特殊相対性理論

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特殊相対性理論(とくしゅそうたいせいりろん、: Spezielle Relativitätstheorie: Special relativity)とは、アルベルト・アインシュタインが1905年に発表した電磁気学の理論である。特殊相対論と呼ばれる事もある。

概説[編集]

この理論の誕生を記念するロシアの切手

19世紀末頃において、マックスウェル方程式は当時観測可能な電磁気現象をほとんど説明したが、その理論の前提として電場と磁場はエーテルなる絶対空間に固定された媒質を介して伝わるものであるとされていた。つまりはマックスウェル方程式はエーテルに対して静止した座標系から観測される電磁気現象を記述する理論であった[1]。素朴な疑問としてエーテルに対して運動している座標系から観測される電磁気現象の理論とマックスウェル方程式との関係が探られた。ヘルツローレンツフィッツジェラルドポアンカレなど[2]はいくつかの理論を提唱したが、運動する物体が実際に収縮する(ローレンツ)[3]などの現実には受け入れがたい理論であった。それらとはほぼ独立にアルベルト・アインシュタインは「Zur Elektrodynamik bewegter Körper 」(「運動している物体の電気力学について」[4])において、特殊相対性原理と光速不変の原理というものを導入することで運動座標系における電磁気現象を簡潔に静止座標系におけるマックスウェル方程式に帰着させる理論を提唱した。その理論が特殊相対性理論である。特殊相対性理論により絶対座標系(エーテルの存在)は否定され、その理論的帰結として磁場は電場の相対論効果である[5][6]ことが示唆された。

特殊相対性原理[7]
電気力学と光学(電磁波)[8]についての法則が、力学の方程式が成り立つようなすべての座標系に対して成り立つ[9]
光速不変の原理
光(電磁波)は真空中を、光源の運動状態のいかんにかかわらず一定の速度 c で伝わっていく

なお、この理論に「特殊」とつけるのは、後に発表されることになる一般相対性理論と区別するためである。この特殊相対性理論の発表から10年後にアインシュタインは、一般座標系まで含む理論である一般相対性理論を発表することになる。

特殊相対性理論の誕生のいきさつ[編集]

マックスウェル方程式が精確に成り立つような座標系を K 系、それに対して -v の速度で等速直線運動をしている座標系を V 系と呼ぶ事にする。V 系からは v の速度で運動する K 系の電磁気現象を観察する事になる。

ここで、K 系の時刻及び座標を t , x , y , z と表記し、同様に V 系におけるものを τ , ξ , η , ζ と表記することとする。 K 系の x 軸と V 系の ξ 軸は平行であるとし、V 系は K 系に対して -v で等速直線運動しているが t = 0 のとき V 系の原点は K 系の原点に一致するものとする。

運動媒質中における電磁場理論の探索[編集]

19世紀末ごろにおいて、エーテルに対して静止しているという理想的な座標系[10](K 系)においてはマックスウェル方程式は余分な摂動項無しに成り立つものとされたが、エーテルに対して運動している座標系においてはマックスウェル方程式はどの程度修正されて成立されるものかわからなかった。

運動座標系(V系)における電磁波の方程式を導出するにあたり、ヘルツは単純にガリレイ変換

ξ = x - vt 、τ = t

させることで運動座標系(V 系)における電磁場の方程式を導出した[11]が Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験によって否定された[12]

ローレンツは局所時間(local time)と呼ばれるものを導入し[13]、時間項を修正したガリレイ変換

ξ = x - vt , τ = t - (v/c2)x

を適用することでうまく Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験に合致する電磁場の方程式を導出した[14]

ところで、 Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験は β = v/c の一次の項までの効果に関するものであった。当然ローレンツの時間項を修正したガリレイ変換によって導出された電磁場の方程式は β の一次の項まで正しいものであったが、β2 に比例する効果を確かめるための実験であったマイケルソン・モーリー(Michelson-Moreley)の実験[15]の結果とは食い違いがあり結局否定された。マイケルソン・モーリーの実験に合致する運動座標系における電磁場の方程式を導出する変換として、ローレンツ[16]とフィッツジェラルド(FitzGerald)はそれぞれ独立にエーテルに対して運動する物体は 1/\sqrt{1-\beta^2} の割合で実際に縮む[17]という仮定(これをローレンツ−フィッツジェラルド収縮と呼ぶ[18])を持つ変換

