速球

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速球(そっきゅう)は、野球投手が投げる球種のうちで球速が速いものを指す。英語ではファストボール: fast ball)と呼ばれる。

概要[編集]

速球はバックスピンの成分が強く直進する物と回転軸が傾いたり回転が少ない事により直進しない物の2種類に大別できる。日本において前者は直球(ちょっきゅう)、ストレート (和製英語) 、真っ直ぐ(まっすぐ)、アメリカではフォーシーム・ファストボール(英: four-seam fastball)等と呼ばれ、最も落差が少なく到達時間も短い球種である事などから、基本になる球種とされている。後者は癖球(くせだま)と呼ばれ、アメリカではツーシーム・ファストボール(英: two-seam fastball)、カット・ファストボール(英: cut fastball) などに分類されている。

主なバリエーション[編集]

アメリカでは速球を分類する言葉が日本より豊富なため、以下はアメリカで使われている一般的な分類に従った。

フォーシーム・ファストボール[編集]

フォーシームの握りの例(前)
フォーシームの握りの例(横)

フォーシーム・ファストボールとは日本では直球ストレートとも呼ばれ、真っ直ぐに進む球である。省略してフォーシームとも呼ばれる。

フォーシームとは縫い目の向きを表し、ボールが1周スピンする間に縫い目 (seam) の線が4回 (four) 通過し、マグヌス効果による揚力をより効果的に得られるとされる。

人差し指中指を並べ、ボールにある縫い目に交差させて握り、リリースの際に強いバックスピンをかけて投げる。人差し指と中指の間は隙間を開けるのが一般的で、隙間を開けて握る事で制球が安定しやすい。閉じて握ると強い回転はかけやすいが、制球が不安定になりやすく、回転軸も左右にブレやすい。また、リリースポイントが高い(腕・両肩の角度が立っている)方が純粋に近いバックスピンをかけるに有利で、後述のキレのあるボールを投じるに向く。

純粋なバックスピンに近く、スピン量が多いボールが理想的なフォーシーム・ファストボールであるとされる。これに近い球をキレのある球と呼び、特にキレのある球は球速が速いことに加えて、マグヌス効果により球の重力による落下が他の球種に比べ少なく、打者がボールの下を空振りする事を期待できる。

各球種の中で最も球速があり、打たれ難い基本の球種と考えられているが、同じ直球でも内角・外角の左右の距離感や高め・低めの高低差を使い分けたり、他の球種を交える事で球の軌道や球速の差を利用して打者を打ち取ることが一般的で、こういった工夫により球速の遅い投手でも打者を打ち取ることができる。

キレのある球のうちでも、特に浮き上がるかのような印象を打者に与えるものはライジング・ファストボール (rising fastball) と呼ばれる。

尚、単にファストボール(fastball)だけで「直球」を意味する。英語圏でのストレート(straight ball)は、球威もキレもない棒球・死に球・失投などを意味するため、球種の名前としては用いられていない。また、日本では稀にスピードボール(speed ball)という和製英語で呼ばれる場合もあるが、英語圏では大麻の隠語であるため、使用は好ましくない。

ツーシーム・ファストボール[編集]

ツーシームの握りの例

ツーシーム・ファストボールはボールを1周する間に縫い目 (seam) の線が2回 (two) 通過する向きで投じられた球である。省略してツーシームファストツーシームとも呼ばれる。フォーシームと同様にツーシームも縫い目の向きを表す言葉だが、主に球種を表す言葉として用いられている。日本では2000年代になってフォーシーム・ファストボールと明確に区別されるようになった。

投球動作はフォーシームと同じだが、握った際のボールの向きはフォーシームを横に90度回転させた向きであり、バックスピンを掛けた時に縫い目が1周で2回通過するように握る。このように握りを変えスピン軸を変えることで、もしくは縫い目に指を掛けないなど、指が掛かりにくい握りで投げスピン量を低下させる、スピンで縫い目が現れる回数を減らしマグヌス効果による揚力を減らすことで、フォーシームに比べ球速は大きく変えないでシュート方向に曲げたり、沈む軌道とすることができる[1]。また、フォークと同様、握る際の親指の置き方で横に曲がるか沈めるかの調整をする投手もいる。

