効用

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効用(こうよう)とは、ミクロ経済学の消費理論で用いられる用語で、人が(商品や有料のサービス)を消費することから得られる満足の水準を表す。対語は非効用(不満足)。見込まれている効用は期待効用

効用価値説[編集]

近代経済学においては、物の価値を効用ではかる効用価値説を採用し、消費者の行動は、予算の制約の下で効用を最大にするように消費するとされる。また利潤の最大化を目指す企業部門に対し、家計部門は効用の最大化を目指すものと仮定される。一方、古典派経済学およびマルクス経済学においては、物の価値を労働ではかる労働価値説を採用している。効用をもたらすものとしては商品の使用価値(use-value)の概念がある。マルクス経済学では、近代経済学のいう効用すなわち使用価値に対する満足度は、個人の内面にのみ存在する主観的なものであり、また異なる使用価値に対する満足度を比較したり定量化することもできないため、労働のように客観的に定量化可能なものではなく、諸商品に共通する価値の基準たりえない、としている。

希少性と効用[編集]

価格の表す希少性は、効用とは区別すべき概念である[1]。伝統的には水とダイヤモンドを例として価値価格のパラドックスを問題にしたアダム・スミスがいる。はそれなしで人間が生きていけない程効用の大きなものであるが、豊富に供給されているためその限界効用(後述)は小さくなっており、市場価格は非常に安いものとなっている。一方、ダイヤモンドは単なる装身具であり、水に比べて効用は小さいが非常に希少であるため限界効用が大きく市場では高い価格で取引される。これが水のない砂漠であれば、人は容易に一杯の水のためにダイヤモンドを手放すであろう。水に希少性が出てきたのでダイヤモンドの限界効用を上回ってしまうためである。

基数的効用と序数的効用[編集]

効用を測定する方法としては、基数的効用(Cardinal Utility)と序数的効用(Ordinal Utility)とがある。前者が効用の大きさを数値(あるいは金額)として測定可能であるとするのに対して、後者は効用を数値として表すことは出来ないが順序付けは可能であるとする点で異なり、両者の違いは、これは効用の可測性の問題として、効用の概念の発生当初から議論の対象であった。なお、基数的効用が分かればその順番付けをすることは可能なので、序数的効用に基づいて導出された理論は、基数的効用に基づいた場合でも成り立つ(序数的効用の方が緩い仮定である)。

当初は基数的効用の考えが主流であり、効用は測定可能で、各個人の効用を合計すれば社会の効用が計算され、また、異なる個人間で効用を比較したり足し合わせることも可能であると考えられた。

しかし、効用の尺度として客観的なものを見出すことができなかったため、現在では多くの経済学者が、「ある選択肢が、他の選択肢より好ましいかどうか」という個人の選好関係を基に、より好ましい財の組み合わせはより大きな効用をもつ、という意味での序数的効用によって効用を考えている。序数的効用では効用は主観的なもので、異なる個人間で比較すること(たとえば、ある人にとってリンゴ一個を貰えることによる満足度の増加と、別の人にとってリンゴ一個を貰えることによる満足度の増加を比較して、どちらの満足度の増え分が大きいかを判断すること)も、単純に各個人の効用を足し合わせて社会全体の効用を測定することもできないとされる。尺度水準を参照のこと。

限界効用逓減の法則[編集]

財の追加的一単位の消費による効用の増加分を限界効用と呼ぶ。限界効用は、消費量が増加するにつれて減少すると考えられ、これを「限界効用逓減の法則」と呼ぶ。

無差別曲線[編集]

無差別曲線(青線)

これに対し、2つの財の組み合わせの効用を分析するグラフに無差別曲線がある。ある消費者Aの効用について、横軸を財X1(例えばコーヒー)の消費量、縦軸を財X2(例えば紅茶)の消費量として1象限の空間を作るとそこにX1とX2の無数の組み合わせが存在する。

