ブラックホール

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<<シミュレーション画像>>天の川を背景として、太陽質量の10倍のブラックホールを600km離れた場所から見たと想定して、理論的に計算し、描画してみたシミュレーション画像である(Ute Kraus 作成、2004年[1])。光がブラックホールに落ちていくために真っ暗に描かれ、その周囲は光がねじ曲げられて、背景の星が集まるように描画されている。

ブラックホール英語:black hole)とは、きわめて高密度で大質量で、きわめて強い重力のために、物質だけでなくさえも脱出できない天体のこと[1]。きわめて強い重力のためにさえも抜け出せなくなった時空の領域、とされている。

「ブラック・ホール」(黒い穴)という名は、アメリカ物理学者ジョン・ホイーラーが1967年にこうした天体を呼ぶために編み出した[2]。それ以前は「collapsar[3] コラプサー」(崩壊した星)などと呼ばれていた。

目次

[編集] 概説

21世紀初頭現在、ブラック・ホールは仮説的存在であり、ブラックホール自体を直接観測することにはまだ成功していない。だが、宇宙の特定のエリアにおいて、ブラックホールが存在すると想定すれば、理論的に予想される物質の運動に相当する宇宙ジェットや、降着円盤やブラックホールに吸い込まれていく物質が出すと理論的に予想されるX線は観測されていることから、ブラックホールが実際に存在することはほぼ確実だろうと多くの科学者から見なされている。

ブラックホールは大質量恒星超新星爆発したのち、自己重力によって極限まで収縮することによって生成したり、あるいは巨大なガス雲が収縮することで生成すると考えられている。外部世界との境界は事象の地平面 (event horizon) と呼ばれる。

銀河の中心には太陽質量×106から×1010倍程度の超大質量ブラックホール (super-massive black hole) が存在すると考えられており、超新星爆発後は、太陽質量の10倍から50倍のブラックホールが形成されると考えられている。20世紀末には両者の中間の領域(太陽質量の×103程度)のブラックホールの存在をうかがわせる観測結果も報告されており、それは中間質量ブラックホール (intermediate mass black hole; IMBH) と呼ばれている。

ブラックホールの周囲には非常に強い重力場が作られるため、ある半径より内側では脱出速度光速を超え、ですら外に出てくることが出来ないとされる。この半径をシュヴァルツシルト半径と呼び、この半径を持つ球面を事象の地平面(シュヴァルツシルト面)と呼ぶ。

ブラックホールは単に元の星の構成物質がシュヴァルツシルト半径よりも小さく圧縮されてしまった状態の天体であり、事象の地平面の位置に何か構造があるわけではない。よってブラックホールに向かって落下する物体は事象の地平面を超えてそのまま中へ落ちて行く。ブラックホールから離れた位置の観測者から見ると、物体が事象の地平面に近づくにつれて、相対論的効果によって物体の時間の進み方が遅れるように見える。よってこの観測者からは、ブラックホールに落ちていく物体は最終的に事象の地平面の位置で永久に停止するように見える[4]。同時に、物体から出た光は赤方偏移を受けるため、物体は落ちていくにつれて次第に赤くなり、やがて可視光から赤外線電波へと移り変わって、事象の地平面に達した段階で完全に見えなくなるとされる[要出典]

ブラックホールには密度、重力が無限大である重力の特異点があるとされる。シュヴァルツシルト・ブラックホールでは中心にある。

すべての物質を呑み込むブラックホール解に加えて、アインシュタイン方程式の解にはそれを時間反転させたホワイトホール (white hole) 解が存在する.[5]

[編集] 理論史

ブラックホールの理論的可能性については、18世紀後半に先駆的な着想があった[6]フランス政治家数学者ピエール=シモン・ラプラスは、アイザック・ニュートンの提唱した光の粒子説ニュートン力学から、光も万有引力の影響を受けると考え、その理論を極限まで推し進めて、「十分に質量と密度の大きな天体があれば、その重力は光の速度でも抜け出せないほどになるに違いない」と予測した[6]。またイギリスジョン・ミッチェルも同様の論文を発表した[6]。しかしその後、光の波動説が優勢になり、この着想は忘れられた[7]

一般相対性理論
G_{\mu \nu} + \Lambda g_{\mu \nu}= {8\pi G\over c^4} T_{\mu \nu}
アインシュタイン方程式
入門
数学的定式化
関連書籍

