いて座A*

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いて座A*
Gcle.jpg
いて座A*(中央)と最近の超新星爆発による2つの光のエコー(丸い部分)
データ
元期 J2000      Equinox J2000
星座 いて座
赤経 17h 45m 40.045s[1]
赤緯 -29° 0′ 27.9″[1]
アストロメトリー
距離 25,900 ± 1,400 光年
(7,940 ± 420[2] パーセク)

いて座A*(いてざエー・スター、略号Sgr A*)は、我々銀河系中心にある明るくコンパクトな天文電波源。より広い範囲に広がるいて座Aの一部分であり、仮説によると多くの渦巻銀河楕円銀河の中心にあるとされる超大質量ブラックホールが、いて座A*にもあるとされる[3]

超大質量ブラックホール仮説[編集]

いくつかの研究チームが電波のスペクトルで超長基線電波干渉法(VLBI)を使用することで、いて座A*の画像を得ることを試みた。現在波長1.3mmで行われた最も高い分解能の観測によると電波源の大きさは角度で37マイクロである[4]。これは天体までの距離を2万6000光年とするとその直径は4400万キロメートルとなる。太陽系と比較すると太陽から地球までの距離が1億5000万キロメートル(1天文単位)、惑星で最も近い水星が4600万キロメートルの距離となる。

いて座A*の中心に正しくブラックホールがあるなら重力レンズ効果のために、本当の大きさより大きく拡大された姿を見るだろう。一般相対性理論によると、ブラックホールのシュヴァルツシルト半径の少なくとも5.2倍の大きさが最低限観測されるだろう。約400万太陽質量のブラックホールでは、約52マイクロ秒が最小観測サイズになる。これは、観測された大きさ、37マイクロ秒よりずっと大きく、それはいて座A*の電波放射がブラックホールの中心からではなく、その周辺の明るい場所から起こっていることを示す。そこは事象の地平線の近くで、おそらく降着円盤か、もしくは円盤から放出される相対論的ジェットかもしれない[4]

いて座A*の質量は370万太陽質量と見積もられている[5]。この質量が直径4400万kmの球に閉じ込められるとすると、以前の予想より10倍高い密度となる。厳密に言うと、観測された質量と大きさを説明する他の構成は考えられない一方、このような質量と大きさでは天の川銀河の年齢より遙かに短い時間スケールで、ただ一つの超大質量ブラックホールまで崩れてしまうだろう[4]

結局見ているものはブラックホール自体ではなく、いて座A*の近くにブラックホールが存在するという仮定でのみ観測されるものである。観測された電波と赤外線のエネルギーはブラックホールに落ちていく何百万度にまで加熱されたガスとちりから放射される。ブラックホールからの放射はホーキング放射だけで、その温度は10−14ケルビンのオーダーなので取るに足らない。

観測の歴史[編集]

マックス・プランク地球外物理学研究所のRainer Schödelに率いられた国際チームは2002年10月16日、いて座A*近くの恒星S2の固有運動を10年間観測した結果、いて座A*が大質量でコンパクトな天体である証拠を得た、という報告を出した[6]。S2のケプラー軌道を調べた結果、いて座A*の質量が60±20万太陽質量であり、それが光速で17時間(120天文単位)を超えない半径内にあることを彼らは決定した[5]。その後の観測では質量が370万太陽質量で半径が光速で6.25時間(45天文単位)または約67億キロメートルとされている[7]

2004年11月に天文学者のチームは、いて座A*から3光年の軌道を巡る中間質量ブラックホールGCIRS 13Eの可能性のある天体の発見を報告した。7つの星の星団の中に1,300太陽質量のこのブラックホールはある。近くのより小さいブラックホールと恒星を吸収することによって超大質量ブラックホールが成長する、という考えをこの観測は支持するかもしれない。

ギレッセンらは16年間いて座A*周囲の恒星の軌道をモニターした結果、天体の質量を431万太陽質量と見積もっている[8]

16年間の観測キャンペーンの結果が2008年に発表された。研究チームのリーダー、Reinhard Genzelは、研究が「現在超巨大なブラック・ホールが本当に存在しているという最も良い実証的証拠であると考えられていること」に到達したと言った。「銀河系中心の恒星の軌道の観測の結果、どんな疑問があろうとも、400万太陽質量になる銀河中心の質量集中はブラックホールに違いない。」[9]

2002年に発見され2012年にいて座A*の周りを公転する天体であることが確認されたガス雲G2は、2013年7月1日にいて座A*のブラックホールに最接近し、その一部または全部がブラックホールに吸い込まれると予測されている。これは非常にコンパクトな天体であるブラックホールに物質が吸い込まれ、エネルギーが放出されるのを観測できる貴重な機会である。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ a b Data and scientific papers about Sagittarius A*
  2. ^ Eisenhauer, F., Schödel, R. et al. "A geometric determination of the distance to the galactic center." The Astrophysical Journal, 597, L121–L124, (2003).
  3. ^ Reynolds, Christopher S. (2008), “Bringing black holes into focus”, Nature 455: 39, doi:10.1038/455039a 
  4. ^ a b c Doeleman, Sheperd S.; Weintroub, Jonathan; Rogers, Alan E. E.; Plambeck, Richard; Freund, Robert; Tilanus, Remo P. J.; Friberg, Per; Ziurys, Lucy M. et al. (2008), “Event-horizon-scale structure in the supermassive black hole candidate at the Galactic Centre”, Nature 455 (7209): 78, doi:10.1038/nature07245 
  5. ^ a b Ghez, A. M. (2003), “The First Measurement of Spectral Lines in a Short-Period Star Bound to the Galaxy’s Central Black Hole: A Paradox of Youth”, The Astrophysical Journal 586: L127, doi:10.1086/374804 
  6. ^ Schödel, R. (2002), “A star in a 15.2-year orbit around the supermassive black hole at the centre of the Milky Way”, Nature 419: 694, doi:10.1038/nature01121 
  7. ^ UCLA Galactic Center Group
  8. ^ Gillessen, Stefan (2008). “Monitoring stellar orbits around the Massive Black Hole in the Galactic Center”. Astrophysical Journal Forthcoming. 0810.4674. http://arxiv.org/abs/0810.4674. 
  9. ^ Beyond Any Reasonable Doubt: A Supermassive Black Hole Lives in Centre of Our Galaxy

更に[編集]

  • Melia, Fulvio, The Black Hole in the Center of Our Galaxy, Princeton U Press, 2003
  • Melia, Fulvio, The Galactic Supermassive Black Hole, Princeton U Press, 2007
  • Eckart, A., Schödel, R., Straubmeier, C., The Black Hole at the Center of the Milky Way, Imperial College Press, London, 2005

外部リンク[編集]