超弦理論

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超弦理論(ちょうげんりろん、superstring theory)は物理学理論の一つで2008年現在も仮説である。
物質の基本的単位を大きさが無限に小さなゼロ次元の点粒子ではなく1次元の拡がりをもつ弦であると考える弦理論超対称性という考えを加え拡張したもの。超ひも理論とも呼ばれる。

宇宙の姿やその誕生のメカニズムを解き明かし、同時に原子、素粒子、クォークといった微小な物のさらにその先の世界を説明する、世界の先端物理学での最も主要な理論であるが、いくつかの不完全な点が指摘されており、実証することも困難なために定説までには至っていない。

目次

[編集] 概論

それまでの理論では粒子を点、すなわち点粒子として扱ってきたが、超弦理論では粒子を弦の振動として表わしており、「閉じた弦」と「開いた弦」がある。開いた弦はスピン1のゲージ粒子(光子ウィークボソングルーオンなどに相当)を含み、閉じた弦はスピン2の重力子と思われる粒子を含む。また開いた弦の相互作用を考えるとどうしても閉じた弦、すなわち重力子を含まざるを得ない。そのため、強い力のみを記述する理論と捉えることは難しいことがわかった。

逆に言えば、弦を基本要素と考えることで、自然に重力量子化したものが得られると考えられる。そのため、超弦理論は万物の理論となりうる可能性がある。超弦理論は素粒子標準模型の様々な粒子を導出しうる大きな自由度を持ち、それを元に現在までに様々なモデルが提案されているが、具体的な実験事実を予言しそれが確証されたということは未だない。また、未だに方程式として定まった真の「物理理論」と呼べるものは一つも得られてない。

[編集] 基本的な説明

重力を記述する一般相対性理論と物質のミクロな振る舞いを記述する量子力学の折り合いをつけた理論(量子重力理論)の構築というのは物理学者を悩ませていた大問題であるが、超弦理論はそれを解決する可能性をもった理論である。

超弦理論には五つの種類があり、それぞれI型、IIA、IIB、ヘテロSO(32),ヘテロE8×E8と呼ばれる。この五つの超弦理論は理論の整合性のため10次元時空が必要である。通常の3次元に時間を加えた4次元に加えて、残りの6次元は量子レベルで巻き上げられていて小さなエネルギーでは観測できないとされる。また、11次元超重力理論をその低エネルギー極限に含んだM理論は更に1次元を加えて合計11次元を必要とする。これら6つの理論はさまざまな双対性によって互いに繋がっている。

弦の振動は、量子レベルで巻き上げられている6次元により制約を受け、その振動の形により、特定の量子を形作っている。超弦理論では基本的物体は一次元の弦であったが、M理論では加えられたもう1次元によって基本的物体は2次元の膜であると提唱されている。

また超弦理論で表記される10次元中にはDブレーンと呼ばれる様々な次元の拡がりを持ったソリトンが存在する。Dブレーンはもともと一次元の弦が端点を持ちうる空間として定義されているものだが、重力子(グラビトン)等の閉じた弦はこの超空間に依存せずにブレーン間を往来する。 この描像を宇宙論に適用した理論は、ブレーンワールドと呼ばれ、典型的な模型では我々はこの(D)ブレーンの上に住んでいることになる。またこのモデルでは、量子力学で使われる3つの力に対して、何故重力が極端に弱いのかを説明がつけられるとしている。つまり、本来他の3つの力、即ち、電磁気力電磁力ともいう)、弱い力強い力に比較して弱いのは、他の次元にその大半が逃げてしまっているためと考えられる。

これに関連して、例えば宇宙論のインフレーションをブレーンの運動で捉えるなど、様々な研究がなされている。なお、ビッグバンは我々の存在する宇宙が所属する膜と他の膜の接触によるエネルギーが原因で起こったとするモデルもあり、エキピロティック宇宙論と呼ばれている。通常のインフレーションを導出しようとする試みも進行中である。

超弦理論は重力の量子論の有力な候補であり、現時点でも特殊な条件の下でならブラックホールエントロピーに関する問題に答えられる。ブラックホールのエントロピーは表面積に比例しているが、この事実をDブレーンに張り付いた弦の状態を数え上げる、という方法で導き出している。これは熱力学のエントロピーを統計力学の手法で導き出すことに対応している。

[編集] 歴史

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1950年代末から1960年代にかけて多くの強い相互作用をする粒子(ハドロン)が発見され、それらの分類とその構成の成り立ちについての考察が多数得られ始めた。超弦理論の元となった弦理論はこうした粒子間に働く強い力の性質を記述するために考え出された。

まず、1950年代はじめにレッジェは、ハドロンの散乱実験において、共鳴状態の静止質量の2乗とスピンとの間に直線関係があることを見出した(レッジェ軌道)。1968年にイタリアのガブリエル・ヴェネツィアーノは、レッジェ軌道を再現する非常に簡単な公式で「散乱振幅」として表現した。

その公式を元に、ハドロンは振動する弦であると発表したのが、1970年の南部陽一郎と1971年の後藤鉄男である。それぞれ独立に発表された彼らの弦理論では、ハドロンは粒子ではなく振動する弦から構成され、粒子はそれぞれの振動モードに対応するというものであった。ただしこの理論では、弦の振動が光速を超え特殊相対性理論に反するという欠陥が内包されていた。

