特殊相対性理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
一般相対性理論
G_{\mu \nu} + \Lambda g_{\mu \nu}= {8\pi G\over c^4} T_{\mu \nu}
アインシュタイン方程式
入門
数学的定式化
関連書籍

特殊相対性理論(とくしゅそうたいせいりろん、ドイツ語 Spezielle Relativitätstheorie英語 Special relativity)とは、アルベルト・アインシュタインが1905年に発表した電磁気学の理論である。特殊相対論とも呼ばれる。

目次

概説 [編集]

この理論の誕生を記念するロシアの切手

19世紀末頃において、マックスウェル方程式は当時観測可能な電磁気現象をほとんど説明したが、その理論の前提として電場と磁場はエーテルなる絶対空間に固定された媒質を介して伝わるものであるとされていた。つまりはマックスウェル方程式はエーテルに対して静止した座標系から観測される電磁気現象を記述する理論であった。素朴な疑問としてエーテルに対して運動している座標系から観測される電磁気現象の理論とマックスウェル方程式との関係が探られた。ヘルツ、ローレンツ、ポアンカレなど[1]はいくつかの理論を提唱したが、運動する物体が実際に収縮する(ローレンツ)[2]などの現実には受け入れがたい理論であった。それらとはほぼ独立にアルベルト・アインシュタインは「Zur Elektrodynamik bewegter Körper 」(「運動する物体の電気力学について」)において、特殊相対性原理と光速不変の原理というものを導入することで運動座標系における電磁気現象を簡潔に静止座標系におけるマックスウェル方程式に帰着させる理論を提唱した。その理論が特殊相対性理論である。特殊相対性理論により絶対座標系(エーテルの存在)は否定され、その理論的帰結として磁場は電場の相対論効果である[3]ことが示唆された。

特殊相対性原理[4]
電気力学と光学(電磁波)[5]についての法則が、力学の方程式が成り立つようなすべての座標系に対して成り立つ[6]
光速不変の原理
光(電磁波)は真空中を、光源の運動状態のいかんにかかわらず一定の速度 c で伝わっていく

なお、この理論に「特殊」とつけるのは、後に発表されることになる一般相対性理論と区別するためである。この特殊相対性理論の発表から10年後にアインシュタインは、一般座標系まで含む理論である「一般相対性理論」を発表することになる。

特殊相対性理論の誕生のいきさつ [編集]

マックスウェル方程式が精確に成り立つような座標系を K 系、それに対して -v の速度で等速直線運動をしている座標系を V 系とする。V 系からは v の速度で運動する K 系の電磁気現象を観察する事になる。

ここで、K 系の時刻及び座標を t , x , y , z と表記し、同様に V 系におけるものを τ , ξ , η , ζ と表記することとする。 K 系の x 軸と V 系の ξ 軸は平行であるとし、V 系は K 系に対して -v で等速直線運動しているが t = 0 のとき V 系の原点は K 系の原点に一致するものとする。

運動媒質中における電磁場理論の探索 [編集]

19世紀末ごろにおいて、エーテルに対して静止しているという理想的な座標系においてはマックスウェル方程式は余分な摂動項無しに成り立つものとされたが、エーテルに対して運動している座標系においてはマックスウェル方程式はどの程度修正されて成立されるものかわからなかった。

運動座標系(V系)における電磁波の方程式を導出するにあたり、ヘルツは単純にガリレイ変換

x = ξ - vτ 、t = τ

させることで運動座標系(V 系)における電磁場の方程式を導出したが Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験によって否定された。

ローレンツは局所時間(local time)と呼ばれるものを導入し[7]、時間項を修正したガリレイ変換

x = ξ - vτ 、t = τ - (vξ)/c2

させることでうまく Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験に合致する電磁場の方程式を導出した。

ところで、 Wilson や Röntgen-Eichenwald の実験は β = v/c の一次の項までの効果に関するものであったことから、当然ローレンツの時間項を修正したガリレイ変換によって導出された電磁場の方程式は β の一次の項まで正しいものであったが、β2 に比例する効果を確かめるための実験であったマイケルソン・モーリー(Michelson-Moreley)の実験によって否定された。マイケルソン・モーリーの実験に合致する運動座標系における電磁場の方程式を導出する変換として、ローレンツとフィッツジェラルド(FitzGerald)は独立に運動する物体は 1/\sqrt{1-\beta^2} の割合で実際に縮むという仮定(これをローレンツ−フィッツジェラルド収縮と呼ぶ)を持つ変換

x = {(\xi - v \tau) \over \sqrt{1 - \beta^2} } , t = {\tau - (v/c^2)\xi \over \sqrt{1 - \beta^2} }

を導入した。この変換をローレンツ変換(Lorentz transformation)と呼ぶ[8]

これは数学上の形式的な変換としては特殊相対性理論におけるものと同じであり、計算結果も同じとなるが

  • 運動する物体が実際に縮む
  • 局所時間の物理的解釈ができない

などその物理的解釈としては大いに不満の残るものであった。

相対性原理の導入 [編集]

当時は、「エーテルという物質が空間に充満しており、電磁波はエーテルを媒体にして空間を伝播する」と考えられていた[9]。しかし、この「エーテル」に対する地球の相対速度を検出すべく1881年に行われたマイケルソン・モーリーの実験では、そのような相対速度は検出されなかった[10]。この結果は、地球が宇宙に対して絶対的に静止しているか、あるいは、そもそも絶対静止空間という考え自体が間違っているか、のいずれかを意味していた[11]。このような背景のもと、アインシュタインは、次の二つの仮定(公理)のみをもとに思考実験をするとどのような結論が得られるかをまとめた。

  1. 力学法則はどの慣性系においても同じ形で成立する(相対性原理[12]
  2. 真空中の光の速さは光源の運動状態に無関係に一定である(光速不変の原理[13]

これらの仮定を満たすために、それまで暗黙のうちに「一様で変化しない」とみなされていた空間時間を変えるという方法を用いることになった。

「上図のように、電車内で生じた光が、車内から見ても車外から見ても、同じ光速度 c に見えるようにするためには、どうすればよいか。」[14]

アインシュタインの答えは、「電車内の時間が車外と同じように進むとすると、車内からは光の速度が遅く見えてしまい、不自然である。車内の時間の進み方が遅くなるとすれば、車内から見ても光速度(距離÷時間)は変わらないだろう。」 というものだった[14](静止していない慣性系での光速度不変についてはアルバート・マイケルソンエドワード・モーリーの厳密な光速度測定において考えられていた)。このように考えると、確かに、光の速度は車内からも車外からも同じ c に見えるが、代わりに時間の速さや空間における物体の長さが変化することになる[14]。この考え方は、それ以前の考え方とまったく相容れなかったので、大論争を引き起こした。

