ドラえもん のび太とアニマル惑星
『ドラえもん のび太とアニマル惑星』(ドラえもんのびたとアニマルプラネット)は、藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1989年10月号から1990年3月号に掲載された大長編ドラえもんシリーズの作品。および、この作品を元に1990年3月10日に公開されたアニメ映画。大長編シリーズ第10作、映画シリーズ第11作。
映画監督は芝山努。配給収入19億円、観客動員数380万人。同時上映は『チンプイ エリさま活動大写真』。この年から1997年までは春の東映アニメフェアと同日に、『ドラゴンボール』の映画も公開されることとなった。2008年夏に鴻上尚史演出で舞台化された。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
概要
- 平穏に暮らす動物たちの世界を侵略しに来る「ニムゲ」は人間そのものであり、自然環境を破壊し野生動物の生態を脅かす人間社会を痛烈に批判している。アニマル星を侵略しようとするニムゲの一団は「秘密結社コックローチ団(Cockroach =ゴキブリを意味する英単語)」と呼ばれており、強い否定的イメージが暗に植えつけられている。
- 逆に舞台となるアニマル惑星は自然破壊の反面教師として徹底的な環境保護が実現されており、エコロジーの面では理想的な世界として描かれている。
- 映画シリーズの中では、シリアスなテーマ性、およびメッセージ性(特に環境問題など人類文明への警鐘)を抱えた作品であり、冒頭、裏山のゴルフ場建設計画に反対する町内会の一員、のび太のママが環境問題についてのび太とドラえもんに説教する場面などが随所に挿入されている。ゴルフ場建設に関しては、当時のバブル景気の世相を反映している。
- このように、1990年当時としては異例とも言えるほど環境問題へのメッセージ性が強い作品であり、作者自身も、フィルムコミックスのあとがきで「(環境問題の扱いが)少し露骨だったかもしれない」と述べている。
- 各種の動物が擬人化した世界観を生かし、「迷子の仔猫を助ける犬のおまわりさん」や「黒ヤギさんからの手紙を読まずに食べてしまった白ヤギさん」といった有名な童謡になぞらえた場面が登場する。
あらすじ
ある夜、のび太はピンクのもやをくぐって見知らぬ森に迷い込む。そこでは動物たちが人間の言葉で話していた。翌日、のび太はその体験を皆に話すが「幼稚園児並みの夢だ」と馬鹿にされるだけ。しかし、動物たちが持っていたホタルを入れていた花(ホタルブクロに似ている)が部屋の前に落ちていたのを知り、昨夜のことは本当にあったのではないかとのび太はと考える。そんな中、ママの話からのび太たちの学校の裏山がゴルフ場建設のために切り崩されてしまうという計画があることを知る。
その夜、寝ぼけたのび太は、再びあのもやの中に入り込んだことに気付き、あの世界は夢ではなかったと確信。後を追ってきたドラえもんと共にもやの向こう側を探検する中で、2人はチッポという犬の少年に出会い、友達になる。
翌日、裏山を開発しようとする業者らが下見に訪れた。ドラえもんがひみつ道具で追い払ったものの、これくらいであきらめるとは思えず、安心はできない。悩んでいた時、2人はあのピンクのもやを見つけた。しずかも誘い、再びアニマル星へ遊びに行くことに。だが、こっそりついてきたジャイアンとスネ夫は、もやの中をさ迷ううち、荒れ果てた世界に着いてしまう。ジャイアンはその中で「恐ろしい何か」を感じると言うが……。
舞台
- アニマル星
- いろいろな種類の動物たちが平和に暮らす星。先祖達を生み出した人間の科学者の発明によって、太陽光や風力などのクリーンエネルギーによる発電技術や、光、水、空気から合成食物を製造する技術、高度な汚水処理装置など、自然環境に徹底的配慮した地球よりもはるかに発展した科学文明が栄えている。
