ランドルフ・カーター

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ランドルフ・カーター(Randolph Carter)は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによるクトゥルフ神話に登場する架空の学者。

概要[編集]

アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン在住の神秘学者、東洋学者、数学者。第一次世界大戦フランス外人部隊に所属するが、1916年に重傷を負っている。1928年に謎の失踪を遂げている。

夢見る人という夢の世界(空想の空間ではなく、精神で結ばれた神々の住まう高位の異次元世界)に赴く事ができる力があったが、それを失ってからは、現実世界から脱出して夢の中へ行きたがっていた。他人と同じ生活をしてみたが人間の野心が無意味と悟る。一族に伝わる「銀の鍵」を使い先祖のエドマンド・カーターの記録を頼りにアーカムの「蛇の巣」で失踪する。

ラブクラフトの小説『ランドルフ・カーターの陳述(1919年)』で初登場し、『銀の鍵の門を越えて』でネクロノミコンを読んだことがあると言及され、『幻影の王』でそれがアラビア語版だと明かされた。ラブクラフトの作品に計5回登場し、シリーズの主人公とも言える。夢をそのまま作品にしたことがあるラブクラフトの理想化された作品上の分身とも言われる。

来歴[編集]

1874年 - 10月7日、アーカムで誕生。

1883年 - 「蛇の巣」で奇妙な体験をする。

1904年 - 夢幻郷カダスでニャルラトホテプと対決する。

1912年 - ウォーランと知り合う。

1916年 - フランス外人部隊に所属して従軍。

1919年 - ウォーランが失踪する。

1928年 - 10月7日。銀の鍵を手に入れ、蛇の巣にてカーター失踪。

1930年 - アメリカにチャンドラプトラという人物が現れ、カーターの友人たちと連絡を取り合う。

1932年 - カーターの遺産相続に関する話し合いが発生する。

各作品での活躍[編集]

ラヴクラフト作品[編集]

初出『ランドルフ・カーターの陳述(1919年)』では、親友の神秘主義者ハーリー・ウォーリン(ウォーレン、ウォーラン)と共に古い墓地へ赴くが、ウォーリンが地下坑内に行ったきり出てこなかった。

『名状しがたきもの(1923年)』では、名状しがたきものを見るために友人ジョウエル・マントンと共に廃屋へ赴く。名状しがたきものに遭遇するが、カーターとマントンは負傷させられて入院することになる。

『銀の鍵(1929年)』でカーターは、30歳で登場。銀の鍵を失い、年を重ねたことで夢の世界へ行くことが出来なくなった。使用人パークスと共に銀の鍵を取り出しカーターは失踪した。

『銀の鍵の門を越えて(1933年)』では、1928年10月7日に54歳にして失踪したカーターの遺産を巡り、集まった5人が4年間も話している。インドからやって来たチャンドラプトラは、カーターが門を開いたことやドールが支配するヤディス星での出来事、ヤディスの魔道師ズカウバとの体の主導権争い、カーターが人間の姿に戻るための方法を話した。

『未知なるカダスを夢に求めて(1943年)』で1904年のカーターは、カダスを求めて旅をしていた。旅先でグールと化したリチャード・アプトン・ピックマンに遭遇し、共にカダスを探した。途中ナイアーラトテップに遭遇してカダスの真実を聞かされる。ナイアーラトテップと配下の策略に陥るが、ノーデンスにより救われる。この作品は、ラブクラフトが生前(1937年死去)に執筆し、彼の死後に友人らによって発表された。内容は、カーターが夢の世界に赴く力を失う以前になっておりシリーズの時系列では、最も古いことになる。他の作品との作風の違い、夢の国に赴く力を失う経緯が矛盾しているが、これは、ラブクラフトが発表するつもりがなかったことに関係する。

その他の作品[編集]

『幻影の王』でカーターが銀の鍵を使用して「窮極の門」の門番にして古きものの長ウムル・アト・タウィルに遭遇した。ウムル・アト・タウィルに門を通るかどうか問われた際には通ると答え、連れて行かれた。カーターは宇宙存在に出会いカーターの住む世界の正体を教えられ、イレク=ヴァドのオパールの玉座を支配することを進言された。

カーター家[編集]

ラブクラフトの作品では、彼が好む血筋の要素が盛り込まれ、登場人物の家系図や来歴が設定されることがある。 十字軍の兵士ジェフリー・カーターが時系列として最も古く、次にエリザベス朝時代にジョン・ディーと並ぶ魔術師とされた初代ランドルフ・カーターが登場する。1692年にセイラム魔女事件が発生すると妖術師エドマンド・カーターがセイラムからアーカムに移住している。1866年には、南北戦争で騎兵将校として活躍した大叔父ジョンがアリゾナで失踪した。

