解雇

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解雇(かいこ)とは、使用者が、雇用契約を解約することである。使用者の一方的な意思表示であり、雇用契約の解約に当たり労働者の合意がないものをいう。

契約社員アルバイトパートタイマーなどの非正規雇用の場合も含む。雇用契約期間中の中途解約のみならず、雇用契約が成立していれば、その際に行う期間開始前の解除も解雇である。

派遣先企業による派遣契約(派遣会社から派遣社員を派遣する契約)の解約は、雇用契約では無いため、解雇とは呼ばない。期間の定めのある雇用契約の期間満了は、解除を行うものではないため、解雇ではない。使用者からの退職勧奨に労働者が応じたことに伴う離職は、使用者の一方的な意思表示によるものではないため、解雇ではない。また、芸能人や外交員によく見られる、委任契約や業務委託契約に基づく完全歩合給による専属契約の解消も、契約自体が雇用契約に該当しないため、解雇ではない。

日本

解雇は、使用者の一方的意思表示で行うものであるが、労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とされる。」と規定されており、安易に行えるものではない。

雇用保険の給付に当たり、解雇により離職した労働者は、一般に、自己都合退職等による場合に比べ有利な給付が受けられる(重責解雇(労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇)の場合を除く。)。 ただし労働者が、使用者に解雇してほしいと依頼した結果、解雇となった場合は依頼退職に準じて取り扱われる。

「解雇」の語は民間の事業所または事業者の被雇用者が失職させられることに用い、公務員が職を解かれることは解雇ではなく、「免職」という。

解雇を頭部頚部を切断されて処刑されることに喩えて、「馘首(かくしゅ)する/される」と言い、俗にはより平易に「首を切る/切られる」「首にする/なる」「首が飛ぶ」と言い、「クビ」または「くび」とかな書きにされることも多い。1990年代から2000年代までは人員整理のための解雇を婉曲的に「リストラ」と呼ぶことが多い(1980年代には同様のケースを「合理化」と呼んでいた)。また、マスコミ等では雇用契約に該当しない労務的契約の解約(芸能事務所やプロスポーツチームからの契約解除等)も慣例として「解雇」と呼ぶことが多いが、厳密に言えばこれは誤用である。ここでは本来の意味の雇用契約について述べる。

労働基準法の経緯

雇用の解除については、労働基準法の制定以前より民法626条及び627条で規定されていたが、労働者が解雇されるに当たっては、民法による保護では十分ではないため、1947年(昭和22年)、労働基準法により、解雇する場合の最低基準が制定された。

「解雇の自由」から「解雇の制限」へ

労働基準法には、解雇手続きの要件(30日以上前に予告する、または同日数分以上の平均賃金を払う)が「労働者の責に帰すべき事由」があれば免除されるとある[1]ため、これを解釈すると「30日分の賃金を払えば、特に理由が無くても解雇できる」となる。これは当初は解雇について一般的な見解であった。これに従って、「解雇の自由」を支持する判例[2]が出されている。 しかし、1950年代に下級裁判所において判例を積み重ねた法体系ができあがっていく中で、裁判所は労働者に対し様々な法的保護を与えていき、この結果、「解雇の自由」は「解雇の制限」へと変わっていった[3]

「正当事由説」と「権利濫用説」

労働基準法20条[1]の解釈を巡って、裁判官の間にあった2つの説[3]

正当事由説
労働基準法20条の明文の要件とは別に、「解雇には正当な事由がなければならない」とする不文の要件があるとして、正当な事由のない解雇は無効とする説。
権利濫用説
企業の解雇権は労働基準法20条によって認められているが、権利を濫用した場合には解雇を無効とするという説。濫用については、第二次世界大戦前にはすでに法体系として確立していたが、解雇に関しては適用外とされていた。戦後に入り、解雇も適用されるという考えが出てくる。

解雇の制限

民法において規定されている雇用契約(労働契約)は当事者の交渉力や社会的地位が対等であることを前提としており、例えば期間の定めの無い雇用契約(例えば定年まで働くような契約のこと)では、当事者のどちらからでも一方的に解約を申し入れることができる。しかし使用者の方が労働者よりも強い立場にあるのが通常であるから、現代社会においては労働契約法などの労働法や判例法理によって全面的に修正されている。

まず、

  • 期間の定めの無い雇用契約(無期雇用)では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる[4]
  • 期間の定めのある雇用契約(有期雇用)では、やむを得ない事由がある場合でなければ、解雇することができない[5]

