スライダー (球種)
スライダー(英: Slider)とは、野球における球種の1つ。
人差し指と中指でボールに回転を掛ける事により、利き腕と反対方向にスライドするように曲がる軌道を描く。
歴史
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スライダーの元祖は1903年にメジャーリーグベースボール (MLB) デビューしたチーフ・ベンダーの投げていた「ニッケルチェンジ (nickel change)」または「ニッケルカーブ (nickel curve)」であるとされる[1]。
しかし、1925年からMLBでプレーしたジョージ・ブレーホルダー (en:George Blaeholder) が投げていた「セイラー (sailor)」または「セイリング・ファストボール (sailing fastball)」という速い速度で横滑りする球種がその元祖であるとする異説もある[2]。
1919年にMLBデビューしたジョージ・ウールも「セイラー」を投げ、さらにこれを「スライダー」と改名した[2]。
1936年にMLBデビューしたボブ・フェラーもこの球種を駆使し活躍し、1948年の著書"Pitching to Win"で「スライダー」の名称と投法を広く紹介した[2]。
日本では1949年、藤本英雄が宇野光雄とキャッチボールをしていたときに初めて意図的にスライダーを投げることに成功し[3]、翌1950年に日本プロ野球初の完全試合を達成するなど活躍した。
藤本のスライダーは「空を飛ぶトンボがスッと曲がるような球」と形容され、フェラーの著書からスライダーと呼ばれているのを知ったという[4]。
投げ方
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スライダーの握り方、リリース方法には様々な種類が有る。稲尾和久は「ボールをリリースする瞬間に縫い目にかかった人差し指の先をピッと切る」様に[5]、大野豊は「握った指をずらすのでなく、手首の向きを変えてボールを切る」ように[6]、伊藤智仁は「ボールの縫い目に人差し指と中指をはわせ、チョップするように横回転を加える」方法で[7]投げていた。ボブ・フェラーやダルビッシュ有はアメリカンフットボールのボール (en:Football (ball)) を投げるようにリリースすると解説している[2][8]。
関連する手首の動きは、しばしばピッチの動きに大きな影響を及ぼし 解除時によりまっすぐ横になった姿勢をとるのが特徴であり 捻ったり抜くようにリリースするカーブと比べ、より速球に近いボールの握りと腕の振りで投げられる[2]。
手首と握力が強ければ、握りを変えるだけでも投げられることから、変化球の中でも習得が容易な球種とされる。
また、実戦で使えるレベルのカーブを習得出来なかった投手でも、スライダーは習得出来ることがある(日本での例は藤本英雄)。
2020年9月時点で計700件以上のトミー・ジョン手術を執刀した慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師と藪恵壹は、オンライン対談でスライダーは肘への負担が大きいと主張した。
古島は自然にボールを投げる際に腕が回内するのに対してスライダーを投げる際に回外する点を、肘へのリスクがある理由として挙げている[9][10]。
外スラ
[編集]ストライクゾーンから外角ボールに逃げるスライダーや外角ボールから外角ストライクに入るスライダーを「外スラ」と呼び、鶴岡慎也は「球場が狭くなり、当てただけでスタンドに入るため外角のストレートを投げづらくなり、今(2022年時点)のパリーグは外スラが激増した」と話している。
古田敦也は現役時代、痛打の危険性や外スラのコントロールの良いピッチャーがチームに少なかったことから現役時代はあまり投手に要求せず、谷繁元信は基本的に意表を突く場合に限って使っていたが投手が川上憲伸の場合は多用した[11]。
種類
[編集]バックスピンとサイドスピン(利き腕と反対方向)の間の回転軸を持ち、投手の利き腕と反対方向へ滑る様に曲がる物と、ジャイロ回転の成分を有して沈む物の2種類がある。
両者を区別する為に、前者を横スライダー(後述)、後者を縦スライダー(後述)、沈むスライダー、またはヴァーティカル・スライダー (英: Vertical Slider) 、Vスライダー[注 1]と呼ぶ事がある。投法が近いことから両方を投げる投手も多い。
カーブやカットボールなど他の球種との区別が曖昧な場合もあり、落合英二は『落合英二ブルブルの輪』の中で「投げた人が『これはスライダー』と言ったらそれはスライダー扱いになっちゃう」と述べ、あまりにも握りや投法のバリエーションが豊富であるため一括りにすることは難しいとしている。落合は山井大介が投じる球速が遅いスライダーを例として挙げ、一般的にはカーブにあたるが山井本人が「これはスライダー」と主張してからはスライダー扱いになったという。同様に、内海哲也も一見するとカーブにも見える、ブレーキがかかった大きく曲がる持ち球を「スライダー」と呼んでいる[12]。逆に、クレイグ・キンブレルなど本人がカーブ系と呼ぶ球種がスライダーと呼ばれることもある。