現代的なブラックホール理論は、アルベルト・アインシュタイン一般相対性理論が発表された直後の1917年に、理論の骨子であるアインシュタイン方程式カール・シュヴァルツシルトが特殊解として導いたことから始まった[7]シュヴァルツシルト解は、時空が球対称で自転せず、さらに真空であるという最も単純な仮定で一般相対性理論の厳密解を導くことで得られた。 アインシュタイン本人は、一般相対論で数学的には特異点がありうることを、しぶしぶ認めていたものの、それはあくまで数学的な話であって、こと現実の世界に関して言えば、そんなものはナンセンスで、現実にはありえない、と考えていた[8]

1930年に、インド出身でイギリスに留学に来ていた当時19歳のスブラマニアン・チャンドラセカールが、ブラックホールが存在することを初めて理論的に指摘した[9]。だが、チャンドラセカールのこの指摘を、当時の科学界の重鎮アーサー・エディントンがまともに検討することもなく頭ごなしに否定してしまった[9]。このエディントンの乱暴な態度が、その後40年にわたりブラックホールの研究が滞る結果を招いてしまった[9]。つまりブラックホール研究の芽が一旦摘まれてしまった。またこのやりとりはチャンドラセカールのその後の人生にも暗い影を落とすことになった[9]

1939年ロバート・オッペンハイマーとその大学院生のハートランド・スナイダーが、アインシュタインが成功をおさめることになった流儀を真似て、ひとつの思考実験を行ってみた[8]。二人は、質量の大きな星が燃え尽き、突然自重で潰れる時、いったい何が起きるのか、と自らに問いかけてみたのである[8](当時、太陽のような軽い星の場合は、地球サイズで鉄の密度にまで収縮してしまう、と分かっていた[10]。それより若干重い星については、もっと収縮が進み直径10マイル程度のボールに収縮すると、フリッツ・ツビッキーウォルター・バーデが仮説を立てていた[10])。

オッペンハイマーらは、当時の物理学界を賑わせていた中性子星存在の議論の中で、恒星が崩壊してできる中性子星の質量には上限があり、超新星爆発の後に形成される中性子の核の質量がその上限よりも重い場合、中性子星の段階にとどまることなくさらに崩壊するであろう、と、重力崩壊現象を予言した[要出典]。しかし、オッペンハイマーはここまで研究を進めたところで、原子爆弾開発を目的とするマンハッタン計画に参画することとなり、彼はロスアラモス研究所の所長に任命された。それ以来、彼のブラックホール研究は途絶えたものと思われる。

ほとんどの物理学者はこうした説明を何ひとつとして、真剣に受け止めていなかった[10]。 ただし、フレッド・ホイルは別だった。とっぴな説明のしかたをすることにかけては一流のホイルは[10]、太陽の何百万倍もの超星(スーパースター)は熱核反応ではなくて重力によって電波銀河にパワーを供給している、と提唱した。そして、超星くらい巨大な物質の集まりを自重で崩壊させてみれば、その質量の90%までがエネルギーに変換され、クエーサーの燃料となりうるはずだ、と指摘した[11](これはシュミットがクエーサーの正体を暴く前のことだった[11])。後述のダラス会議では(アラン・サンディジが膨張する銀河の写真を披露したのだが)、ホイルの提唱はこの会議の参加者をなお一層興奮させた[11]

1963年12月、クエーサーの恐るべき力やそれに関する天文学の前途を考えるために宇宙論研究者、物理学者、天文学者300人ほどがダラスに招集され、「一般相対性理論と相対論的宇宙物理学をめぐるダラス国際シンポジウム」通称「ダラス会議」が開かれた[10][12][13]

この会議の10年ほど前から、物理学者ジョン・ホイーラーは特異点と重力崩壊の問題を考え続けていた[11]。また、宇宙の秘密を探し求めるとしたら、それが終わるところ、形而上的な意味でも現実的な意味でも黙示録の世界と言える、重力崩壊が最上の領域だ、と考えた[14]。彼は、計算してみた結果、物質とその本質をなす様々な属性(例えば、物質反物質との違いというような、物理法則を支えている根本的な属性)は、特異点でただ単純に消えてしまうのだ、と確信した[14]。ホイーラーは、ダラス会議で熱弁をふるい、ダイナミクスの最終段階で崩壊しゆく系にいる観測者にとっては、銀河の集まりのどこに位置するかに応じて、アインシュタイン-フリードマンの膨張し収縮する宇宙の描像を指し示すことができ、観測者は、すべてが膨張し崩壊してゆく系・宇宙の内側に身を置くことになるのであり、その物理を解析しようとすることは意味がある、といった主旨のことを述べた[15]。ただし、聴衆の中の赤方偏移や球状星団の色を論じるのになれていた天文学者らは、ホイーラーの話に興味を示さなかったと言い、オッペンハイマーですらこうした考えに何ら反応を示さなかったという[15]

