アントロポゾフィー協会

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アントロポゾフィー協会とは、アントロポゾフィーの創始者であるルドルフ・シュタイナーによって1923年に創立された国際的な会員組織である。正式名称を普遍アントロポゾフィー協会: Allgemeine Anthroposophische Gesellschaft)といい、スイスバーゼル近郊の都市であるドルナッハに協会本部ゲーテアヌムを置く。

概要[編集]

初代理事長に就任したルドルフ・シュタイナーによって提案され、1923年の創立時に採択された十五条から成る協会定款の第一条は、アントロポゾフィー協会の本質をもっとも端的に表現している:

アントロポゾフィー協会は、個人と人間社会の中で内的な生活を精神世界の真の認識に基づいて育成する意志を持った人間の“集まり”であるべきである[1]

この表現からも明らかなように、協会の会員は必ずしもアントロポゾフィーという特定の思想の「信奉者」である必要はなく、「内面生活(: das seelische Leben)を認識に基づいて育成していこうという意志」が重視される。会員に成るために求められる「条件」については後述する。

アントロポゾフィー協会の会員は世界78ヶ国[2]に約五万人おり、各会員は地理的条件や学問的・芸術的興味を背景に協会内で支部: Zweig)、或いは団体: Gruppe)を構成[3]している。特に会員数の多い国では邦域協会[4]: Landesgesellschaft)という自立したドメスティックな組織を結成する(この場合、その国の支部や団体は邦域協会に包括される)。そして例外的に、これらの邦域協会並びに支部・団体に属さない会員、即ちアントロポゾフィー協会に直接的に属している「個人会員」がいる。それ故にアントロポゾフィー協会は「邦域協会、支部・団体並びに個人会員によって成る」という表現を用いる。

また、協会の特性として宗教組織ではなく研究振興組織であるということ(協会定款第九条)、政治参加を協会の課題(目的)としていないことや、いわゆる「秘密結社」ではないこと(何れも同第四条)などが挙げられる[5]

名称について[編集]

冒頭に述べたように、アントロポゾフィー協会の正式名称は「普遍アントロポゾフィー協会」であり、厳密に言うならば「アントロポゾフィー協会」と「普遍アントロポゾフィー協会」は同義ではない。

いわゆる「最初の」アントロポゾフィー協会は、当時の神智学協会から独立する形でドイツケルンで1912年に設立された[6]。協会組織の代表者はミヒャエル・バウアー、マリー・フォン・ジーフェルス、カール・ウンガーの三名[7]であり、アントロポゾフィーの創始者であるルドルフ・シュタイナーは協会運営には携わらず、自身は同協会の会員に成ることすらなかった[8]。シュタイナーは飽くまでも「精神的な指導者」として、協会の外から協会活動に関与したのである。

会員数の急激な増加と、それに伴う組織内の人間関係(方向性)の複雑化、またアントロポゾフィーに基づく学校や病院などの関連組織の創立に伴う問題、更には協会外で強まるアントロポゾフィーに対する反対運動により、協会組織は根本的な刷新を迫られる。中でも決定的だったのは、シュタイナー自身の手によって設計され、アントロポゾフィー運動の中心であった木造のゲーテアヌムが放火によって1922年の大晦日に焼失したことである[9]

シュタイナーは1923年にヨーロッパ各国に自立した邦域協会を設立し、同年クリスマス期にそれらを包括する形での「普遍アントロポゾフィー協会」を、約800名の会員と共に設立した(クリスマス会議[10]。この協会の設立に際してシュタイナーはアルベルト・シュテッフェン、マリー・シュタイナー、イタ・ヴェーヒマン、エリザベート・フレーデ、ギュンター・ヴァックスムートらと共に協会理事会を組織し、自身は創立理事長に就任する[11](このとき中央経営陣である協会理事会はドルナッハのゲーテアヌムに移されたので、以降同協会本部は「ゲーテアヌム」と呼ばれるようになる)。そして、この協会こそが「現存するアントロポゾフィー協会」なのである。

創立に際して普遍アントロポゾフィー協会は、同年各国に組織された自立した邦域協会を前提としていることから、機能的には「国際アントロポゾフィー協会」と呼ぶことができる。しかしシュタイナーは、創立集会に於いて新しく設立されるべき協会を「普遍アントロポゾフィー協会Allgemeine Anthroposophische Gesellschaft」と呼ぶことを提案した[12]。そして、この「普遍的な」という意味のallgemeinというドイツ語の形容詞は「一般的な」という意味でもあるで、日本では「一般アントロポゾフィー協会」と訳されることもある。それゆえ、ここでは訳語の違いによる混乱を避ける為に「アントロポゾフィー協会」という名称を記事の見出しとして採用した。

厳密に言うならば、ルドルフ・シュタイナーが直接的に協会運営に関わっているという点や、協会組織の構成から1912年にケルンで設立された「アントロポゾフィー協会」と1923年にドルナッハで設立された「普遍アントロポゾフィー協会」は区別する必要がある。しかし前者は後者の前身であるから、両者を包括して「アントロポゾフィー協会」と呼ぶこともまた可能なのである。

付記[編集]