総じて、投げている本人がどう呼称しようとも、曲線を描くものが「カーブ」で、直線的ながら徐々に滑るような軌道を描くものを「スライダー」と一般的には認識されている傾向にある。当人の呼称に従ってしまうと、投手の数だけ球種ができてしまうことが示唆される。仮にスローカーブで有名な星野伸之が自身のカーブを「スロースライダー」と言い出したとして、それに従ったらキリがない。あくまで軌道や変化で区別されるべきであり、前出の山井大介のように球速でも判断するべきものでもない[13]。ネーミングは個人の自由だが、その名前に引っ張られて分類するのは本末転倒と言える[14]。
横スライダー
[編集]横に変化するスライダーはバックスピンの成分が強ければ落下が少なく横滑りするスライダーに、サイドスピンの成分が強ければ沈みながら大きく横滑りするスライダーになる。
速球と同じような投法と球筋から比較的速い球速で変化するため打者は速球と誤認しやすい。
横の変化でボールからストライクへ、ストライクからボールへなどという使い方や小さい変化でバットの芯から外させたり、大きい変化で空振りを狙うなど様々な使い方をされる。
縦スライダー
[編集]スライダーの中でもジャイロ回転の成分を有して沈む物を指す。
上向きの揚力を持たないため、フォークボールのように落下し、ジャイロ回転の効果で初速と終速の差が小さい[15]。
また、ジャイロ回転の成分が強い物は回転軸の傾きによっては若干左右へも変化したり、落差が変わったりもする。ボールを挟まない為、フォークボールに比べると失投率が低く、使い手が増えつつある。
高速スライダー
[編集]- 高速スライダー(英: Hard Slider)とは、通常のスライダーよりも速球との球速差が少ない球種。
- 明確な基準は無いが、概ね速球と5〜10km/h程度の球速差とみなされている。フランシスコ・ロドリゲスの場合は大きく曲がり落ち、その変化量から「カートゥン・スライダー」と呼ばれる[16]。そのため、カッターとの区別は曖昧だが、右投手が左打者(または左投手が右打者)に投げる場合、横の変化量で用途(空振りかゴロを打たせるか)が変わるため、その用途で区別する傾向も見られる。
スラーブ
[編集]- スラーブ(英: Slurve)とは、スライダーとカーブの中間的な変化をする球種。木田優夫は「カイダー」と呼んでいた。
- リリース時、切り方をより深くする点が特徴(これに伴い、カーブほど山なりにならない)。
- 最初に投げた人物は判明していないが、1940年代にボストン・ブレーブスに在籍していたジョニー・セインが投げていたことは確認されている。
真っスラ
[編集]スイーパー
[編集]- スイーパー(英: Sweeper)とは、横方向へ大きく曲がるスライダー。
- 縦の変化が小さいため、打者はボールが「浮き上がる」ような錯覚に陥るという[18]。この感覚を藤浪晋太郎は「噴き上がる」と表現している[19]。
- 他の変化球と同様「スイーパー」の定義は明確ではないため、スラーブが名前を変えただけだという見方もある[20]。
- MLBで主流となっている「フライボール革命」や「バレルゾーン」といった打撃理論への対抗策の一つとして注目されるようになった。アッパースイングへの対抗策。
- 縦の変化の少なさを活かして高めの配球も多い[18]。
- 投球分類サービス「ピッチ・インフォ」では、2022年からスライダー、カーブ、カッターといった投球カテゴリーの1つにスイーパーが加わった[20]。2023年にはMLBが新たなPitch TypeとしてSweeperを導入し、その名称が広く知られる事となった[21]。
MLBにおいて、スイーパーの100球あたりのランバリューは2021年に.546を記録した。
2022年にスイーパーは流行の最先端を迎え、投球数は前年の約2倍に増加し、ランバリューの合計は+104点を記録した。
2023年も前年と比べて投球数が約1.5倍に増加するも、100球あたりのランバリューは.136に留まり、有効性の低下がみられ始めた。2025年になると投球数の増加も止まり、100球あたりのランバリューは.014に急落した。この様に、2025年時点でMLBにおいてスイーパーは最新トレンドの球種とは言えない状況となった[22]。
2020年代のMLBは投手の負傷増加が問題となっている。
主因は球速の上昇とされているものの、スイーパーを始めとする球種の質(Stuff)を向上させるためのトレーニングが過剰に行われ、それがケガの一因となっている可能性が指摘されている[23]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ 「Vスライダー」という表記はテレビゲーム・実況パワフルプロ野球シリーズにおけるものであるが、和田毅が実際にVスライダーと呼んでいる(2004年1月21日サンケイスポーツ)。Vスライダーという言葉の詳細はパワフルプロ野球シリーズ#フォーク系を参照。
出典
[編集]- ↑ "WISCONSIN Magazine of History",Wisconsin Historical Society Press, Spring 2004 issue. Accessed July 8, 2007.