- 環境技術に関してはドラえもんに「22世紀の地球以上」と言われる程だが、その反面、平和主義で戦争もした事が無い為に、軍隊や兵器の技術は一切存在せず、宇宙船も持っていない為、宇宙進出も果たしていない。また国も存在しない。
- 科学者が先祖を進化させてこの星へ移住させた事実は神話として語り継がれている。住民の信仰心は強く、皆この神話を真実と信じて生きており、この星が平和主義で環境保護が徹底されているのはその影響が大きい。正月には全市民が必ず参加する行事(神事)が執り行われている。
- 地獄星
- アニマル星との二連星で、アニマル星のすぐそばにある星。動物たちはこの星を「月」と呼んでいる。
- かつて地球人型宇宙人「ニムゲ」による文明世界が栄えていたが、環境問題、核戦争、自然災害などですっかり荒廃しきってしまい、星の地下にてわずかに生き残った者達は、石器時代の生活水準まで戻っている。宇宙船を始めとする機械の部品すらも自分達で造る事が出来なくなってしまった為に、古代のスクラップ置き場のガラクタから、リサイクルという形で日用品や武器、宇宙船を製作している。過去の過ちを省み、1000年の時を経て現在では文明再建の目処が立っているが、「宇宙は人間の為に存在する」と考える一部の過激派達が秘密犯罪結社「コックローチ団」を組織した。
- 水や空気が汚染されているため、ここで暮らす者は常に防護服をまとっているが、防護服はショックガンによる攻撃を無力化する等、電気耐性に優れている。
- 「コックローチ団」の他に、政府機関直轄と思われる治安維持組織の「連邦警察」も存在する。
用語
- ニムゲ
- 地球人型宇宙人。地獄星に住む。アニマル星を侵略しようとするニムゲの一団は、他のニムゲから「ニムゲ同盟」(映画では「秘密結社コックローチ団」)と呼ばれている。なお原作では、「ニムゲ」はアニマル星を侵略しようとする地球人型宇宙人のみを指している(ちなみにニムゲの防護服のデザインと色も、原作と映画版では相違がある)。
ゲストキャラクター
- チッポ(声:田中真弓)
- 好奇心あふれる犬の少年。アニマル星に伝わる神話に興味を持ち、真偽を探るために無鉄砲な行動を起こしては、たびたび父親に叱られる。苗字はワンゲルだが、コロコロコミック連載時には「犬山」となっていた(コミックス版で修正)。
- チッポのパパ(声:キートン山田)
- 町内唯一の警察官。無茶なことばかりする息子に気苦労が絶えない。二ムゲの襲撃の際、左手を負傷する。
- チッポのママ(声:佐々木るん)
- チッポの母。専業主婦。
- ロミ(声:西原久美子)
- チッポの従姉妹。コックローチ団に連れ去られ、人質に捕られるが、のび太に救出される。
- ウータン(声:川久保潔)
- 町長であるオランウータン。敬虔なアニマル星の神の教徒で、ニムゲとの決戦前夜に神への祈りを続けた。
- ゴリ郎の父(声:広瀬正志)
- 船長。近眼の為か、ジャイアンのことを何度も自分の息子と間違えていた。原作では太っていたが、映画ではガッシリとした体格になっている。
- ゴリ郎(声:峰あつ子)
- 上記のゴリラの息子。ジャイアンによく似た顔をしている。
- ペリカン(声:茶風林)
- 郵便配達員。
- 白ヤギ(声:依田英助)
- アニマル惑星の住人。黒ヤギから来た手紙を読まずに食べ、「さっきの手紙の用事は何か」と手紙で聞くはめになった(童謡「山羊さんゆうびん」を元にしたもの)。
- スパイ(声:平野正人)
- 連邦警察の職員。コックローチ団の団員に変装し、潜入捜査をしていた。
- 住民(声:松原雅子、坂東尚樹)
- 学校の裏山近くに住む住民。のび太のママと共に、裏山へのゴルフ場開発に異議を示していた。
- 不動産屋(声優:渡部猛)
- 社長(声:加藤治)
- 裏山をゴルフ場にしようと考える社長。毛虫が苦手。
