埋没費用

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埋没費用(まいぼつひよう)とは、事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用をいう。サンク・コスト (sunk cost) ともいう。

初期投資が大きく、他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなるので、投資も新規企業の参入も慎重になる。寡占論では、埋没費用の多寡が参入障壁の高さを決める要因の一つであるとされる。

これに対しウィリアム・ボーモル1982年に、埋没費用がゼロならば、競争の潜在的可能性が高いので、たとえ独占であっても参入可能性が価格を正常に維持するというコンテスタビリティ理論を提示し、1980年代以後のアメリカの航空輸送産業やトラック輸送産業における規制緩和の流れを作り出した。つまり、市場がどれだけ競争的または寡占的であるかは、実際に市場に参加している企業の多寡によってだけでは判断できず、潜在的な新規参入の容易さによっても左右されることが重要であると主張した。

例1:つまらない映画を見続けるべきか[編集]

2時間の映画のチケットを1800円で購入したとする。映画館に入場し、映画を見始めた。10分後に映画が余りにもつまらないことが判明した場合に、映画を見続けるべきか、それとも途中で映画館を退出して、残りの時間を有効に使うべきかが問題となる。

  • 映画を見続けた場合:チケット代1800円と上映時間の2時間を失う。
  • 映画を見るのを途中で止めた場合:チケット代1800円と退出までの上映時間の10分間は失うが、残った時間の1時間50分を有効に使うことができる。

この場合、チケット代1800円とつまらないと感じるまでの10分が埋没費用である。この埋没費用は、上記のどちらの選択肢を選んだとしても回収できない費用である。したがって、時間を浪費してまで、つまらないと感じる映画を見続けることは経済学的に合理的な選択ではない。途中で退出して残りの時間を有効に使うことが経済学的に合理的な選択である。しかし、多くの人は「払った1800円がもったいない。元を取らなければ。」などと考え、つまらない映画を見続けることによって時間を浪費してしまいがちである。

例2:チケットを紛失した場合[編集]

ある映画のチケットを1800円で購入し、このチケットを紛失してしまった場合に、再度チケットを購入してでも映画を見るべきか否かを検討してみよう。チケットを購入したということは、その映画を見ることに少なくとも代金1800円と同等以上の価値があると感じていたからのはずである。一方、紛失してしまったチケットの代金は前述の埋没費用に当たるものだから、2度目の選択においてはこれを判断材料に入れないことが合理的である。ならば、再度1800円のチケットを購入してでも、1800円以上の価値がある映画を見るのが経済学的には合理的な選択となる。[1]。しかし、人は「その映画に3600円分の価値があるか」という基準で考えてしまいがちである。

よくある誤解[編集]

埋没費用は、投資対象が無駄であった場合にのみ発生すると認識されがちであるが、誤りである。投資費用が埋没費用であるかどうかと、投資対象が有用であるかどうかとは、本質的に関係がない。

例えば先の映画の例1では、仮に選んだ映画が素晴らしい内容であったとしても、チケット代1800円は埋没費用のままである。費用が埋没費用であるかどうかは、その費用の回収可能性だけで判断すべきことである。映画の内容の良し悪しと、チケット代が埋没費用であるかどうかは無関係である。

脚注[編集]

  1. ^ グレゴリー・マンキュー著、足立英之ほか訳『マンキュー経済学』1、ミクロ編、東洋経済新報社、2000年。

参考文献[編集]

  • Sutton, John (1991). Sunk Costs and Market Structure. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press. ISBN 9780262193054. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]