1963年ロイ・カーが軸の周りに一定の角速度で回転するブラックホールについての厳密解を導いた[要出典][16]

ロジャー・ペンローズ。2007年2月、75歳の時。

ホイーラーが(当時)「最終状態の問題」とデリケートな言い回しで表現した問題を、ロジャー・ペンローズは明晰かつエレガントな手法で追及した[15]。ペンローズは何世代も前から偉業を成し遂げてきた知的一族の末裔で、本人は幾何学を専門としていた[15]デニス・シアマにその才能を一般相対性理論の領域で活かすべきだ、と誘われた[15]ペンローズは一般相対性理論に対して、強力な定理やエレガントな証明を用いて、まるで四次元における幾何学問題であるかのようにアプローチした[17]。当時多くの科学者が、特異点というのはあくまで架空のものだとか、あくまで数学的な理想化の産物だと、願ったり確信したりしていた[17]。「星は回転しており、物質はたぶん、はね飛ばされ、中心のまわりで渦をまいて、その結果、一体になって特異点を形成するようなことはない」と願われたり、信じられたりしたのである[17]。ところが1965年に、ペンローズが星の崩壊は立派に特異点に収束するであろうことを証明した[17]。物質とエネルギーが充分に集まっているところならばどこでも時空に終わりが来ることがある、と証明したのである[17]。シアマはこれを「一般相対論にとって最も重要な貢献」と呼んだ[17]

なお、ダラス会議から1年とたたない段階で、ホイーラーはスティーヴン・ホーキングと出会っていた[15]。ホーキングは後に、事実上ホイーラーの最良の教え子となり、ブラックホールの研究を最も確固たる形で受け継ぐことになった[15]。ホーキングはのみ込みの良い学生で、ペンローズの手法をすっかり吸収し[17]、逆向きの星の崩壊と考えることができる、開いた宇宙(永久に膨張しつづける宇宙)に、そうした手法を応用した[17]

ジョン・ホイーラーは、何年にもわたって、こうした「物理と宇宙の窮地」あるいは「重力の黙示録」とも言える天体を研究していたが、それをもっと劇的に表現する方法はないものかと探し続けており、1967年にニューヨークで開かれた会議において「ブラックホール」(黒い穴)と命名した[2]。この命名は研究のPRの面で役立った[2][18]

1960年代の終盤から、イギリスの理論物理学者らは活発に刺激を与えあい理論を生み出すようになり、ペンローズとシアマ・グループは、特異点、時空の構造、物質の末路に関する定理を数多く生み出していった[17]。例えば当時生み出された有名な定理をひとつ挙げると、崩壊する物質もしくはブラックホールに落ち込むものは何であれ、あるいは特異点にぶつかって存在が潰滅してしまうか、あるいは(もしブラックホールが回転しているとしたら)的の真ん中のワームホールに命中してもうひとつの時空に(さらに言えばもう一つの宇宙に)ホワイトホールとして噴出するか、だと決定を下すものである[19]。彼らの定理や問題は、ペンローズや、シアマの弟子でフランス人のブランドン・カーターらが生み出した一種の幾何学的な簡略記法で提出された[19]。この記法はペンローズ・ダイアグラムと呼ばれることになった[19]。この記法では、宇宙の過去と未来の全ては数学的に三角形に移し替えられる[19]。数学的には、ホワイトホールはブラックホールの反対のものであり、時空を貫くワームホールであり、いとこ宇宙とつながるエネルギーの噴出口である[20]。だが、彼らが検討してみると、あいにくとワームホールもホワイトホールのどちらもありそうにないと判明した[20]、という。ホワイトホールから噴出する質量・エネルギーが、すぐ近くの空間を縮ませてブラックに変えてしまうので、裏口から抜け出すものは何ひとつもないことになる、と考えられた[20]。特異点が形成される唯一の場所はブラックホールの中心になり、そこは必ず事象の地平に取り囲まれている、と計算された[20]。むき出しの特異点が出現するのを禁ずる、何かしら“宇宙の検閲原理”のようなものがあるのではないかとペンローズは思ったが、それを証明することはできなかった[21]

