球種 (野球)

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球種(きゅうしゅ)とは、野球において投手打者に投じたボールを変化の方向・球速・回転などにより分類したものである。各球種の詳細な説明は、各リンク先を参照。

フィクションに登場する魔球についてはここでは扱わない。魔球を参照。

分類

変化球の細分化は、変化の方向・球速・回転・握り・目的など多くの観点があるので注意されたい。一例としてメジャーリーグにおける一般的な分類に沿ったものを記す。

  • ファストボール:球速が速い球種全般を示す。直進するものや変化するものがある。
    • フォーシーム・ファストボール:日本ではストレート直球と呼ばれる直線的な軌道の速球[1]
    • ムービング・ファストボール:日本では昔から癖球と呼ばれてきた。直進せずに手元で小さく変化する速球を示す。一般的には変化球と呼べるほどの変化ではないと認識されているが、球種や変化量などによっては変化球として認識されることもある。以下に挙げる様々なバリエーションがある。
      • ツーシーム・ファストボール:フォーシーム・ファストボール(ストレート)に近い速度で沈む球である。また、指の力加減により軌道をシュート方向にも(一部の投手はスライダー方向にも)曲げることが可能である。
      • ワンシーム・ファストボール(ゼロシーム・ファストボール):フォーシーム・ファストボール(ストレート)に近い速度で沈む球である。また、指の力加減により軌道をシュート方向にも(一部の投手はスライダー方向にも)曲げることが可能である。この変化は、 ツーシーム・ファストボールとほぼ同じであるが、ワンシーム・ファストボールのほうが変化量が大きいとされる(さらに高めに投げると浮き上がることもある)。ただし、指先が鍛えられ器用でないと制球が難しく、日本球界で投げる投手は限られている。
      • シンキング・ファストボール:ツーシーム・ファストボールやワンシーム・ファストボールの中でも特に沈む軌道を持つものを指す。
      • カット・ファストボール:投手の利き腕と逆方向に小さく鋭く変化する球。
      • スプリットフィンガー・ファストボール:フォークボールと似た握りから投じられ、より速い球速で小さく落ちる球。
      • ナチュラルシュート:フォーシーム・ファストボール(ストレート)を投げる際に、リリースポイントなどの関係で自然にシュート回転がかかった球を指す。
  • ブレイキングボール:ボールに回転をかけて軌道を変化させるボールを示す。日本でもよく「ブレーキの効いたカーブ」のように言うことがあるが、この場合のブレーキの綴りは「止まる」の“brake”ではなくて、「割れる・壊れる」の“break”であり、軌道が急激に変化することを表している。
    • スライダー:投手の利き腕と反対の方向に(落ちながら)曲がる球種。また、縦方向の落差が大きいものは「縦スライダー」と呼ばれる。派生として「高速スライダー」「スラーブ」「マッスラ」などもある。
    • カーブ:投手の利き腕と反対の方向に、山なりに曲がりながら落ちる球種。握りや速度、変化の方向などによって「スローカーブ」「パワーカーブ」「ドロップ」「ナックル・カーブ」などの派生がある。
    • シュート:投手の利き腕方向に曲がる球種。特に速度の速いものは高速シュートとも呼ばれる。
    • シンカー:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種。アジア圏とそれ以外では定義が異なる(当該記事を参照)。
    • スクリューボール:投手の利き腕方向に曲がりながら落ちる球種。シンカーとの違いについては当該記事を参照。
    • ジャイロボール:ボールの進行方向に回転軸が向いている球種で、縦のスライダーに近いとされる。あまり実用的なものではないが、威力があるとの見解もある。
  • チェンジアップ:速球と同じ腕の振りで投じられる遅い球全般を指し(メジャーリーグの場合)、打者のタイミングをずらすことができる[2]。指に挟んで抜くなどしてボールに回転をかけない。
    • (球種としての)チェンジアップ:変化量は少ないが、最も腕に負担がかからない。握りによって「サークルチェンジ」「バルカンチェンジ」などの派生がある(当該記事を参照)。
    • フォークボール:人差し指と中指の間にボールを挟んで投げ、縦に落ちる球種。
    • パームボール:手の平(パーム)で押し出すように投げ、縦に落ちる球種。
    • ナックルボール:ボールに指を突き立てて投げ、ほぼ無回転で不規則に揺れながら落ちる球種。
    • スローボール:非常に遅い速度で、山なりの軌道を描く球。

