貧困線
貧困線(ひんこんせん、英: Poverty line, Poverty threshold)は、収入が生活に必要な最低限の物を購入することができる最低限の収入水準にあることを表す統計上の指標。定義上、貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入が存在しない。
共通の世界貧困線(international poverty line)は、かつては一日一ドルが設定されていた[1]。2008年に世界銀行が基準を改定し、2005年の購買力平価(PPP)が1.25ドル以下である層だと設定した[2]。
貧困線が、どの収入水準に引かれるかは場所によって違うが、1国の中ではばらつきがあるものの、一定の範囲内に収まる。このばらつきは、場所により生活に必要な収入が違うために起きる。都市部と農村部では物価の差があり、温暖な地方と寒冷な地方では光熱費に大きな差が生じるなど、国の中でも場所により貧困線は上下する。
ほとんど全ての社会には貧困状態にある住民がいる。貧困線は社会学や経済学の指標であり、貧困状態にある住民を減らすために必要な社会政策を決定するのに有効である。貧困線以下にある住民が多い社会は、最低限の生活を送る必要があるため、経済発展が阻害される。このため、近代的な国家の目標は、社会の全ての構成員を貧困線を上回る収入を生活保障や雇用保険の失業等給付を通して、保障することにある。
貧困線を計算する基本の手法は、1人の成人が1年間に最低限必要な物の購入費用を積み立てていく方法がとられる。住環境に費やす費用が収入のもっとも大きな割合を占めることが多いことから、歴史的に経済学者は物件価格や賃貸費用の変動に注目してきた。個人の年齢や家族構成により貧困線は上下する。多くの先進国では娯楽や嗜好品なども貧困線を算出する際に加算している。これは単に衣食住が満たされる状況は、貧困状態未満であるという認識があるためである。
貧困線は、厳密な指標ではなく、貧困を計る恣意的な指標の1つでしかない。貧困線を若干上回る収入と若干下回る収入の間に大きな生活水準の差は無いためである。
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絶対的貧困 [編集]
絶対的貧困(Absolute poverty)とは、食料・衣服・衛生・住居について最低限の要求基準により定義される貧困レベルである[3]。1970年代に「人間の基本的必要の充足」を開発の目的であるとしたロバート・マクナマラ総裁時代の世界銀行で用いられはじめた概念で、低所得、栄養不良、不健康、教育の欠如など人間らしい生活から程遠い状態を指す。この指標は絶対的なものであるため、各々の国家・文化・科学技術水準などに関係なく、同じレベルでなければならないとされている。こういった絶対的指標は、各個人の購買力だけに着目すべきであり、所得分布などの変化からは独立していなければならない。
絶対的貧困を示す具体的な指標は国や機関によって多様であるが、2000年代初頭には、1人あたり年間所得370ドル以下とする世界銀行の定義や、40歳未満死亡率と医療サービスや安全な水へのアクセス率、5歳未満の低体重児比率、成人非識字率などを組み合わせた指標で貧困を測定する国際連合開発計画の定義などが代表的なものとされている。国連ミレニアム宣言により制定された『ミレニアム開発目標』ではこうした世界の絶対的貧困率を2015年までに半減させることが明記された。
国際連合開発計画の委託を受けた2000年度『人間開発報告書』によると、1日1ドル以下で生活している絶対的貧困層は、1995年の10億人から12億人に増加しており、世界人口の約半分にあたる30億人は1日2ドル未満で暮らしている。
このように絶対的貧困は、一定の指標を定め、その基準に沿って一律に定義される。しかしながら、こうした貧困の定義に対しては、何が必要かをめぐる社会的・文化的個別性や、ニーズを充足する手段の獲得における社会内部での階層化(たとえばピーター・タウンゼンドが相対的剥奪という語で示そうとした状況)、そしてまた貧困状況をもたらす社会構造に対する批判的視点も必要ではないかとの批判も存在する。
相対的貧困 [編集]
「経済的不平等」、「ジニ係数」、および「国の所得格差順リスト」も参照
相対的貧困(Relative poverty)のOECDによる定義は、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)が全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合の事。 絶対的貧困率と違い数学的な指標なので主観が入りにくいとされるが、国によって「貧困」のレベルが大きく異ってしまうという可能性を持つ。この為、先進国にすむ人間が相対的貧困率の意味で「貧困」であっても、途上国に住む人間よりも高い生活水準をしているという場合と先進国においては物価も途上国より高く購買力平価を用いた計算をすると途上国よりも生活水準が低い場合が存在する。
日本 [編集]
OECDの2000年代なかばの統計によれば、日本の相対的貧困率は15.7%で、メキシコの18.4%、トルコの17.5%、米国の17.1%に次いで4番目に相対的貧困が高かった(OECD加盟国の平均は10.6%)[4]。逆に、西欧諸国は大半が10%以下であり、全調査国中もっとも低いスウェーデンとデンマークの5.3%を筆頭に、北欧諸国の貧困率が低い。厚生労働省の調査では、日本の相対的貧困は2009年の時点で16.0%であり、データが存在する1985年以降で最も高い数値となっている[5]。
2007年の国民生活基礎調査では、日本の2006年の等価可処分所得の中央値(254万円)の半分(127万円)未満が、相対的貧困率の対象となる。これは、単身者では手取り所得が127万円、2人世帯では180万円、3人世帯では224万円、4人世帯では254万円に相当する。