なお、日本独自に用いられてきたシュートと呼ばれる球種との違いは曖昧である。吉井理人は、自分がMLB時代に投げていたツーシームは日本時代に投げていたシュートの呼び方を変えただけ(シュートを投げていたら同僚に「マサトはツーシームを投げるのか」と言われた)だと述べている[2][注釈 1]が、MLBを辞めてから年月が経っており、すでに吉井自身の認識も変わりつつある。

カット・ファストボール[編集]

カット・ファストボール (英: cut fastball) はリリースの際にボールを切る様に投げる球種。アジア圏以外ではカッター(英: Cutter)と略されて呼ばれることが多い。回転軸が僅かに傾く事で打者の手元で、投手の利き腕と逆方向に小さく鋭く変化する。

スプリットフィンガー・ファストボール[編集]

アメリカではフォークボールの中でも高速のフォークボールをスプリットフィンガー・ファストボール: split-finger fastball)と呼び、一種の速球として扱っている。

打者心理に与える様々な表現と工夫[編集]

野球中継の解説などで、投手の直球に対して「球質」「球威」「球の伸び」などと表現されることがある。これらは投球された球の速度や回転により働く流体力学的な球の複雑な軌跡のほか、リリースポイントの遠近などの投手の投球フォームによって打者が抱く印象が深く関係しているものと言える。

球速[編集]

投手の投げた球の速さのことで、スピードガンによる簡易計測が可能なため、具体的な数値で表されることが多いが、それゆえその数値に信頼性は無いことが多い。単純に球速が速いほど、球を目で捉えることが難しくなり、到達時間も短くなることから、打者は対応が難しくなる。しかし、単純に球速が速くても活躍できない投手や、逆に球速はなくとも活躍する投手、共に多く存在し、他の球種や後述する要素への工夫を凝らすことによって打者を打ち取っている場合が多い。

初速・終速[編集]

球速はリリースポイントから捕手ミットに到達するまでに空気抵抗により逓減する。その量は投球の初速とスピンによって変化する。初速が速いほど空気抵抗は増える。初速、終速の差を決める要素はPITCHf/x初めとするトラッキングシステムにより解析されつつある。効果として、同じ初速でも減速が少ない球の方が相対的に体感速度が上がるため、打ちにくい球であるとされるが、球の落差との関連などは研究の途上である。

落差[編集]

球は重力により放物線を描くが、回転軸の傾きが少なく回転数の多いバックスピンをかけた球はマグヌス効果により上向きの揚力を持ち、放物線から離れた直線に近い軌道になる。打者は、投球がマウンドからホームプレートの投手側からおおよそ2分の1から3分の2ほど進んだ時点までの球の挙動を見て、他の投手などとの対戦で見てきた経験から軌道を予測し、それに合わせてバッティングを行うが、その予測よりも上を通過すると球が浮き上がったと錯覚する。[注釈 2]

このような球を、「伸び」のある球と呼ぶ。また、直球においては球の「切れ(キレ)」も「伸び」と同義である。このような球は、打者のスイングするバットの上をボールが通過することで空振りを奪うことが出来る、またバットの上っ面でボールを叩かせることによりポップフライを打たせることが出来るが、「伸び」が疲労などにより鈍ってしまったら、飛距離が出やすいようにバットが当たってしまい被本塁打が増えてしまうという場合もある。

一方、逆に当たる球を「お辞儀する球」などと呼ばれ、日本においてはスピン量を増やすなど修正されるべきとされるが、スピン量が少ない方が打球はゴロとなりやすいので打球管理において有効であるとする説もある。

いずれも、球速とスピン量(球のマグヌス効果による変化量)には比例に近い関係があり、その球速の標準的なスピン量に対しスピンが多い、もしくはスピンが少ない球などギャップがある球が打ちにくいと分かりつつある。

また、リリースポイントの低いサイドスローアンダースロー投法から投げられる球は下から上がって来るのでこれも浮き上がるように錯覚させられる(ソフトボールのライズボールも同じ理屈である)。

球持ち[編集]

マウンド上の投手板とホームベース間の距離は公認野球規則により18.44mと定められているが、実際には18.44mの距離から球は放たれず、投球動作に伴いリリースポイントはホームベース寄りに近付くのが一般的である。リリースポイントが打者に近いほどボールの飛行距離は短縮され、それにより球速が保存されて初速と終速の差が小さくなる。これを「球持ち」が良いと表現し、投手は少しでもリリースポイントを打者寄りにするため、体の開きを抑え、球を長く持つようにするといった工夫がなされる。より打者にリリースポイントを近付けるには基本的に身長が高く手足が長い方が有利である。