南部と後藤の弦理論ではボース粒子のみを記述していてフェルミ粒子は扱えないという問題もあったが、当時はフェルミ粒子を含めてボース粒子以外の記述を弦理論を拡張することで解を得ようという学者は少数派であった。1971年に、フランスのP.ラモン、A.ヌヴォ、アメリカのJ.シュワルツの3人によってボース粒子とフェルミ粒子の両方が扱える最初の超弦理論が提唱された。その後、多数の超弦理論の拡張が試みられ、20世紀末から21世紀にかけてM理論やF理論と呼ばれるいくつかの進展が得られている。

[編集] 現状

超弦理論は、現時点では観測や実験事実を説明するまでには至っていないが、上記のようなブラックホールの問題への回答、宇宙論や現象論の模型への多大な影響、そしてホログラフィー原理の具体的な実現など、その成果を挙げるにはいとまがない。超弦理論に懐疑的な発言をしていたスティーヴン・ホーキングさえ、近年は超弦理論の成果を用いた研究を発表している。

ただ、Not Even Wrong[1]を執筆したPeter Woitのように、誤っているだけでなく物理学研究全体に有害であるとする反対派も一部に根強く存在している。

[編集] 問題点

  1. 『超弦理論』では現在のところ観測されていない26次元や10次元といった多数の次元を必要とする点で問題がある。超高エネルギーでの実験が可能ならばそのような次元も実証できる可能性があるが、21世紀初頭の技術水準では不可能だとされている。
  2. 宇宙背景重力波等の観測が可能になれば、観測された重力波の波形等を通じて、重力と他の力が別れた時点まで、物理的な観測をすることができるであろう[疑問点 ]が、重力波の検出は技術的な側面から現在のところそう容易ではない。楽観的には宇宙重力波望遠鏡(LISA)で背景重力波が観測される可能性もあるが、2015年以降の話になる。
  3. 2008年に稼働予定の欧州原子核研究機構LHCにより、マイクロブラックホールが発見されるならば大きな余次元があるとする理論にとって大きな進歩となるだろうが、それ自身が超弦理論の確証とはいえない。

このため超弦理論を正式な物理学上の仮説として扱うことに疑問を持つ物理学者も多く、超弦理論を研究する学者は物理学者ではなく弦理論研究者(String theorist)と区別されることもあった[要出典]


[編集] 関連項目

[編集] 関連理論

[編集] 教科書

  • Michael B. Green, John H. Schwarz, Edward Witten (1988). Superstring Theory. Cambridge University Press. ISBN 978-0521357524. 
超弦理論の最初の教科書。
  • Joseph Polchinski (2005). String Theory. Cambridge University Press. ISBN 978-0521672276. 
  • Joseph Polchinski (2005). String Theory Vol. 2. Cambridge University Press. ISBN 978-0521672276. 
D-ブレインの発見者が書いた教科書で、90年代前半の発展までがまとまっている。
  • 太田信義 『超弦理論・ブレイン・M理論』 シュプリンガーフェアラーク東京〈シュプリンガー現代理論物理シリーズ〉、2002年。ISBN 978-4431709701
著者が大阪大学理学系大学院(前期課程)の講義で使ったノートをまとめたもの。
  • Barton Zwiebach (2004). A First Course in String Theory. Cambridge University Press. ISBN 978-0521831437. 
弦理論の平易な側面から学ぶことが出来るように書かれた教科書。
  • Elias Kiritsis (2007). String Theory in a Nutshell. Princeton University Press. ISBN 978-0691122304. 
  • Kartin Becker, Melanie Becker, John H. Schwarz (2007). String Theory and M-Theory: A Modern Introduction. Cambridge University Press. ISBN 978-0521860697. 
超弦理論の基本的な説明から始まって、AdS/CFTなどの最近の発展まで触れた教科書。

[編集] 原論文

  • 1992年以降の論文のプレプリントは、arXivhep-thセクションで読むことが出来る。日本国内からは、京都大学基礎物理学研究所のミラーを使うことが推奨されている。

[編集] 読み物

  • Brian Greene, The Elegant Universe, Vintage Books 1999, 2003, ISBN 0-375-70811-1
  • Lisa Randall, Warped Passages -Unravelling the Universe's Hidden Dimensions, Allen Lane, 2005
  • 川合光(著),はじめての超ひも理論 -宇宙・力・時間の謎を解く-,講談社現代新書,2005, ISBN 978-4061498136[2]
  • ミチオ・カク(著), 斉藤隆央(訳), パラレルワールド -11次元の宇宙から超宇宙へ-, NHK出版 2006, ISBN 978-4140810866
  • レナードサスキンド(著),村田陽子(訳), 宇宙のランドスケープ -宇宙の謎にひも理論が答えを出す-, 日経BP 2006 ISBN 978-4822282523
  • 橋本幸士(著),UT Physics2 Dブレーン -超弦理論の高次元物体が描く世界像-, 東京大学出版会, 2006, ISBN 978-4130641012

[編集] 脚注

  1. ^ Woit, Peter (2006). Not Even Wrong. Jonathan Cape. ISBN 978-0224076050. 
  2. ^ 本書において、サイクリック宇宙論が一般の方に披露された。当時、著者が理化学研究所との併任へと移行する時期と重なったため、ルポライターの高橋氏によって分かりやすく記述が行われた。

[編集] 外部リンク

[編集] 超弦理論の解説