\xi = {(x - v t) \over \sqrt{1 - \beta^2} } , \tau = { t - (v/c^2)x \over \sqrt{1 - \beta^2} }

を導入した。この変換をローレンツ変換(Lorentz transformation)と呼ぶ[19]

これは数学上の形式的な変換としては特殊相対性理論におけるものと同じであり、計算結果も同じとなるが

  • 運動する物体が実際に縮む[20]
  • 局所時間の物理的解釈ができない[21]

などその物理的解釈としては大いに不満の残るものであった。

絶対座標系(エーテルの存在)に基づく電磁場理論の非対称性とその解消[編集]

ローレンツらによる運動座標系における電磁場理論の探索の一方、そもそもマックスウェル方程式にはその前提からして根本的におかしな点があった。

例えば、棒磁石とコイルによる電磁誘導現象において、コイルを固定し棒磁石を動かすときにコイルに流れる電流の原因は、マックスウェル方程式の電磁誘導の法則から起電力が発生するためと説明される。ところが、棒磁石を固定してコイルを動かすときのコイルに流れる電流の原因は、電子に対してローレンツ力が働くためと説明される。

このように棒磁石とコイルの相対運動だけで定まる現象であるにもかかわらず、古典的な電磁気学は観測する系によってその現象を説明する理論が異なるという非対称な体系であった[22]。 理論の非対称性の解消に関心のあった[23]アルベルト・アインシュタインは互いに等速直線運動をする座標系で観測される同一の現象は理論として同一の形式であるべきという前提のもとでこの非対称性を解消する理論を提唱した[24]

特殊相対性原理と座標変換不変量としての光速[編集]

アインシュタインの理論において骨子となるのはマックスウェル方程式の座標系ごとの非対称性を解消とすることを目的とした特殊相対性原理(special principle of relativity)である。

以降、E(電場 [V/m])と B(磁束密度 [Wb/m2]または[T])を電磁場の基本物理量とし、D(電束密度 [A・s/m2])及び H(磁場の強さ [A/m])は EB から派生する副次的な量であるという立場を取る[25][26]。さらに、単位系はMKSA単位系をとるものとする[27]

ここで、代表的な例として K 系から真空中の電磁波を測定することを考える。真空中の電磁波の波動方程式はマックスウェル方程式から

\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial t^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial x^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial y^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial z^2} = \bold{0}
\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial t^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial x^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial y^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial z^2} = \bold{0}

と定式化される。 一方、V 系においても同じ電磁場を測定し定式化したならば、 上記方程式において K 系の変数 t, x, y, z ではなく V 系の変数 τ, ξ, η, ζ を用いて立てた方程式が、上記と同一の形式を持つ

\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial \tau^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial \xi^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial \eta^2} - \frac{\partial^2 \bold{E}}{\partial \zeta^2} = \bold{0}
\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial \tau^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial \xi^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial \eta^2} - \frac{\partial^2 \bold{B}}{\partial \zeta^2} = \bold{0}

にならなければならない[28]とするのが特殊相対性原理の主張である。ところで、上式中の電磁波(光)の速さ c も座標変換により c + δc というように摂動項 δc が付与されてしまうと、偏微分の項と異なりその摂動項を相殺する項が存在しない。そのため、この電磁波の波動方程式が特殊相対性原理を満たすためには、電磁波(光)の速さ c は座標変換に対して不変(invariant)であるとしなくてはならない。このように c を座標変換不変量として扱うことを光速不変の原理(principle of invariant light speed)と呼ぶ。

双方向時刻合わせと運動している物体に対する電磁波測距儀の定義[編集]

極めて遠方の地点に対しても適用可能な双方向時間配信(two-way time transfer)による時刻合わせ

原点 O にグリニッジ標準時を精確に刻む時計を兼ねた電波時計の送信局であるグリニッジ天文台の小型中継局 [29]が設置されており、かつマックスウェル方程式が精確に成り立つ座標系(K系)をグリニッジ系と呼ぶ事とする。つまり、グリニッジ系は観測者に対して静止した座標系で、その時刻はグリニッジ標準時を刻み [30] [31]、 測定される電磁気現象はマックスウェル方程式で精確に定式化可能な座標系であるとする。

