エントロピー

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エントロピー
entropy
量記号 S
次元 L 2 M T −2 Θ −1
種類 スカラー
SI単位 ジュール毎ケルビン (J/K)
CGS単位 エルグ毎ケルビン (erg/K)
プランク単位 ボルツマン定数 (kB)
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気体や、水に溶けた砂糖はエントロピーが大きい
固体などはエントロピーが小さい

エントロピー (: entropy) は、熱力学および統計力学において定義される示量性状態量である。当初は熱力学において、断熱変化の不可逆性を表す指標として導入され、後に統計力学により、系の微視的な「乱雑さ」を表す物理量という意味付けがなされた。 更に、系から得られる情報に関係があることが指摘され、情報理論にも応用されるようになった。 物理学者の E.T. Jaynesのようにむしろ物理学におけるエントロピーを情報理論の一応用とみなすべきだと主張する者もいる。

一般に記号 S を用いて表され、統計力学におけるボルツマンによる表式

S=k\,\log W

がよく知られている。ここで、W は系が定められたエネルギー・体積の下でとりうる状態の数、kボルツマン定数である[1]。この定義より、エントロピーはボルツマン定数と同じ「エネルギー÷温度」の次元をもち、単位は J/K である。

目次

[編集] 概要

エントロピーは、熱力学・統計力学・情報理論など様々な分野で使われている。しかし分野によって、その定義や性質は異なる。

よってエントロピーを一言で説明することは難しいが、大まかに「何をすることができて、何をすることができないかという可能性を、その大小で表すような量」であると言える。

[編集] 熱力学におけるエントロピー

熱力学では、ある物質におけるすべての熱力学的な性質が、1つの関数でまとめて表現される。その関数こそがエントロピーである。エントロピーから不可逆性を特徴づけられる。

[編集] クラウジウスによるエントロピーの定義

以下のエントロピーの説明は、クラウジウスが1865年の論文の中で行ったものを基にしている。クラウジウスはを用いてエントロピーを定義した。この方法による説明は、多くの文献で採用されている。

[編集] 簡単な状況下での説明

温度 T1 の高熱源から Q1 だけを貰い、温度 T2 の低熱源に Q2 だけ熱を逃がす可逆熱機関を考える。 いかなる可逆機関であっても、その可逆機関が行う事ができる仕事の量 W

W=\left(1- \frac{T_2}{T_1}\right)Q_1  …(1)

である事が知られている(カルノーの定理)。 一方熱はエネルギーと等価(熱力学第一法則)なので、可逆機関が吸収した熱量 Q1Q2 は仕事量 W と等しく、

W = Q1Q2  …(2)

となる。 これら2本の式を整理する事で、

\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2}  ...(3)

が成立する事が分かる。 すなわち、可逆な過程で高熱源に接している状態から低熱源に接している状態に変化させたとしても \frac{Q}{T} という量は不変である事になる。クラウジウスはこの不変量をエントロピーと呼んだ。

なお可逆でない熱機関は可逆機関よりも効率が悪い事が知られており、この為可逆でない熱機関では(1)式は等号ではなく不等式

W < \left(1- \frac{T_2}{T_1}\right)Q_1

になる事が知られている(熱力学第二法則)。この式を(1)の代わりに使って同様の議論を進めると、

\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2}

が成立する事が分かる。 すなわち、高熱源で熱を得た後、低熱源でその熱を捨てるとエントロピーは増大する(エントロピー増大則)。

[編集] 一般の場合

上では話を簡単にする為高熱源と低熱源の2つしか熱源がない場合を考えたが、より一般にn個の熱源がある状況を考えると、(3)式は

\sum_{i=1}^n\frac{Q_i}{T_i}=0

となる(クラウジウスの不等式)。 ただし上の不等式では(3)式と違い、熱を逃がす場合はQiは負の値としている。

上の不等式で n→∞ とすると、

\oint\frac{d'Q}{T}=0 ...(4)

となる。

そこで、適当に状態OとOにおける初期値 S(O) を決め、状態Aにおけるエントロピー S(A) を

S(\mathrm{A})=S(\mathrm{O})+\int_C\frac{d'Q}{T}

と定義する(C はOからAへと変化する可逆な過程)と、(4)式からエントロピーの定義は C によらない。

[編集] エントロピー増大則

状態Aから状態Bへと移る任意の過程 X と、同じく状態Aから状態Bへと移る可逆過程 C を考え、C−1C の逆過程とする。このとき XC−1 を連結させた過程はサイクルとなる。

このサイクルについて、導出と同様にクラウジウスの不等式から

\oint\frac{d'Q}{T_\mathrm e}\le0

が導ける。Te : 熱源の温度(一般に系の温度と一致しないことに注意)。つまり、

\int_X\frac{d'Q}{T_\mathrm e}+\int_{C^{-1}}\frac{d'Q}{T_\mathrm e}\le0

である。

このとき C−1 の過程中においては、この過程は可逆過程であるから、熱源の温度 Te は系の温度 T に一致する。従って

\int_X\frac{d'Q}{T_\mathrm e}+\int_{C^{-1}}\frac{d'Q}{T}\le0

、つまり

\int_X\frac{d'Q}{T_\mathrm e}\le\int_{C}\frac{d'Q}{T}

となる。ところが、

\int_{C}\frac{d'Q}{T}=S(\mathrm{B})-S(\mathrm{A})

であるために、

S(\mathrm{A})+\int_{X}\frac{d'Q}{T_\mathrm e}\le S(\mathrm{B})

となる。

これより、特に断熱系(外から仕事が加えられても良い)においては d'Q = 0 なので、

S(\mathrm{A})\leq S(\mathrm{B})

という結果が求められる。これがエントロピー増大則である。熱力学第二法則と同値なクラウジウスの不等式からこれが求められたことにより、熱力学第一法則エネルギー保存則と対応するのになぞらえて熱力学第二法則とエントロピー増大則を対応させることもある。なお、この導出から明らかなように、熱の出入りがある系ではエントロピーが減少することも当然起こり得る。

[編集] 性質

エントロピーが増加するために、熱エネルギーのすべてを他のエネルギーに変換することはできない。したがって、熱エネルギーは低品質のエネルギーとも呼ばれる。

化学反応や電場・磁場等の影響がないとき、熱力学第一法則より

dU=d'W_\mathrm{in}+d'Q_\mathrm{in} \

U : 系の内部エネルギーQin : 系に与えた熱量、Win : 系に与えられた仕事)と表すことができる。無限小変化は可逆過程とみなせるため、d'W = − PdVP: 系の圧力、V: 系の体積)およびエントロピーの定義を変形した d'Q = TdS より、

dU(V,S) = - PdV + TdS \

と、内部エネルギーを完全微分の形で表すことができる。ここから直ちに

P=-\left(\frac{\partial U(V,S)}{\partial V}\right)_S
T=\left(\frac{\partial U(V,S)}{\partial S}\right)_V

が得られる。また、

dS=\frac{1}{T}dU+\frac{P}{T}dV

とも変形できることから、エントロピーはエネルギーおよび体積を自然な引数とする完全な熱力学関数であることも分かる。特に、

\left(\frac{\partial S}{\partial E}\right)_V=\frac{1}{T}

である。

[編集] 統計力学におけるエントロピー

ある巨視的状態(例えば、圧力と体積を指定した状態)に対して、それを与える微視的状態(例えば、各分子の位置および運動量)は多数存在すると考えられる。そこで仮想的にアンサンブルを考える。即ち、ある巨視的状態に対応する微視的状態の集合を考え、その各々の元が与えられた巨視的状態の下で実現する確率分布を与えることにする。

系の微視的状態(例えば量子系であればエネルギー固有状態)に i = 1, 2, 3, ... と番号付けをし[2]、その各々がとる確率を pi と与えたとする。ボルツマン定数kBとした時、エントロピー S

S = k_\mathrm{B}\left\langle\log\frac{1}{p_i}\right\rangle = -k_\mathrm{B}p_i\sum_i \ln p_i

で定義する。

すなわち、統計力学におけるエントロピーは情報理論におけるエントロピー無次元量)と定数倍を除いて一致する[3]

例えば、体積 V、エネルギー E で与えられる孤立系に対応して、ミクロカノニカルアンサンブルを用いるとする。即ち、系の体積を境界条件として与え、各状態のエネルギーを Eiとしたときに、系がエネルギー E をとる微視的状態のみに有限の確率を等しく

p_i=\begin{cases}1/W&(E_i=E)\\0&(E_i\ne E)\end{cases}

として与える[4]等重率の原理)。ただし、Wは規格化定数であり、状態数、即ち与えられた体積・エネルギーで系が実現しうる微視的状態の数を意味する。この時、エントロピーはボルツマンの公式としてよく知られる

S=k_\mathrm{B}\log W \

で与えられる。

このようにミクロカノニカルアンサンブルにより与えられたエントロピーが、先に見た熱力学のエントロピーと整合していることを確認する。エネルギー E 、ミクロカノニカルアンサンブルによるエントロピー S の系を、透熱壁を入れることにより2つの部分系に分離する。それぞれの系にエネルギーが E1, E2 と分配されるとしよう。この時、系全体の状態数、あるいはその対数であるエントロピーが最大になるように部分系のエネルギーが決定されると考えるのは自然であろう。系全体の状態数は2つの部分系の状態数の積であり、即ち系全体のエントロピー S は2つの部分系のエントロピーS1, S2 の和である。この時、条件 E2 = E - E1 の下で全体のエントロピーを最大とする条件を考えると、

\frac{d S}{d E_1}=\frac{d S_1}{d E_1}+\frac{d S_2}{d E_1}=\frac{d S_1}{d E_1}-\frac{d S_2}{d E_2}=0

即ち

\frac{d S_1}{d E_1}=\frac{d S_2}{d E_2}

となる。ここで、このエントロピーを熱力学のものと同一視すると、 dS/dE = 1/T が成立するのであった(部分系の体積は固定しておくことにする)。透熱壁を用いて2つの系を接触させた場合、平衡状態では当然2つの系の温度は等しくなることと、ここで確認した事実は確かに整合している。

熱力学と整合するアンサンブルは、ここで例示したミクロカノニカルアンサンブルの他にも、カノニカルアンサンブルグランドカノニカルアンサンブルなどが挙げられる。

[編集] 情報理論におけるエントロピーとの関係

情報理論においてエントロピーは確率変数が持つ情報の量を表す尺度で、それゆえ情報量とも呼ばれる。 確率変数 X に対し、X のエントロピー H(X)

H(X) = -\sum_i P_i \log P_i\, (ここでPiX = iとなる確率)

で定義されており、これは統計力学におけるエントロピーと定数倍を除いて一致する。

これは単なる数式上の一致ではなく、統計力学的な現象に対して情報理論な意味づけを与える事ができることを意味する。 物理学者の E.T. Jaynes のようにむしろ物理学におけるエントロピーを情報理論の一応用とみなすべきだと主張する者もいる。

情報量は確率変数 X が数多くの値をとればとるほど大きくなる傾向があり、したがって情報量は X の取る値の「でたらめさ」を表す尺度であると再解釈できる。よって情報量の概念は、原子や分子の「でたらめさの尺度」を表す統計力学のエントロピーと概念的にも一致する。

こうした関係はマクスウェルの悪魔の問題が解決される際に決定的な役割を果たした。シラードは悪魔が分子の位置の情報を得る事が熱力学的エントロピーの減少をまねく事を指摘したし、ランダウアーは悪魔が分子の位置を忘れる事が熱力学的エントロピーの上昇をまねく事に気づき、これを利用してマクスウェルの悪魔を解決した。

また同様の理由で、コンピューターがデータを消去するときに熱力学的なエントロピーが発生するので、コンピューターが放つ熱の量には下限がある事が知られている(ランダウアーの原理)。

さらにJaynesは統計力学におけるGibbsの手法を抽象する事で、統計学情報理論における最大エントロピー原理を打ち立てた。この結果、Gibbsの手法は統計学情報理論の統計力学への一応用例として再解釈される事になった。

統計力学と情報理論の関係は量子力学においても成立しており、量子統計力学におけるフォン=ノイマン・エントロピーは量子情報の情報量を表していると再解釈されてた上で、量子情報量子計算機の研究で使われている。

[編集] 歴史

エントロピーは、ドイツの物理学者クラウジウスが、カルノーサイクルの研究をする中で、dS=dQ/T という式の形で導入した概念で、当初は、「でたらめさの尺度」としてではなく、熱力学における可逆性と不可逆性を研究するための概念であった。しかし、原子の実在性を強く確信したオーストリアの物理学者ボルツマンによって、エントロピーは、原子や分子の「でたらめさの尺度」である事が論証された。

ルドルフ・クラウジウス1854年にクラウジウスの不等式として熱力学第二法則を表現していたが、彼自身によって「エントロピー」の概念が明確化されるまでにはそれから 11 年を要した。 非可逆サイクルで 0 とならないこの値をクラウジウスは仕事と熱の間の「変換」で補償されない量として、1865年の論文においてエントロピーと名付けた。 エントロピーという言葉はギリシャ語で「変換」を意味するトロペー (τροπή) に由来している。

その後ボルツマンやギブスによって統計力学的な取り扱いが始まった。 情報量としてはクロード・シャノン1948年ジョン・フォン・ノイマンの勧めに従って命名している。

似た用語のエンタルピーとは全く異なった概念であり、注意を要する。

[編集] ブラックホールのエントロピー

ブラックホールのエントロピーは表面積に比例する。

S = \frac{Ak_\mathrm{B}c^3}{4\hbar G}

ここで S はエントロピー、A はブラックホールの事象の地平面の面積、\hbarディラック定数(換算プランク定数)、kBボルツマン定数G重力定数c光速度である。

[編集] 生物学におけるエントロピー

シュレーディンガーは、生命をネゲントロピー(負のエントロピー)を取り入れエントロピーの増大を相殺することで定常状態を保持している開放定常系とした。負のエントロピー自体は後に否定されたが、非平衡系の学問の発展に寄与した。(散逸構造も参照のこと)

[編集] 脚注

  1. ^ IUPAC Gold Book - entropy, S
  2. ^ 古典系の場合は状態をこのように可算個として扱えない。従って、例えば粒子数固定の古典系であれば、位相空間上の一点を\Gamma=(Q_1,Q_2,\dots,Q_{3N},P_1,P_2,\dots,P_{3N})Nは粒子数、Qj, Pj ( j = 1, 2, ..., 3N ) はそれぞれ各粒子の座標と運動量)と表し、ここに一様な確率測度dΓ / h3Nを導入する(hプランク定数)。こうすることにより、積分

     S = k_\mathrm{B}\left\langle\log\frac{1}{p(\Gamma)}\right\rangle = -k_\mathrm{B}\int \frac{d\Gamma}{h^{3N}}\, p(\Gamma)\ln p(\Gamma)

    でエントロピーを定義できる。
  3. ^ ボルツマン定数を1とする単位系を取れば、エントロピーは情報理論におけるエントロピー(自然対数を用いたもの)と完全に一致し、無次元量となる。簡便なので、理論計算などではこの単位系が用いられることも多い。なお、この単位系では温度は独立な次元を持たず、エネルギーと同じ次元となる。
  4. ^ 量子系では厳密には、エネルギーが量子化されているため、ほとんど至るところE において E=Ei は満たされない。そのため、その間に十分多くのエネルギー固有状態が入るエネルギー間隔 ΔE を定義し、条件を | EEi | < ΔEと緩めることにする。

[編集] 参考文献


[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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