1781年にエドマンド・カーターは、アーカムにある森の斜面に空いた洞窟、蛇の巣で銀の鍵を使い失踪しており、それ以来、一族によって保管されて来た。

関連人物[編集]

親族[編集]

クリストファー
カーターの父。
マーシー
叔母。
ジェフリー・カーター
登場作品:『幻影の王』
ランドルフ・カーターの550年前の先祖。ランドルフ・カーターの記憶を少し保持している。
初代ランドルフ・カーター卿
登場作品:『銀の鍵』
16世紀、エリザベス女王の時代に魔術を研究していた。
エドマンド・カーター
登場作品:『銀の鍵』
セイレムの魔女狩りにあい絞首刑に晒されるところだったが逃れた。銀の鍵を持っていた。

その他[編集]

ハーリー・ウォーリン
登場作品:『ランドルフ・カーターの陳述』
先史時代の研究家で、カーターの7年来の友人。インドから発注したアラビア語の魔術書の解読を機に、カーターを伴ってビッグ・サイプラス沼の地下墓地に赴くが、地下で正体不明の何者かに遭遇。電話越しの悲鳴だけを残して行方不明となる。
ジョウエル・マントン
登場作品:『名状しがたきもの』
ボストン出身のイースト・ハイスクール校長。ニューイングランド特有の独善的な部分がある性格で、カーターと度々論争を繰り広げてきた。ある秋の夜、アーカムの古い埋葬地でカーターと「名状しがたきもの」の論争を行っている最中、突然現れた謎の怪物に襲われ、上半身に異常な爪や角の切り傷を刻まれて入院させられた。
エティエンヌ=ローラン・ド・マリニー
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
クレオール人で研究者。カーターの遺書と遺産の管理を任されている。第一次世界大戦ではカーターと共にフランス外人部隊に所属する。趣味と外貌が似ており仲が良かった。
アーネス・K・アスピンウォール
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
カーターより10歳上の親戚。シカゴで法律家を営む。失踪したカーターを死亡したものとみなし、親戚に財産を分けることを相談した。遺産相続の相続人代表。カーターを恥知らずと言って軽蔑している。
チャンドラプトラの話に激昂して仮面を取るが、素顔を見て死亡する。
フィリップス
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
ロードアイランド州プロヴィデンス市在住の初老の男。神秘主義者でカーターと親密な関係にある。
弁護士
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
遺産相続に来た弁護士。
チャンドラプトラ
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
ベナレスから来たスワーミー(ヒンドゥー教の宗教家)を名乗る男。マリニーら、アスピンウォール、フィリップスらにカーターが失踪した経緯を語り、遺産を他者に相続させずカーター自身に引き渡すことを進言する。激昂したアスピンウォールによって仮面を外され、棺形の時計の中に入り込み姿を消した。
チャンドラプトラは、「自身をカーターと名乗ることもできる」と言っている[1]。フィリップスは、この人物をカーターではなくズカウバと推測している[2]
ズカウバ
登場作品:『銀の鍵の門を越えて』
カーターと体の主導権争いをしていたヤディス星の魔術師。
老いたネコ元帥
登場作品:『未知なるカダスを夢に求めて』
夢の国の猫族のリーダーでカーターを助ける。
ピックマン
登場作品:『未知なるカダスを夢に求めて』
夢の国で出会ったグールの絵描き。カーターと協力するが行方不明になる。
ナイアーラトテップ
登場作品:『未知なるカダスを夢に求めて』
カダスを目指すカーターを妨害する。最終的に彼から夢見る者としての能力を奪った。

参考文献[編集]

  • ハワード・フィリップス・ラヴクラフト著
    • 『ランドルフ・カーターの陳述(The Statement of Randolph Carter)』
    • 『名状しがたきもの(The Unnamable)』
    • 『銀の鍵(The Silver Key)』
    • 『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
  • ハワード・フィリップス・ラヴクラフト&エドガー・ホフマン・プライス
    • 『銀の鍵の門を越えて(Through the Gate of the Silver Key)』
  • エドガー・ホフマン・プライス
    • 『幻影の王(The Lord of Illusion)』

脚注[編集]

  1. ^ 外見は別人だが精神はカーターであるということ
  2. ^ 仮面を外された際にズカウバが一時的に体の主導権を取り戻したのかもしれないと推測している