なお、普通の電波時計[32] はグリニッジ天文台の中継局である送信局からのタイムコードを受信して時刻を修正するが、送信局-電波時計間の距離が非常に遠くなると電波(光)の有限性から普通の電波時計では時刻のズレが発生してくる[33]。 この時刻のズレを防ぐため、この小型中継局からのタイムコードの受信だけではなく電波時計から小型中継局へのタイムコードの送信[34]によって時刻修正を行う特殊な機能をもつ電波時計をグリニッジ電波時計と呼ぶこととする。

グリニッジ系の原点 O から非常に離れているものの精確な距離が不明な地点を G とする。ある時点における O の時刻と G に置かれたグリニッジ電波時計の時刻が

tG - tO = tO' - tG —(*)[35]

を満たすとき、O と G の時計は合っていると呼ぶ[36]。さらに、合っている時計がそれぞれ同じ時刻を指した時に発生した事象は同時であると呼ぶ[37]

レーダーによる運動している物体の位置測定[編集]

遠隔地にある対象物に電波からなるパルス波を発射し、その反射波が戻ってくるまでの時間をもとにその対象物までの距離を算出する装置をレーダーと呼ぶ。光速不変の原理からパルス波の位相速度は光速 c である。

特殊相対性理論の数理[編集]

ローレンツ変換[編集]

S系における時空の位置を表すベクトル(x^0,x^1,x^2,x^3)をS'系で見たとき(x'^0,x'^1,x'^2,x'^3)だったとすると、これらを以下の式を用いて変換できる。

x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu
\Lambda=\begin{pmatrix}
\gamma&-\gamma\beta&0&0\\
-\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\cosh\zeta&-\sinh\zeta&0&0\\
-\sinh\zeta&\cosh\zeta&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}

なお、逆変換は以下のように表せる。

x^\mu={(\Lambda^{-1})^\mu}_\nu x'^\nu
\Lambda^{-1}=\begin{pmatrix}
\gamma&\gamma\beta&0&0\\
\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\cosh\zeta&\sinh\zeta&0&0\\
\sinh\zeta&\cosh\zeta&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}

行列を用いず、(t,x,y,z)とvを用いて書き下すと、

\begin{align}
t'&=\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}\left(t-\frac{v}{c^2}x\right)\\
x'&=\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}(x-vt)\\
y'&=y\\
z'&=z
\end{align}

となる。参考としてガリレイ変換と対比させると


\begin{align}
t'&=t\\
x'&=x-vt\\
y'&=y\\
z'&=z
\end{align}

となり、速度が充分遅い場合(つまりγが充分1に近い場合)はガリレイ変換をローレンツ変換の近似として用いることができる。

自然の一般法則の4元形式化[編集]

力学などの物理現象を測定する場合は基本的に位置や速度の座標を表現する3次元ユークリッド空間における3次元座標(x, y, z)として表現される。このとき、時刻 t はその位置や速度の軌道の媒介変数という扱いである[38]。しかしながら、3次元座標にくわえて時刻(に光速 c をかけたもの)を現象の測定要素として加え、4元からなる座標(ct, x, y, z)として表現する事で、特殊相対性理論で要請される性質を形式化することができる。

4元形式化することに伴う主な変更点
  • 物理的測定対象に時刻が含まれる[39]
  • 慣性系間の座標変換が、ユークリッド空間の線型等長変換(ガリレイ変換など)からミンコフスキー空間の線型等長変換(ローレンツ変換)になる。
  • 慣性系同士の同時性が常に成り立たないことになる[40]
  • エネルギー保存則と運動量保存則が4元運動量の保存則として統一される[41]

基本的にすべての物理理論に対して4元形式化可能であり理論としては整理されたものとなるが、電磁気以外については測定として系統誤差扱いで問題なければ4元化する必要は無い。

特殊相対性理論から導かれる帰結[編集]

特殊相対論においては、力学と電磁気学を含む自然の一般法則はローレンツ変換に対して不変であることが要請される。

この項においては、注目する物体の速度\boldsymbol{v}=\frac{d\boldsymbol{x}}{dt}について\beta=\frac{v}{c}, \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}と定義する。

磁場は電場の相対論効果である[編集]