- 1 2 3 4 5 Neyer, Rob"The slider: A concise history" - ESPN, 2004 20 April.
- ↑ 田村大五「この人にこの技あり 第3回:藤本英雄のスライダー」 - Sportsclick、2004年4月19日。
- ↑ 『巨人軍5000勝の記憶』 読売新聞社、ベースボールマガジン社、2007年。ISBN 9784583100296 より。
- ↑ 稲尾和久「鉄腕人生 白球とともに - 3年目「直球だけ」からの変身」- nikkansports.com
- ↑ 永川“大野塾”で球種増へ 直々にスライダー伝授 - Sponichi Annex、2009年10月29日、2010年2月11日閲覧。
- ↑ ガラスの右腕 - 伊藤智仁 - 京都新聞、2010年2月11日閲覧。
- ↑ ダルビッシュ有監修『ダルビッシュ有の変化球バイブル』 - ベースボールマガジン社、2009年、14 - 15ページ。
- ↑ 肘に負担がかかる球種は? TJ手術の権威と元MLB右腕で一致した意見とメカニズムとは… (1/3ページ) Full-Count 2020.09.28 (2021年12月24日閲覧)
- ↑ 肘に負担がかかる球種は? TJ手術の権威と元MLB右腕で一致した意見とメカニズムとは… (2/3ページ) Full-Count 2020.09.28 (2021年12月24日閲覧)
- ↑ 古田・谷繁・鶴岡に視聴者から質問「最近の配球、どう思いますか?」【キャッチャーズバイブル】 フルタの方程式【古田敦也 公式チャンネル】 2022/08/16 (2022年8月19日閲覧)
- ↑ 中谷仁 (2016年7月12日). “巨人・内海哲也が持つ球界トップクラスの3つの武器”. web Sportiva. 集英社. p. 2. 2024年9月18日閲覧。
- ↑ メジャーリーグベースボールには、130km/h台のカーブ、120km/h台のスライダーのようにカーブのが速い投手も多くいるため。
- ↑ 映画『メジャーリーグ3』の登場人物であるドク・ウィンドゲイトは速球が120km/hに満たないが、本人は「速球とチェンジアップ、どっちで攻めよう?」というセリフを言う場面がある。他の選手からすれば、大差ない(どちらもチェンジアップ)なので適当にあしらっている。本人だけが呼び方を区別している例である。
- ↑ “新しい魔球ジャイロボールの投球動作とボールが作る流れの数値解析”. Computer Visualization Contest. 2008年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月18日閲覧。
- ↑ 「NHK メジャーリーグガイド 2007」 監修:村上雅則 編集:NHK出版 協力:NHK報道局スポーツ部
- ↑ 大野豊『絶対うまくなるピッチング』日本文芸社、2003年、79頁。ISBN 4-537-20197-5。
- 1 2 神原英彰 (2023年3月10日). “大谷翔平の“落ちないスライダー”という衝撃 セオリー覆す魔球は「浮き上がってくる」”. THE ANSWER. 2023年3月20日閲覧。
- ↑ “藤浪晋太郎4回途中4失点「スイーパーは使える。横に噴き上がるスライダーは有効」/一問一答”. 日刊スポーツ (2023年3月14日). 2023年3月20日閲覧。
- 1 2 “メジャーで流行りの新球種 大谷の元同僚を覚醒させた“スイーパー”とは?”. Full-Count(フルカウント) ― 野球ニュース・速報・コラム ― (2022年4月21日). 2023年5月18日閲覧。
- ↑ “Sweeper (ST)”. MLB.com. 2025年12月31日閲覧。
- ↑ 大島敬太 (2025年11月24日). “スイーパーの流行から2年後、新たなトレンドとは?”. MLB.com. 2025年12月31日閲覧。
- ↑ Rogers, Jesse (2024年12月17日). “MLB study identifies factors for rise in pitching injuries”. 2025年12月31日閲覧。
参考文献
[編集]- ベースボール・マガジン社 編『変化球バイブル[理論&実践編]』ベースボール・マガジン社〈Sports bibleシリーズ〉、2007年。ISBN 978-4-583-10001-2。 [要ページ番号]