磁石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

砂鉄による棒磁石の磁力線
砂鉄による棒磁石の磁力線

磁石(じしゃく、magnet)とは、双極性の磁場を発生させる源となる物体のこと。一般に良く知られた性質として、などの強磁性体を引き寄せる、地磁気に応答して方位を指し示す等の振る舞いを見せる。永久磁石電磁石の2種類がある。

磁石にはN極S極と呼ばれる2つの極(磁極)がある。異なる極は引き合い、同じ極は反発しあうという性質をもっている。地球そのものも磁石であり、北極地方にS極が、南極地方にN極がある。このため、方位磁針を使うとN極が北を、S極が南を指し示すので方位を知ることが出来る。

目次

[編集] 原理

棒磁石
棒磁石

電気磁気の力はお互いに不可分である。これらの関係は電磁気学の基本方程式であるマクスウェルの方程式で与えられる。この方程式によると、電気を帯びた物体(電荷)を運動させると、磁気の場(磁場)が生じ、磁石としての性質を帯びることとなる。磁石の性質を持つ物質である永久磁石も、電流を流すと磁石になる電磁石も、これによって磁石としての特性が発現する。

永久磁石
外部から磁場電流の供給を受けることなく磁石としての性質を比較的長期にわたって保持し続ける物体のことである。強磁性ないしはフェリ磁性を示す物体であってヒステリシスが大きく常温での減磁が少ないものを磁化して用いる。永久磁石材料に関するJIS規格としてJIS C2502、その試験法に関する規格としてJIS C2501が存在する。アルニコ磁石フェライト磁石ネオジム磁石などが永久磁石である。
電磁石
通常、磁性材料の芯のまわりに、コイルを巻き、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。機械要素として用いられる。電流を止めると磁力は失われる。

[編集] 超伝導と磁石

超伝導体には磁場を退けるマイスナー効果という性質がある。超伝導体に磁石を近づけると超伝導体は磁場を退けるので、まるで同極同士の磁石を近づけたように反発しているように見える。これによって磁石の上に超伝導体を浮上させることが出来る。また、ピン止め効果によって磁石の上に安定して留まる。

医療に用いるMRI(磁気共鳴画像法)用磁石の大部分や磁気浮上式鉄道では強力な磁界が必要となるが、これを実現できるような永久磁石は容易には存在しない。また、電磁石で実現するためにはコイルに大電流を流す必要がある。しかし、などの低抵抗の配線材料を用いても、この電流による発熱に耐えることは出来ない。この問題を解決するのがコイルに超伝導体を用いた超伝導電磁石である。超伝導材料は電気抵抗がゼロであるため、大電流を流しても発熱しないのである。超伝導コイルには磁場に強い「第二種超伝導体」を用いる必要がある。

[編集] 磁石の歴史

古代ギリシアでは、を引き寄せる石として磁石はすでに知られていた。プラトンは、その著書『イオン』にて「マグネシアの石」として磁石のことを言及している。ローマ帝国の博物学者プリニウスは著書『博物誌』にて、マグネスという羊飼いが磁石を偶然発見したと述べている。この「マグネシアの石」ないし「羊飼いマグネス」が、英語で磁石を指す言葉であるマグネット(magnet)の語源になったと考えられる。また、プリニウスの『博物誌』には、ダイヤモンドが磁石の力を妨げるという奇妙な説が述べられている。

磁石に対し近代的な科学の光をあてたのは、エリザベス1世の侍医であったウイリアム・ギルバートである。その著書『磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理学』(De Magnete, Magneticisque Corporibvs,et De Magno Magnete Tellure)においてギルバートは、磁石に関する俗説や既知の現象について詳細に検証している。例えば羅針盤の指北性を論じるにあたり、球形の磁石を作製し、これに対する磁針の振舞いを観察している。この結果、地球そのものが磁石であると結論付けている。また、琥珀などが軽い羽毛などを引きつける静電引力は、磁力とは異なる現象であるとも論じている。ギルバートの実験と論証による方法論は、その後の科学に多大な影響を与えた。

[編集] 主な磁石の種類

天然に産出する磁石として磁鉄鉱(Fe3O4)(マグネタイト)が挙げられる。古代からよく知られている磁石、磁鉄鉱(ないし砂鉄)と産出さてれていたのはこの酸化鉄である。現在でも砂浜で永久磁石を砂中にいれれば十分に視認することが出来る。羅針盤の指針を磁化することなどに用いられてきたが、非常に微弱な磁石である。20世紀に入ると、実用に十分な強度を有する磁石が人工的に作られるようになってきた。