特殊相対性理論以前の電磁気学においては、電磁気現象とは電場(electric field)と磁場(magnetic field)と呼ばれるいくつかの関係式は満たすもののそれぞれ独立した物理的存在からなる現象であるとされる。ところが、特殊相対性理論は、磁場とは異なる座標系から測定した電場にすぎないことを示唆する。

定常電流が作る磁場の発見の経緯

1820年にエルステッドは、電流の流れる導線のそばに置かれていた磁針が動くことを発見した。その発見を聞いたビオサバールは、定常電流が流れる直線上の導線のまわりに生じた磁場の強さを測ることで、定常電流の周りの磁束密度の強さ B は、電流の強さ I に比例し、導線からの距離 r に反比例することを発見した[42]。すなわち、

B(r) = \frac{\mu_0}{2\pi}\frac{I}{r}

が成り立つことを実証した[43]。二人はこの結果からビオ・サバールの法則を導きだした。

電流とは自由電子の運動であることを思い出せば、これら電磁気学において基本的な電流と磁場の間の関係は、導線を「測定者に対して静止した座標系」、電流を「一定間隔を保ったまま導線に対してドリフト速度 v で等速直線運動する自由電子群の座標系」とみなした一つの特殊相対性理論の問題としても解釈できることがわかる[44]

直線電線を流れる定常電流の作る磁束密度の相対論的導出[編集]

円柱座標系を取る。さらに、z 軸に沿って無限に長いとみなせる同心円の直線電線(断面積 S [m2] とする。)が張られているものとする。電線には電流密度 i [A/m2] の定常電流が流れているものとし、z 軸から r [m] の位置にある磁束密度の強さを B [Wb/m2] とする。なお、真空の誘電率を ε0、真空の誘電率を μ0 で表すものとする。

電子や光量子の運動方程式[編集]

ニュートンの運動方程式m\frac{d^2x_i}{dt^2}=F_iは左辺にt=\frac{x^0}{c}での微分を含むため、ローレンツ変換に対して不変ではない。従って、ローレンツ変換を受ける時間の代わりに、固有時を用いて微分する。

四元速度u^\mu=\frac{dx^\mu}{d\tau}(特にu^0=\gamma cである)、四元加速度a^\mu=\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}とすると、相対論的運動方程式

ma^\mu=m\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}=f^\mu

と表せる。また、四元運動量p^\mu=mu^\muを用いて、

\frac{dp^\mu}{d\tau}=f^\mu

と書くこともできる。この項の右辺は四元力とよばれる。相対論においても作用・反作用の法則の成立は仮定されるので、四元運動量は保存する。

実際には固有時を用いた計算は煩雑なので、観測者にとっての時間を用いて計算することが多い。即ち、dt=\gamma d\tauを用いて

\gamma\frac{dp^\mu}{dt}=f^\mu
p^\mu=m\gamma\frac{dx^\mu}{dt}

である。

なお、四元速度・四元加速度・四元運動量は全て位置ベクトルにローレンツ不変量を乗じたり、ローレンツ不変量で微分したりしたものであるので、更にそれと等しい四元力も加え、これらはすべて反変ベクトルとなる。つまり、これらは位置ベクトルと同じ変換を受け、S系で見た位置xとS'系で見た位置x'

x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu

で結ばれれば、

u'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu u^\nu
a'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu a^\nu
p'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu p^\nu
f'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu f^\nu

もまた成立する。

相対論的エネルギー[編集]

前項で得た四元速度のノルムの平方を考えると、u^\mu=\gamma\frac{dx^\mu}{dt}であることから、u^\mu\eta_{\mu\nu}u^\nu=-(u^0)^2+(u^1)^2+(u^2)^2+(u^3)^2=-c^2。これより、特に四元運動量について

p^\mu\eta_{\mu\nu}p^\nu=-(p^0)^2+(p^1)^2+(p^2)^2+(p^3)^2=-(mc)^2

が得られる。これを固有時で微分することで、2p^\mu\eta_{\mu\nu}\frac{dp^\mu}{d\tau}=0となるが、成分ごとに書き下すと

f^0p^0=f^1p^1+f^2p^2+f^3p^3

となる。p^\mu=mu^\muおよびv^0=\gamma cに注意すると、

\frac{dp^0}{d\tau}=f^0=\frac{1}{\gamma c}(f^1u^1+f^2u^2+f^3u^3)

