インテリジェント・デザイン
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インテリジェント・デザイン(「知的設計」論、intelligent design)とは、知性ある設計者によって生命や宇宙の精妙なシステムが設計されたとする説。しばしば、ID(アイディー)と略される。
聖書信仰を基盤にする宗教的な論説の創造科学から宗教的な表現をなくして一般社会や学校教育など、広く受け入れられるように意図したもので、近年のアメリカ合衆国で始まった。宗教色を抑えるために、宇宙や生命を設計し創造した存在を「神」ではなく「偉大なる知性」と記述することが特徴である。これにより、非キリスト教徒に対するアピールを可能とする。また宗教色を薄めることで、政教分離原則を回避しやすくなる(公教育への浸透など)。
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[編集] 概要
旧約聖書によれば「全ての人間の祖先であるアダムは神によって作られ、その妻イヴはアダムのろっ骨から生まれた」とされ、ユダヤ教徒やキリスト教徒の間では長い間これが信じられてきた。しかし、ダーウィンの進化論が認知され、「原始的な動物が次第に進化して人間になった」と考えられるようになると、聖書の記述をどのように解釈するかについて議論が起こった。インテリジェント・デザインでは、「原始的な動物が人間に進化した」という、進化論を一部認めつつも、「その過程は(神のごとき)偉大な知性の操作によるものである」として、宗教色を薄めつつも、「偉大な知性」を神と解釈できる余地を残している。また、インテリジェント・デザインを公教育にも取り入れようとする動きがあり、議論になっている。
一方で、ID論は科学とは別の「道徳的な問題」を扱う際のツール(道具もしくは根拠)であり、実際の自然科学と共存する思想であるとする論者もある。これは、「仏教における輪廻転生や地獄といった考え方は科学では肯定されてはいないが、(熱心な仏教徒でなくとも)人々が倫理や道徳を考える際に有用なツールであることが経験的に知られているように、ID論も自然科学を否定するものではなく、あくまで「方便」に過ぎないのだ」という主張である。こういった擬似的な宗教を思想の枠組みとして設定する手法は、ニューサイエンスの流行時にしばしば用いられた(例:ガイア理論)。
[編集] 創造科学
詳細は「創造科学」を参照
宇宙や地球の出来た年代、生物の発生順や発生時期、各々の生物種の発生の仕方などについて、宇宙論・地球科学・古生物学・進化論など現在の科学的定説とされる進化論と対峙して、創世記の記述を科学的に論述し証明しようとする言説を「創造科学」と呼び、それに関与する学者・科学者を「クリエーショニスト」と呼ぶ。
[編集] 各界の反応
[編集] 科学者
アメリカ合衆国カンザス州での、進化論と同時にID論を学校で教育すべきである、というID推進派の主張に対しては、「これは科学の議論ではない」「科学と宗教は全く違うもので、議論自体がナンセンスだ」との意見があった[1]。
一般向け科学解説書の多数の著作がある生物学者リチャード・ドーキンスは、一神教的宗教を批判する著作[2]を発表し、その中でインテリジェント・デザインについても詳細な反論を行っている。
[編集] カトリック教会
一般に勘違いされがちだが、カトリック教会を始めとする宗教界ではID論はあまり受け入れられていない。そもそも進化論は必ずしも創造論を否定するものではなく、進化論が生物の起源にまで及ばない以上、そこに神の存在を見出すことが可能である。公的な見解でも、カトリック教会が進化論を否定したことはなく、むしろヨハネ・パウロ2世が進化論を概ね認める発言を残しているくらいである。つまりID論は、たとえ「偉大なる知性」を「神」に置き換える余地があっても、彼らにとって進化論よりも神の存在を脅かす説なのである。
[編集] 創造論否定者
生物学の分野でも、創造科学者は極めて精妙な生物の細胞や器官のしくみを例に挙げて、「複雑な細胞からなる生体組織が進化、自然淘汰などによってひとりでにできあがったとは考えられない。従って創造に際しては「高度な知性」によるデザインが必要であった」と主張するようになってきた。この主張(=インテリジェント・デザイン)は、伝統的な神の存在証明のひとつである「デザイン論証」に倣っている。しかし、創造論に反対する立場からは、
- 主張を支持する具体的な根拠が提示されていない
- 複雑な細胞を無から創造する事の出来る存在はどのように生じたのか
という新たな疑問が発生するため、「人智を超えた高度な知性”の存在が証明出来ない限り、単に問題を先送りにしたに過ぎない」、「単に神をそのままでは教えられないために「高度な知性」という別の言葉に置き換えて宗教色を覆い隠したに過ぎない」、とする批判がなされている。
また、現実には生物学上「複雑な器官等が突如、出現した」という証拠は全くない。原始的な器官から複雑な器官への橋渡しを示すような中間形態を持つ生物も存在しており、結局、進化の中で徐々に複雑化してきたと考える事に矛盾は見つからない。議論の前提から誤解・曲解が含まれていることに注意しなくてはならない。
[編集] 創造論肯定者
IDは進化論を否定するものにとっては代替のものになり得るが、反社会的カルト宗教や政治的イデオロギーに利用され、改変されることが懸念される(ラエリアン・ムーブメントなど)。
[編集] 風刺・パロディー
ジョージ・W・ブッシュをはじめとして、インテリジェント・デザインの信者は、「高度な知性」が「キリスト教の神である」事をあえて明言せずに、「平等の為進化論のみならずインテリジェント・デザインも学校の理科の時間に教えるべきだ」と主張する。
創造科学者を批判するために作られたパロディカルト宗教「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教団」はこの点を皮肉って、「平等のため『スパゲッティ・モンスター』が人類を作ったという説も学校の理科の時間で教えるべき」であり、「ブッシュ大統領を始めとしたインテリジェント・デザイン信者達は我等がスパゲッティ・モンスター教を学校教育に採り入れるために戦ってくれているのだ」と主張している。
[編集] 社会への影響