ここで例えばコーヒー1杯と紅茶2杯の組み合わせの効用と、コーヒー2杯と紅茶1杯の組み合わせの効用が等しいとするとこの2点を含む効用の等しいコーヒーと紅茶の消費量の組み合わせの曲線を引くことができる。これを無差別曲線という。コーヒーと紅茶の組み合わせの効用が無差別であるというところからこのように呼ばれる。一組の財の組み合わせについては効用の量は無数に存在するので、一つの財の組み合わせについて無数の無差別曲線を引くことができる。(青線)コーヒー1杯の価格と紅茶1杯の価格が明らかになると消費者Aの予算のグラフ(右下がりの直線=赤)を同じグラフに重ねることができる。ところで後述する「限界代替率逓減の法則」により一般に無差別曲線は右下がりで原点(X1=0,X2=0の点)に対して凸の曲線となるので、無数の無差別曲線の内1つは1点で予算のグラフと接することになる。この無差別曲線は消費者Aの予算を満たし、かつ効用が最大となる曲線であり、合理的な消費者はこの接点のコーヒーと紅茶の消費量の組み合わせを選択するであろう。

無差別曲線は、2財モデルの消費者行動分析においては基本的なツールとして用いられる。

限界代替率逓減の法則[編集]

また複数の財の任意の消費量における限界効用の比を限界代替率と呼ぶ。消費者は市場価格の比と限界代替率が等しくなる点で効用を最大化するという意味で、限界代替率は消費者行動分析において重要な役割を果たす。

なお、財Aを増やすにつれて同じ効用を保つために諦めねばならない財Bの量が減ることは、財Aに対する財Bの限界代替率逓減の法則といわれる。

この法則は序数的効用 に基づく。

厚生経済学との関係[編集]

ピグーの第2命題[編集]

ピグーの「厚生経済学」は、所得配分の公正 を問題としている。そこでは所得再配分はそれが経済全体のアウトプットを減少させないかぎり、一般に経済的厚生を増大させると説かれている(ピグーの第2命題)。この命題は、限界効用逓減の法則から導かれたもので、効用の基数性を前提した上、所得再配分は貧者のより強い欲望を満たすことができるから、欲望充足の総計を増大させることは明らかであるとしている。

これに対し、新厚生経済学では、所得配分の公正よりはむしろ資源配分の最適性 が問題となっている。ロビンズの「経済学の本質と意義」では、ピグーの第2命題は、理論的な仮定からは導かれず、単なる倫理的な仮定にすぎないとしている。この結論は効用の可測性(基数性)の否定から導かれたもので、内省によっては他人の内心を測定できない以上、異なった人の満足を比較する方法がないとしている(効用の序数性)。

しかしながら効用の序数性を仮定する限り、各個人の選好順序から社会的な選好順序を得ることはできない。これをアローの不可能性定理といい、序数主義の限界を示すものと考えられている。

パレート改善[編集]

効用の序数性を前提とする新厚生経済学においては、ある集団において、少なくとも1人の効用を改善でき、誰の効用も悪化させないような資源配分の改善はパレート改善といわれ、もはやパレート改善の余地のない状態はパレート最適といわれる。このパレート改善によるパレート基準が現実の経済政策に適用されるためには、潜在的な財の移転を想定した補償原理(カルドア・ヒックス基準)が求められる。

ロールズ基準[編集]

ロールズの格差原理においては、社会において自分自身がいかなる境遇におかれることになるか知られないという無知のヴェールが仮定されたとき、社会で最も不遇な人々の厚生が極大化されるという原理が成立するとされる。

脚注[編集]

  1. ^ 不動産の価格形成においては、不動産鑑定評価基準が、「不動産の価格は、一般に、(1)その不動産に対して我々の認める効用 (2)その不動産の相対的稀少性 (3)その不動産に対する有効需要 の三者の相関結合によって生ずる」としているように、稀少性と効用とは区別されている。

参考文献[編集]


関連項目[編集]