理論

投手捕手へ向けて空中に投じたボールは、投球動作によりスピンしながら、重力の影響により一・三塁方向から見て放物線状の軌道を描きながら捕手へ向かう。この時、空中をボールが進む中で、空気抵抗を受けるほかに、ボールのスピンにより生じる気流により揚力が発生する(マグヌス効果)。スピンはリリースにより変化を持たせる事が可能で、スピン次第で揚力、ひいては球の軌道が変化する。また、ボールを鷲掴みにするなどボールに力が伝わらないように握りを変えることにより、腕の振り以外で球速を遅くすることができる[3]

これらの方法で球の軌道、球速を標準である投球(ストレート[4])に対し変化させた球を変化球という。

球種の名称は握りや投げ方に準じて名付けられる場合と変化の特徴から名付けられる場合が多い。それに応じて#分類も行なわれる。ただし、これらは厳密に定義されているわけではなく、同じ球種であっても投手によって投法や変化に差異があったり、同一投手の同一球種であっても見るものによって解釈の違いから異なる球種として認識されることもある。特に、細かな分類となると境界線や区別が非常に曖昧である。また、時代の変化によって名称が変わったり、細分化され明確に区別されたり、或いは一纏めにされることも多々ある。さらに日米においても球種に対する認識が大きく異なる場合があり、名称や分類の仕方に大きな差異が見られる。

原理

先の通り、空中に投げられたボールは重力の影響で放物線を描く軌道となるが、ボールに回転をかける事でマグヌス効果など様々な力が影響してボールの軌道が変化する。他にボールの回転を少なくしたり、無くす事で通常とは違う変化を起こさせるものもある。ボールの回転と変化については流体力学による研究なども行なわれている。

マグヌス効果

ボールが進行方向に鉛直な回転軸を持ってスピンしている場合は重力以外にマグヌス効果が発生する。マグヌス効果によればボールが前進する事によって受ける向かい風とボールがスピンすることによって生まれる循環流れが干渉することで、進行方向に対して鉛直方向の揚力が発生してボールの軌道が変化する。そのため、回転をかける方向によって変化する方向が決定される。

バックスピンをかければ上向き方向の揚力が発生して自由落下の影響を抑え、直線に近い軌道を描く球筋となる。この効果が大きいと打者に球が浮き上がるような錯覚を与え、体感速度も上がり、いわゆる伸びのある球となる。逆にスピン量を少なくして(毎秒10~20回転程度)マグヌス効果による揚力を小さくすることにより直球に対して落ちているように見せるのがフォークボールやチェンジアップの派生的な効果である。更に、球のスピンがトップスピンであれば下向き方向の揚力が発生して放物線よりさらに落下する軌道になる。(球種におけるカーブの変化)

また、スピンが横回転であれば横向き方向の揚力が発生し、上から見て右回りであれば右方向、左回りであれば左方向へ変化するボールとなる。投手の利き手方向への変化をもたらすスピンをシュート回転、逆をスライダー回転と呼ぶ。スピンがバックスピンと横回転の中間やトップスピンと横回転の中間などであれば揚力は上向きと横向き、下向きと横向きなどに割り振られる。

野球のボールにある縫い目(シーム)がマグヌス効果を増幅させている。スピン方向に対し垂直に現れる縫い目はボールの向きによって変わり、1回転で長い縫い目が均等な間隔で4回現れるものがフォーシーム(four-seam)と呼ばれ、最も効果を増幅させるものである。いずれも、スピン量が多いほどマグヌス効果が強く発生して大きな変化が生じる。一般的な直球や変化球で毎秒30回転程度であるが、非常にスピン量の多いもので40回転以上の球を投げる投手もいる。その他、球速によっても変化が変わる。球速が速ければ重力やマグヌス効果を受ける時間が短くなり変化は小さいものとなる。球速が遅ければそれだけ重力やマグヌス効果を長く受けて大きく変化する。