- ブタの少年(声:松岡洋子)
- チッポの学友。チッポの探検隊のメンバーだったが、禁断の森でチッポの父に見つかったことで怖気づいてしまい、探検隊を抜ける。
- 医者(声:田中亮一)
- カラス(声:龍田直樹)
- ウマ(声:菅原正志)
- 警察隊長(声:加藤正之)
- ニムゲ団員(声:西尾徳)
- ニムゲ総長(声:森功至)
- ニムゲの一団、秘密結社「コックローチ団」の指導者。各組長を配下に置く。原作で顔は明かされないが、映画に登場した素顔は若い美青年。
- ニムゲ組長(声:小杉十郎太)
- コックローチ団の一グループを率いる組長。平の団員と違いマントをしている。
登場する秘密道具
- どこでもガス
- タケコプター
- ノビールハンド
- 台風の目玉(映画では「台風のおめめ」)
- 目印
- ジェットモグラ
- ドラ鈴小型カメラ(原作のみ)
- 植物操り機
- 動物ごっこ帽子
- みの虫式寝袋
- 圧縮非常食30食ぶん詰め合わせ(映画では「カツ丼入り圧縮非常食」)
- 泥水でも飲める浄水器(映画では「どろ水浄水器」)
- 糸なし糸電話型トランシーバー(映画では「糸なし糸電話」)
- 警報用打ち上げ花火
- ミニカラオケセット歌詞カード付き(映画のみ)
- タイム虫めがね
- タイムマシン(原作のみ)
- 宇宙救命ボート
- キャンピングカプセル
- ツキの月
- ドラ時計(映画のみ)
- フエルミラー(原作のみ)
- 空気砲
- ショックガン
- 雨雲製造機(映画のみ)
スタッフ
- 製作総指揮・原作・脚本:藤子・F・不二雄
- 作画監督:富永貞義
- 作画監督補佐:渡辺歩
- 美術設定:川本征平
- 美術監督:高野正道
- 録音監督:浦上靖夫
- 整音:大城久典、内山敬章
- 音楽:菊池俊輔
- 効果:柏原満
- 撮影監督:斎藤秋男
- 特殊撮影:渡辺由利夫
- 監修:楠部大吉郎
- プロデューサー:別紙壮一、山田俊秀、小泉美明、加藤守啓
- 監督:芝山努
- 原画:神村幸子、木上益治、西村博之、柳田義明、湯浅政明 他
- 制作協力:藤子プロ、ASATSU
- 制作:シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
主題歌
- オープニングテーマ『ドラえもんのうた』
- 作詞:楠部工、作曲:菊池俊輔、唄:山野さと子(コロムビアレコード)
- エンディングテーマ『天までとどけ』
- 作詞:武田鉄矢、作曲:堀内孝雄、編曲:原田末秋、唄:武田鉄矢(ポリドールレコード)
原作と映画の相違点
- 原作にあった出木杉の登場場面が、映画ではすべてカットされている。1人の人物の登場場面が丸々カットされた珍しい例である。
- 原作ではネコ集め鈴が小型カメラに交換されている。
- 探検セットにミニカラオケセットが加わっている。
- 原作ではタイムマシンで出発する前に戻っている。
- 原作ではドラえもん達と合流した後チッポのパパの左腕が治っているが、映画では怪我をしたままになっている。
- 原作では圧縮非常食のカツ丼は缶詰になっているが。映画では丼になっている。
- チッポが森にオバケがいる話をした時、原作ではムードを盛り上げる為のウソの話だが、映画では子供が入らないように大人たちが考えたウソの話になっている。
- 宇宙救命ボートでアニマル星に行く時、原作では空き地にしずかとジャイアン、スネ夫がいたが、映画ではジャイアンが出発直後に遅れて登場する(チッポに危機があった事を知り、荷物をまとめていた為)。また映画ではのび太がジャイアンに幽霊の事で謝ろうとするシーンがある。
- 宇宙救命ボートでニムゲを追いかけるとき、原作ではニムゲに攻撃され川に墜落するが、映画では行き先が設定されているので追いかけられないことになっている。
- 星の船のことを切りだすのがチッポでなくしずか。
