可逆計算

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

可逆計算(かぎゃくけいさん、: Reversible computing)とは、可逆な、すなわち計算過程において常に直前と直後の状態が一意に定まる計算。可逆計算は、計算過程において情報が消失しないため非破壊的計算(Non-destructive computing)としても知られている。

[編集]

歴史[編集]

可逆計算、特にその原理とハードウェアに対する初期の興味は、計算のために必要なエネルギーはどれくらいか? という計算理論物理学が重なった問題と繋がっている。スーパーコンピュータから電卓まで、さらにはそろばんの珠を動かすのに必要なエネルギーまで、計算のためには何らかの最低限必要なエネルギーというものがありそうに現実的には思える。

しかし、チャールズ・ベネットが明らかにしたところでは、フォン・ノイマン=ランダウアーの限界に従ってエネルギーが消費されるのは、情報が失われる時であると結論された(マクスウェルの悪魔も参照)。このことから、可逆計算はエネルギーを消費することなく(正確には、必要なだけゆっくり[3]と過程を進めることにより、いくらでも少ないエネルギーで)行うことができる[4]

もちろん、現実の物理法則に従って、どうやればそのようなコンピュータを作ることができるか、は別の問題であり、我々が現在使っているパーソナルコンピュータ携帯情報端末の消費電力を、明日にでもどうこうできる、といったものではないし、ランダウアーの限界は我々が通常使っている集積回路の動作するエネルギーとは桁が違うものだが、理論では以上のように示されている。

近年の可逆計算に対する興味は、検証など様々な分野からのものがあるが、そのうちの一つに量子計算が挙げられる。量子計算は量子過程によって計算を行うものであり、量子物理学の法則は時間について可逆である。そのため、量子系にさせる計算に関して、そのモデルは可逆でなければならない。

参考文献[編集]

  • ファインマン, R. P. 著, ヘイ, A., アレン, R. 編, 原康夫他訳 (1999) 『ファインマン計算機科学』 岩波書店, ISBN 4-00-005941-6, 第5章 「可逆計算と計算の熱力学」.
  • 森田憲一『可逆計算』(計算モデルが中心)

参照・注[編集]

  1. ^ Vieri, Carlin James (1995). Pendulum:a reversible computer architecture (Thesis).
  2. ^ a b 「逆方向実行可能言語によるエンコーダとデコーダの同時実装」( https://staff.aist.go.jp/tanaka-akira/pub/2014-01-14-ipsj-pro97-akr.pdf
  3. ^ 準静的過程のこと
  4. ^ ファインマンが「計算に必要な最小のエネルギー」という問題について調査を依頼されたのはカーバー・ミードからであった(『ファインマン計算機科学』 p. 123)

外部リンク[編集]