オープナー (野球)

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2018年にオープナーとして登板したセルジオ・ロモ

オープナー(Opener)は、本来リリーフ起用される投手が先発登板し、1,2回の短いイニングを投げたのち本来の先発投手ロングリリーフとして継投する起用法、及びこの際先発したリリーフ投手を指す。この戦術は、2018年のMLBタンパベイ・レイズが初めて本格的に採用し、以降他のチームにも広まっていった。

歴史[編集]

1980年代までMLBの球団は5人の先発投手からなる先発ローテーションを採用しており、アクティブロースターの他のすべての投手はリリーフ投手として起用されていた[1]。 従来、先発投手は試合での登板する投手の中で最も多くのイニングを投げることが期待され[2][3]、投球内容に問題がなければ負傷や違和感のような健康上の問題が出るか一定の投球数に達するまで投球してきた[4]

1924年のワールドシリーズの第7戦、ワシントン・セネタースは先発投手のカーリー・オグデン英語版が最初の打者2人を打ち取るとサウスポーのリリーフ投手に交代させた。これは相手チームのラインナップを右打者ばかりにすることを意図したものだった[5]。同様に、1990年のNLCSで、ピッツバーグ・パイレーツは相手のシンシナティ・レッズに打線で対策されないように、左利きの先発投手ゼイン・スミス英語版の前にリリーフ投手の右利きのテッド・パワー英語版を先発登板させた[6]。1993年、オークランド・アスレチックスは先発ローテーションが不足したので、監督トニー・ラルーサ投手コーチデーブ・ダンカン英語版は投手陣をプラトーン・システムと中核となるリリーフ投手で起用した。この戦術はアスレチックスが従来の先発ローテーション方式に戻るまでの6試合しか続かなかったが、1993年にアスレチックスの選手だったロン・ダーリングはそれを「現在見られるオープナーの先駆け」と述べている[1]

21世紀に入ると、野球記者が、試合内で打者が対戦する打席数が多くなるほど先発投手の効果が低下するという考えを提言した。 ビル・ジェームズ・オンラインの記者であるデイブ・フレミングは、2009年に投手が試合内での投球回を3イニングに限定する「3-3-3ローテーション」について書いた。2013年にブライアン・グロズニックは SBネイション英語版の「Beyond the Box Score」の記事で、本職の先発の前に先発投手を1〜2回登板させることを提案した[7][8]ブライアン・ケニー英語版は2016年の著書 『Ahead of the Curve』の中でオープナーの使用が可能であることを提案し、各回の得点割合で最も高いのは1回なので、チームはリリーフ投手を使用して相手チームの上位打線を抑えるべきだと述べている[9][10]

2018年のMLBでの採用[編集]

タンパベイ・レイズ2018年シーズンにオープナーを実験的に採用し、5月19日のロサンゼルス・エンゼルス戦で初めてそれを実行した。その試合でオープナーとして起用された投手はクローザーのセルジオ・ロモだった。 ロモは5月22日と23日にもオープナーとして起用されたが[11]、6月にはクローザーに戻った。しかし、その後もレイズはライン・スタネックハンター・ウッドなどをオープナーとして起用し、この戦術を採用し続けた[12]。 レイズはオープナーの採用後に平均防御率が減少し[13][14]、5月19日以降の防御率3.50はリーグ2位の数値であった。オフに主力が抜けたことで、開幕前には苦戦が予想された[15]チームの最終成績は90勝72敗と大きく勝ち越し、ワイルドカード争いでは3位だった。レイズはマイナーリーグの傘下チームでもオープナーを採用した[16]

この戦術は他球団にも広まり、6月にはロサンゼルス・ドジャースが相次ぐ先発陣の怪我のため、スコット・アレクサンダーをオープナーとして起用した[17]。その後ミネソタ・ツインズオークランド・アスレチックス、そしてテキサス・レンジャーズも9月にオープナーを採用した[18][19]。9月にアスレチックスがオープナーを実行した9試合(内8試合はリアム・ヘンドリックスがオープナーとして務めた)では、 4勝5敗・防御率1.86を記録した[20]。さらにアスレチックスはワイルドカードゲームでもオープナーを採用した[21]ミルウォーキー・ブルワーズもプレーオフでオープナーを採用した。NLCSの第5戦では先発のウェイド・マイリーが打者1人を抑えて交代し[22][23]、打者1人で交代した先発投手はMLBプレーオフ史上2人目のことだった。

2019年にはニューヨーク・ヤンキースを始めとする、より多くのチームに採用された[24]。7月12日には、ロサンゼルス・エンゼルスがオープナーによる継投ノーヒットノーランを達成[25]。また、レイズはこのシーズンもオープナーを採り続け、6年ぶりにポストシーズン進出を果たした[26]

ブルペンデー[編集]

オープナーの派生形にブルペンデー(Bullpen day)がある。これはすべてのイニングをリリーフ投手のみで小刻みに継投していくものである[27]

日本プロ野球での採用[編集]

日本プロ野球はMLBに比べて、試合数が少ない、長期連戦が少ない、延長戦は12回まで、出場選手登録が多いことから先発ローテーションの数も多いといった理由から、オープナーの導入に積極的ではないとの見方が強い[28][29]。それでも2019年に、北海道日本ハムファイターズが4月6日の埼玉西武ライオンズ戦で採用した。先発した加藤貴之を2回無失点で降ろし、金子弌大を登板させた。しかし金子が2回5失点と奮わず、敗戦した[30]。その後も何度か失敗したが、5月1日の西武ライオンズ戦で初成功した[31]横浜DeNAベイスターズも4月21日の広島東洋カープ戦で導入した[32]

利点[編集]

戦術的な利点は、剛速球を投げることのできるリリーフ投手が、初回に当たる上位打順の強力な打者と対戦できることである[33]。その上位打線を抑えれば、次の投手は打力の落ちる下位打線から始めることができる[34][35]。また、打者は対戦を重ねるごとに球に慣れてくるので、本来の先発投手と上位打線の対戦を減らすことで被打率を低く抑える可能性が高まる[36][37]

財務的な観点からは、先発投手に比べて年俸の低い契約を結んでいるリリーフ投手をより多く活用することで、投手陣にかけるサラリーを抑えることができる[38]

問題点[編集]

この戦術は先発投手の足りない球団がとるいわば苦肉の策である[39][40]。また、先発した投手には勝利セーブホールド等が記録されず、評価が難しくなり[41]、年俸の低いリリーフ投手の酷使につながることも懸念される。

脚注[編集]

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  1. ^ a b Lindbergh, Ben (2018年8月20日). “How the 1993 A's Predicted Baseball’s Opener Trend”. The Ringer. 2018年10月5日閲覧。
  2. ^ Grant, Evan (2018年9月3日). “Although it didn't result in a win, here's why the Rangers' first time using an 'opener' was significant”. The Dallas Morning News. https://sportsday.dallasnews.com/texas-rangers/rangers/2018/09/03/rangers-first-time-using-opener-worked-didnt-result-win 2018年10月21日閲覧。 
  3. ^ Horrobin, Jordan (2018年9月20日). “Explaining the 'opener,' baseball's new phenomenon, and how the Tigers view it”. The Athletic. https://theathletic.com/536211/2018/09/20/explaining-the-opener-baseballs-new-phenomenon-and-how-the-tigers-view-it/ 2018年10月21日閲覧。 
  4. ^ “The most influential role in baseball may cease to exist”. The Economist. (2018年8月1日). https://www.economist.com/game-theory/2018/08/01/the-most-influential-role-in-baseball-may-cease-to-exist 2018年10月21日閲覧。 
  5. ^ http://www.facebook.com/des.bieler.+“Brewers’ quick hook of Wade Miley has a 94-year-old precedent” (英語). Washington Post. 2018年12月30日閲覧。
  6. ^ Ted Power: A reliever who started a really 'big' game”. Dayton Daily News. 2018年10月5日閲覧。
  7. ^ Bradburn, Michael. “Let's (not) get weird: The case for and against the Rays' controversial 'opener'”. theScore. https://www.thescore.com/mlb/news/1549391 2018年10月3日閲覧. "Former Beyond the Box Score managing editor Bryan Grosnick discussed the alternative approach at length in 2013." 
  8. ^ Grosnick, Bryan (2013年11月26日). “Replacing setup men with "openers"”. Beyond the Box Score. 2018年10月3日閲覧。
  9. ^ Don't Count On The 'Opener' Being Baseball's Next Big Thing”. Forbes.com. 2018年10月3日閲覧。
  10. ^ Sergio Romo's very early entrance may signal start of big pitching change | MLB”. Sporting News. 2018年10月3日閲覧。
  11. ^ Rubin, Mallory (2018年5月22日). “Tampa Bay's 'Opener' Experiment Could Spark a Baseball Revolution”. The Ringer. 2018年10月3日閲覧。
  12. ^ 'This could change the game:' Rays' 'openers' and 'bulk guys' on their new pitching strategy | For The Win”. Ftw.usatoday.com (2018年8月23日). 2018年10月3日閲覧。
  13. ^ Tampa Bay Rays have best ERA in baseball since starting 'openers'”. Espn.com (2018年6月27日). 2018年10月3日閲覧。
  14. ^ “Rays Disrupt Baseball's Tanking Industry by — Get This — Trying to Win”. The New York Times. (2018年6月25日). https://www.nytimes.com/2018/08/14/sports/tampa-bay-rays.html 2018年10月3日閲覧。 
  15. ^ レイズ、主力次々に放出で低迷必至。有望選手育成で再建への道に光明見出す【30球団戦力紹介】”. ベースボールチャンネル. 2019年2月4日閲覧。
  16. ^ Baer, Bill (2018年8月8日). “Twins have been experimenting with 'opener' strategy”. NBC Sports. 2018年10月16日閲覧。
  17. ^ R.J. Anderson (2018年6月1日). “Dodgers may employ 'opener' strategy as Clayton Kershaw returns to the DL”. CBSSports.com. 2018年10月5日閲覧。
  18. ^ Bollinger, Rhett (2018年9月1日). “Twins to test out opener strategy Sunday”. MLB.com. 2018年9月27日閲覧。
  19. ^ Texas Rangers: Although it didn't result in a win, here's why the Rangers' first time using an 'opener' was significant | SportsDay”. Sportsday.dallasnews.com. 2018年10月3日閲覧。
  20. ^ Yankees' Severino faces A's 'opener' in wild-card game”. ESPN (2018年10月4日). 2018年10月4日閲覧。
  21. ^ Kristie Ackert. “Yankees Luis Severino to face off against A's 'opener' Liam Hendriks in wild card game”. NY Daily News. 2018年10月3日閲覧。
  22. ^ Trezza, Joe (2018年10月17日). “Miley removed after 1 batter, will start Game 6”. MLB.com. 2018年10月17日閲覧。
  23. ^ Baer, Bill (2018年10月17日). “Craig Counsell pulls Wade Miley after one batter”. Hardball Talk. https://mlb.nbcsports.com/2018/10/17/craig-counsell-pulls-wade-miley-after-one-batter/ 2018年10月19日閲覧。 
  24. ^ Yankees improve to 3-0 with Green as opener”. MLB.com. 2019年10月28日閲覧。
  25. ^ 記録上は2人…それでも誰もが“3人”だと信じるエンゼルスが達成した継投ノーヒットノーラン”. Yahoo!ニュース 個人. 2019年10月28日閲覧。
  26. ^ アスレチックス&レイズ、ワイルドカードでPO進出 少ない資金力も何の!ホーム開催権争いも激戦”. ベースボールチャンネル. 2019年10月28日閲覧。
  27. ^ Rays looking forward to bullpen day plan” (英語). MLB.com. 2019年1月5日閲覧。
  28. ^ オープナーは日本球界に浸透するか。実現条件と挑戦に対する日米格差。”. Number Web. 2019年10月28日閲覧。
  29. ^ 関口宏と張本勲氏、アメリカ野球の新戦術を「余計なことしすぎ」と批判 ネット民は非難の声”. エキサイトニュース. 2019年10月28日閲覧。
  30. ^ 「オープナー」は日本球界に合っているか”. 日本経済新聞 電子版. 2019年10月28日閲覧。
  31. ^ 日本ハム、時代変わって「オープナー」初成功!貯金「1」”. SANSPO.COM. 2019年5月2日閲覧。
  32. ^ 【一問一答】DeNA・ラミレス監督、オープナーは「もちろん、やっていく」”. SANSPO.COM. 2019年4月21日閲覧。
  33. ^ Justice, Richard (2018年9月27日). “Could the 'opener' be utilized in postseason?”. MLB.com. 2018年9月27日閲覧。
  34. ^ Tampa Bay has best ERA in baseball since starting 'openers'”. ESPN (2018年6月28日). 2018年7月10日閲覧。
  35. ^ Cash explains the 'opener'”. MLB.com (2018年8月16日). 2018年8月16日閲覧。
  36. ^ Justice, Richard (2018年9月27日). “Could the 'opener' be utilized in postseason?”. MLB.com. 2018年9月27日閲覧。
  37. ^ 奥田秀樹 (2018年12月25日). “【MLB】オープナーを次の段階へ、レイズの取り組み”. 週刊ベースボールONLINE. http://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=097-20181227-21 2018年12月30日閲覧。 
  38. ^ Tayler, Jon (2018年8月23日). “How the Tampa Bay Rays Reinvented the Concept of Starting Pitching”. Sports Illustrated. 2018年10月3日閲覧。
  39. ^ “二刀流と並ぶ球界変革「オープナー」 CY賞左腕「当初はバカげていると…」”. Full-count. (2018年12月26日). https://full-count.jp/2018/12/26/post272475/ 
  40. ^ “メジャーで増える救援投手の先発、オープナーは育成失敗のごまかし? - MLB”. Number Web. (2019年1月14日). https://number.bunshun.jp/articles/-/833156 
  41. ^ 鎌田良美 (2018年12月16日). “ロッテ松永「オープナー」なら査定評価も変えないと”. 日刊スポーツ. https://www.nikkansports.com/baseball/news/201812160000041.html 2019年1月14日閲覧。 

関連項目[編集]