特殊相対性理論から導かれる帰結 [編集]

相対性理論においては、観測者S系に対して速度vで動くS'系において(簡単のため動く方向はx軸方向とする)、\beta=\frac{v}{c} と \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} という2つの量が相対論的効果の現れ方を示し、重要である(古典力学への近似v→0ではβ=0, γ=1である)。これらは双曲線関数を用い、\beta=\tanh\zetaと表すこともある。また、相対性理論においては時間の概念と空間の概念は時空として一つにまとめられ、位置と時間はミンコフスキー空間内の反変ベクトルの1点として、まとめて世界点として表される。物体が時空に存在するとき、その運動はこの空間内の曲線として表される。このベクトルは次元を揃えて、(ct,x,y,z)=(x^0,x^1,x^2,x^3)とすると極めて見通しがよい。この時(x^0,x^1,x^2,x^3)(x'^0,x'^1,x'^2,x'^3)内積

x^\mu\eta_{\mu\nu}x^\nu=-x^0x'^0+x^1x'^1+x^2x'^2+x^3x'^3

として表される(アインシュタインの縮約記法を用い、計量\eta=\begin{pmatrix}-1&0&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1\end{pmatrix}にとった)。慣習に従い、ラテン文字i, j, k, ... = 1, 2, 3 、ギリシア文字μ, ν, ρ, ... = 0, 1, 2, 3 の添え字を取るものとする。以下この記法を用いて記述する。

なお、記法には様々な流儀がある。代表的なものを挙げれば、ここでは時間成分を第0成分に取ったが、第4成分に取り(x,y,z,ct)=(x^1,x^2,x^3,x^4)と表す流儀、ここでは計量を(-1,1,1,1)に取ったが、(1,-1,-1,-1)と取る流儀などが存在する。また、相対論的電磁気学においてはウィキペディアのガイドラインに則りSI単位系に基づき記述したが、記述の簡潔さからCGS単位系を用いる教科書もある。

相対性と光速度の不変 [編集]

特殊相対論が力学の法則を再構成することにより、従来無条件に受け入れられていた基本的な概念が大きく様変わりする。

長さや時間は、もはや絶対的なものではなく、どのような慣性系から観察するかによって異なる、相対的なものとなる。

また、絶対静止空間の存在は否定される。この帰結によってマイケルソン・モーリーの実験においてエーテルに対する相対運動が検出されなかった結果をうまく説明することができる。

特殊相対論において不変な量は光速 c である。光の速度はどのような慣性系から観察しても同じ値を示す。また、質量を持った物体は光速を決して超えることができないことも示された。

ローレンツ変換 [編集]

S系における時空の位置を表すベクトル(x^0,x^1,x^2,x^3)をS'系で見たとき(x'^0,x'^1,x'^2,x'^3)だったとすると、これらを以下の式を用いて変換できる。

x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu
\Lambda=\begin{pmatrix}
\gamma&-\gamma\beta&0&0\\
-\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\cosh\zeta&-\sinh\zeta&0&0\\
-\sinh\zeta&\cosh\zeta&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}

なお、逆変換は以下のように表せる。

x^\mu={(\Lambda^{-1})^\mu}_\nu x'^\nu
\Lambda^{-1}=\begin{pmatrix}
\gamma&\gamma\beta&0&0\\
\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\cosh\zeta&\sinh\zeta&0&0\\
\sinh\zeta&\cosh\zeta&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}

行列を用いず、(t,x,y,z)とvを用いて書き下すと、

\begin{align}
t'&=\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}\left(t-\frac{v}{c^2}x\right)\\
x'&=\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}(x-vt)\\
y'&=y\\
z'&=z
\end{align}

となる。参考としてガリレイ変換と対比させると


\begin{align}
t'&=t\\
x'&=x-vt\\
y'&=y\\
z'&=z
\end{align}

となり、速度が充分遅い場合(つまりγが充分1に近い場合)はガリレイ変換をローレンツ変換の近似として用いることができる。

この下では、以下のような常識的には奇妙なことが起こる。

  • 同時刻の相対性(ある系において同時刻に起こった2つの現象が別の系では別時刻に起こること)
  • 時間の遅れ(動いている時計は遅れること、ウラシマ効果ともいわれる)
  • ローレンツ収縮(動いている物の長さは縮むこと)

同時刻の相対性 [編集]

S系における位置ベクトルx^\muがS'系にどう変換されるかを考える。 この時、x^0=0であるとすると、S系ではx^\muが原点と同時刻であることになるが、

x'^0=\gamma(x^0-\beta x^1)

であることから、一般にはx'^0\neq0となり、S'系で見たときには原点とは同時刻でない。

この例から、相対性理論においては同時刻とはあくまで相対的なものであり、ある系において同時刻だからと言って別の系では必ずしも同時刻ではないことが分かる(「同時性の相対性」→Relativity of simultaneity)。ただし同時性が相対的なものであることが、因果律を冒すものでない。互いに因果関係を及ぼしうる二つの事象の間での前後関係は、いかなる慣性系で観測しようと保たれる。

時間の遅れ [編集]

S系でx^1=\beta x^0, x^2=x^3=0の曲線で表される(つまりx軸方向に速度vで移動する)物体を考えることにする。この物体が静止してみえるS'系でx'^0だけの時間が経過したとき、S系では

x^0=\gamma(x'^0+\beta x'^1)=\gamma x'^0

だけの時間が経過している。\gamma\ge1であるため、静止系から見た動いている系の時計は常に遅れることが分かる。

ローレンツ収縮 [編集]

S'系において静止している、(x'^1,x'^2,x'^3)=(0,0,0),(y'^1,y'^2,y'^3)=(l,0,0)の曲線で表される2点について、S系からの変換を記すと、

x'^1=\gamma(x^1-\beta x^0)
y'^1=\gamma(y^1-\beta y^0)

ここで、長さを計測するということは時空の中の時間成分が同じ2点(つまり同時刻の2点)を選んで、その長さを計測するということである。つまり、x^0=y^0であるから、

x'^1-y'^1=\gamma(x^1-y^1)

となり、静止系で見た長さの方が動いている系で見た長さより長くなる、つまり動く物体の長さは縮んで計測されるということが分かる。


速度の合成 [編集]

相対論においては、もはやニュートン力学のように単純に速度の合成を加法で表すことはできない。この項では下付添字の1をS1系、2をS2系、12をS1系からみたS2系の値とする。

同方向の合成であれば、ローレンツ変換を2回行うことにより、

\begin{align}&\begin{pmatrix}
\cosh\zeta_1&-\sinh\zeta_1&0&0\\
-\sinh\zeta_1&\cosh\zeta_1&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\cosh\zeta_{12}&-\sinh\zeta_{12}&0&0\\
-\sinh\zeta_{12}&\cosh\zeta_{12}&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}
\\=&\begin{pmatrix}
\cosh(\zeta_1+\zeta_{12})&-\sinh(\zeta_1+\zeta_{12})&0&0\\
-\sinh(\zeta_1+\zeta_{12})&\cosh(\zeta_1+\zeta_{12})&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}\end{align}

から、双曲線関数の合成公式を用いると

\beta_{2x}=\frac{\beta_{1x}+\beta_{12x}}{1+\beta_{1x}\beta_{12x}}

が得られる。速度を用いて書き下すと

v_{2x}=\frac{v_{1x}+v_{12x}}{1+\frac{v_{1x}v_{12x}}{c^2}}

である。

時間もローレンツ変換を受けることにより、直交する方向の速度も変換を受ける。\beta_{2y}=\beta_{12y}\frac{d(ct_{12})}{d(ct_2)}であり、なおかつ\frac{d(ct_2)}{d(ct_{12})}=\frac{d}{d(ct_{12})}\gamma_1(ct_{12}+\beta_1x_{12})=\gamma_1(1+\beta_1\beta_{12x})を満たすことから、

\beta_{2y}=\frac{\beta_{12y}}{\gamma_1(1+\beta_1\beta_{12x})}

が得られる。速度を用いて書き下すと

v_{2y}=\sqrt{1-\frac{{v_1}^2}{c^2}}\frac{v_{12y}}{(1+\frac{v_1v_{12x}}{c^2})}

これから、光速を越える速度はない仮定の下で、合成速度が光速となる必要十分条件はいずれか一方の速度が光速であることが分かる。

光円錐と固有時 [編集]

ここで、ローレンツ不変量である世界間隔固有時という概念を導入する。ローレンツ変換は、ミンコフスキー空間における内積を用いて定義したノルムs=\sqrt{x^\mu\eta_{\mu\nu}x^\nu}=\sqrt{-(x^0)^2+(x^1)^2+(x^2)^2+(x^3)^2}を不変に保つ。 従って、物体の 時空における存在を表現する曲線に沿った以下の積分、

c\tau=i\int ds = \int\sqrt{(dx^0)^2-(dx^1)^2-(dx^2)^2-(dx^3)^2}

を用いて世界間隔sと固有時τを定義すると、これはローレンツ不変量である(なお、固有時τは観測者にとっての時間tdt=\gamma d\tauの関係式で結ばれる)。固有時は物体と共に移動する系(物体の静止系)において流れる時間である。

光円錐を表す図

ここで、経路として2つの世界点を結ぶ直線と(この直線は特に世界線とよばれる)、x^0=x^1の四次元的回転体、つまり図における四次元空間内の「円錐」を考える(この円錐は光円錐とよばれる)。s^2 < 0である2点、つまり原点に対して図における円錐の内部は、時間的とよばれる。後に示すように、質量を持つ物質は光速以下でしか動けないため、この光円錐の内部でしか影響を及ぼし、かつ及ぼされることはない。s^2=0である2点、つまり原点に対して図における円錐の表面は光的とよばれる。質量を持たない物質は光速で動けるため、この光円錐の表面まで影響を及ぼし、かつ及ぼされうる。光速以上の速度で移動する物質や情報がない限り、図における原点に影響を与えることができるのは図の光円錐の下部であり、原点が影響を与えうるのは光円錐の上部に限られる。s^2>0である2点、つまり原点に対して図における円錐の外部は空間的とよばれる。物質や情報の光速以上の移動が可能でない限り、空間的な2点は全くの無関係であり、互いに影響を及ぼすことも及ぼされることもない。

相対論的物理学 [編集]

特殊相対論においては、力学と電磁気学を含むすべての物理法則はローレンツ変換に対して不変であることが要請される。

ニュートン力学は、ガリレイ変換に関してのみ不変でローレンツ変換を行うと式の形が変わってしまい、相対論の下では近似でしか成立しない。そこで、相対論的運動方程式の理論的導出においては、ニュートン力学に修正を加え、c\to\infty の極限でニュートンの運動方程式に一致させるようにパラメータを設定した。

一方、電磁気学のマクスウェル理論は不変の光速を導くこともあり、そもそもがローレンツ不変の法則となっている。従って、マクスウェル理論は全く修正を受けずにそのまま相対論においても通用するが、より相対論的な洗練した記法に書き換えることが可能である。この項ではそのような書き換えについても記述する。

相対論においては、異なる慣性系から見たときに物理量が変化を受けないのか(ローレンツ不変)、それとも位置や時間と同じような変換を受けるのかといった事項を考察することが非常に重要であり、ここに着目して記述することとする。

この項においては、注目する物体の速度\boldsymbol{v}=\frac{d\boldsymbol{x}}{dt}について\beta=\frac{v}{c}, \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}と定義する。

相対論的運動方程式 [編集]

ニュートンの運動方程式m\frac{d^2x_i}{dt^2}=F_iは左辺にt=\frac{x^0}{c}での微分を含むため、ローレンツ変換に対して不変ではない。従って、ローレンツ変換を受ける時間の代わりに、固有時を用いて微分する。

四元速度u^\mu=\frac{dx^\mu}{d\tau}(特にu^0=\gamma cである)、四元加速度a^\mu=\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}とすると、相対論的運動方程式

ma^\mu=m\frac{d^2x^\mu}{d\tau^2}=f^\mu

と表せる。また、四元運動量p^\mu=mu^\muを用いて、

\frac{dp^\mu}{d\tau}=f^\mu

と書くこともできる。この項の右辺は四元力とよばれる。相対論においても作用・反作用の法則の成立は仮定されるので、四元運動量は保存する。

実際には固有時を用いた計算は煩雑なので、観測者にとっての時間を用いて計算することが多い。即ち、dt=\gamma d\tauを用いて

\gamma\frac{dp^\mu}{dt}=f^\mu
p^\mu=m\gamma\frac{dx^\mu}{dt}

である。

なお、四元速度・四元加速度・四元運動量は全て位置ベクトルにローレンツ不変量を乗じたり、ローレンツ不変量で微分したりしたものであるので、更にそれと等しい四元力も加え、これらはすべて反変ベクトルとなる。つまり、これらは位置ベクトルと同じ変換を受け、S系で見た位置xとS'系で見た位置x'

x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu

で結ばれれば、

u'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu u^\nu
a'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu a^\nu
p'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu p^\nu
f'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu f^\nu

