリヂストンサイクルから「ロードマン」が発売された。この自転車の販売にあたっては、モデル自転車をベースにパーツなどを選ぶ方法を採用して流行した。他のメーカーもランドナーなどのツーリング自転車の生産を始め、自転車旅行が普及しはじめた。この流行は社会現象を起こし、には連日多くの人が自転車旅行に出かけた。子供用のツーリング自転車も販売された。学生の間でも人気となり、これらの自転車を通学に使う人も多く、特に高校生の自転車通学に使う自転車はその多くがランドナーだったといわれている。ランドナー以外にもスポルティーフ(舗装路を快走することを重点に考えたツーリング車)や、パスハンター(山道を走破することを重点に考えたツーリング車)なども流行した。

1980年代からはマウンテンバイクが流行しはじめ、ランドナーをはじめスポルティーフ、パスハンターなどの自転車の利用者は少なくなっていき、ランドナー用の部品メーカーの倒産や廃業が相次いだ。同じ頃、自転車旅行の宿泊施設として定番だったユースホステルの減少、無人駅での野宿(STB)規制の強化などにより、自転車旅行も衰退していった。

自転車の種類による特徴

ランドナー
ツーリング用に設計されているためキャリアが標準装備として付けられ、積載重量に対する強度も考えられている。クロモリ鋼製フレームを使用しているので振動吸収性に優れる。現在は入手できる車種が限られ、オーダーメイドでの受注が多い。互換性のある部品が少ないため、長期間の旅行で故障した際に支障がある。
マウンテンバイク
フレームは丈夫に作られていて長距離の旅行に適している。サスペンションがついている車種もあるが、サスペンションは搭載できるキャリアの種類を限定してしまう。タイヤが太く転がり抵抗が大きい。
クロスバイクスポルティーフなど
ロードバイクに比べてキャリアの取り付けがしやすい。タイヤが太めなので未舗装路でも走ることができる。値段が比較的安いため購入しやすいが、安価なモデルの場合は振動吸収性に劣り、疲労がたまりやすい場合がある。
ロードバイク
舗装路面を高速で走行することに最適化された自転車である。荷物を積むことは考えられていないためキャリアを取り付けるのは難しく、取り付けることができたとしても荷物はあまり積めない。荷重の増加や段差などでタイヤがパンクしやすい。他の車種より繊細な作りで壊れやすい。
リカンベント
やや仰向けの乗車姿勢で上体が楽になり、空気抵抗が少ないので高速で走行できることから、長時間を走るツーリングに向いている。立ち漕ぎができないので、上り坂では走りにくい。
シクロクロス
ロードバイクの走行性能とマウンテンバイクの悪路走破性の中間的な性質を持つ。頑丈で扱いやすく、ツーリング向けとして汎用のキャリアを取り付けられるモデルもある。タイヤの転がり抵抗は比較的大きい。
シティサイクル
安価で補修部品が最も手に入りやすく、大きめのカゴがついているものもある。車体が比較的重くブレーキが弱い。安価なモデルは車体の耐久性が低いので頻繁に修理が必要となる。
三輪自転車
安定しており、上り坂をゆっくりと登ることができる。

その他、荷物の運搬に適した「トレーラーバイク」や「カーゴバイク」、「タンデム自転車」なども使われる。

装備・携行品

荷物をつんだバイク。ドロップ・バー(ハンドル)、パニアバッグ、バーバッグをつけてある。
パニアバックをつけた自転車
旅行用に装備した自転車
自転車用トレーラー

自転車旅行で携行される道具は旅行日数によって異なり、一般的に短期であれば少ない荷物で済み、長期間に渡るほど日用品や自転車の整備に必要な携行品が多くなる傾向がある。

日帰りのツーリングであれば、飲料水・財布(および地図)など最小限のものを小さなリュックサックなどに入れて背負うだけでも行うことが可能である。

一泊以上のツーリングでキャンピングを行う場合は、テントなどの道具が必要になり、自炊も行うのならばコッヘルやストーブ(コンロのこと)などの自炊道具も必要となり携行品は増える。

