オーベッド・マーシュ

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オーベッド・マーシュは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによるクトゥルフ神話に登場する架空の人物である。インスマスの交易商人であり、後にダゴン秘密教団を組織した。彼の一族、マーシュ家は、インスマスを支配するほど権勢を誇った。

ラブクラフトの小説『インスマスを覆う影(執筆1931年、発表1936年)』において言及されるが作中では、既に故人となっている。同作品の主人公の4代前の祖父であることが明かされる。深き者と交配した一族の重要人物として度々、クトゥルフ神話をモチーフとするフィクション作品でインスマス、ダゴン秘密教団と共に言及されることがある。特に後から創作されたキャラクターでインスマスの名士とされる人物は、彼の一族としてファミリーネームを着けられることが多い。またクトゥルフ神話にまつわる伝承は、彼が情報源という体裁を取ることもある。

マーシュ家[編集]

オーベッドを中興の祖として繁栄したインスマスの名士とされる。実態は、深き者と契約し、ダゴン秘密教団の祭司を務める一族である。

オーベッド・マーシュ (Obed Marsh)
「インスマスの影」の主人公の祖父の祖父。
1812年米英戦争の最中にも各地を航海した野心家の船長だった。ポリネシアの「深き者」を崇拝するカナカイ族と交流のあった彼は、1838年に島の住民が全滅しているのを発見した。この時、ダゴンを呼び出す祭具や儀式に関する知識を得た彼は、インスマスの悪魔の岩礁で儀式を執り行って契約を結ぶ。黄金(正確には、金に似た金属)の装飾品や大量の魚と引き換えに深き者との契約によって住民と彼らを交配させることになり、彼自身も2人目の妻を娶ることになった。最初の妻との間に息子オネシフォラスと3人の娘がおり、2人目の妻プトトヤ・ライとの間にも3人の子供が産まれた。この内の1人がベンジャミン・オーンと結婚して「インスマスの影」の主人公に連なる血筋となっている。1840年にダゴン秘密教団が設立されたが1846年に町の行方不明者が多過ぎるとして反対派の住民が彼やダゴン秘密教団の関係者数名を拘束した。この時、深き者たちが反撃を企てて上陸し、オーベッドを解放して町を占領した。1878年に死亡した。
プトトヤ・ライ (Pth'thya-l'yi)
オーベッドの2人目の妻。日本語版では、ス・スヤ・ルアイとなっているものもある。「インスマスの影」の主人公の祖母の祖母だが、海底都市イハ=ンスレイ(Y'ha-nthlei)に住んでいる。また8万年生きているとされる。オーベッドとの間に三人の子供を儲けた。二人は、行方不明になったことにされ残る1人がアーカムのベンジャミン・オーンと結婚した。
オーベッドの娘
オーベットとプトトヤ・ライの娘。2人の兄弟が行方不明になっている。フランスに留学して教育を受けた。南北戦争の後に帰国し、ベンジャミン・オーンと結婚したが、自分の一族に着いて何も知らされていなかった。病死したとされている。
イライザ・オーン
オーベッドの孫。父親は、ベンジャミン・オーンで母親がオーベッドとプトトヤ・ライの娘の一人。ジェイムズ・ウィリアムスと結婚した。「インスマスの影」の主人公の祖母で風変わりな容姿や言動が一族でも気味悪がられていた。「インスマスの影」の主人公もイライザを苦手と感じていたが彼女は、彼を海底都市イハ・ンスレイで待っているとされる。
ダグラス・ウィリアムス
イライザとジェイムズの息子。イライザに良く似ていたと言われる。「インスマスの影」の主人公と同じように一族に着いて調べる内に自殺する。
ウォルター・ウィリアムス
イライザとジェイムズの息子。彼の息子のローレンスも体の異変を訴えて入院した。
インスマスを覆う影の主人公[注釈 1]
オーベッドの孫の孫。ラブクラフトの小説「インスマスの影」の語り手となる主観人物。好古趣味で古い街並みを見たいと考え成人の祝いに1人でニューイングランドを旅行し、偶然に自分のルーツの関心を持つようになる。自分の一族を調べる内にオーベッドと深き者の関係に行き着く。最後は、子供の頃から嫌っていた祖母イライザの待つ海底都市イハ=ンスレイに従弟のローレンスと共に向かおうと考えるまでになった。
ローレンス・ウィリアムス
オーベッドの孫の孫。ウォルター・ウィリアムスの息子で「インスマスの影」の主人公の従弟にあたる。体調不調を訴えて入院中である。
バーナード・マーシュ (Barnabas Marsh)
オーベッドと彼の最初の人間の妻、マーシュ婦人の間に生まれた息子オネシフォラスと深き者の女性の間に生まれた混血児。マーシュ老と呼ばれるインスマスの有力者。町にある金の精錬所を経営しており、カーテン付きの車で外出する。もともとあったバプテスト教会やフリーメイソンの会館をダゴン秘密教団の集会場として利用している。既にインスマス顔の特徴が表れており、まぶたを閉じることが出来ないと言われている。外的な要因以外では、死なない限定的な不死になったが、1927年の政府の手入れによって殺害されたといわれる。
エイハブ・マーシュ
オーガスト・ダーレスの小説『永劫の探求』で登場したマーシュ家の当主でインスマスを支配していた。