もまた成立する。

相対論的エネルギー [編集]

前項で得た四元速度のノルムの平方を考えると、u^\mu=\gamma\frac{dx^\mu}{dt}であることから、u^\mu\eta_{\mu\nu}u^\nu=-(u^0)^2+(u^1)^2+(u^2)^2+(u^3)^2=-c^2。これより、特に四元運動量について

p^\mu\eta_{\mu\nu}p^\nu=-(p^0)^2+(p^1)^2+(p^2)^2+(p^3)^2=-(mc)^2

が得られる。これを固有時で微分することで、2p^\mu\eta_{\mu\nu}\frac{dp^\mu}{d\tau}=0となるが、成分ごとに書き下すと

f^0p^0=f^1p^1+f^2p^2+f^3p^3

となる。p^\mu=mu^\muおよびv^0=\gamma cに注意すると、

\frac{dp^0}{d\tau}=f^0=\frac{1}{\gamma c}(f^1u^1+f^2u^2+f^3u^3)

であるが、左辺はp^0の固有時での増加率であり、右辺は\frac{1}{\gamma}を相対論的効果による補正と解釈すると、仕事率cで除したものと解釈される。従って、p^0エネルギーcで除したものと解釈するのが自然と考えられる。

事実、vcであるときはテイラー展開することにより、

cp^0=m\gamma c^2\simeq mc^2+\frac{1}{2}mv^2

が得られ、この第二項はニュートン力学でいう運動エネルギーになっている。また、質量欠損核反応対消滅から、質量を持つ物質はmc^2のエネルギーを持つことが確かめられている。この第一項(γ=0であればcp^0そのもの)は静止エネルギーと呼ばれる。

ここで、光速で移動する有限のエネルギーを持った粒子を考える。この時、m\gamma c^2γが無限大に発散してしまうので、m=0でなければならない。この逆も成立するため、質量を持たずに有限のエネルギーを持つ物質は常に光速で走り続けねばならず、また光速で移動するエネルギーを持つ物質はすべて質量が0であることが分かる。

相対論的流束 [編集]

(\partial_0,\partial_1,\partial_2,\partial_3)=\left(\frac{\partial}{\partial x^0},\frac{\partial}{\partial x^1},\frac{\partial}{\partial x^2},\frac{\partial}{\partial x^3}\right)

と微分作用素を定義すると、この微分作用素は共変ベクトルとして働く。つまり、つまり、S系で見た位置xとS'系で見た位置x'

x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nu

で結ばれれば、S系の微分作用素∂とS'系の微分作用素∂'は

\partial'_\mu=\eta_{\mu\nu}{\Lambda^\nu}_\rho\eta^{\sigma\rho}\partial_\nu

で結ばれることになる。ここで

\Lambda=\begin{pmatrix}
\gamma&-\gamma\beta&0&0\\
-\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}

の時

\eta\Lambda\eta=
\begin{pmatrix}
\gamma&\gamma\beta&0&0\\
\gamma\beta&\gamma&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{pmatrix}=\Lambda^{-1}

である。

「流れ」を表す量は四元ベクトルとして表すと見通しが良くなると考えられる。一般に量qに対して密度ρ流束密度jを定義すると、

\rho=\frac{\partial^3q}{\partial x\partial y\partial z}
\boldsymbol{j}=\rho\boldsymbol{v}=\left(\frac{\partial^3}{\partial y\partial z\partial t},\frac{\partial^3}{\partial z\partial t\partial x},\frac{\partial^3}{\partial t\partial x\partial y}\right)q

であるから、これらの次元を揃え、微分を(\partial_0,\partial_1,\partial_2,\partial_3)を用いて表すと、

(\rho c,j_x,j_y,j_z)=(\partial_1\partial_2\partial_3,\partial_2\partial_3\partial_0,\partial_3\partial_0\partial_1,\partial_0\partial_1\partial_2)cq

となる。

更に微小体積要素d^4x=dx^0dx^1dx^2dx^3はローレンツ不変であるからq=\int d^4x\frac{d\hat{\rho}}{d(c\tau)}とおくと、、qがローレンツ不変であれば\hat{\rho}もローレンツ不変となり、

(j^0,j^1,j^2,j^3)=(\rho c,j_x,j_y,j_z)=\hat{\rho}\left(\frac{dx^0}{d\tau},\frac{dx^1}{d\tau},\frac{dx^2}{d\tau},\frac{dx^3}{d\tau}\right)

つまり、

j^\mu=\hat{\rho}u^\mu

という形で密度と流束密度を四元流束密度にまとめて表せる。これもまた反変ベクトルとなり、位置と同じ変換

j'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu j^\nu

を受ける。なお、ここで\hat{\rho}は流れが静止して見える系での密度であり、\rho=\gamma\hat{\rho}の関係式が成立する(γはローレンツ収縮による因子である)。

\partial_\mu j^\mu=\frac{\partial(\rho c)}{\partial(ct)}+\frac{\partial j_x}{\partial x}+\frac{\partial j_y}{\partial y}+\frac{\partial j_z}{\partial z}=s

とすると、sはソースとなる。特にqが保存量である場合、連続方程式

\partial_\mu j^\mu=\frac{\partial(\rho c)}{\partial(ct)}+\frac{\partial j_x}{\partial x}+\frac{\partial j_y}{\partial y}+\frac{\partial j_z}{\partial z}=0

が成立する。

相対論的電磁気学 [編集]

マクスウェル方程式には電荷密度1成分と電流密度3成分のソースが現れるが、これを前項の手法を用いて四元ベクトルとして扱う。マクスウェル方程式と電磁ポテンシャルの定義式を変形することによって、

\square A^\mu=\partial_\nu\eta^{\nu\rho}\partial_\rho A^\mu=-\mu_0j^\mu

が得られる(電磁ポテンシャルはローレンスゲージ\partial_\mu A^\mu=0を用いた)。ここでA^\mu=\left(\frac{\phi}{c},A_x,A_y,A_z\right)ダランベルシアン\square=\partial_\nu\eta^{\nu\rho}\partial_\rho=-\frac{\partial^2}{\partial(ct)^2}+\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}はローレンツ不変な微分作用素であるため、四元ポテンシャルA^\muもまた反変ベクトルとなり、位置ベクトルと同様の変換を受ける。