さらに、解雇が具体的に禁止されている主な場合として、次のものがある:

  1. 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
  2. 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
  3. 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
  4. 労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条)
  5. 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条)
  6. 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
  7. 労働者が育児・介護休業を申し出たこと、又は育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条)
  8. 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)

ただし、1及び2については、業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、平均賃金の1200日分の打切補償(労働基準法81条)を支払えば解雇は出来る。また、1及び2について、天災事変その他やむを得ない理由がある場合には、労働基準監督署長の認可を得た上で解雇することができる[6]

また、使用者ごとに定める就業規則(労働基準法89条以下)には解雇の原因となる行為、すなわち普通解雇事由が定められているのが普通である。通常、これに違反すれば解雇されることになる。しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効であるとして、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用の法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情にてらして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、その後の改正によって労働基準法18条の2に明記されることとなった。さらに労働契約法16条に移行。就業規則には解雇の事由を列挙しなければならないが、就業規則には「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」というような規定が設けられていることが多く、解雇制限としては不十分だからである。

解雇の予告

使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならない。30日前の予告をしない場合は、30日に不足する平均賃金を支払わなければならない(10日前に予告した場合は、20日分以上の平均賃金を支払う。)。月給・年俸制等においては民法627条における解約予告期間が30日より長くなる場合であっても特別法である労働基準法の規定により、解雇予告義務は30日間に短縮されるという見解もあるが、労働基準法による規定はあくまで刑事罰を伴う責任であり、民事上は就業規則等で取り決めが無い場合は30日を超える予告義務が別に存在すると解することができる。

予告手当を支払わず、労働者を即時に解雇できるのは、次の事由により労働基準監督署長の認定を受けた場合である。

  • 天災事変その他やむを得ない事由。
  • 労働者の責に帰すべき事由(一般的には「懲戒解雇」事由に属するものに相当し、「普通解雇」には属さない。)

解雇の予告及び解雇予告手当ての趣旨は、失職に伴う労働者の損害を緩和することを目的としたものである。なお、3月31日付けでの退職届けを出していたが、それ以前、たとえば3月15日に即日解雇された場合は、解雇予告手当てとして30日分の平均賃金の支払いをしなければならない。

以下の労働者には適用されない(労働基準法21条)。ただし以下の適用除外は解雇予告義務違反による刑事責任を免除されるだけであり、民事上の責任(民法627条628条、労働契約法による中途解雇制限)をも免除されるわけではない(日雇いは除く)。

  • 1ヶ月未満の日々雇い入れられる者。(民事上の予告義務もない)
  • 2ヶ月以内の期間を定め使用されるものでその期間を超えない者。(民法628条及び労働契約法17条による中途解約の民事責任は残る)
  • 季節業務に4ヶ月以内の期間を定め使用されるものでその期間を超えない者。(同上、民法628条)
  • 14日以内の試用期間中の者。(民法627条の規定により、期間の定めのない雇用契約であれば民事上、使用者は2週間前に予告をしなければならない)

解雇予告手当

30日以上前に解雇を予告できない場合に、不足する日数分の平均賃金の支払いを、一般に解雇予告手当という。ここで言う「平均賃金」とは労働基準法12条で規定するものである。「解雇予告手当」は税制上では「退職所得」となるため、退職金が存在する場合は合算して退職所得とする。

解雇証明

解雇予告された労働者は、使用者に解雇の理由を記した証明書を請求することができる。請求を受けた使用者は遅滞無く交付しなければならない。 ただし、解雇予告を受けた労働者が、解雇以外の事由で退職した場合は、退職の日以降、使用者は交付する責を負わない(22条2項)。

年次有給休暇との関係

解雇予告が行われると、最短で30日後に解雇となるため、それまでの所定勤務日数に相当する年次有給休暇を保持している場合は、解雇期日まで取得が可能となり、それを超過する分は法定最低付与分である場合は無効となり、法定以上の付与の分は買取が可能となる。ただし、解雇予告手当てが支払われる場合は、解雇期日を短縮されるため、年次有給休暇は無効となる日数が増える。解雇は退職と違い労働者の予期せぬことなのでよく、トラブルとなり法律での保護など、議論を呼んでいる。

解雇の種類(法律上)