であるが、左辺はp^0の固有時での増加率であり、右辺は\frac{1}{\gamma}を相対論的効果による補正と解釈すると、仕事率cで除したものと解釈される。従って、p^0エネルギーcで除したものと解釈するのが自然と考えられる。

事実、vcであるときはテイラー展開することにより、

cp^0=m\gamma c^2\simeq mc^2+\frac{1}{2}mv^2

が得られ、この第二項はニュートン力学でいう運動エネルギーになっている。また、質量欠損核反応対消滅から、質量を持つ物質はmc^2のエネルギーを持つことが確かめられている。この第一項(γ=0であればcp^0そのもの)は静止エネルギーと呼ばれる。

ここで、光速で移動する有限のエネルギーを持った粒子を考える。この時、m\gamma c^2γが無限大に発散してしまうので、m=0でなければならない。この逆も成立するため、質量を持たずに有限のエネルギーを持つ物質は常に光速で走り続けねばならず、また光速で移動するエネルギーを持つ物質はすべて質量が0であることが分かる。

特殊相対性理論の実験的検証[編集]

特殊相対性理論は、次のような事象からも検証されている。

電場と磁場の統一理論としての特殊相対性理論の検証[45]
  • 電流が流れる電線の周りに磁場が生じる。
いわゆる時計の時刻の遅れの検証
  • 横方向のドップラー効果の測定(赤道上の時計の遅れの実験)[46]
メスバウアー効果を起こす放射線源とその吸収体について、放射線源を回転する円盤の中心に、吸収体を円周に配置して回転させるとメスバウアー効果が発生しなくなる[47]
  • ハフェル-キーティング実験(Hafele–Keating experiment)
航空機で運んだ原子時計と地上で静止したままの原子時計との間に発生するズレが理論と誤差の範囲で一致する[48]。なお、この実験における相対論効果は
  1. 特殊相対性理論における運動によるいわゆる時計の遅れ、
  2. 一般相対性理論における重力偏移によるいわゆる時計の遅れ、
  3. サニャック効果(Sagnac effect)
の3つが複合して現れる[49]
ほか
  • 宇宙線の衝突により発生する非常に寿命の短い粒子が地上で観測される(単純に光速度程度で移動したと考えても数百メートル程度しか移動できない)。
  • 粒子加速器で粒子を光速近くまで加速すると、崩壊するまでの寿命が延びる。この寿命の延びは厳密に特殊相対性理論による予測に従う。
  • 光速近くまで加速した電子等の荷電粒子を磁場によって曲げると、放射光と呼ばれる光が発生する。この光は特殊相対性理論の効果により前方に集中し、粒子軌道の接線方向への極めて指向性の高い光となる。
  • オットー・ハーン核分裂を発見したが、この反応の際の質量欠損により、大量のエネルギーが放出された。この放出は特殊相対性理論の帰結のひとつである質量とエネルギーの等価性 E=mc² において欠損相当の質量に換算される原子核内部の核子結合エネルギーである。

一般相対性理論へ[編集]

特殊相対性理論は重力のない状態での慣性系を取り扱った理論である。

後にアインシュタインは空間のゆがみとして重力場をも組み込んだ、より一般的な理論である一般相対性理論を発表した。この理論はアイザック・ニュートン万有引力論を全面的に書き換えるものになった。

特殊相対性理論と一般相対性理論の2つの理論をあわせて相対性理論と呼ばれる。

脚注[編集]

