エントロピー

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エントロピー (entropy) とは、物質の属性の一つ。記号「S」を用いて表される。物や熱の拡散の程度を表すパラメーターである。[1]次元はJ·K-1である。

S = kBlnΩ Ω: 物質がとる状態の数、kB: ボルツマン定数

と定義される(後述の統計力学の項を参照のこと)。

はじめは熱力学の研究対象であったが、研究が進むにつれ、物質から得られる情報に関係があることが指摘され、情報理論に応用されるようになった。

目次

[編集] 熱力学におけるエントロピー

マクロへの熱の移動を表す示量性状態量を表す。

[編集] 定義

適当に状態Oの時の初期値S(O)を定めておく。状態Oから状態Aまで、可逆の経路C を辿って移った時、状態AのエントロピーS(A)を

S(\mathrm{A})=S(\mathrm{O})+\int_C\frac{d'Q}{T}Q: 系が受け取る熱量T: 系の温度

と定義する。

[編集] 導出

独立変数として系の温度Tともう一つ他の状態量をとることとする。

クラウジウスの不等式より、n温度可逆サイクル(断熱過程と準静的等温過程を交互に繰り返すことによって得られる)において

\sum_{i=1}^n\frac{Q_i}{T_i}=0Qi: 系が熱源iから受け取る熱量、Ti: 熱源iの温度、なお可逆サイクルであるためTiは熱源iから熱を受け取る時の系の温度に等しい)

である。これよりn→∞とすると、

\oint\frac{d'Q}{T}=0

が導ける。

つまり、前述の通りS(\mathrm{A})=S(\mathrm{O})+\int_C\frac{d'Q}{T}と定義すると、S(A)は過程Cに依存しない状態量となる。

[編集] エントロピー増大則

状態Aから状態Bへと移る任意の過程Xと、可逆過程Cを考え、C-1Cの逆過程とする。この時XC-1を連結させた過程はサイクルとなる。

このサイクルについて、導出と同様にクラウジウスの不等式から\oint\frac{d'Q}{T_e}\le0が導ける(Te: 熱源の温度、一般に系の温度と一致しないことに注意)。つまり、\int_X\frac{d'Q}{T_e}+\int_{C^{-1}}\frac{d'Q}{T_e}\le0である。

この時C-1の過程中においては、この過程は可逆過程であるから、熱源の温度Teは系の温度Tに一致する。従って

\int_X\frac{d'Q}{T_e}+\int_{C^{-1}}\frac{d'Q}{T}\le0

、つまり

\int_X\frac{d'Q}{T_e}\le\int_{C}\frac{d'Q}{T}

となる。ところが、

\int_{C}\frac{d'Q}{T}=S(\mathrm{B})-S(\mathrm{A})

であるために、

S(\mathrm{A})+\int_{X}\frac{d'Q}{T_e}\le S(\mathrm{B})

となる。

これより、特に断熱系(外から仕事が加えられても良い)においてはd'Q = 0なので、S(\mathrm{A})\leq S(\mathrm{B})という結果が求められる。このことを指してエントロピー増大則という。熱力学第二法則と同値なクラウジウスの不等式からこれが求められたことにより、熱力学第一法則エネルギー保存則と対応するのになぞらえて熱力学第二法則とエントロピー増大則を対応させることもある。なお、熱の出入りがある系ではエントロピーが減少することも当然起こり得る(先の解説において\int_{X}\frac{d'Q}{T_e}が十分小さい場合がその例である)。

[編集] 性質

エントロピーは物や熱の属性で、それらに対する拡散の程度を表す示量性状態量である。

エントロピーが増加するために、熱エネルギーのすべてを他のエネルギーに変換することはできない。したがって、熱エネルギーは低品質のエネルギーとも呼ばれる。

化学反応や電場・磁場等の影響がない時、熱力学第一法則よりdU = d'Q + d'WU: 系の内部エネルギーQ: 系に与えた熱量、W:系に与えられた仕事)と表すことができる。平衡状態であれば、d'W = − PdVP: 系の圧力、V: 系の体積)であることと、エントロピーの定義を変形したd'Q = TdSより、

dU = TdSPdV

と、内部エネルギーを完全微分の形で表すことができる。

似た用語のエンタルピーとは別ものであり、注意を要する。

[編集] 統計力学におけるエントロピー

系の取りうる微視的状態数をΩとして、ボルツマン定数kBとした時、エントロピーS

S = kBlnΩ

で表される。

また、等確率の原理より

[編集] ブラックホールにおけるエントロピー

ブラックホールのエントロピーは表面積に比例する。

S = \frac{Akc^3}{4\hbar G}

ここでAはブラックホールの事象の地平面の面積、\hbarディラック定数(割られたプランク定数)、kボルツマン定数G重力定数c光速度そしてSがエントロピーである。

[編集] 生物学におけるエントロピー

シュレーディンガーは、生命をネゲントロピー(負のエントロピー)を取り入れエントロピーを排出することで定常状態を保持する開放定常系とした。この負のエントロピーというのは、光合成の反応がエントロピー増大にならないように見えたことによって作られたものである。しかし、このような誤解は光合成の際にブドウ糖合成に使われる約49倍の光エネルギーが熱となりエントロピーの発生になっていることを見落としているために起きたものである。ちなみに、このときに発生する熱の多くを、植物は蒸散として外部に処理している。 このように負のエントロピーなどという特殊なものは存在せず、生物も他の熱機関と同じように開放定常系として扱うことができるが、生物が違うところは自らを修復することにより積極的に物質循環を維持することである。例えば、エンジンにおいてそれを構成する主要な部品のどこかが不良になると、そこから物質循環が破壊されエントロピーが蓄積されるか、燃料など活動に必要な物質が供給されず、停止してしまう。しかし、生物の場合は、欠損した物質を外部から取り入れ、細胞などの構造を復元することにより物質循環を復活させることができる。これができなくなったときに生物は死を迎えるのである。

[編集] 用語の歴史

ルドルフ・クラウジウス1854年にクラウジウスの不等式として熱力学第二法則を表現していたが、彼自身によって「エントロピー」の概念が明確化されるまでにはそれから 11 年を要した。 非可逆サイクルで 0 とならないこの値をクラウジウスは仕事と熱の間の「変換」で補償されない量として、1865年の論文においてエントロピーと名付けた。 エントロピーという言葉はギリシャ語で「変換」を意味するトロペー (τροπή) に由来している。

その後ボルツマンやギブスによって統計力学的な取り扱いが始まった。 情報量としてはクロード・シャノン1948年ジョン・フォン・ノイマンの勧めに従って命名している。

[編集] 脚注

  1. ^ いくつか例を挙げる。分子が自由に動き回る気体は、分子が結晶格子に束縛されている固体よりも、エントロピーが大きい。砂糖を水に溶かして水溶液中で拡散させると、砂糖のエントロピーが大きくなる。 しかし、本が本棚に並んでいるのと床に散らばっているのとではエントロピーは変わらない。どのような本の並び方(巻数順に並べるか、大きさ順にするかなど)はどちらが乱雑かということは議論できないからである。一般に、エントロピーが乱雑さを表すというのは、原子・分子のレベルでの話であり、我々の暮らしている大きさの世界の話と混同してはならない。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク