スタットキャスト

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スタットキャスト: Statcast)は、アメリカ合衆国メジャーリーグベースボール(MLB)で導入されているデータ解析ツールであり、ステレオカメラレーダーを使用して選手やボールの動きを高速・高精度に分析するためのもの。MLBアドバンストメディア英語版社によって開発され、2015年にMLBのすべての本拠地球場に導入された[1][2]

概要[編集]

軍事技術である追尾レーダーの技術を応用したもので[3]、2014年に試験的に導入され2015年には全面導入された。

球場に設置したドップラー・レーダー式弾道追尾システム「トラックマン」と複数の光学高精細カメラによる画像解析システム「トラキャブ」を用いて計測したグラウンド上の選手の動きやボールの位置・方向・速度などのデータを基に[4]、それらを記録・分析・数値化するMLB独自のデータ解析ツールである[5]。瞬時にデータを解析することができ、それにより算出された結果は実況中継放送中にでも画面上にて表示が可能。

影響[編集]

セイバーメトリクスなどに代表される従来の統計学的なデータ分析では、蓄積されたプレーの結果から算出されたデータを基に、チーム編成や新人発掘、あるいは相手選手への対応策の研究といった「選手の評価」を行うのが主流であった[6][7]。しかし、スタットキャストは、レーダーを利用したトラッキングシステムによって、投球や打撃、走塁、守備といった選手のプレーやボールの「動き」を直接的かつ瞬時に測定し数値化したものをデータとして算出するため[8][9]、セイバーメトリクスとの併用によるより高度な「選手の評価」の実現はもちろんのこと、その分析によって「選手のパフォーマンスや能力そのものの改善」にも活用することができる[10][11]

打撃への影響
スタットキャスト導入の影響として最も代表的とされるのが、新たな打撃理論「フライボール革命(fly ball revolution)」の流行である。
スタットキャストを用いて打者のスイングや打球角度・速度を計測し分析した結果、長打、特に本塁打になる確率が高くなる打球の条件として「打球速度158km/h以上、打球角度30度前後」という数値が算出され、これはスタットキャストによる新たな指標「バレル(Barrel)[12]、あるいは「バレルゾーン」の名で広く知られることとなった[4]
そして、バレルの打球を打つための選手の試みとして「打球角度を上げる」ことが追求されるようになり、そのためにこれまで通例的に禁忌とされてきたアッパースイングを積極的に採用する打者が増加[6]。「長打の確率を高めるために積極的に飛球を狙い打つ」という新たな打撃理論は「フライボール革命」として2017年頃よりMLB全体に広がり、実際に2017年シーズンにおいては、MLB史上初めて6000本を超える本塁打が記録されている[13]。これを受け、日本プロ野球などでも取り入れる選手が増加傾向にある[6]
守備への影響
守備、特に外野守備においてもスタットキャストは影響をもたらしている。
外野へ飛球が飛んだとき、スタットキャストによってその打球の滞空時間とそれを追う選手の移動距離を測定し、プレー(その飛球を捕球してアウトとすること)の難易度を表す「キャッチ・プロバビリティ(捕球確率)」を算出、これと、実際に捕球出来たかどうかとの比較によって算出される「OAA(Out Above Average)」という新たな守備指標が生まれた[10][14]
キャッチ・プロバビリティで示された確率を、捕球されたか否かに応じてポイント化して加算し、その合計値をOAAとする。これが高いほど「難易度の高い打球をより多くアウトにした」ことを意味し、その選手は「守備の上手い外野手」と見なされることとなる[10][14][15]
ポイント化の例
  • ある打球のキャッチ・プロバビリティが15%のとき、捕球できた場合には0.85ポイント、捕球できなかった場合には-0.15ポイントが加算される。
  • ある打球のキャッチ・プロバビリティが75%のとき、捕球できた場合には0.25ポイント、捕球できなかった場合には-0.75ポイントが加算される。
このように、キャッチ・プロバビリティが低い場合は捕球できれば加点は多くなるが捕球できなくても減点は少ない。反対に、キャッチ・プロバビリティが高ければ捕球できても加点は少ないが捕球できなかった際の減点が多くなる。つまり、難しい打球を捕球できれば高ポイントを稼ぐことができ、簡単な打球を捕球できなかった時は大きく減点されてしまうという仕組みである。
ファンへの影響
スタットキャストは、選手や球団首脳に対してのみに留まらず、それを観戦するファンにも影響を与えている。MLBではスタットキャストによる測定結果や算出した指標を公式サイトや「Baseball Savant」などのウェブサイトにおいて一般向けに公開している他[4]、MLB中継では瞬時に測定が可能という特性を活かし、リプレイ映像にスタットキャストの測定結果を合成して放映するなど視覚的な情報として提供している。
これにより、データの専門家ではないファンにとっても「この選手/プレーがいかに優れているか」が直感的に理解することができるなど新たな楽しみを与えているのである[11][16]

データ項目の例[編集]

スタットキャストで測定できる項目数は80項目以上に上る[10]。以下は各カテゴリにおける代表的な項目を挙げたものである[13]

投球
  • リリースポイント
  • 球速
  • 体感速度
  • 回転数
打撃
  • 打球速度
  • 打球角度
  • 打球方向
  • 打球距離
走塁
  • リード距離
  • 第二リード距離
  • スタート
  • 加速
  • 最高速度
守備
  • 始動時間(最初の一歩)
  • 打球を追う速度(外野手
  • 打球を追う走路(外野手)
  • 送球速度
  • 捕球から送球までの時間

脚注[編集]

  1. ^ データが伝えるベースボールの面白さ、MLB観戦を変える「Statcast」 マイナビニュース シリコンバレー101 2015年4月27日
  2. ^ メジャーさらに進化「スタットキャスト」詳細データを公開 Sponichi Annex 2017年5月6日
  3. ^ 軍事技術を応用!プレーを瞬時に数値化するMLBのスタットキャストとは? AZrena 2017年1月30日
  4. ^ a b c アナリストレポート第2回「MLBのデータ分析」 データスタジアム株式会社 2018年7月24日
  5. ^ 瞬時に解析データを表示。スタットキャストとは何か。~MLBで進むハイテク化への賛否~
  6. ^ a b c 野球に「フライボール革命」 スポーツデータ活用最前線(page 2):スポーツIT革命の衝撃 スポーツイノベイターズオンライン 2017年10月4日
  7. ^ "大谷を裸にする男" データの達人「スタットキャスト」アドラー氏を直撃 (ベージ3) Full-count 2018年6月4日
  8. ^ 注目の指標バレルとは?打球速度と打球角度の重要性 Baseball Geeks 2019年5月22日
  9. ^ 新システム・スタットキャストで見えたイチローの優れた能力 BASEBALL KING 2015年10月27日
  10. ^ a b c d メジャーリーグの「データ革命」とは? | SPORTS STORY NHK 2018年2月28日
  11. ^ a b 『選手の能力をすべて数値化』でMLBが変わる? 画期的なシステム"スタットキャスト" ベースボールチャンネル 2015年7月17日
  12. ^ What is a Barrel? | Glossary MLB.com 2019年6月7日閲覧
  13. ^ a b MLBで加速するデータ革命とは!?機械学習×プロスポーツから見るこれからのスポーツの未来 b→dash 2018年10月16日
  14. ^ a b MLBのビッグデータ野球 TBSラジオ 2018年4月19日
  15. ^ 捕球確率わずか「1%」の奇跡も… MLB公式の"超美技"動画が凄い Full-count 2019年1月13日
  16. ^ スタットキャストとは?メジャーの最先端技術を紹介! Baseball Geeks 2018年6月7日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]