日本は、かつての調査では北欧諸国並みの水準で「一億総中流」と言われたが、1980年代半ばから2000年にかけて貧富格差が拡大し相対的貧困が増大した[5][6]。
なお、ジニ係数と相対的貧困率は定義が異なるので一概に比較は出来ないが、単身世帯を含めたすべての世帯における年間可処分所得(等価可処分所得)のジニ係数で国内格差をみると日本はアメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダの英語圏諸国より格差が小さく、フランス・ドイツとほぼ同程度の格差であった。
相対的貧困率は、1980年代半ばから上昇している。この上昇には、「高齢化」や「単身世帯の増加」、そして1990年代からの「勤労者層の格差拡大」が影響を与えている。「勤労者層の格差拡大」を詳しくみると、正規労働者における格差が拡大していない一方で、正規労働者に比べ賃金が低い非正規労働者が増加、また非正規労働者間の格差が拡大しており、これが「勤労者層の格差拡大」の主要因といえる[7]。
国民貧困線 [編集]
各国家の国民貧困線は、世帯調査に基づいて人口加重したものによって作成されている。そのため国家間で定義は異なるため、その数字を国家間で比較することはできない。例えば豊かな国では貧しい国よりも、貧困の基準がより寛大になっている。
米国 [編集]
2010年の米国では、65歳未満を対象とした貧困線は年収11,334ドル、4人家族で子供が2人の世帯では年収22,133ドルであった[8][9]。米国国政調査庁は、2011年7月13日に、2010年の国民貧困線は15.1%であると発表した。
英国 [編集]
2006年4月の英国では、全労働者の23%(500万人以上)が時給6.67ポンド以下の給与であった。フルタイム労働者(週35時間労働者)は年収12,000ポンドを得ているが、これはその平均所得の60%以下の額である。また2006年4月では、週35時間労働者の課税前年収は9,191ポンドであった[10][11]。
インド [編集]
インドの公式貧困線は、都市部と農村部で別々の基準である。都市部の基準は月収 538.60ルピー(約12ドル)、農村部の基準は月収 356.35ルピー(約7.5ドル)で計算されている[12]。
日本 [編集]
日本には国民貧困線が公式設定されておらず、国民貧困率の試算も存在しない。実務上は生活保護基準などを元に運用されている[13]。
脚注 [編集]
- ^ Sachs, Jeffrey D. The End of Poverty 2005, p. 20
- ^ Ravallion, Martin; Chen Shaohua & Sangraula, Prem Dollar a day The World Bank Economic Review, 23, 2, 2009, pp. 163-184
- ^ “Absolute poverty definition by Babylon’s free dictionary”. Dictionary.babylon.com. 2011年11月25日閲覧。
- ^ Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries (Report). OECD. (2008-08). ISBN 9789264044180.
- ^ a b 厚生労働省 (2010年). “『平成22年国民生活基礎調査の概況』7.貧困率の状況”. 2012年8月2日閲覧。
- ^ 国立社会保障・人口問題研究所(阿部 彩) (2008年). “日本における貧困の実態 (8p 国際比較…日本の貧困率は、1984年は10%、1999年は15%…)”. 2009年11月21日閲覧。
- ^ 『OECD日本経済白書〈2007〉』(OECD)
- ^ “Poverty Thresholds 2010”. 2012年2月5日閲覧。
- ^ US Census Bureau. “How the Census Bureau Measures Poverty”. 2010年12月22日閲覧。
- ^ Working out of Poverty: A study of the low paid and the working poor by Graeme Cooke and Kayte Lawton
- ^ IPPR Article: "Government must rescue ‘forgotten million children’ in poverty"
- ^ “POVERTY ESTIMATES FOR 2004-05”. 2009年11月19日閲覧。
- ^ 関根由紀「日本の貧困--増える働く貧困層 (特集 貧困と労働)」、『日本労働研究雑誌』第49巻第6号、労働政策研究・研修機構、2007年6月、 20-30頁、 NAID 40015509240。
関連項目 [編集]
外部リンク [編集]
- History of the U.S. Poverty Line by Tom Gentle, Oregon State University.
- United States Department of Health and Human Services Poverty Guidelines, Research, and Measurement
- 2007 United States Department of Health and Human Services Poverty Guidelines
- Debraj Ray 1998, Development Economics, Princeton University Press, ISBN 0-691-01706-9.
- World Summit for Social Development Agreements, United Nations
- The "elimination" of poverty, Takis Fotopoulos,