ベルギー料理
本稿ではベルギーで食べられている料理について解説する。
ベルギーの郷土料理はフランスの料理とよく似たワロン料理とフランス料理を基礎に独自の発展を遂げたフランドル料理に大別される。共に伝統的なフランスの料理を基礎としているため、ベルギーの食文化はおおむねフランス北部のものと似通っている。
フランス北部同様バターやクリームを大量に使い、煮込む料理とグラタンが多い。メインコースは大きな皿に一人前をたっぷりと盛りつける。
相違点としては、フリッツ(フライドポテト)やマッシュポテトといったジャガイモの付け合わせが、主食にあたるものとして確固たる地位を築いていること。ブドウの栽培に適さない気候のためワインはほぼ輸入で賄い、ビールの種類が豊富なこと。そして、ビールを使った煮込み料理。
食習慣
朝食、昼食は軽く済ませ、夕食にしっかりと食べるというのが主流。
朝食はタルティーヌ(tartine)と呼ばれる無精白の小麦を使った薄切りパンとコーヒーか紅茶で済ませることが多い。ワロン人はジャムなどを塗っただけの簡素なものだが、フラマン人は燻製肉やチーズを載せてサンドイッチのようにして食べる傾向がある。日曜の朝はピストレ(pistoles)という皮に牛乳を塗って焼き上げた拳大の白パンが伝統の朝食である。
昼食はテイクアウトなどで軽く済ませる。移民の経営する出身地料理の軽食スタンドが都市部にはほとんどどこにでもある。バゲットを使ったベルギー風サンドイッチのスタンドなどがある。午後には紅茶やコーヒーと共にチョコレートやワッフルが食べられる。
夕食は一日のうちで最も豪華である。ステーキなどの肉料理や魚料理に、野菜を添え、ジャガイモの付け合わせを盛りつけた3点セットがよく食べられている。スープが添えられることもある。デザートはほとんど必ず添えられる。
食材
肉類はほとんど日常食であり、ステーキ類は簡単な家庭料理に属している。北海に面しているため魚介類も良く食べ、ムール貝が名物となっている。チーズも良く生産されている。
牛肉、豚肉、鶏肉いずれも良く食べられる。ウサギ、ハト、ガチョウ、ウマ、カエルも時として食卓に上る。ジビエで名高い国でもあり、野ウサギ、ウズラ、キジ、カモ、シカ、イノシシなどを食べる。フォアグラの生産もおこなわれている。加工肉では、肉の燻製、ハム、ソーセージ、ウィンナー、ベーコンなどが作られているが、ブーダンはとくに有名。肉の臭みを消し、柔らかくするビール煮込みはベルギー独特の郷土料理。ジビエ料理にはラズベリーなど野生のベリー類を添える。
魚介類では、ニシン、タラ、ヒラメ、ウナギ、マス、クルヴェットと呼ばれる小エビ、ムール貝、ホタテなど。エスカルゴも食べる。ムール貝の白ワイン煮とニシンの酢漬けとシタビラメのムニエルがある。特にムール貝はフライドポテトを添え、大鍋に入れて供される。
野菜は、ホワイトアスパラガス、ポロネギ、ジャガイモ、キャベツ、ニンジン、エシャロット、タマネギなどがよく料理に使われる。ホワイトアスパラガスはベルギーの春の名物で、茹でてバターとあえたりマヨネーズを添えてそのまま食べるほか、裏ごししてポタージュを作ることもある。フライドポテト(フリッツ)は国民食となっており、ステーキやムール貝の定番の付け合わせ(ムール貝との付け合わせはムール・フリットと呼ばれている)となっている。フリテリーというフライドポテト専門のスタンドがあるほか、家庭にもフリトゥーズという電子式のフライヤーが存在する。マヨネーズなどソースをかけて食べる。シコンと呼ばれるチコリを軟化栽培させた野菜はサラダに好まれる。キャベツはシュークルートの材料。杜松の実を入れる。ポロネギやタマネギはバターで炒めて煮込み料理に入れる。
代表的な料理
- ピュレ(purés):日本で言うポタージュ。野菜などをブイヨンで煮込み、裏ごししたもの。ポロネギ、ホワイトアスパラガスなどで作ったものが有名。
- ヒュッツポット(hutuepot):意味はごった煮。大量の肉を水から茹で野菜を加え煮込み、ジャガイモを入れて完成。フランドルの家庭料理
- プール・オ・ポ(poule au pot):鶏を丸ごと一羽使ったポトフ。作り方は上と同じ。
- ワーテルゾーイ(waterzooï):バターで炒めたセロリ、ポロネギ、玉ねぎ、ニンジンといった野菜と煮込んだ肉(鶏、ウサギ、カエル、白身魚)の煮汁にクリームと卵黄を加えたもの。
- カルボナード(carbonnades):牛バラ肉などの角切りと玉ねぎを炒めた物に黒ビールを注ぎ、とろみ付けのパン、ジャムなどを入れて煮込んだもの。マスタードが入っており甘辛い味。
- フリカデル(fricadelles):ひき肉のソーセージ。
- オワゾー・サン・テット(oieseaux sans tête):薄切りの牛肉をミンチに巻いたもの。バターで焼いてブイヨンやクリームなどで煮込む。
- ムール・オ・ヴァン・ブラン(moules au vin blanc):ムール貝を、エシャロット、セロリをバターで炒めたものと一緒に、白ワインで煮たもの。フライドポテトを添えて食べる。
- ストゥンプ(stoemp):野菜入りマッシュポテト。付け合わせ。
- クロケット・オー・クルヴェット(croquettes aux crevettes):小エビのクロケット。クリームコロッケのような料理。
- シコン・エ・ジャンボン・オー・グラタン(chicon et jambon au gratin):ハム巻きアンディーブ(チコリを軟化栽培したもの)のグラタン
- アンギーユ・オー・ヴェール(anguilles au vert):ウナギをホウレンソウ、オゼイユ、ハーブとともに白ワインと水で煮込み卵黄を加えたもの
- トマト・オー・クルヴェット(tomates aux crevettes):小エビのマヨネーズ和えをトマトにつめたもの
- フォンデュー・オー・フロマージュ(foundus au fromage):チーズフォンデュとあるが、実際はチーズ入りクロケット。ブリュッセルの名物。
- オワ・ア・ランスタール・ド・ヴィゼ(oie à l'instar de visé):ガチョウのブイヨン煮に衣をつけて焼いたもの
- ラパン・オー・プリュノー(lapin aux pruneaux):干しプラム入りウサギのビール煮込み
- ロニョン・ド・ヴォー・ア・ラ・リエジョワーズ(rognons de veau à la liégeoise):子牛の腎臓のソテー。杜松の実で香味付けする。
- プラリネ(praline):チョコレートに詰め物をして型で一口大に美しく成形したもの。
- ゴーフル(gaufre):ワッフル。四角くやわらかいブリュッセル風と丸く分厚いザラメ入りのリエージュ風がある。
- ミゼラブル(Misérable):バタークリームとスポンジを使ったケーキ。
参考文献
- 相原恭子『ベルギーグルメ物語』主婦の友社
- 『ヨーロッパ・カルチャーガイド15 ベルギー』トラベルジャーナル