荷物が重くなるほど上り坂などで体力の消耗が大きくなったり、自転車の操縦性が悪化するため、一般的に不必要な携行品をできるだけ減らしたり、同一機能でも軽量のものを選択する工夫がなされる。サイクル・ツーリングで用いられる道具類は一般的に、自動車を用いたキャンピングに用いられる道具類よりもかなりで軽量で小型のものが選ばれる傾向がある。

長期の自転車旅行に特徴的な携行品は次のようなものが挙げられる。

走行中の発汗で失った水分の補給に必要とされる。
  • ファーストエイドキット
転倒して負傷した場合の応急手当に用いられる絆創膏や包帯など
行き先の天候などの情報収集に用いられる。
長距離運航のためのケイデンス管理用

輪行

輪行とは旅人が自転車を飛行機鉄道自動車などの輸送機関に持ち込んで移動することである。様々な目的や方法で輪行が行われているが、たとえば目的地との間を往復する場合に、往路もしくは復路のどちらかを輪行にすることで、同じ道を二度通る退屈さを避けるということが行われることがある。また、往路・復路とも輪行を行い、特に自転車走行に適した魅力的なエリアだけを自転車で走行する、ということも行われることがある。時間が限られている場合、輪行により、より遠方に目的地を設定することができる。海を渡る場合などには必然的に輪行が行われることになる。

鉄道
日本では、一般的に輪行袋が必要。乗車口付近に他の乗客の迷惑にならないように自転車を設置する。一部サイクルトレインを実施しているところもあるが、中小私鉄の地方線が大多数である。日本国外の場合、韓国では日本同様に自転車を輪行袋に入れ、列車の出入り口に置く。台湾についても新幹線は日本の車両を使用しているため、日本の新幹線同様に輪行袋にいれて出入り口または最後尾の座席にあるスペースに設置する。ロシアについては通路におくスペースがないため自分の座席であるコンパートメントに自転車の入った輪行袋を設置することになる。ヨーロッパ諸国では、高速鉄道を除き自転車をそのまま持ち込めることが多い。
飛行機
自転車は、輪行袋に入れて預け荷物として載せる。機内の気圧変化によりタイヤの空気圧は200hpaほど変化するが、大した影響はない[1]。気圧変化によってタイヤが劣化する場合もあるので、空気は抜いておくことが望ましい。輪行袋を預ける際、移送中に破損したことを証明しない限り航空会社に損害賠償を求めない、というような同意書を書くことが多い。
船舶
一般的にそのまま載せられる。その際には車両甲板の構造物に固定。ただし、自転車輸送料金を別に支払う必要がある。輪行袋に入れて客室に持ち込むこともできる。その場合自転車輸送料金はかからない。
バス
公共バスで輪行する場合は、座席に輪行袋を置く必要があり、乗客が多い場合は輪行を拒否される可能性がある。他の輪行以上にコンパクトにすることが大切である。高速バスでもトランクスペースに限りがあるため、大きい物は断られる可能性がある。

旅行ルート

参照:en:List of cycleways

日本

日本各地(地方別)