  1. ^ これは、電磁気学の理論設計に当たって流体力学を参考にしていたためであると思われる。実際、電磁気学はベクトル解析ストークスの定理など流体力学と共通する手法が多い。
  2. ^ 後藤(1970) p.386-388砂川(1999)
  3. ^ 混同されやすいが特殊相対性理論では実際に収縮するのではなく、同時である状態が座標系によって異なるため収縮して観測されるとされる
  4. ^ 矢野(1991)原論文訳 p.180-226
  5. ^ ファインマン電磁気学(1986) p.12 , 遠藤(2013)
  6. ^ たびたび、特殊相対性理論は物体が光速に近い速度ではないとその効果が観測されないと言われることがあるが、例えば電流の速度(電子のドリフト速度)は秒速1mm程度と光速からはかなり遅いが磁場として日常的に観測されている。
  7. ^ 矢野(1991)原論文訳 p.182
  8. ^ もともと光学と電磁気学は別の学問であったが、光が電磁波であることがわかると光学は電磁気学の一部としてあつかわれるようになった。 ローレンツ電子論などは特にその電磁気学としての光学の傾向が強い。
  9. ^ このような表現であるのは、力学についてはエルンスト・マッハによって絶対空間モデルがすでに否定されていたためである。逆に電磁気学についてはエーテルを仮定していたため絶対空間のモデルが用いられていた。
  10. ^ ローレンツはこのようなエーテルに対して静止している系のことをそのまま『静止している系』または『静止系』と呼んだ。 ローレンツ電子論
  11. ^ Hertz, Heinrich (1890b), Über die Grundgleichungen der Elektrodynamik für bewegte Körper 『運動物体に対する電気力学の基本方程式について』、その内容については 砂川(1999)が詳しい。
  12. ^ 広重(1980)『世代交代期における電磁理論』後藤(1970)砂川(1999)
  13. ^ ただし、ローレンツは局所時間をあくまで形式的なものだとした。
  14. ^ Lorentz, Hendrik Antoon (1895), Versuch einer Theorie der electrischen und optischen Erscheinungen in bewegten Körpern 
  15. ^ マイケルソン・モーリー(1887)
  16. ^ Lorentz, Hendrik Antoon (1904b), Electromagnetic phenomena in a system moving with any velocity smaller than that of light (光速以下の速度で運動している系における電磁現象)
  17. ^ ローレンツ電子論 p.214。ローレンツとポアンカレの理論によれば物体が縮むのはエーテルの影響である。そのため、エーテルの存在を捨てた特殊相対性理論においては当然運動する物体が実際に収縮するということはない。特殊相対性理論においては運動する物体が現実に収縮するのではなく、運動している座標系における同時の状態を静止している座標系では同時の状態として観測できず、同時からずれた状態を観測することに起因する。
  18. ^ 特殊相対性理論では物体が実際に縮むという意味のローレンツ−フィッツジェラルド収縮はしない。ローレンツの理論との混同を招き紛らわしいので特殊相対性理論では用いない方が良い用語である。
  19. ^ この変換に対して最初にローレンツ変換という名称をあたえたのはポアンカレである。 ポアンカレ(1905) 『la transformation de Lorentz』
  20. ^ ローレンツが提唱した時点ですでに楕円体に変形した電子の安定性についてAbrahamという人物から批判が出ていた。 ローレンツ電子論 p.235
  21. ^ 実際、アインシュタインの理論を認めたローレンツは ローレンツ電子論 p.360 において『わたくしが誤った主な原因は、変数 t だけが真の時間と見なしうるのであって、わたくしの局所時 t ' は補助的な数学的な量以上のものと見なしてはならないという観念を固守していたことである。それに反して、Einsteinの理論では t' は t と同じ役を果たす。』(t' はこの節におけるτである)と述懐している。
  22. ^ 現代においても特殊相対性理論抜きの電磁気学では同じように不自然な説明をするよりない。
  23. ^ 広重(1971)
  24. ^ A.Einstein (1905), Zur Elektrodynamik bewegter Körper, http://www.physik.uni-augsburg.de/annalen/history/einstein-papers/1905_17_891-921.pdf 「運動している物体の電気力学について」 矢野(1991)原論文訳 p.180-226
  25. ^ 歴史的には特殊相対性理論によって磁荷というものが実在せず、磁場の源は電流であると考えられることとなったことから DH は副次的なものという扱いになった。 砂川(1977) p.181
  26. ^ なお、
    • 細野 敏夫 『メタ電磁気学』 森北出版(株)、1999年ISBN 462773431X
    はこの立場を実例とともに非常に強く打ち出している。
    そもそも、現代において、なぜこのような混乱が生じているのかというと、マックスウェル方程式はその式の形状こそヘルツに整理されて以降変化していないが、その理論設計上の前提は大きく変わっているためであると考えられる。
    当初、電場と磁場は命題論理などにおける双対性原理を満たすような双対概念だと明らかに想定されて設計されたが、特殊相対性理論によって双対概念とまでは言えないことが示された。しかし、当時の実用上わざわざ変更する必要もなく、またもし変更するのであればベクトル解析から設計し直さなくてはならなくてはならなかったためか、そのまま理論的に曖昧な要素を多く含んだまま現代においても用いられている。
  27. ^ なお、特殊相対性理論の原論文はCGS単位系である。
  28. ^ 現代から考えれば当たり前であるが、ヘルツは運動座標系においてはヘルツ項なるものが必要であると主張したりしており、当時は当たり前ではなかった。ヘルツ項については 砂川(1999)が詳しい。
  29. ^ この小型中継局はグリニッジ天文台からのタイムコードの送受信によって時刻修正する必要なしに精確にグリニッジ標準時を刻むとする。つまり、電磁気現象の測定途中で時刻修正は行われないものとする。
  30. ^ ここでは「時間」という用語を用いずに「時計」と「時刻」という表現を用いている。これは、時間ということばは、物理学において重要な概念ではあるものの、曖昧さを含んでいるためである。
  31. ^ 「時間」という曖昧なことばの曖昧さを解消するため以下のように定義する。