ホイーラーは、ブラックホールは飲み込む対象が青色巨星でも、星間塵でも、ニュートリノでも、放射でも、反物質でも、それに関する情報を破壊して経過を隠してしまい、そこから出てくるものは同じものになる、という撹乱能力を備えていることを示し[21]、これを公案のように「ブラックホールは毛がない(ノーヘア)」と表現してみせた[21]ブラックホール脱毛定理)。カーターも別な定理としてノーヘアを提唱した。ホーキングは、この定理のことを気にした[21]。ノーヘア定理はブラックホール物理学に革命を起こした[22]

こうした研究の多くは、ホーキングとジョージ・エリスが共同で執筆し、1971年に出版されたLarge Scale Structure of space time(『時空の大規模構造』)という薄い本にまとめられ、後には古典のひとつに数えられるようになった[22]

ホーキングが1974年ホーキング輻射の公式を考案すると、シアマはそれを高く評価し、「自分の優秀な教え子の業績」として自らの講義で紹介した[23]。後に、この公式から導かれるブラックホールの蒸発に伴う情報喪失のパラドックスは物理学界に激しい論争を呼んだ[24]


[編集] 観測

このように、ブラックホールの存在は古い時代から予言されてきたが、当初はあくまで理論的な存在に過ぎなかった。しかし1970年代に入るとX線天文学の発展によって、X線源が普通の恒星と連星を作っているX線連星が多数発見されるようになった。連星の公転周期を観測するとその星の質量を見積もることができ、またX線の明るさの変動のタイムスケールからX線源の大きさを推定できる。これによって、[いつ?]X線連星の一つであるはくちょう座X-1がブラックホールの有力な候補として初めて確定した[要出典]。その後も同様の天体が発見されている。

1990年代になると、銀河中心部から放出される電波の観測や、我々の銀河系の中心近くの恒星の運動の長期にわたる追跡観測が行われた。

2011年9月5日、国立天文台宇宙航空研究開発機構(JAXA)は世界で初めてブラックホールの位置特定に成功したことを発表した。

[編集] 想定される誕生

ヘルツシュプルング・ラッセル図(HR図)は縦軸に絶対等級、横軸に表面温度を表すスペクトル型をおいた恒星の分布図である。ブラックホールを形成できるほど重い恒星は、進化に伴って図の右下から左上に移動し、その後、右方向に向かって折れ曲がり、巨星に進化する

「ブラックホールは物質の進化のある枝の一端を成していると言ってもよい[要出典]」と言う[誰?]ビッグバンにより始まった純粋なエネルギーであった宇宙が、やがて素粒子を生み出し、素粒子が結合して原子となる。宇宙初期には水素ヘリウムといった最も軽い元素が作られたと考えられている。

軽元素からなる雲は重力によって収縮し、中心部の圧力温度が上昇して核融合が始まり、原始星となる。核融合が始まると熱的な膨張力が発生して重力による収縮に拮抗する効果を生む。熱による膨張と重力による収縮がつりあった時点で星は安定する。また、核融合によって放出される光子は星の表面から放出され、星は主系列星として明るく輝き始める。

恒星が核融合で水素を使い果たして主系列星の時代を終えると星は次の段階に変化する。主系列星の後にどのような過程を経るかは星の質量によって違ってくる(詳細は恒星進化論を参照のこと)。

  • 質量が太陽程度から太陽の数倍までの星の場合には、主系列星の後に赤色巨星の段階を経て、星の外層部分を恒星風として周囲に放出して惑星状星雲を作る。星の中心部分は核融合でできた炭素窒素酸素などの元素からなる白色矮星となり、このまま次第に冷却して一生を終える。
  • 質量が太陽の約8倍よりも重い星の場合は、巨星に進化した後も中心部で核融合によって次々に重い元素ができ、最終的にからなる中心核が作られる。鉄の原子核は結合エネルギーが最も大きいため、これ以上の核融合反応は起こらず、星の中心部は熱源を失って重力収縮する。収縮が進むと鉄の原子核同士が重なり始め、陽子電子が結合して中性子になって、やがては星の中心部がほとんど中性子だけからなる核となる。この段階では核全体が中性子の縮退圧によって支えられるようになるため、重力収縮によって核に降り積もる物質は激しく跳ね返されて衝撃波が発生し、一気に吹き飛ばされる。これが超新星爆発である。超新星爆発の後には中性子からなる核が中性子星として残される。残った中性子星が光やX線を激しく放出するパルサーとなる場合もある。
  • 質量が太陽の約30倍[25]以上ある星の場合には、自己重力が中性子の核の縮退圧を凌駕するため、超新星爆発の後も核が収縮(重力崩壊)を続ける。この段階ではもはや星の収縮を押しとどめるものは何も無いため、重力崩壊はどこまでも進む。こうしてシュバルツシルト面より小さく収縮した天体がブラックホールである。