磁石の原料として、3d遷移元素コバルトニッケルが挙げられる。単体が室温で強磁性を示すのは、これら3つの元素のみである。さらにランタノイドサマリウムネオジムも磁石の原料として挙げられる。単体では強磁性を示さないが、4f軌道に余ったスピンが存在するため、これらを原料とすることで強力な磁石が実現できる。なお、4f軌道電子はスピンと共に軌道運動も磁性に寄与している。

KS鋼
1917年本多光太郎らによって発明された磁石鋼。鉄、コバルト、タングステンクロムなどを含む。1934年には新KS鋼が開発されている。
MK鋼
1931年三島徳七によって開発された磁石。鉄とニッケルに加えアルミニウムを含み、鋳造後600℃以上で焼き戻す。KS鋼よりも安価で、倍の保持力を持つ。U型磁石、棒磁石、ゴム磁石(弾磁石)、丸磁石、玉磁石など色々な形のものがある。
アルニコ磁石
アルミニウム、ニッケル、コバルトなどを原料とした磁石である。20世紀半ばまで主流の磁石であったが、やがて安価で造形の容易なフェライト磁石などに主役の座を奪われた。
フェライト磁石
酸化物磁石の一つで、酸化鉄を主原料にして焼き固めて作る。
  • 磁束密度は低いが、保磁力が高く減磁しにくい。
  • 電気抵抗が大きく渦電流損が低く、高周波まで適用できる。
  • 硬度は比較的に高いが割れやすい。
  • 磁器なので薬品に強く、錆びない。
  • 焼く前は粉末のため自由な形にできる。
酸化鉄バリウムストロンチウムを微量加えたものを焼き、1μmほどの粒子に粉砕したものを成型し焼結する。最後に電磁石によって着磁し、フェライト磁石が出来上がる。酸化鉄を主原料としているため安価かつ化学的に安定しており、様々な用途に用いられている。
若葉マークに使われているゴム磁石はフェライト磁石を砕いてゴムに混ぜて固めたもの。ゴムが主成分なので容易に切断することが可能。コピー機にはゴム磁石でできたロールが使われている。
サマリウムコバルト磁石
サマリウムとコバルトを原料としている。組成比の異なる「2-17系」と「1-5系」がある。「1-5系」は高価なサマリウムの比率が高いため、「2-17系」の登場以降あまり用いられなくなってきた。強い磁力を持ち、高い耐腐食性と良好な温度特性(200℃程度まで使用可能)を有することが特徴である。
ネオジム磁石
ネオジムホウ素を主成分とする希土類磁石の一つ。1984年、住友特殊金属(現・NEOMAX)の佐川眞人によって発明された。磁束密度が高く、強い磁力を持つ。鉄を含み錆びやすいため普通は表面に鍍金を施す。熱減磁が大きく-0.12%/K程度。キュリー点は約310℃。非常に磁力が強いため、ハードディスクやCDプレーヤーの駆動部分、携帯電話の振動モーターなどに使用される。

[編集] 磁石の用途

日常の電化製品でよく見かける磁石の用途として、モータースピーカーが挙げられる。これらは永久磁石と電磁石を用いて、電気エネルギーを回転や空気の振動といった力学的エネルギーに変換している。

カセットテープビデオテープハードディスクといった記録メディアは磁化された向きによって情報を記録している。情報の読み出しには電磁誘導巨大磁気抵抗効果(GMR)、ごく最近になってトンネル磁気抵抗効果(TMR)が利用されている。

電子顕微鏡の電子レンズや粒子加速器などでは、磁石は電子などの荷電粒子を狙った方向に曲げるために用いられている。また、トカマク型などの核融合では高温のプラズマを封じ込めるためにも用いられている。

また5cmくらいの棒状のアルニコ磁石は、牛に飲み込ませて第3胃内の針金など鉄片を束状に吸着させ創傷性心膜炎を予防するために使われる。

その他、磁石はリニアモーターカーの磁気浮上や、リードスイッチやMRセンサーなどの非接触センサーと共に用い近接感知、位置決め等の用途、核磁気共鳴画像法といった医療用途にも利用されている。

[編集] 関連項目

ウィクショナリー
ウィクショナリー磁石の項目があります。
ウィキメディア・コモンズ