電場磁場は合計6成分あるので、2階の反変交代テンソルとして得られる。A_\mu=\eta_{\mu\nu}A^\nu=\left(-\frac{\phi}{c},A_x,A_y,A_z\right)を用いてF_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\muとすると、電磁場テンソルF^{\mu\nu}=\eta^{\mu\rho}\eta^{\nu\sigma}F_{\rho\sigma}


\begin{align}
F&=\begin{pmatrix}
0&
\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial x}-\frac{\partial A_x}{\partial(ct)}&
\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial y}-\frac{\partial A_y}{\partial(ct)}&
\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial z}-\frac{\partial A_z}{\partial(ct)}\\
\frac{\partial A_x}{\partial(ct)}-\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial x}&
0&
\frac{\partial A_y}{\partial x}-\frac{\partial A_x}{\partial y}&
\frac{\partial A_z}{\partial x}-\frac{\partial A_x}{\partial z}\\
\frac{\partial A_y}{\partial(ct)}-\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial y}&
\frac{\partial A_x}{\partial y}-\frac{\partial A_y}{\partial x}&
0&
\frac{\partial A_z}{\partial y}-\frac{\partial A_y}{\partial z}\\
\frac{\partial A_z}{\partial(ct)}-\frac{\partial(-\phi/c)}{\partial z}&
\frac{\partial A_x}{\partial z}-\frac{\partial A_z}{\partial x}&
\frac{\partial A_y}{\partial z}-\frac{\partial A_z}{\partial y}&
0
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
0&E_x/c&E_y/c&E_z/c\\
-E_x/c&0&B_z&-B_y\\
-E_y/c&-B_z&0&B_x\\
-E_z/c&B_y&-B_x&0\end{pmatrix}
\end{align}

と表すことができる。

マクスウェル方程式を変形することにより、ポテンシャルを経ずとも直接に電磁場テンソルが従うべき方程式を求めることもでき、

\begin{align}\partial_\nu F^{\mu\nu}&=\left\{\begin{matrix}
\boldsymbol{\nabla}\cdot\frac{\boldsymbol{E}}{c}&(\mu=0)\\
-\frac{\partial}{\partial(ct)}\frac{E_i}{c}+(\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{B})_i&(\mu=i)
\end{matrix}\right\}\\&=\mu_0(\rho c,j_x,j_y,j_z)^\mu&=\mu_0j^\mu\end{align}
\partial^\mu F^{\nu\rho}+\partial^\nu F^{\rho\mu}+\partial^\rho F^{\mu\nu}=0

が得られる(ただし\partial^\mu=\eta^{\mu\nu}\partial_\nu)。4階完全交代テンソル{\epsilon^{\mu\nu}}_{\rho\sigma}を用いて*F^{\mu\nu}=\frac{1}{2}{\epsilon^{\mu\nu}}_{\rho\sigma}F^{\rho\sigma}とすると、

*F=\begin{pmatrix}
0&B_x&B_y&B_z\\
-B_x&0&-E_z/c&E_y/c\\
-B_y&E_z/c&0&-E_x/c\\
-B_z&-E_y/c&E_x/c&0\end{pmatrix}

であり、第二式は

\partial_\nu*F^{\mu\nu}=\left\{\begin{matrix}
\boldsymbol{\nabla}\cdot\boldsymbol{B}&(\mu=0)\\
-\frac{\partial}{\partial(ct)}B_i-\left(\boldsymbol{\nabla}\times\frac{\boldsymbol{E}}{c}\right)_i&(\mu=i)
\end{matrix}\right\}=0

と書ける。第一式がソースのあるマクスウェル方程式(ガウスの法則、アンペール・マクスウェルの法則)、第二式がソースのないマクスウェル方程式(磁荷の非存在、ファラデーの法則)をまとめたものである。このうち本質的なものは第一式であり、第二式は電磁場テンソルがポテンシャルを用いてF_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\muと記述できる(つまり積分可能である)ことと同値である。この第二式を指して特にビアンキの恒等式という。

この電磁場テンソルはやはり位置がx'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nuと変換されるならば、

F'^{\mu\nu}={\Lambda^\mu}_\rho{\Lambda^\nu}_\sigma F^{\rho\sigma}

と変換される。

これを用いることにより、ローレンツ力密度は

f^\mu=\frac{dp^\mu}{d\tau}=F^{\mu\nu}\eta_{\nu\rho}j^\rho=\begin{cases}\boldsymbol{j}\cdot\frac{\boldsymbol{E}}{c}&(\mu=0)\\\rho E_i+(\boldsymbol{j}\times\boldsymbol{B})_i&(\mu=i)\end{cases}

と、極めて見通しよく表される。

エネルギー・運動量テンソル [編集]

自由な物体の四元運動量密度は、静止系での密度を\hat{\rho}とすると、\hat{\rho}u^\muとおける。これを新たな「量」と考えることにして、物体の移動に伴うこの量の四元流束密度を考えると、

T^{\mu\nu}=\hat{\rho}u^\mu u^\nu

となる。これはエネルギー・運動量テンソルと呼ばれ、一般相対論において極めて重要な役割を果たす。表すものは(0,0)成分がエネルギー密度、(0,i)成分が運動量密度、(j,0)成分がエネルギーの流束密度、(i,j)成分が運動量の流束密度である。定義から明らかに分かるようにこれは2階反変対称テンソルであり、x'^\mu={\Lambda^\mu}_\nu x^\nuと変換されるならば、

T'^{\mu\nu}={\Lambda^\mu}_\rho{\Lambda^\nu}_\sigma T^{\rho\sigma}

と変換される。

エネルギー・運動量は保存されることが要請されるので、ソースは0となり、

\partial_\mu T^{\mu\nu}=0

が常に成立する。

一方、電磁場はローレンツ力を及ぼすことができるため、力学的エネルギー・運動量テンソルだけではなく電磁気学的エネルギー・運動量テンソルも考慮に入れ、この和が保存されねばならないこととなる。

T^{\mu\nu}=\frac{1}{\mu_0}\left(F^{\mu\rho}\eta_{\rho\sigma}F^{\nu\sigma}-\frac{1}{4}\eta^{\mu\nu}F^{\kappa\lambda}\eta_{\kappa\rho}\eta_{\lambda\sigma}F^{\rho\sigma}\right)

と電磁場のエネルギー・運動量テンソルを定義すると、先に挙げた二本のマクスウェル方程式を用いることで、電磁場から電荷を持つ力学的物体へのエネルギー・運動量の輸送を表す式、