解雇という呼び名は単に普通解雇を指す場合と解雇全般を指す場合もあるが、解雇の種類は法律上[要出典]、次の3つに分類される。

  • 懲戒解雇;労働者が著しく重大な違反(例:犯罪行為、着服・横領、経歴詐称、業務執行妨害等)をした場合の懲罰として行なわれる解雇。解雇事由は就業規則に列記されたものであって、就業規則規定の手続きをとらなければならない。またほかの懲戒事例と釣り合い(平等取り扱いの原則)、社会通念上の相当性、事前弁明の機会の付与が適正手続きとして要求される。さらに、上記のような刑事犯罪等に該当しない場合には、事前の注意や警告、段階的懲戒も必要となる。
  • 普通解雇;単に解雇と呼ぶ場合もあり、就業規則による解雇事由をもって行なわれる契約解除(解雇)。
  • 整理解雇;普通解雇に属するものではあるが、過去の裁判の判例により現れてきた慣例であり、倒産などの回避を目的とするための人員整理として行なわれる解雇。尚、整理解雇の実施には裁判の判例で慣例となった「整理解雇の四要件」(又は「整理解雇の四要素」)によらなければならない。

解雇の種類(法律規定外の慣習)

また懲戒解雇の緩やかな制裁として法律上の用語ではない諭旨解雇(ゆしかいこ)が存在する。これは懲戒解雇に相当するが、本人が懲戒事実に関して深く反省しているのでこれを承諾するという意味であり、その上で使用者側の懲戒解雇を実施するに当たってのデメリットや労働者側の不利益の被り方を低くする処置として行なう解雇である。しかし解雇が自己都合退職より経済面で処遇がよくなることが多く制裁の意味をなさないため、諭旨解雇ではなく本人が自発的に行なう諭旨退職にすることが多い。なお、多くの企業においては諭旨解雇処分にした場合、一定期間経過しても本人が退職の申出を行わない場合、懲戒解雇にすることを就業規則で定めている場合も多い。 実際にはシフト・出勤日数の調整による事実上の解雇や、労働者側の法的知識が無い事、訴訟費用が十分に無い事を理由に、会社側は不当解雇と分かりながら違法な即日解雇を行う事がある。また会社側から損害賠償等で社員を告訴する、家族を人質に取る旨を仄めかす等、リストラ工作のために脅迫し自主退職に追い込むケースも多々見られるが、これらのケースでは、多くは労働者が告発した場合に企業が名誉毀損による告訴を盾に元社員の口封じを行う事が日常的に行われている。 労働者側は不当解雇にあわないよう、記録を日常的に取る習慣をつける事が肝要である。

日本以外の国

ほとんどの先進諸国で、不公正解雇は法律で禁止されている[7]

スペイン

スペインでは、法律により労働者の解雇に厳しい制約がかかっている。そのため、外国企業の投資敬遠、外国人労働者の流入といった事態を招いている、という指摘がある[8]

アメリカ

州により異なる。 例えば、カリフォルニア州では雇用契約は「at will」すなわち相互の自由意志に基づくものとされ、期間の定めのない雇用契約では使用者の判断で特段の理由なしにいつでも労働者を解雇できる。[9]ただし解雇予告手当てに相当するものの支払いは必要。また40歳以上の労働者について年齢を理由にしたり、人種、宗教などの理由による解雇は違法である。

なお、Fire(クビ)とLayoff(レイオフ)は別物である。レイオフは会社が仕事を用意できなくなった際に召し放つ行為であるのに対し、Fire(クビ)は個人の働きがミスマッチである際に個別解雇するものである。

脚注

  1. ^ a b 労働基準法20条「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」
  2. ^ 例えば、松山地裁判決昭和26年2月8日
  3. ^ a b 『裁判と社会―司法の「常識」再考』ダニエル・H・フット 溜箭将之訳 NTT出版 2006年10月 ISBN:9784757140950』
  4. ^ 労働基準法18条の2で定められていたが、労働契約法(2008年施行)の16条として改めて明記された。
  5. ^ 労働契約法(2008年施行)で明記された。
  6. ^ 労働基準法19条第1項但書
  7. ^ 米英独仏の例について 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2008」第4-11表 解雇法制を参照。
  8. ^ 「スペイン:不動産バブルの崩壊と排他主義」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年4月3日付配信
  9. ^ http://www.mayitpleasethecourt.com/journal.asp?blogid=1261

関連項目

解雇・退職関係

人権蹂躙関係

社会支援関係

  • 雇用保険
  • 年越し派遣村 - 解雇された派遣労働者のためにボランティア団体が日比谷公園に設置した相談所、集会所。

外部リンク