無回転

ボールがほとんど回転していない場合(毎秒1回転程度)はマグヌス効果は発生しないが、ボールの進行方向に対する縫い目の位置によるボールの後流の変化が大きな影響を及ぼし、揚力と抗力が発生して軌道を変化させる。ボールが僅かに回転することで縫い目の位置が変化して上下左右に後流が乱れてボールが不規則に変化する。また、縫い目の位置によって後流の大きさも変化する為に減速効果も変化してボールの速度も乱れることになる。ナックルボールや無回転のフォークボールなどの変化がこれにあたる。ボールの回転が多い場合は縫い目の入れ替わりが速過ぎて一様な状態に近くなり、この効果はほとんど現れない。

減速

空中に投げられたボールは空気抵抗を受けて徐々に減速する。空気抵抗の大きさはボールの後流の大きさに影響を受けるが、ボールの後流は回転の方向、回転数により影響を受ける。[5]

投げ方

ボールの握り方は球種によってそれぞれ異なるが、同じ球種でも投手によって握りが違う。これは投法や手の形などの個人差から適した握りも変わってくるためである。球種によって体の使い方も異なり、シュートなどは体を開くほうが回転をかけやすいが、逆にスライダーなどは体を開くと難しくなり、同じフォームから共に大きく変化するスライダーとシュートの両方を投げる事は難しい。また新たな球種を習得したために、それに適したフォームに変わって元々投げられた他の球種を投げられなくなる場合もある。腕の角度などの要因からオーバースロースリークォーターサイドスローアンダースローといった投球フォームによってそれぞれ投げやすい球種や変化させやすい球種が存在する。また、1人の投手が同じ球種を変化の角度・程度・球速などを変えて投げ分けることも多い。

関連用語

  • 決め球(ウイニングショット):3つ目のストライクを奪う時に投げる球のこと。投手が得意とする球を投げる事が多い。そのことから投手が最も得意とする球を示すこともある。
  • 見せ球:速い球を投げる前の布石として投げる遅い球や内角に投げる前の布石として外角に投げる球などのこと。打者の感覚や意識を狂わせる目的の球であり、ストライクゾーンには入れず、敢えてボール球を投げる事も多い。
  • 釣り球:打者のスイングを誘うボール球。意図的にストライクゾーンから外して投げた球でスイングを誘い、空振りや凡打を狙う。
  • 持ち球:その投手が投球可能な球種。
  • 荒れ球:制球が定まらないこと。それ自体は良いことではないが、主に速球派投手の球が荒れて、ストライクゾーンの上下左右に適度に散らばることで、投手の狙いとも打者の予想と全く異なるところへボールが来ると、逆に打ち辛くなることもある。これを意図的に利用して活かすピッチャーも居る。
  • 逆球:狙ったコースと逆のコースにいった球。キャッチャーの構えたコースと違うので捕球が難しい。

不正投球

日本球界では2000年6月のブライアン・ウォーレン投手を巡る騒動のように激しく糾弾される不正投球だが、メジャーリーグベースボール (MLB) ではルール上の厳しい罰則は規定されているものの、実際の適用に関しては甘い。

古くから下記のような不正投球は禁忌とされるほどの行為でなく「見破れなかった相手が悪い」「やるならバレないように使うのが礼儀」程度に認識されており、不審を感じた相手チームから激しい抗議があろうとも、審判が現行犯で証拠を押さえない限り、退場処分が下ることは滅多に無い。 同じ不正行為でもドーピング問題のそれとはファンや関係者たちからの扱いにも大きな温度差がある。

最も顕著な例として、ゲイロード・ペリーは以下で述べるスピットボール、エメリーボールの常習者として現役時代から非常に有名な選手だったが、両リーグでサイ・ヤング賞を受賞した史上初の投手となり、野球殿堂にも表彰され、2005年にはサンフランシスコ・ジャイアンツ時代の背番号36が球団の永久欠番となった。他にも、2008年に引退を表明したトッド・ジョーンズも現役時代から「自分は松ヤニを使っている」と公言するなど、メジャーリーグにおいて不正投球はしばしば行われている。[6]