  • 北海道道央道南は本州並の人口密度だが、道東道北は広大な原野、草原、牧場、畑地が広がり、道路も幅広く造られ、信号、交通量が少ない。安価に宿泊できるユースホステルライダーハウスとほ宿やキャンプ場も多い。このような条件から、北海道は自転車旅行者が全国の中で最も多い。ただし、特に道東、道北では都市間が数十キロ以上離れている場合が多く、食糧を調達できる店も見当たらない場合が多いので、補給は計画的に行う必要がある。自動車の走行速度が本州に比べてかなり速い。さらに冬季は積雪のためスパイクタイヤを付けた自転車で行う必要がある。この地域のコースは北海道一周などが知られている。
  • 東北:険しい大山脈が連なる間に平野が広がる地域。太平洋側は国道4号国道45号、日本海側は国道7号が南北に走る。太平洋側と日本海側との間を横断する場合は、奥羽山脈を越えるため、標高1,000m近くの峠越えとなる。この地域のコースは十和田湖八幡平方面が知られている。
  • 関東:人口が集中する首都圏であるため、休日は日帰りのサイクリストの数が多い。広大な関東平野が広がり、目立った起伏は他地域に比べて少ない。関東は東京を中心として大都市が集中する地域で、変化に富んだ自然や文化遺産にも恵まれ、東京や湘南武蔵野などのポタリングを楽しむ人々も多い。碓氷峠は横川から軽井沢にかけて長大な登りが続く難所。静岡県に出る場合は、御殿場市を経由するが、箱根峠を経由することもできる。この地域のコースは荒川、多摩川、江戸川、利根川などの大河に沿ったサイクリングロードや、房総半島狭山丘陵霞ヶ浦渡良瀬遊水池那須高原日光などが知られる。
  • 甲信越日本アルプスを抱える日本の屋根。走行にはいくつもの峠越えが必須となる。この地域のコースはアルプス山脈の林道ツーリングが知られている。
  • 北陸国道8号が各県の主要都市を結ぶ。山岳地帯が多く、道中親不知倶利伽羅峠などの難所がある。サイクリングロードもある程度確保されている。この地域のコースは佐渡島一周や能登半島一周などが知られている。
  • 中部東海:東海地方では名古屋市を中心に交通の便がよく平地が広がる。都市は適度な間隔で点在する。中部地方では北部を中心に山地となっている。この地域のコースは浜名湖や太平洋岸自転車道などが知られている。
  • 関西:日本第2の都市圏である京阪神を抱え大都市が連なっている。この地域は、歴史的な町並みが多く残されているのも魅力で、京都や奈良はポタリングを楽しむ人々も目立つ。紀伊半島一周には国道42号などが使われるが、起伏が多い。国道24号沿線と大阪府の間には山地があり、国道25号などで山地を迂回して走行すると負担が少ない。この地域のコースは日本最大の湖である琵琶湖一周をはじめとして、河川沿いや山地ツーリングが知られている。
  • 中国瀬戸内側の国道2号相生市以西において所々で起伏があるが平行する3桁国道を走ることで起伏を軽減することができる。日本海側の国道9号は迂回国道が少ない。この地域のコースは牛窓鳥取砂丘などが知られている。
  • 四国:瀬戸内側は本州、九州とフェリーが多数往来しているため、渡航がしやすい。特に、尾道~今治間のしまなみ海道は自転車道があり、サイクリングコースとして知られている。高知県に渡るには、四国山地の峠を越えるか、海沿いの国道を走行する。この地域のコースはしまなみ海道をはじめとして山地ツーリングなどが知られている。四国八十八箇所巡りも人気のコースである。
  • 九州北九州市から鹿児島県まで西の熊本県を経由するルートは国道3号、東の大分県宮崎県を通過するルートは国道10号または平行する国道などを使用する。東西を横断する場合は、九州山地を跨ぐため、アップダウンの厳しい道路を走行せざるを得ない。この地域のコースは宮崎市周辺などが知られている。
  • 沖縄:日本最南端の県。沖縄本島を走るか、フェリーを使用しながら離島を走ることになる。離島の場合は輪行できる交通機関は期待できない。この地域のコースは那覇~名護などが知られている。

アメリカ大陸

ユーラシア大陸

アフリカ

大洋州

関連項目

脚注

  1. ^ 田村浩『鉄道で広がる自転車の旅 「輪行」のススメ』平凡社新書、2010
  2. ^ 『のんびり自転車の旅―日帰りで行く小さなツーリング』
  3. ^ 石田ゆうすけ『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』 幻冬舎(文庫)、2007
  4. ^ 中西大輔『世界130カ国自転車旅行』文芸春秋(新書)、2010

関連文献

単行本
  • バイシクルクラブ編『のんびり自転車の旅―日帰りで行く小さなツーリング』エイ文庫、2003
  • 白鳥和也『素晴らしき自転車の旅―サイクルツーリングのすすめ』平凡社(新書)、2004
  • 石田ゆうすけ『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』 幻冬舎(文庫)、2007
  • 中西大輔『世界130カ国自転車旅行』文芸春秋(新書)、2010
  • 田村浩『鉄道で広がる自転車の旅 「輪行」のススメ』平凡社新書、2010
  • NHK『チャレンジ!ホビー 自転車で旅をしよう』 NHK 趣味工房シリーズ、2011(NHKで放送された同名番組[2]のテキスト)
シリーズもの、雑誌
  • 『シクロツーリスト 旅と自転車』(Vol.1 ~)グラフィック社、2010~
  • 『自転車と旅』(vol.1, vol.2~)実業之日本社、2010~

外部リンク