チャールズ・ウォードの奇怪な事件

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チャールズ・ウォードの奇怪な事件』(チャールズ・ウォードのきかいなじけん、原題:The Case of Charles Dexter Ward )はハワード・フィリップス・ラヴクラフト1928年に著わしたホラー小説

概要[編集]

プロビデンスのハルゼー邸。本作で言及されている

起稿は1927年、完成したのは1928年。のちの『狂気の山脈にて』を越えて、ラブクラフト作品としては48,000語でもっとも長い。現在ではラヴクラフトの傑作のひとつとされているが、生前、彼の主たる寄稿先であった『ウィアード・テイルズ』誌には投稿されず、また、文通仲間たちにも見せることがなかった(彼はよく自作を原稿のまま文通仲間に回覧していた)。なぜ、まったくの未発表にしたかは、彼の作品の雑誌不採用となるときの理由である「長すぎる」ということを、ラヴクラフト自身が慮ったためとも推測されているが、真相は不明である。死後(1937年死去)の1941年オーガスト・ダーレスとドナルド・ワンドレイにより『ウィアード・テイルズ』誌に掲載された。

「興味本位で秘密を暴いて恐ろしい結末を迎える」というクトゥルフ神話作品の典型的な物語構成を執る。本編で唱えなれる謎の呪文の中にヨグ=ソトースなどクトゥルフ神話の固有名詞が出てくるがそれ以上のものではないため、本作をクトゥルフ神話体系の中に位置付けてよいかは、意見が分かれている[1]。一方でコリン・ウィルソンが指摘するようにラブクラフトの後期作品は、人間精神の限界としての恐怖を大いなる存在に対照させて描く手法を取っているが、本作の段階では、ボレルスの言葉の引用に見られるように錬金術生贄呪文による召喚儀式等のゴシック的雰囲気がなお濃厚である。ラヴクラフトの小説は、登場人物の会話の描写がほとんどないが、本作は最後のクライマックスで珍しく描写されている。

あらすじ[編集]

1918年ロードアイランド州プロビデンスの精神病院から入院中の患者が謎の失踪を遂げた。その患者の来歴が説明され、次いで患者の病状に疑問を抱き、異常な行動の原因を追うウィレット医師の奇怪な探検が物語られる。

登場人物[編集]

  • チャールズ・デクスター・ウォード(Charles Dexter Ward) - 精神病院から失踪した患者。
  • マリナス・ビクネル・ウィレット(Marinus Bicknell Willett) - ウォード家と親交がありチャールズを幼い頃から良く知る主治医。
  • テオドア・ウォード - チャールズの父。息子の豹変に気付いて周囲に相談する。
  • ジョセフ・カーウィン(Joseph Curwen) - 後述。
  • 118号 - 謎の人物。

ジョセフ・カーウィン[編集]

1662年ないし1663年の2月18日、アメリカ合衆国ニューイングランドマサチューセッツ州エセックス郡セイラム村に生まれる。15歳で船乗りとして各地を旅する。俗にいう『セイラム魔女事件』に関わる人物でサイモン・オーン、エドワード・ハッチンソンらと共同して海外から魔術に関する文献を集め、黒魔術の研究を行った。1692年に逮捕から逃れるためロードアイランド州プロヴィデンスに移住し、交易商を通じて実業家になり名士として活躍するも再び黒魔術の研究を始める。1771年に恋人のイライザ・ティリンガーストを彼に奪われたエズラ・ウィードンが黒魔術の証拠を掴み、街の有力者たちと協力して彼を殺害した。

20世紀初頭の人物であるチャールズ・ウォードの祖先に当たる。チャールズは、悍ましい事件に関わった悪名高い祖先のカーウィンに興味を抱き、彼の経歴を調べていく。

ラブクラフトの小説『壁のなかの鼠(1923年)』の主人公デラ・ポーア、『インスマスの影(1936年)』のオーベッド・マーシュ船長、そして『死体蘇生者ハーバート・ウェスト(1922年)』のハーバート・ウェストに類推する点があり、ラブクラフトの中で共通する悪人像があったことが分かる。呪われた血筋、傲慢な自信家、そして魔術である。また上記の三人が自滅しているのに対し、カーウィンは、制裁を受けているなど悪役として明確に位置付けられていた。

ハルゼー邸[編集]

1801年、ロードアイランド州プロヴィデンス、140プロスペクト・セント・ストリートにトーマス・ロイド・ハルゼー大佐が建てた屋敷である。1925年にラブクラフトの叔母が「地下室に幽霊が出る」という噂をラブクラフトに手紙で送り、この作品を作るインスピレーションなったと言われている。

日本における出版[編集]

1970年宇野利泰の翻訳により『怪奇幻想の文学 III 戦慄の創造』(新人物往来社)に収録されている。同訳は1976年に『ラヴクラフト傑作集2』(後に『ラヴクラフト全集2』に改題、創元推理文庫)に再録された。1985年には『定本ラヴクラフト全集4 小説篇IV』(国書刊行会)に小林勇次の翻訳により「狂人狂騒曲 -チャールズ・デクスター・ウォードの怪事件-」の題で収録されている。藤原編集室によると、この題は『世界恐怖小説全集』(東京創元社)の第6巻に予定されていた平井呈一の訳「狂人狂想曲 —チャールズ・デクスターの病症—」へのオマージュであるとのことである。1997年には『クトゥルー10』(青心社文庫ISBN 4878921293)に大瀧啓裕の翻訳により「チャールズ・デクスター・ウォード事件」の題で収録された。

関連作品[編集]

怪談呪いの霊魂[編集]

『怪談呪いの霊魂』(原題:The Haunted Palace)のタイトルで映画化された。"The Haunted Palace"はポーの有名な詩の題名だが、内容はポーとほとんど関係なくラブクラフトの小説を元にしている。ただし舞台がアーカム村とされたり、主人公ウォードが妻帯者で、妻も探検行に参加したりする等原作とはかなりの相違点がある(主人公の妻が活躍するというのは、極めて非ラブクラフト的である)。

  • キャスト
  • スタッフ
    • 監督: ロジャー・コーマン
    • 1963年公開、AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)作品
  • DVD
    • 『怪談呪いの霊魂』 エスピーオー OPSD-S112

ヘルハザード・禁断の黙示録[編集]

『ヘルハザード・禁断の黙示録』(原題:The Resurrected)のタイトルで、再度映画化されている。設定は現代に置き換えられているが、『怪談呪いの霊魂』に比べると、こちらの方がより原作に忠実である。

  • キャスト
    • クリス・サランドン
    • ジョン・テリー
    • ジェーン・シベット
  • スタッフ
    • 監督:ダン・オバノン
    • 1991年公開、アメリカ作品(本国での劇場公開は無し、日本公開は1992年)

邪炎の妖神[編集]

穂高亜由夢による上記映画『怪談呪いの霊魂』のコミカライズ。角川書店発行。

脚注[編集]

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  1. ^ 『クトゥルフ神話全書』リン・カーター著

関連項目[編集]

外部リンク[編集]