厚生経済学

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厚生経済学(こうせいけいざいがく)(Welfare economics)とは、経済的厚生[1]Economic welfare)に関して、経済全体における分配の効率性と、その結果としての所得分配(所得分布)を分析する経済学の基礎的分野である。分析手法としてはミクロ経済学の手法を用いる。

複数の「個人」が経済活動の結果得た福利である厚生をそれらの個人の所属する社会の単位で集計した社会的厚生を最大化することを目的とし、必要な所得再配分について考える。個人の選好関係から社会の選好関係を導出する社会選択理論とは密接に関連し、厚生経済学と社会選択理論ともに専門とする経済学者は多い。

厚生経済学の領域に分類される用語には、外部性平等経済的正義不平等利他主義などがある[2]

概要[編集]

  • 厚生経済学は、個人を基本的な測定単位と仮定するので、集団共同体・社会に相対するものとしての「個人の福利」を強調する。さらに、
  1. 個人は自身の福利について最もよく判断できる 
  2. 人は少ない福利より、大きな福利を好む 
  3. 福利は貨幣通貨)あるいは「財の適切な選択」によって測定できる

などの前提を置くことが多い。

  • 「社会厚生」とは、社会全体にとって有益であること(およびその水準)を意味するが、その定義には様々なものが提案されている。例えば、功利主義的(utilitarian)な定義(ベンサム&ピグーの定理)では、社会厚生は個人の福利の総計となる[3]
  • 経済を構成する各個人の主観的な順序付けや効用をもとに社会厚生を求める関数を社会厚生関数と呼び[4]財政学などの公共政策分野では議論の根幹に関わる重要な概念となっている。

厚生経済は、経済効率と所得分配との2つの側面から考察することができる。経済効率としては、主として社会全体の「パイの大きさ」を扱う。所得分配では、「パイの分け方」を扱う。ここでいう「パイ」とは、社会に存在する富(Welfare)全てとしてよい。経済効率とは、分けられるべきパイ全体をできるだけ大きくするにはどうすればよいかと考えることであり、所得分配では与えられたパイをできるだけ公平に分けることが求められる。

厚生経済学の基本定理[編集]

「競争的市場で均衡が達成されるときは、他の誰かの厚生を引き下げないかぎり、もはや誰の厚生も高めることができない状態にある」ということを「厚生経済学の基本定理」という。いいかえると、「すべての競争均衡はパレート最適点であり、すべてのパレート最適点は競争均衡である」と表すことができる。

この定理を前半と後半に分けて、「厚生経済学の第1定理」と「厚生経済学の第2定理」と呼ぶこともある。

  1. 厚生経済学の第1定理・・・完全競争で達成される市場均衡は、パレート最適である。
  2. 厚生経済学の第2定理・・・財の総量を一定としたときの任意のパレート最適な配分は、適当な初期保有量の再分配から出発する市場均衡として達成される。

厚生経済学の基本定理は、ドーフマンサミュエルソンソローによって1958年に出版された『線型計画と経済分析』の中で示された定理であり、これまでの厚生経済学の研究から導きだされたものである。

歴史的な3つのアプローチ[編集]

広義の厚生経済学は、新古典派厚生経済学、新厚生経済学、新新厚生経済学という3つのアプローチがある。

  1. 新古典派厚生経済学では、マーシャルエッジワースシジウィックピグーなどがこの分野を開拓した。効用が基数性を持つ、つまり体積のように2倍とか1.5倍とか示せると考え、さらに同じ効用が何度も消費されるとそこから得られる快感が減る(限界効用逓減)、とも考えた。すべての個人が求める効用は性質が等しい、したがって一方の人の欲求と他の人の欲求を比較することは可能である。この仮定は、すべての個人の効用を合計することによって、社会厚生の最大値を算出することができる、という結論へ導く。彼らはベンサムの最大多数の最大幸福という格率(公理)を受けいれ、経済活動における合理的な選択と個人と社会の利益が一致することを確信していた[5]p。
  2. 新厚生経済学によるアプローチは、パレートヒックスカルドアの仕事に基礎をおいている。彼らは、効率と分配を明確に区別し、それぞれを別に扱っている。効率の問題は「パレート効率」や「カルドア=ヒックス補償テスト」のような基準が想定され、所得分配の問題は社会政策により不平等を是正することで解決する。効率は、効用の量的な尺度を必要としない。効率を分析するには序数、つまりどれを先に満たすかという優先順位であらわせる効用のみで十分なのだ、とする立場をとる。
  3. 新新厚生経済学は、バーグソンとサミュエルソンが社会的厚生関数を導入して発展させた理論である。社会的厚生関数を導入すれば、資源配分の効率性の面からはパレート最適を実現している上、その中でも最も高い社会的厚生関数に到達する点を見出すことで、社会的最適点を決定できる。このことから、これ以降の厚生経済学の展開を新新厚生経済学ということがある。

ノーベル経済賞[編集]

脚注[編集]

  1. ^ (economic) welfareには、「厚生」のほかに「福祉」という訳語も使われる。
  2. ^ JEL分類コード D6参照
  3. ^ 小島寛之 2009, p. 45.
  4. ^ 小島寛之 2009, p. 91.
  5. ^ 小島寛之 2009, p. 43.

参照文献[編集]

  • 小島寛之 『使える!経済学の考え方 : みんなをより幸せにするための論理』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2009年ISBN 9784480065094 
  • 本郷亮『ピグーの思想と経済学』名古屋大学出版会 2007年

関連項目[編集]