[編集] 大質量ブラックホール

銀河系の中心部にある電波源複合体いて座A*には、太陽の370万倍[25]の質量を持った巨大なブラックホールが存在すると多くの天文学者によって考えられている。1995年には、M106 銀河の中心に太陽質量の3,600万倍の質量のブラックホールがあると推定された[要出典][誰?]

しかし、このような大質量ブラックホールの起源についてはあまり良く分かっていない。1970年代後半に考えられていたシナリオは、巨大なガス雲が一気に収縮してブラックホールを作るという説、高密度の星団の中心部分が重力熱力学的に進化してブラックホールとなるなどといった説であったが、いずれも理論的・観測的な困難があった。しかも、通常の恒星進化の果てに生み出される恒星質量クラスのブラックホールと銀河中心に見られる大質量ブラックホールの中間的な質量を持つブラックホールが20世紀末まで全く発見されず、両者の間に関係があるかどうかも不明であった。

しかし1999年から2000年にかけて、日本の研究者グループ[誰?]による電波やX線での観測[要出典]から、M82銀河の内部に太陽質量の1,000倍程度のブラックホールがあるらしい[要出典]ことが初めて明らかになった。これを受けて、牧野淳一郎は以下のような大質量ブラックホールの形成シナリオを考えた。

「銀河どうしの近接遭遇や衝突などによって銀河内部で爆発的な星形成(スターバースト)が起こり、これによって若くて密度の高い星団が大量にできる。このような星団には重い星が大量に含まれるため、高密度な環境ではこのような星同士が合体してさらに大きな星となり、ますます合体しやすくなるという合体不安定という過程が進行する。こうして作られた重い星の寿命は非常に短いので早い時期に超新星爆発を起こし、太陽の数十倍から100倍の質量を持つブラックホールが誕生する。これらの合体によって103太陽質量程度の中間質量ブラックホールが星団内にでき、このような星団がいくつも銀河の中心に向かって沈む。沈む途中で星団自体は潮汐破壊され、中間質量ブラックホールが銀河中心にたまり、互いに合体して大質量ブラックホールとなる[26]

さらに巨大なブラックホールは、銀河同士の衝突により核である大質量ブラックホール同士が合体して生じるのではないかと考えられている[27]。2008年には OJ 287 というクエーサーが太陽質量の180億倍と1億倍という、極めて質量の大きなブラックホール同士の連星系であることが判明した[28]

2005年にはチャンドラX線観測衛星によってM74銀河にも約10,000太陽質量という中間質量ブラックホールが発見されており、今後観測データが蓄積されることでこの仮説の妥当性が検証されていくものと考えられている[29]

[編集] 蒸発

古典物理学においては、ブラックホールはただひたすら周囲の物体を呑み込み質量が増大してゆくだけである。しかし、一般相対性理論に量子論を加えた理論を開拓したことで知られるスティーヴン・ホーキング1974年、ブラックホールから物質が逃げ出して最終的にブラックホールが蒸発する可能性を指摘した[30][23][31]。その理論は以下の通りである。

量子力学ではエネルギーと時間は不確定性関係にあり、時空の微小な領域で粒子と反粒子の対生成対消滅が絶えず起こっているとされる。ブラックホールの地平面の近傍でこのような仮想粒子対が生成すると、それらが対消滅する前に、片方の粒子(反粒子)がブラックホールの地平面内に落ち込み、もう一方の反粒子(粒子)が遠方へ逃げ去ることがある[32]反粒子(粒子)の運動は粒子(反粒子)が時間軸をさかのぼって運動していることと等価なので、粒子(反粒子)がブラックホールから時間軸をさかのぼりながら地平面に達し、地平面を通り抜けると時間軸を下りながら運動するとみなせる。[要出典]すなわち粒子がブラックホールから地平面を通り抜けて飛び出してきたように見える[32]

この粒子の放出はブラックホールの地平面上で確率的に起こるため、巨視的にはブラックホールがある温度の熱放射で光っているように見える。これをホーキング輻射(またはホーキング放射)と呼ぶ[33]。この輻射によってエネルギーを失うと(エネルギーは質量と等価なので)ブラックホールの質量は減少する。ホーキング輻射の温度はブラックホールの質量に反比例し、以下の公式で表すことが出来る[30]

T = \frac{\ hc^3}{16\pi^2 GMk}

通常の恒星質量程度のブラックホールではこの効果は無視できるほど小さく(M=5太陽質量の時、T=10-8K)、仮に地球質量程度のブラックホールがあってもTは1Kに満たない[34]。しかし、陽子質量ぐらいの微小なブラックホールではこの量子効果は無視出来ない。ホーキング輻射で質量が減るとさらにこの効果が強く働いて輻射の強度が増え、加速度的に質量とエネルギーを失い、最後には爆発的にエネルギーを放出して消滅する[32]。消滅する直前のブラックホールでは、T=1032Kにも達する[34]

これがブラックホールの蒸発である[32]。「この蒸発の最後のプロセスがガンマ線バーストとして観測される[要出典]」とする説もある。 通常の赤色巨星からできたブラックホールが完全に蒸発するまでには1068年ほどかかると考えられている[35]

1976年に、ホーキングはブラックホールに吸い込まれた情報はホーキング輻射に反映されず、ブラックホールの蒸発によって完全に失われてしまうという説を発表した[24][36][37]。質量Mのブラックホールに質量mの物体が吸い込まれた後、ホーキング輻射によってブラックホールが質量を失って再び質量Mに戻るという過程を考える。ここで、ホーキング輻射は完全な熱放射であるため、その輻射は各時点でのブラックホールの質量から決まる温度以外に全く特徴がない。よって、最初に吸い込まれた質量mの物体がトマトであってもオレンジであっても、最終状態は「質量Mのブラックホール+質量m分の光子」という全く同じ状態になる。しかしこれでは初期状態が異なっているにもかかわらず同じ最終状態に達することになり、量子力学の時間発展のユニタリ性と矛盾する。このパラドックスは「ブラックホールの情報喪失問題[38]または「情報のパラドックス」[39]と呼ばれて長年議論されてきたが、1998年までにはひも理論ホログラフィック原理などの新たな理論を駆使することによって、ブラックホールに吸い込まれた情報は失われないことが説明できるようになった[40]2004年7月21日にはホーキングも「情報はブラックホールの蒸発に伴って何らかの形でホーキング輻射に反映され、外部に出てくる」と従来の自説を修正したことを発表した[41][42]

[編集] 地球上における極小型ブラックホール生成の可能性

2008年運転開始の大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で、極小のビッグバン再現実験が予定されているが、その過程で極小型ブラックホールが生成される可能性を懸念する声[43]もある。

余剰次元理論(ブレーン宇宙論超弦理論#宇宙論への応用、およびDブレーン#ブレーンワールド宇宙論も参照の事)に基づく計算によれば、LHCの衝突エネルギー (7TeV) で極小ブラックホールの生成が不可能ではないとされ、余剰次元理論の検証ができる可能性があると期待されている。ただし、これは理論中のパラメータが、観測から許される限界ぎりぎりの値である場合の結果であり、より穏当なパラメータの場合は(たとえ理論が正しかったとしても)この程度のエネルギーではブラックホールの生成は起こらない。余剰次元モデルが正しくなければブラックホールは生成しないが、生成した場合、ホーキング輻射によって,ブラックホールは直ちに蒸発すると考えられている。欧州原子核研究機構 (CERN) は「宇宙線の中にはLHCよりもエネルギーが格段に高い陽子が存在し、大気の分子と衝突して、さまざまな粒子を生み出している。もし本当にLHCでブラックホールが生成できるなら、宇宙線によってもミニブラックホールが大気圏内で生成されているはずだ。にもかかわらず、地球はブラックホールに呑み込まれていない」とコメントした(ニュートン2008年10月号より)。

1999年にMario RabinowitzAstrophysics and Space Science誌において、球電現象を原始ブラックホールを用いて説明する説を提示した[44]

1908年ロシアの森林上空で起きたツングースカ大爆発の原因を、小型ブラックホールが地球を通り抜けたものとする説が1973年にテキサス大学の物理学者らにより提唱されたが、その後にそれでは説明できず現実的ではないとする反論が掲載されている (Nature, 250, 555 (1976))。