姻戚関係[編集]

深き者の女性
オーベッドの息子オネシフォラスと結婚したという深き者。
ベンジャミン・オーン
アーカム出身でオーベッドとプトトヤ・ライの娘と結婚した。「インスマスの影」の主人公の曾祖父。
ジェイムズ・ウィリアムス
オハイオ州出身でイライザ・オーンと結婚した。「インスマスの影」の主人公の祖父。

ダゴン秘密教団[編集]

設定[編集]

カナカイ人たちがオーベッドに教えた宗教で父なるダゴンと母なるヒュドラを崇拝する深き者たちとの交配を契約する。オーベッドの友人だった酋長ワラキーは、混血児ではなかったが既に島民の多くが混血し、その中には、5代前の祖父と面識のある島民も居た。しかし1838年にオーベッドが島を訪れた時には、島民が全滅しており近隣の別の島の住民が深き者や彼らと交配する島民を忌み嫌って殺害したのだと推察された。

信仰の対象とされるダゴンは、最年長の深き者あるいは、全く生物的に差異のある存在とも言われているが設定は、作品によって大きく異なる。クトゥルフ神話の世界では、クトゥルフやニャルラトホテプなど神々の名前は、信者たちによって隠され広く知られることがないように工夫されている。代わりにダゴンが信仰の対象として知られ、キリスト教勢力の迫害にあっても聖書『士師記』の第16章にペリシテ人が信仰する半人半魚の神として記録に名前が残されてしまった(という体裁を取っている)。あるいは、聖書のダゴンと勝手に人間が類推しているだけとされる。姿は、古代メソポタミアの神ダゴンの描写から下半身が魚になっているものや深き者と同じ半魚人というパターンが見られる。共通している点は、巨体であることが挙げられる。

クトゥルフ神話のキャラクターとしてのダゴンは、ラブクラフトの小説『ダゴン(1919年)』でクトゥルフ神話上において初登場した。これは、クトゥルフが初出の『クトゥルフの呼び声(1926年)』より早い。

クトゥルフとの関係性[編集]

ダゴンは、ルルイエに眠るクトゥルフに仕える眷属とされている。配偶者であるヒュドラ(ハイドラ)や深き者たちと共にクトゥルフの復活を早めるべく活動している。いつ、いかなるクトゥルフの命令にも即座に応じるために用意しておかなければならない、をモットーとしている。ただしクトゥルフが目覚めるには、星辰が正しい位置に移動するより条件はなくダゴンや深き者たちが外部から何らかのアプローチで協力する必要はまるでない。このためクトゥルフ神話の作品では、ダゴン秘密教団を壊滅させるという物語が描かれるが、それらは、全く無意味な行為であると皮肉っぽく仄めかされて締めくくられる。またダゴン自身は、「旧支配者」ではないがクトゥルフも旧支配者ではない。クトゥルフは、「旧支配者の匂いすら感じ取れない存在」[注釈 2]と冷笑的に関係性を説明されており、クトゥルフも旧支配者たちからすれば取るに足らない存在として見做されている。

クトゥルフの配偶者イダー=ヤアーとの間に生まれた三柱の息子、長子ガタノトーア、イソグサ、ゾス=オムモグ、秘密の姫クティーラ、”右腕”ムナガラー、2人目の妻スクタイ、3人目の妻カソグサもダゴンにとって奉仕する対象と見做され、オーベッド・マーシュによって一族に伝えられた。

ダゴンとの3つの誓い[編集]

初出不明。原作の小説にはなかった。

  1. 教団に危害を加えぬこと。
  2. 教団の計画に対して金銭や労働力によって協力し、いつ、いかなる命令にも応じるために用意すること。
  3. 深き者との間に子供を儲けること。

ゲーム『Call of Cthulhu: Dark Corners of the Earth(2005年)』では、誓いは、段階的に上がるとされた。1846年の事件により住民全員が一つ目の誓いに進み、何らかの理由で二つ目の誓いに進む。この二つ目の誓いを守らなかった場合、三つ目まで誓いを立てることになる。オーベッドも住民の反乱を招いて深き者に救出されたことで”貸し”を作ったと見做され、深き者と結婚させられた。

活動地[編集]

インスマスの他に世界各地に拠点があるとされる。太平洋のポナペ諸島ポリネシア諸島タヒチや西インド諸島、インカボッカ、日本でも地方によって「だごん様」として崇拝されている。またインスマスの沖に海底都市イハ=ンスレイがある。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 作中において名前が明かされていないが、ロバート・オルムステッドあるいは、ウィリアムスという名前が当てられることがある。
  2. ^ 旧支配者たちは別次元の存在なので生物には感知できない

出典[編集]