\partial_\mu T^{\mu\nu}=j^\mu\eta_{\mu\rho}F^{\rho\nu}=f^\nu

が示される。これも同様に対称テンソルであり、力学的エネルギー・運動量テンソルと同様の変換を受ける。このテンソルを行列表示すると、

T=
\frac{1}{\mu_0}\begin{pmatrix}
\frac{1}{2}\left[\left(\frac{E}{c}\right)^2+B^2\right]&\frac{\boldsymbol{E}}{c}\times\boldsymbol{B}\\
{}^t\left(\frac{\boldsymbol{E}}{c}\times\boldsymbol{B}\right)&\frac{1}{2}\left[\left(\frac{E}{c}\right)^2+B^2\right]-\left(\frac{\boldsymbol{E}}{c}\otimes\frac{\boldsymbol{E}}{c}+\boldsymbol{B}\otimes\boldsymbol{B}\right)
\end{pmatrix}

となる。

相対論的波動 [編集]

一般の波動を取り扱うのは煩雑なので、場を媒質として光速で伝播する波動についてのみ述べる。

光速で伝播する波動はローレンツ不変な微分演算子ダランベルシアンを用いて、

\square \xi=\left[-\frac{\partial^2}{\partial(ct)^2}+\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right]\xi=0

波動方程式を満たすものとして表せる。相対論的電磁気学の議論から直ちに、真空中では

\square A^\mu=0
\square F^{\mu\nu}=0

が成立し、四元ポテンシャルや電磁場が波動として光速で伝播することが分かる。

波の変位の大きさがどの系で観測しても同じであることから、波数k角振動数ωについて、

\omega t-\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}=-\frac{\omega}{c}ct+k_xx+k_yy+k_zz=k^\mu\eta_{\mu\nu}x^\nu

がローレンツ不変量でなければならない。ここで、四元波数

(k^0,k^1,k^2,k^3)=\left(\frac{\omega}{c},k_x,k_y,k_z\right)

を導入した。この四元波数もまた反変ベクトルとなり、位置ベクトルと同じ変換を受ける。

ソースが運動している場合、非相対論と同様にドップラー効果が生じる。ソースが観測者の方向に移動している場合、四元波数がローレンツ変換に従うことからk'^0=\gamma(k^0+\beta k^1)=k^0\gamma(1+\beta)であり(波動が光速で伝播することからk^0=c\omega=k^1を用いた)、従って

\omega'=\sqrt{\frac{1+\beta}{1-\beta}}\omega

が成立する。この式は波源が動いているか観測者が動いているかに依らない(音波の場合は媒質の静止系という特別な系があるため一般に波源と観測者は対称でない)。ソースが観測者と直交する方向に移動している場合、ソースはそれ自身の固有時で振動するので、

\omega'=\frac{\omega}{\gamma}=\omega\sqrt{1-\beta^2}

が成立する。このように、相対論では、非相対論では関与しなかった観測者と直交する向きの移動についてもドップラー効果が現れる。これは横ドップラー効果とよばれる。

相対論的解析力学 [編集]

相対論的作用はローレンツ不変であることが要請されるので、電磁場中の荷電粒子(電荷e)の作用は

\begin{align}
S&=-\int d\tau \left(mc^2-eu^\mu A_\mu\right)\\
&=-\int d\tau \left(mc\sqrt{u^\mu\eta_{\mu\nu}u^\nu}-eu^\mu A_\mu\right)
\end{align}

と表すことができる。ここで荷電粒子のラグランジアン\tilde{L}とすると、相対論的ラグランジアンとオイラー=ラグランジュ方程式

\tilde{L}=-mc\sqrt{u^\mu\eta_{\mu\nu}u^\nu}+eu^\mu A_\mu
\frac{d}{d\tau}\frac{\partial\tilde{L}}{\partial u^\mu}-\frac{\partial\tilde{L}}{\partial x^\mu}=0

となり、これを計算すると先に得た電磁場中の運動方程式

m\frac{du^\lambda}{d\tau}=e\eta^{\lambda\mu}\left(\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu\right)u^\nu

を得ることができる。このラグランジアンもまた当然ローレンツ不変である。

作用積分の積分変数をτからtに置換すると、ローレンツ共変ではないラグランジアン

L=-\frac{mc^2}{\gamma}+e(-\phi+\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{A})

が得られる。これが従うオイラー・ラグランジュ方程式は

\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial v_i}-\frac{\partial L}{\partial x_i}=0

である。

このラグランジアンから正準運動量が得られ、

P_i=\frac{\partial L}{\partial v_i}=m\gamma v_i+eA_i=p_i+eA_i

となる。ハミルトニアン

H=\boldsymbol{P}\cdot\boldsymbol{v}-L=c\sqrt{(\boldsymbol{P}-e\boldsymbol{A})^2+(mc)^2}+e\phi

となり、これは正準方程式

\frac{dx_i}{dt}=\frac{\partial H}{\partial p_i},\,\frac{dp_i}{dt}=-\frac{\partial H}{\partial x_i}

を満たす。

一方、電磁場もまた解析力学的な形式で考察することが可能である。場に対する「作用」をラグランジアン密度を用いて

S=\int d^4x\mathcal{L}

とおくと、こちらのラグランジアン密度はローレンツ不変になる。\partial_\mu\phi^\nu={\phi^\nu}_{,\mu}と表すことにして、この場の強さ\phi^\muとその微分{\phi^\mu}_{,\nu}を用いて表したこのオイラー・ラグランジュ方程式は

\partial_\nu\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial{\phi^\mu}_{,\nu}}-\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi^\mu}=0

となる。電磁場のラグランジアン密度は

\begin{align}
\mathcal{L}&=-\frac{1}{4\mu_0}\eta^{\mu\rho}\eta^{\nu\sigma}(A_{\nu,\mu}-A_{\mu,\nu})(A_{\sigma,\rho}-A_{\rho,\sigma})+j^\mu A_\mu\\
&=-\frac{1}{4\mu_0}F^{\mu\nu}F_{\mu\nu}+j^\mu A_\nu\\
&=\frac{1}{2\mu_0}\left[\left(\frac{E}{c}\right)^2-B^2\right]-\rho\phi+\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{A}
\end{align}

で表され、先の\phi^\muA_\muとしてオイラー・ラグランジュ方程式を整理するとマクスウェル方程式

\partial_\rho\eta^{\nu\rho}(A_{\nu,\mu}-A_{\mu,\nu})=\mu_0j^\mu

が得られる(ビアンキの恒等式は先に述べたように電磁場テンソルが積分可能なことから導出される)。

相対論的質量 [編集]