[編集] アメリカの社会問題
創造論は宗教的なものであるとして強力に排除されてきたアメリカでは、教育の現場で聖書信仰を教えなくなった事が、今日のアメリカ社会の病巣の根源だとする考え方がある。一般社会に受け入れられるために宗教的な表現を排してでも、全てのものは偶然の産物ではなく意図を持って創造された、という考え方を広めるべきだとする人々に受け入れられているようである。しかし、人間の心の根源的な問題に関わる問題を宗教心なしで語る事は困難であり、創造論が広く受け入れられる事を良しとしながらも、聖書を基にしたものから聖書的表現を無くしたものは不自然であるとする意見もある。
- 論争を教えろ Teach the Controversy
- 2000年頃から、活発に活動するディスカバリー・インスティチュート(w:Discovery Institute)をはじめとするID論の主張団体が取り始めたキャンペーン。ID論自体を教えるのではなく、「進化論には不備があり、それに代わる理論があるのだという論争があることを教えよう」という内容。2005年のドーバー学区進化論裁判で、インテリジェントデザインは学校で教えるべき科学的妥当性がないという判決が下って以来、論争を教えろキャンペーンが活性化した。この場合、必ずしも進化論の代替理論にID論が紹介されるわけではない。ディスカバリー・インスティチュートのジョージ・ギルダーは「ID論には教えるべき中身がない」と明らかにしている[3]。このキャンペーンに対しては、圧倒的少数のID論の主張が果たして論争と呼ばれるに値するかという問題点や、そこにあるのは科学的議論ではないという問題点が指摘されている[4][5]。
[編集] 日本への影響
創造デザイン学会[6]という、創造科学やインテリジェント・デザインを扱う団体が存在する。もっともこれは、当人達が学会を自称しているだけで、日本国が学会として公的に認知したもの(日本学術会議が認定した団体)ではない。
この「学会」は、統一教会の関連団体とされる組織である[7]、世界平和教授アカデミー[8]が主催している。
「学会」の代表[9]を務める渡辺久義(英文学者、摂南大学国際言語文化学部教授、京都大学名誉教授)[10]は、統一教会系の日刊紙世界日報や同じく統一協会の下部組織である勝共連合の月刊誌世界思想等でIDを肯定する発言を繰り返しており[11][12]、前者では「誰がどう考えても、生命とか進化とか心(意識)の問題を物理力だけで説明できるとは思えない」と述べている。
産経新聞は特集記事を組んで、創造科学を肯定する側の意見を載せた[13]。この特集は前述した渡辺久義に対するインタビュー記事で、「この理論は多くの科学者が支持しており、IDを推進してるのはキリスト教右派、宗教勢力だと言う主張はIDを快く思わない人間の妄言である。IDを教えず、仮説に過ぎない進化論を公認の学説として扱うのは思考訓練の機会を奪ってしまう。」「人の祖先は猿だと教えれば、子ども達に人間としての尊厳が育てられない」と言う趣旨の物であり、締め括りは「進化論はマルクス主義と同じく唯物論的である為、人間の尊厳を無視しており歴史、道徳の教育にとって良くない。日本では進化論偏向教育によって日本神話等が弾圧された。」として日本も学校でIDを教えるべきだと説いている。また、『NHKが考える「性のありよう」』と題し“人間は男か女に生まれる。性別は選べない。被造物の分際で性の「境界線」をなくすなど、不遜な冒涜であろう”と述べた潮匡人の発言を、コラム『断』2009年1月17日付けに載せている。
[編集] 脚注
- ^ 高柳泉 (2005-06-07). "TBS番組でインテリジェント・デザイン紹介". クリスチャントゥデイ. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ リチャード・ドーキンス『神は妄想である 宗教との決別』垂水雄二訳 早川書房 (2007年) ISBN978-4152088260 (原著:Richard Dawkins "The God Delusion" (2006) )
- ^ Joseph P. Kahn (2005-07-25). "The evolution of George Gilder" (英語). The Boston Globe. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ Jason Rosenhouse. "Should We “Teach the Controversy”?" (英語). Creation Watch. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 伊勢田哲治. "ID論と「くさび運動」PDF". 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 創造デザイン学会
- ^ 全国霊感商法対策弁護士連絡会. "統一協会(統一教会)関連団体リスト". 霊感商法の実体. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 世界平和教授アカデミー公式サイト
- ^ 渡辺久義. "創造デザイン学会代表あいさつ". 創造デザイン学会. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 世界日報社. "書籍のご案内『善く生きる』". 世界日報. 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 世日クラブ. "科学者等から現れた科学革命運動". 2007年10月19日 閲覧。(Internet archive)
- ^ 渡辺久義. "自然主義科学と理性の危機―反デザイン論者の道徳意識―". 世界思想 No. 353(2005年3月号). 2007年10月19日 閲覧。
- ^ 「反進化論」米で台頭 渡辺久義・京大名誉教授に聞く(2005年9月26日、産経webで連載された特集『教育を考える』)
[編集] 関連項目
- 創造論
- 創造科学
- 空飛ぶスパゲッティ・モンスター教 - インテリジェント・デザインを皮肉ったパロディ
- 進化論裁判
- 2001年宇宙の旅
[編集] 外部リンク