また、グラブや自身の体を使う、体の開きを遅らせるなどでリリースポイントを遅くまで見えないようにすることにより、打者が球を見られる時間を減らし体感速度を上げる、もしくは打者にタイミングを取らせにくくすることも打者を打ちにくくする事に有効である。

角度[編集]

投手はその投法や身長・腕の長さにより打者に対して高低、または左右の角度を付けた球を投じることが出来る。平均的投手よりリリースポイント角度が大きいと、視界の揺さぶりや、高低の場合バットの下に潜り込むようにボールが入ってくるため[3]メカニクスが崩れやすく、打ち難さを増す事が出来る。より大きい角度をつけるためには球持ちと同様に長身で手足が長い投手が体格的に有利で、高低差はオーバースローかアンダースロー、左右の角度はサイドスローや投手板の立ち位置の左右[注釈 3]を利用する投手が一般的に有利である。投げる腕と対角のコースを突く直球をクロスファイアと呼ぶ事が有る。前述の球持ちとは逆に、リリースポイントを敢えて早くすることで角度を大きくしようとすることもある。

球質[編集]

古くから日本において、打者の感覚として、投球を打ち返した際に打球の飛距離が予想よりも短く、もしくは長くなる事、また、打った時の感覚が「重い」「軽い」と感じる球質を「重い」、「軽い」と形容されることがある。ボールの重さが変わることは当然ないが、そのような感覚を与える要員としては様々な説が存在し、主に、先述のスピン量による落差の変化に伴う打球傾向の違いによる説、球の回転数が多いほど反発力が増して軽い球に、少ないと重い球になるという説がある。また、回転の少ない球は「棒球(ぼうだま)」と呼ばれ、痛打されやすい球とされる事もある。或いは、打者が自身の打ち損じなどに気付かず球質のせいだと思っているだけで、飛距離を大きく左右するほどの影響を与える球の回転や球質は存在しないという説もある。特にツーシームやカットファストボールのように打者の手元で変化する球種では、芯を外しやすく打球が伸びないということがままある。また、芯を外されるとインパクトの衝撃が手に伝わることから重く感じる。体重の軽い投手が投げる球は軽いという説もあり、体重を重くすることで球質を重くしようと考える投手もいる[4]。これらのように回転は飛距離が伸びる方向にも縮む方向にも作用する可能性が有り、それを科学的に検証した論文や研究結果などは発表されつつあるが、未だに様々な考え方が混在している。

球威[編集]

球威とは「球の威力」で球速などを表す言葉だが定義は曖昧で、球に伸びがあり球速以上の威力が有る事を示す場合や球速、球質、伸びなどの総合的な評価の場合も有る。

最高球速[編集]

速球の球速はしばしば投手の実力を評価する指標の1つとなる。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ しかし、1992年公開のアメリカ映画ミスター・ベースボール」の作中で、強打者ジャック・エリオットが日本投手のシュートによって打ち取られるシーンがあり、その影響から日本語発音をそのまま英語表記した"shuuto"(shootballとも)という名称が使われることもある。また、近年はダルビッシュ有の奪三振率の高さから、アメリカの野球評論家のジェイソン・パークスらはツーシームとは少し違うと述べており、"shuuto"に対する関心が増えている(リバーススライダーとよばれることもある)
  2. ^ 人間の力による再現を度外視すれば、硬式球では160km/hで毎秒40回転以上の純粋なバックスピンが与えられた場合に実際に浮き上がる事が証明されている。
  3. ^ スライダー、「クロスファイア」の角度を生かしたい場合プレートの投げる腕側を使うと有効である。一方、シュートを生かしたい場合やクロスファイア―の角度が負担になる投手はプレートのグラブをはめる腕側を使うと効果的であるとされる。どちらが良いかは、投手の持ち球、投手にとっての投げやすさ、打者にとっての打ちにくさ、優先順位次第で変わる。

出典[編集]

  1. ^ 高見圭太 宮嵜武 姫野龍太郎 バックスピンする球体に働く負のマグナス力~飛翔実験による測定~ - 2009年
  2. ^ 『メジャー・リーグ変化球バイブル』 ベースボール・マガジン社、2010年ISBN 978-4-583-61678-0
  3. ^ ボールの上っ面を叩き、ゴロになりやすくなる。
  4. ^ 楽天永井が体重7キロ増で球質&球威↑