特殊相対性理論を解釈する上で、相対論的質量というものを導入する場合がある。質量 m の物体が、速度 v で運動している場合、

m_r=\cfrac{m}{\sqrt{1-\cfrac{v^2}{c^2} }}

で表される相対論的質量 mr を持つというものである。

たしかに、相対論的速度域での物体の運動は、質量が増大したかの様になるが、単純に質量 mr の物体である様に扱えるわけではない。

相対論的質量は誤解をまねきやすい概念なので使わない方が望ましく、(一般相対性理論も含めて)相対論では、物体の質量は座標系によらない不変量と考えればよい。

ニュートン力学の運動方程式によれば、質量 m の物体に力 F を加えると、

\mathbf{a} = \frac{\mathbf{F}}{m}

で表される加速度 a が生じる(Faベクトルである)。

しかし、この運動方程式は、ローレンツ変換に対して共変ではないので相対論的速度で運動する物体に対しては適用できない。

特殊相対性理論の運動方程式によれば、質量 m で、速度 v で運動している物体に力 F を加えると、

\mathbf{a} = \cfrac {\mathbf{F} \; - \; \left(\mathbf{F}\cdot\cfrac{\mathbf{v}}{c}\right)\cfrac{\mathbf{v}}{c}} {\cfrac{m}{\sqrt{1-\cfrac{|\mathbf{v}|^2}{c^2}}}}

で表される加速度 a が生じる(vFa はベクトルである)。

特殊相対性理論の運動方程式からは、次のことが言える。

  • ニュートン力学と違い、力 F と加速度 a の方向は(特殊な場合を除き)一致しない。
  • したがって、ニュートン力学の様に \frac{\mathbf{F}}{\mathbf{a}}慣性質量を定義できない。

とはいえ、相対論的速度で運動する物体が、速度が増加するにしたがって加速されにくくなるのは事実である。

この加速されにくさを、よく言われているように質量増大で表すと次の様になる。

速度 v と力 F が垂直の場合、運動速度が光速の 90% になると質量は静止時の約2.3倍に、光速の 99% では静止時の約7.1倍になる。

速度 v と力 F が平行の場合、運動速度が光速の 90% になると質量は静止時の約12.1倍に、光速の 99% では静止時の約356倍になる。

力の加わる方向により質量が異なることから、古くはこれらのことを「横質量」、「縦質量」と呼んでいたこともある。

速度が増加するにしたがって加速されにくくなる効果は実際に観測されている。

荷電粒子を高速に加速する粒子加速器であるサイクロトロンは、加速粒子の速度が相対論的速度に達するとそれ以上加速を続けることが出来なくなる。これは、見かけの慣性質量が増えたことにより磁場中での粒子の曲がり方が鈍くなるためであると解釈できる。

一般相対性理論においてもほぼ同様で、相対論的速度域での物体の運動は、慣性質量と重力質量が増大したかの様になるが、単純に質量 mr の物体であるように扱えるわけではない。

相対論的質量の考え方は、一般相対性理論における等価原理とは相容れないものである。現在の標準的解釈では相対論的質量の考え方を用いることは一般的ではなくなっている。

相対論における「光速」 [編集]

これまでなしてきた議論から分かるように、相対論においては「位置と時刻」「運動量とエネルギー」「密度と流束密度」「スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャル」「角振動数と波数」のように、組になって四元ベクトルとして表現される物理量が多々ある(四元ベクトルに限らなければ「電場と磁場」も組にして表現される)。このように、相対論においては光速は単に「光の速さ」としての意味に留まらず、このような四元ベクトルの時間成分と空間成分の次元を合わせるための定数と考えることができる。つまり、これらのペアになった物理量は本質的に同じ次元として捉えるべきであり、同じ次元として捉えた際の単位間の換算に用いる定数が光速であると捉えられる。

このため、光速は相対論的議論におけるあらゆる場面で時間成分に登場し、しばしば煩雑になりがちである。素粒子物理学ではそのため、c=1とする自然単位系を用いる。これは喩えるならば、従来まではx方向・y方向はSI単位系で、z方向は尺貫法で計測していたのをすべてSI単位系で統一して計測するようなものであり、相対論的記述をする上においては極めて合理的である。

特殊相対性理論の幾何 [編集]

特殊相対性理論ではある事象を記述するために、空間における位置を表す3つの座標と時間を表す1つの座標からなる 3+1 次元の4元ベクトル (x, y, z, ct) を用いる。この4元ベクトルにおける座標は観測者の属する座標系によって変わってくる。

慣性系 S(x, y, z, ct) と、S に対して x 方向に速度 v で等速直線運動をしている慣性系 S'(x',y',z',ct') を考える。SS' は座標原点は一致しているとする。

ここでは、y, z 方向については考慮する必要が無い。簡単にするため、これらを無視して慣性系 S(x,ct) と慣性系 S'(x',ct') として考える。

特殊相対論以前の考え方は、SS' の間は以下に示す「ガリレイ変換」と呼ばれる1次変換によって結び付けられるというものだった。

 \begin{pmatrix} x' \\ ct' \end{pmatrix} = 
\begin{pmatrix} 1 & -v/c \\ 0 & 1 \end{pmatrix} 
\begin{pmatrix} x \\ ct \end{pmatrix}

さて、SS' は共に慣性系であり、お互いに対して等速直線運動をしているので、S に対して等速直線運動をしているものは S' に対しても等速直線運動をしている。

したがって、特殊相対論の元でも( x, ct) と (x',ct') との間は1次変換で変換されなければならない。

ただし、光速度不変の原理特殊相対性原理を導入することにより、特殊相対論ではガリレイ変換とは異なるローレンツ変換とよばれる1次変換式が得られる。

まず、以下の式を満たす s, s' を導入する。

s^2 = c^2t^2 - x^2
(s')^2 = c^2(t')^2 - (x')^2

s = 0, s' = 0 のとき、上式は座標原点から発した光の波面をあらわす。

ここで、光速度不変の原理により、座標原点から発した光の波面はどの慣性系でも等しくなるため、s^2 = 0 が成り立てば (s')^2 = 0 であり、その逆も成り立つ。

これによって、s^2 = k(s')^2k は比例定数、ここでは空間と時間は均質であると仮定している)が成り立つ。

特殊相対性原理によると、「いかなる慣性系においても物理法則は不変である」ため、上記において慣性系 S と慣性系 S' を入れ替えても同じ議論が成立する。

このため、逆の (s')^2 = ks^2 も同様に成り立つ必要がある。したがって k = 1 となり(v = 0 のときも、この等式が成り立つため、k = -1 とはならない)、以下の等式が得られる。

c^2t^2-x^2=c^2(t')^2-(x')^2

ここまでの議論を拡張することで、いかなる慣性系においても、

s^2=c^2t^2-x^2-y^2-z^2

が不変となるという結果が得られる。ここで \tau^2 = -s^2 としたとき、\tau固有時と呼ぶ。

以上をもとに簡単な計算により、(x,ct) と (x',ct') を結びつける1次変換として以下に示すローレンツ変換が導かれる(4元ベクトルを用いた、より一般的な変換式についてはローレンツ変換を参照)。

 \begin{pmatrix} x' \\ ct' \end{pmatrix} =\frac{1}{\sqrt{1-v^2/c^2}}  \begin{pmatrix} 1 & -v/c \\ -v/c & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ ct \end{pmatrix}

特殊相対論の幾何

なお、速度 v が光速 c に比べ、十分に小さい場合、ローレンツ変換の式はガリレイ変換の式と等しくなる。

このため、光速より十分小さい速度領域では、ニュートン力学を用いても十分良い近似となる。

右図は上記の関係を座標平面に表したものである。慣性系 S を黒で、慣性系 S' を赤で示している。

事象 E1 と E2 は慣性系 S では同時に発生しているが、慣性系 S' では異なる時間に起こっていることがわかる。

また、慣性系 S' では2単位時間を要する事象が、慣性系 S では、より長い時間を要していることも見られる。

時間と空間がひとつになった4次元の空間のことを時空と呼ぶ。右図は時空図、もしくは相対性理論が幾何学で考えられることを発見したヘルマン・ミンコフスキーの名をとってミンコフスキー空間と呼ばれる。

上述の通り、ミンコフスキー空間の各点は事象を表し、各事象の軌跡は世界線を成す。また事象間の距離は固有時に依っており、特殊相対性理論において不変量である。

下図は特殊相対論による、長さの変化、時間の遅れを図示したものである。静止時に長さ l_0 の棒が、慣性系 S' と共に速度 v で移動している様子を描いている。

左側の図は慣性系 S から見たもの、右側の図は慣性系 S' から見たものである。

4次元空間では、この棒は帯状に見えている(図中の黄色の帯)。異なる慣性系に属する観察者は、この帯を異なる切り口から見ていることになる。

帯中にある黒太線は、各慣性系におけるある瞬間にみた棒の様子を示している。慣性系ごとに切り口が異なるため、慣性系 S' では棒の長さは l_0 であるが、慣性系 S では、ローレンツ収縮により棒は短くなっている。

図中には、時刻 0 に棒の一端から出た光が棒の他端を反射して、戻ってくる様子も描かれている(図中の青矢印)。慣性系 S' では2秒(2単位時間)で戻ってきているが、慣性系 S では、より長い時間で戻ってきているのがわかる。

特殊相対論の幾何2

特殊相対論の実験的検証 [編集]

特殊相対性理論は、次のような事象からも検証されている。

  • 航空機に乗せた原子時計に生じるわずかな遅れが理論と一致する。但し、これは重力の影響であるとも言われている。
  • 宇宙線の衝突により発生する非常に寿命の短い粒子が地上で観測される(単純に光速度程度で移動したと考えても数百メートル程度しか移動できない)。
  • 粒子加速器で粒子を光速近くまで加速すると、崩壊するまでの寿命が延びる。この寿命の延びは厳密に特殊相対性理論による予測に従う。
  • 光速近くまで加速した電子等の荷電粒子を磁場によって曲げると、放射光と呼ばれる光が発生する。この光は特殊相対性理論の効果により前方に集中し、粒子軌道の接線方向への極めて指向性の高い光となる。
  • オットー・ハーン核分裂を発見したが、この反応の際の質量欠損により、大量のエネルギーが放出された。この放出は特殊相対性理論の帰結のひとつである質量とエネルギーの等価性 E=mc² において欠損相当の質量に換算される原子核内部の核子結合エネルギーである。

一般相対性理論へ [編集]

特殊相対性理論は重力のない状態での慣性系を取り扱った理論である。

後にアインシュタインは空間のゆがみとして重力場をも組み込んだ、より一般的な理論である一般相対性理論を発表した。この理論はアイザック・ニュートン万有引力論を全面的に書き換えるものになった。

特殊相対性理論と一般相対性理論の2つの理論をあわせて相対性理論と呼ばれる。

量子力学と特殊相対性理論の関係 [編集]

量子力学や相対性理論の登場する以前の物理学は、ニュートン力学によって物体の運動が、また、マクスウェルの方程式によって電磁波の振る舞いが記述されていた[15]

量子力学が発展する過程で1905年にアルベルト・アインシュタインは、電磁波に粒子としての性質があることを仮定しなければ光電効果などの物理現象を説明できないことを見出した(光量子仮説)。この光量子仮説は、アーサー・コンプトン電子によるX線散乱コンプトン効果を見出したなど複数の有力な証拠により支持された。これによってが波(電磁波)としての性質をもちつつ、粒子としての振る舞いをするということが明らかになった[16]

運動する物体の振る舞いと電磁波の振る舞いが本質的に同じものであるということが示唆される一方で、それらがニュートン力学マクスウェルの方程式では記述できないという矛盾は、ド・ブロイによって物質波の概念が与えられ、実験的に支持されるようになると一層顕著になった。

出典 [編集]

  1. ^ 後藤(1970) p.386-388
  2. ^ 混同されやすいが特殊相対性理論では実際に収縮するのではなく、同時である状態が座標系によって異なるため収縮して観測されるとされる
  3. ^ ファインマン(1986) , 遠藤(2013)
  4. ^ 矢野(1991)原論文訳 p.182
  5. ^ もともと光学と電磁気学は別の学問であったが、光が電磁波であることがわかると光学は電磁気学の一部としてあつかわれるようになった。例えば、ローレンツの電子論など
  6. ^ このような表現であるのは、力学についてはマッハによって絶対空間モデルがすでに否定されていたためである。逆に電磁気学についてはエーテルを仮定していたため絶対空間のモデルが用いられていた。
  7. ^ ただし、ローレンツは局所時間をあくまで形式的なもので、対応する実際の現象はないと考えた
  8. ^ 最初にローレンツ変換という名称をあたえたのはポアンカレである
  9. ^ 朝永(1981)p.56
  10. ^ 朝永(1981)p.60
  11. ^ 朝永(1981)p.61
  12. ^ レオポルト・インフェルト(1981)p.49
  13. ^ マックス・ボルン(1980)p.207
  14. ^ a b c アインシュタイン(1981)p.38~51
  15. ^ レオポルト・インフェルト(1981)p.22~32
  16. ^ 都築(1995)p.113~122

参考文献 [編集]

関連書籍 [編集]

関連項目 [編集]

人物
相対性理論
物理学
数学
哲学

外部リンク [編集]