限界効用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

限界効用(げんかいこうよう、: Marginal utility)とは、(モノ、およびサービス)を1単位追加して消費することによる効用(財から得られるメリット)の増加分のこと。近代経済学に登場した概念の一つであり、ミクロ経済学の消費理論で用いられる重要な概念である。

「限界」の意味については限界 (経済学)を参照のこと。

限界効用逓減の法則[編集]

一般的に、財の消費量が増えるにつれて、財の追加消費分(限界消費分)から得られる効用は次第に小さくなる、とする考え方。これを限界効用逓減の法則(げんかいこうよう ていげんのほうそく、law of diminishing marginal utility)、又はゴッセンの第1法則という。

分りやすい具体例をひとつ挙げれば、普通、最初の1杯のビールはうまいが、2杯目は1杯目ほどうまくない、3杯目は2杯目ほどうまくない。このように1杯目、2杯目、3杯目となるほど、ビール(財)から得られるメリット(効用)は小さくなる。そのようなことを指している。

ビールに限らず、多くの財・サービスについてあてはまるとされる。したがって効用関数(消費量と効用の大きさの関係を表す関数)のグラフでは、効用曲線は上に凸の右上がりとなる(上昇が次第に鈍化する)[1]

このような不可避な停滞・沈滞を乗り越え、絶えず需要を喚起していくために、絶えざる「テコ入れ」「イノベーション」が必要とされる。

限界効用均等の法則[編集]

複数の財を選択する場合、人(経済的エージェント)は各財の費用対限界効用の比が等しくなるように選択する、という主張(経験則)。ゴッセンの第2法則とも呼ばれる。

常に人が「効用を最大化するよう行動する」との仮定が成立するとき、人は少しでも限界効用の大きい方を選択(選好)する。また、限界効用逓減の法則(ゴッセンの第1法則)が成立する場合、各財を消費すると、各財それぞれの限界効用は小さくなっていく。このとき、貨幣1単位で得られるある財 i の限界効用(加重限界効用)が他の財 j の限界効用を下回れば、財 j が消費される。同じく、

\frac{1}{p_i}\frac{\partial U}{\partial x_i} < \frac{1}{p_j}\frac{\partial U}{\partial x_j}

となれば、財 i が消費される。ここで、

  • U効用
  • xi は財i の量
  • pi は財i の価格

を表す。

これらは任意の財i , j において成立するため、複数の財の「貨幣1単位あたりの限界効用」は平衡に達するというのが「限界効用均等の法則」の主張である。

具体例:白飯ばかり食べているとおかずが欲しくなる。この例では、人が白飯よりもおかずが欲しくなるのは、限界効用逓減により、白飯の限界効用がおかずの限界効用を下回ったためと解釈できる。

需要関数の導出[編集]

今、仮に、ある財の価格が下落したとすると、その財の(加重)限界効用が大きくなる。すると限界効用均等の法則により、人はその財を選好し消費を増やす。逆の場合も同様である。このようにして、価格に対して逆の動きをする需要関数が導出できる。需要曲線が通常右下がりになることからも限界効用逓減の法則が示唆される。

歴史的意義[編集]

限界効用理論には18世紀頃からの長い歴史があるが、限界効用理論の確立は1871年から1874年にかけてカール・メンガーウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズレオン・ワルラスの3名により、相次いで独立に出版された著作による。 限界効用(および限界生産力など)の概念は、「Marginal 限界」という新しい手法によって経済学と数学(微分学)とを結びつけるとともに、それまでの労働価値説に代わる価値の根源に対する新しい考え方を提示して、近代経済学を独立・発展させることになった。これらの経済学史上の変革を限界革命と呼ぶ。

効用の可測性[編集]

しかしながら、効用関数が実在するのか、特に効用の大きさが数値(あるいは金額)として測定できるのか、ということ(可測性の問題)は、当初から議論の対象であり、効用理論のアキレス腱であった。

それに対して、ジョン・ヒックスの「価値の理論」によって、需要の決定で意味をもつのは複数の財の組合せにおけるそれぞれの効用の数値ではなく、複数の財の組合せのあいだの効用の大小関係(選好)であることが周知のこととなった。いいかえれば、同じ無差別曲線が描ける別の効用関数は同一の選好をあらわす。したがって、財の組合せに対して、同一の選好をあらわす効用関数は複数ある。たとえば、2変数の効用関数u = u (x , y ) に対して、単調増加関数y = f (x ) によって変換された効用関数u = f (u (x , y )) は変換前の効用関数と同じ選好をあらわす。

この点でいえば、たとえ限界効用が逓減しなくても、原点に凸な無差別曲線が描ければ、消費者理論においては問題はない。このことは消費者理論において、限界効用逓減と効用の数値が、つまり、効用の可測性の問題が無意味であることとして受け取られた。

しかしながら、ヒックスの業績がひろまる一方で、フォン・ノイマンオスカル・モルゲンシュテルンが期待効用仮説をとなえ、経済学にふたたび基数的議論を復活させた。世界の事象がある確率分布にもとづいて決定される不確実なものであるとき、人々は効用の期待値を最大化するように行動することが公理として提案された。この期待効用仮説に従うとき、人々の不確実性への態度は効用関数の曲率に依存する。不確実性のない場合、効用関数の増加関数による変換は選好に中立的であった。しかし、期待効用仮説では選好に中立的な変換は、増加関数一般ではなく、線形の増加関数についてしか成り立たない。この場合、限界効用が逓減する効用関数と同一の選好は、同じく限界効用が逓減する効用関数でしかあらわせない。ようするに期待効用仮説は経済学に可測性を復活させたといえる。

期待効用理論において、限界効用の逓減は主体が期待値が同じ事象について、分散がより小さい事象を選好すること、つまり、リスク回避的であることを意味する。

適用上の注意点[編集]

限界効用をもって経済を考察する時には以下の点に注意すべきである。

  • 実体の財産と現金とを混同しないこと。上記のビールの例でいえば、人が消費するビールの量は一定の限界があるとしても、ビールの種類によって値段が相違するのでビール消費に費やされる現金の量は別次元だということ。
  • あくまで同一人物を対象に限界効用を考えることが前提である。同一財が対象でも人によって発生させられる経済効用がことなるからである。
  • 個人の効用関数がu = u (x , y ) と表されるとき両財はGoods(消費すればするほど効用が高まる財)を想定している。したがってBads(消費すればするほど効用が減少する財。例えば労働や公害など。)を分析に用いることは出来ない。

出典[編集]

関連項目[編集]