エメリーボール(emery ball)
砂・やすり等の道具や爪等でボールに傷を付けて投げる。滑らなくなることで激しい回転がかかり、空気抵抗にも影響し大きく曲がるようになる。
スピットボール(spit ball)
指やボールにを付けるなどして投げる。唾の代用として、帽子の庇に塗るなどで隠し持った松脂や髭剃りクリーム、自らの後ろ髪等に多めに付けた整髪用ジェル、耳たぶの中や裏に隠し塗ったワセリン、口内に仕込んだ歯磨きペーストなどの粘液などを付ける。滑ることでナックルボールのような無回転状態に近くなって不規則な変化が起きたり、直球と逆の回転をさせて下方向の揚力を生み、大きく落ちる変化をつけられる。
MLBでは当初不正ではなかったが、スピットボールによる死亡事故が発生したことにより、1920年から禁止とされた。ただしその時点で持ち球としていた選手(バーリー・グライムスなど)には例外的に認められた。
日本でも慶應義塾大学などで活躍した新田恭一が1930年頃、このスピットボールを投げていたと古い文献に記述されている[7]。竹中半平著『背番号への愛着』には、新田を「日本では最後であり唯一であったかも知れぬスピット=ボール投手」と書かれている[8]
マッドボール(mud ball)
グラウンドの土を付け、これを滑り止めとして投げる。マッドボールを投手に与えないよう捕手にワンバウンドキャッチされたボールは速やかに交換されるが、わずかに付いただけの場合は捕手が主審に判断を求め、問題なしと判断されれば土を拭って使用続行となる。
シャインボール(shine ball)
使いすぎて磨り減りピカピカになったボールの事で、試合中にたびたび新しいボールへ交換するようになった現在のプロの試合では見られない(ファウルボールはスタンドに飛び込んだもの以外、全てボールパーソンが回収する)。ボールが磨り減ると空気抵抗が変わるため奇妙な変化をすることがある。

慣用句

比喩表現として、ビジネス会議における交渉術・発言の仕方や人間性格を指す場合に使用されることもある(例:「発言の場で、変化球を投げつける」「あの人は直球勝負の人だ」など)。

この場合の「変化球」とは「どういう過程でも捕手のミットに納まる」ということから、結論は同じなのに回りくどいことを言うこと、あるいは相手の意表を突く論理を用いることを指すものであり、的外れなことを言っている場合には普通使われない。一方、「直球勝負」とは策を弄したり根回しを行なったりせず正論だけで何かを成し遂げようとすることを示し、前述の変化球と反対語ではない。後者はしばしば使われる言葉である。

脚注

  1. ^ 最も落差が少なく到達時間も短い球種である事などから打たれ難く、基本になる球種とされている。なお、英語ではストレートは棒球を意味する。故に速球をストレートを呼ぶことはない。
  2. ^ 高津臣吾高橋尚成摂津正などが投じる球速が速いタイプではないシンカーも、アメリカではチェンジアップと認識されている。
  3. ^ 腕の振りが緩まることは、早い段階で打者から変化球を見切られる事につながるため好ましくない。 また、変化球が見切られてはそれに対応することが容易になるため、曲がりが速い変化球などは良い変化球ではないとされる。
  4. ^ オーバースローの投手について、ストレートは「バックスピンのかかった球」となり、直球の字面通り、直進要素の強い球だが、腕の角度がサイドスロー投手など下がった投手がストレートと同じリリースをすると、投球にシュート回転の要素を含むので直進とはかけ離れた球となる。
  5. ^ http://www.baseball-lab.jp/column/entry/194/
  6. ^ MLB Column from East-ケニー・ロジャース「不正」投球疑惑
  7. ^ 腰本寿、私の野球、三省堂、1931年/ 覆刻版:恒文社、1978年、106頁
  8. ^ 竹中半平『背番号への愛着』あすなろ社、1978年、31頁

参考文献

関連項目

外部リンク