    矢野(1991)原論文訳 p.183-186の文意を損なわないようにしたものの、かなり大きく編集を加えた。
    定義(地点 A の時間)
    「地点 A の時間」とは以下を意味する
    地点 A に置かれた時計の示す時刻(注:「置かれた」という表現に特に深い意味は無い)
    定義(地点 A において、時間 t に事象 P が発生した)
    「地点 A において、時間 t に事象 P が発生した」とは以下を意味する
    地点 A に置かれた時計が t の時刻を示したという事象と、A (の近傍)で発生した事象 P は、同時に確認された事象である(A の近傍において同時に観測された事象である)。
    以上の定義から曖昧さを含む「時間」という言葉は「時計の示す時刻」と「同時」という物理的に精確な言葉に置き換えられる。なお、時計の置かれている地点近傍で発生した二つの事象の同時の判断は日常における同時の判断と同一である。
    問題は、日常の直感から離れてしまう時計から(近傍とは言えない)離れた場所で発生した事象の同時の判断である。
  32. ^ 普通の電波時計の仕組みについては 岩間(2011) 参照。ただし、この特殊なグリニッジ電波時計については、一つのタイムコードを送信するのにかかる時間は(その実現可能性は一旦保留とし)一瞬であるとする。
  33. ^ 普通の電波時計の時刻合わせを用いた際の問題点
    例えば、普通の電波時計の送信局が地点 P、普通の電波時計が地点 Q に置かれているものとする。PQ間の距離が 60(s) × c(km/s) ≒ 1800万km ほど離れていると、例えば送信局から 00:00:00 のタイムコードが普通の電波時計に送信されてもその到達には 60秒 = 1分 かかる。つまり、普通の電波時計の時刻合わせの方式では、地点 Q では送信局 P の時刻の表示より時刻が1分遅れる。
    もしこの時刻合わせの方式を採用してしまうと、地点 P で時刻 00:00:00 のときに電波を放った場合、1800万km 離れた地点 Q には Q の時刻で 00:00:00 のときに電波が到着することになってしまう。これは、Q 地点で記録を取っていた人が P 地点まで戻って P の記録と突き合わせを行うと時間差 0 秒で電波が届く事になってしまい、光速不変の原理に反する。
    このため、この方式で時刻を合わせた場合、P で 00:00:00 に発生した事象と Q で 00:00:00 に発生した事象は同時に発生した事象であるとは言う事ができない(つまり時計は合っていない)。
    同時とするためには、この地点 P と地点 Q 間の時刻のずれは PQ間の距離が精確に60×c kmと判明しているならば、Q の時計に 60秒の補正(60秒進めること)を行えばよいが、異なる地点間の距離が不明、またはその他の理由から時刻の遅延が発生する場合は、このような補正を行う事は不可能である。そのため、そのような2点間の距離が既知であることに依存した補正ではない、普遍的な補正方法で時刻修正を行わなくてはならない。
  34. ^ 原点 O からの距離関係が不明な地点に置かれた電波時計は、原点 O にある小型中継局から時刻 tO のタイムコードが届いた瞬間、小型中継局へ自身のその瞬間の時刻のタイムコードを小型中継局へ送信するものとする。
  35. ^ ただし、
    tO は、原点 O からタイムコードを送信する O の時刻
    tG は、地点 G に届いたタイムコードを受送信する G の時刻
    tO' は、地点 G にタイムコードが届いた瞬間に送り返したタイムコードが原点 O に届いたときの O の時刻
    であるとする。
  36. ^ 矢野(1991)原論文訳 p.185
  37. ^ つまり、原点 O の時刻が例えば 00:00:00 で同じく地点 G の時刻が 00:00:00 を示したときにそれぞれの地点で 00:00:00 で発生した事象が、時計が合っていることからその時間評価(同時である事の判断)が可能になるということである。
  38. ^ なぜならば、古典的な問題では同時性は自明であり、重要なのは時間の長さであるためである。相対論では同時性が問題になるので時間の長さだけではなくある現象が発生した時刻が必要になる。
  39. ^ 現象によってはそもそも測定困難な場合もある。
  40. ^ 測定値として誤差の範疇に入るような差異であるにも関わらず机上の計算だけが複雑になってしまう
  41. ^ しかしながら、エネルギーはエネルギーとして大事であるため結局エネルギー項はエネルギー項として取り出して評価する事になるのであまりメリットがない。
  42. ^ 砂川(1977) p.136
  43. ^ なお、電流は流れてはいないものの帯電した無限に長いと見なせる電線は似たような関係を満たす電場を作る。
    直線導線に一様に分布した電荷の作る電場
    単位長さあたり電荷密度 λ [A・s/m] に帯電している無限に長い電線から距離 r 離れた点における電場の強さ E は、
    E(r) = \frac{1}{2\pi \epsilon_0}\frac{\lambda}{r}
    で求めることができる。後藤(1970) p.17
  44. ^ このような解釈をしてまとまった結果を与えている有名なものとしては、ファインマン電磁気学(1986) 13-6,7 pp.166-172 がある。原書該当部分
  45. ^ アインシュタインは一般相対性理論においては重力と慣性力を統一(等価原理)し、さらに晩年は電磁力と重力の統一を目指した統一理論を研究していた。
  46. ^ 矢野(1991) p.201。当時の検出精度の関係からか、悪名高い思考実験により地球の極と赤道上の実験として提案されたが、メスバウアー効果の発見により、実験室に配置した円盤上で検証可能となった。他にも検証不可能だと思われていた一般相対性理論の検証もメスバウアー効果の発見によって可能となり、重力偏移によるいわゆる時計の遅れなどについても既に検証されている。パウンド-レブカ実験(Pound–Rebka experiment)など。
  47. ^ H. J. Hay, J. P. Schiffer, T. E. Cranshaw, and P. A. Egelstaff (1960), Measurement of the Red Shift in an Accelerated System Using the Mössbauer Effect in Fe57, Atomic Energy Research Establishment, Harwell, England , 相対性理論と量子力学の誕生(1972) 第7,8章
  48. ^ 当時の映像
  49. ^ GPS(Global Positioning System ; 全地球測位システム)も同様にこの3つの効果が現れるため、その分補正を行なわなくてはならない。ジョーンズ(2001) pp.184-193