「最初の」アントロポゾフィー協会が設立されるよりも更に十年前の1902年には、ベルリンで「神智学協会ドイツ支部」が設立されている。これはドイツ神智学協会に由来する組織で、創立には後にアディアール神智学協会の会長に就任するアニー・ベサントが、ヘンリー・スティール・オルコットの署名した参事証書を持参して同席している。そしてインドのアディアールに置かれている協会本部に直属の組織であるこの神智学協会ドイツ支部に、ヴィルヘルム・ヒュッベ・シュライデンの推薦で初代事務総長に就任したのが、アントロポゾフィーの創始者であるルドルフ・シュタイナーなのである(同時に、後の妻になるマリー・フォン・ジーフェルスが秘書に就任)[13]

神智学協会ドイツ支部の中で展開していた思想は神智学(テオゾフィー)ではなく、アントロポゾフィーであったとルドルフ・シュタイナー自身が告白していることや、神智学協会ドイツ支部の会員の大部分が1912年のアントロポゾフィー協会創立に際して移籍していることなどを考慮すれば、神智学協会ドイツ支部もまた、「広義のアントロポゾフィー協会」に含まれると考えることが出来る。実際シュタイナー学派の学者は、同協会を「アントロポゾフィー協会の誕生前史」と見做している。確かに神智学協会ドイツ支部(1902年)・アントロポゾフィー協会(1912年)・普遍アントロポゾフィー協会(1923年)という三つの協会は、ルドルフ・シュタイナーという人物とアントロポゾフィーという思想に密接に関係しているという点に於いて、本質的に同じ性質を持っている。

現代に於いて「アントロポゾフィー協会」という表現が用いられる場合、それは通常ゲーテアヌムに本部を置く「現存する」アントロポゾフィー協会を指す。但し上に挙げた背景により、その表現には広義には1902年創立の「神智学協会ドイツ支部」と、1912年創立の「アントロポゾフィー協会」が含まれる。

精神科学自由大学[編集]

普遍アントロポゾフィー協会は、精神科学自由大学(: Freie Hochschule für Geisteswissenschaft)を協会活動の中核と見做している(協会定款第五条[14])。協会の目的が「精神的な領域の研究の振興」であるのに対して、大学の目的は同領域の「研究そのもの」である(同第九条[15])。ルドルフ・シュタイナーはアントロポゾフィーを「精神科学」と呼んでいる点からも、普遍アントロポゾフィー協会は「精神科学自由大学の為に存在する」ということも出来る。何故ならば、学問の振興(協会)には研究組織(大学)が不可欠だからである。大学という学問的「源泉」によって、協会の活動には意味が生じるのである。

同大学は三階級構成になる予定であった[16]が、設立はシュタイナーの死によって中断された。シュタイナーの生前に第一階級は既に構築されていたが、大学の構成はシュタイナーに一任されていることから(同第七条[17])、現在もなお第二階級と第三階級は存在しない。

大学は、以上のような階級(: Klasse)という上下構造と、部門(: Sektion)というタテ割の構造[18]を持っている。部門構成の大部分もまた、創立時のシュタイナーの構想に由来するが、現在までに若干の組織再編がある。現存する部門は、以下の11部門である[19]

  • 一般アントロポゾフィー部門
  • 数学・天文学部門
  • 医学部門
  • 自然科学部門
  • 農業部門
  • 教育部門
  • 造形芸術(美術)部門
  • 朗唱・音楽部門
  • 美学部門
  • 社会学部門
  • 青年部門

会員の条件[編集]

協会の会員になるために、アントロポゾフィーという思想の「信奉者」である必用はないということは既に述べたが、会員になるための唯一の「条件」と呼べるものが、この精神科学自由大学と関係している。

協会定款第四条[20]によると、アントロポゾフィー協会の入会には国籍・地位・宗教や、或るいは学問的・芸術的見解といった事柄は一切問われず、精神科学自由大学を「或る種正当なもの」と見做す者ならば誰でも会員になることが出来るとある。詰まり、ここで問題になっているのはアントロポゾフィーという理念ではなく、ゲーテアヌムという現実の組織への肯定である。そもそも、協会組織の中枢に疑問を持つ者は、その協会への入会を希望しないはずであり、この第四条に書かれた「条件」は事実上の「無条件」であると言ってよい。実際、協会の入会に際して「大学の正当性を認めるか」という問い立てが為される訳ではない。協会公式ホームページでは「求められるのは信仰告白(: Bekenntnis)ではなく興味」である[21]と書かれている。

しかし協会への入会に比べて、大学への入学は「無条件」ではない。協会に二年以上在籍した者は、アントロポゾフィーの基礎知識を習得していることを前提に大学入学申請を行うことが出来る[22]。申請者は大学の責任者に面接を持ち、合格すれば入学が認められる。こうした一連の手続きは、通常の大学の入学手続きと本質的に異ならない(但し、入学申請は随時行うことが出来る)。

日本の協会組織[編集]

現在日本に存在する普遍アントロポゾフィー協会の組織は以下の三つ[23]である。日本には邦域協会が存在しないため、以下の三組織は全て「ゲーテアヌム直属の支部」という位置づけになる。

出典:ゲーテアヌム公式サイトの「世界の協会組織一覧」より

出典・脚注[編集]

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