- 星の船を見つけのび太が地獄星に向かうことになったとき、原作ではのび太自らが飛び乗った際動き出したが、映画ではジャイアンに背中を強く叩かれた拍子に落っこち乗り込むことになっている。
- ツキの月の効き目の残り時間が原作に比べて長い(例:会議終了時原作では後30分が映画では後1時間)。また残り時間を正確に測るため時計を出している。
- のび太がアジトを探している最中にニムゲの一人(のび太が変装に使っていた服の持ち主)に捕まってしまった時、原作では二ムゲの一人に声をかけてしまったのが原因で捕まってしまうが、映画ではアジトらしき建物をのぞこうとした際、後ろから銃で突かれている。
- 原作ではのび太がニムゲのマスクを脱がせて正体が明らかになるが、映画では転んだ際にマスクがまくれあがって正体が明らかになる。
- ニムゲがのび太に説明するシーンが簡略化されている。
- ニムゲの隊長がスパイかどうかを確認する順番が、原作では向かって右から左だが、映画では左から右になっている。
- ネコとタヌキを間違えられるのにあきらめたドラえもんがどっちでもいいと言っている。
- 原作ではロミの姿を見て叫んだのび太にニムゲが銃を向けるが、映画ではあっけにとられる。
- 原作ではのび太はスパイの男が去った後に素顔を見せるが、映画では去る前に見せている。そのため原作ではのび太のことに気づいて声をかけていたと言う矛盾点が解消されている。
- 原作では星の船は森の中に着陸するが映画では川に不時着する。また原作ではのび太が宇宙船から落ちるが、映画ではそのシーンがない。
- 原作では無数に円盤があるが映画では7機しかない。また原作では円盤は全て同じ形だが映画では一つひとつ違う形になっている。
- 原作ではフエルミラーで武器を増やすと言っているが、映画では言っていない。(ただし映画版では、「ショックガンと空気砲の大量生産に掛かろう」というセリフが存在する)
- ニムゲがアニマル星を襲撃しに来たことを知らせたのが、原作ではチンパンジーであったが、映画では鷹になっている。
- 原作ではショックガンを使うのは鳥たちだが、映画ではドラえもん達になっている。また原作ではショックガンが効かないことが計算済みに対し、映画では予想外の事態となっている。
- 原作ではニムゲが戦車で火を点けたが映画では戦車を使わず、宇宙船で火を点けている。
- 原作ではニムゲが森に放った火を連邦警察が消火したが、映画ではドラえもんの雨雲製造機で消火している。
- 原作では敵勢力は「ニムゲ同盟」だが、映画では秘密結社コックローチ団になっている。
- 映画では連邦警察のマスクのデザインが異なる。またコックローチ団総長の素顔が明らかになる。
- 原作ではドラえもんたち5人が地球から来た異星人であることはアニマル星の皆が知っており、戦いのあとに5人に感謝して国民の祝日に定め、その盛大な祝賀会も行われ、別れもそこで行われ完全に英雄扱いだった。しかし、映画では5人の正体はチッポしか知っておらず、また別れもつらくなるからとこっそり行っており(気づいたチッポだけが自転車で見送りに来た)、5人はあくまで一市民として行動している。
- 映画では、原作であっさりと流された終盤での展開が大幅が追加され、かなり深く踏み込んでいる(ちなみにゴルフ場計画は中止となっている)。
舞台版
2008年7月-9月公演。
キャスト
ほか
受賞歴
- 第8回ゴールデングロス賞優秀銀賞
関連項目
外部リンク
- 漫 - 原作漫画、大長編漫画等の執筆者の頭の1文字または略記号。藤=藤子不二雄。F=藤子・F・不二雄。1987年の独立前のみ「藤」と記載した(ただし『ドラえもん』は連載開始時から藤本単独作)。FP=藤子プロ。それ以外は作画者を記載。括弧付きは藤本以外が執筆した外伝、短編など。詳細は大長編ドラえもん#作品一覧(併映作品は各作品のページ)を参照。