2009年10月、大阪大学中国韓国で構成する国際共同研究チームが高出力レーザーを用いて、ブラックホールとされる天体の周辺で実際に観測されているデータとほぼ同じ光電離プラズマを実験室で発生させることに成功した。研究チームはこの実験により、「将来的にブラックホールそのものを生成できる可能性が高まった」とした[45]

[編集] 参考文献

[編集] 出典・脚注

  1. ^ デジタル大辞泉
  2. ^ a b c オーヴァバイ、p.158
  3. ^ weblio
  4. ^ オデンワルド、p.191
  5. ^ Carroll, Sean M.  (2004). Spacetime and Geometry, 5.7, Addison Wesley. ISBN 0-8053-8732-3. 
  6. ^ a b c サスキンド、p.27-30
  7. ^ a b サスキンド、p.43
  8. ^ a b c オーヴァバイ
  9. ^ a b c d アーサー・ミラー 『ブラックホールを見つけた男』 草思社、2009年。
  10. ^ a b c d e オーヴァバイ、p.152
  11. ^ a b c d オーヴァバイ、p.153
  12. ^ オーヴァバイ、p.159
  13. ^ オーヴァバイ、p.123
  14. ^ a b オーヴァバイ、p.156
  15. ^ a b c d e f g オーヴァバイ、p.160
  16. ^ (なお、カー解は、ブラックホール唯一性定理により、軸対称定常・真空かつ無限遠平坦という仮定のもとでのアインシュタイン方程式のただ一つの解であることが示されており、ブラックホール脱毛定理(無毛定理)の描像とあわせて、物理的に形成されるブラックホールの最終段階と考えられ[要出典]ている[いつ?][誰?]1973年京都大学冨松彰佐藤文隆が発見したトミマツ・サトウ解はカー解を歪めたもので裸の特異点が存在する。そのため、物理的には生じない[要出典]と考えられている)
  17. ^ a b c d e f g h i オーヴァバイ、p.161
  18. ^ 《注》ホイーラーは「ときに患者は、いくら医者が病気だと言っても病気に名前をつけてくれないうちは信じないことがあるんだ」と、後に説明したという(オーヴァバイ、pp.158-159)。
  19. ^ a b c d オーヴァバイ、p.163
  20. ^ a b c d オーヴァバイ、p.164
  21. ^ a b c d オーヴァバイ、p.165
  22. ^ a b オーヴァバイ、p.166
  23. ^ a b サスキンド、p.201-202
  24. ^ a b サスキンド、p.8-9
  25. ^ a b ニュートン別冊『ブラックホール ホワイトホール』より
  26. ^ 牧野淳一郎によるウェブサイト「大質量ブラックホールの形成過程 -- 恒星系の熱力学的進化の観点から --」より。
  27. ^ KECK LASER CAPTURES NEW VIEW OF DISTANT COLLIDING GALAXIES
  28. ^ Colossal Black Hole Shatters the Scales
  29. ^ http://chandra.harvard.edu/press/05_releases/press_032205.html より。
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  38. ^ ブラックホールの情報喪失問題と弦理論における一次相転移(科学研究費補助金データベース)
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  42. ^ ホーキング博士、自説のブラックホール理論誤り認める”. YOMIURI ONLINE (2004年7月10日). 2004年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月30日閲覧。
  43. ^ 「加速器で地球消滅」・米の元政府職員ら提訴”. NIKKEI NET (2008年3月30日). 2008年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月30日閲覧。
  44. ^ [astro-ph/0212251] Little Black Holes:Dark Matter And Ball Lightning”. Arxiv.org (2002年12月11日). 2009年7月13日閲覧。
  45. ^ “実験室で模擬ブラックホール=高出力レーザーで実現-大阪大”. 時事通信社. (2009年10月19日). http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009101900017 

[編集] 関連書籍

[編集] 関連項目

<<想像図>> 。ブラックホールとその伴星GRO J1655-40についてのアーチストによる想像図。(出典:htt://hubblesite.org内のニューズセンター[2]。2002年)伴星 GRO J1655-40は我々の銀河に存在する、いわゆるマイクロクエーサー。ブラックホールがそれからガスを吸いとっている。青色のトーチのように描かれているのはブラックホールからの90%のスピードで出ているジェットである[3]

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