参考文献[編集]

全般
  • H.A.ローレンツ 『ローレンツ 電子論』 広重徹(訳)、1973年
  • 矢野健太郎 『アインシュタイン』、1991年
  • 砂川重信 『理論電磁気学』 紀伊國屋書店、1999年、第3版。
  • 砂川重信 『電磁気学』 岩波書店、1977年、新装版(1987)。
  • 後藤憲一 『詳解電磁気学演習』 山崎 修一郎、1970年
  • 広重徹 (1971), 相対論はどこから生まれたか, http://ci.nii.ac.jp/naid/110002072547 広重徹 『相対論の形成 −広重徹科学史論文集−』 西尾成子(編)、みすず書房、1980年
  • ファインマン 『ファインマン物理学〈3〉電磁気学』 宮島 龍興(訳)、岩波書店、1986年
  • 遠藤雅守 『電磁気学 初めて学ぶ電磁場理論』 森北出版、2013年
  • 広重 徹 『物理学史Ⅱ』 培風館、1967年ISBN 4563024066
流体力学について
  • 恒藤 敏彦 『弾性体と流体』 岩波書店〈物理入門コース 8〉、1983年ISBN 4000076485
時刻合わせ、電磁波測距儀、いわゆる時計の遅れの実験について
その他参照

関連項目[編集]

関連人物[編集]

外部リンク[編集]