内積

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数学において、内積(ないせき、inner product)とは、ベクトル空間上で定義される非退化(かつ正定値の)対称双線型形式あるいはエルミート双線型形式のことである。2 つのベクトルに対してある数(スカラー)を定める演算であるためスカラー積(スカラーせき、scalar product)ともいう。

デカルト平面または3次元空間における幾何ベクトルの内積(点乗積)についてはドット積を参照。

目次

[編集] 定義

K実数R または複素数C (あるいは四元数H)とする。K 上のベクトル空間 V に対して、内積とは以下の性質を満たす 2 変数の関数 <·, ·>: V × VK のことである:

  1. V の任意の元 x に対して、<x, x> は非負の実数で、<x, x> = 0 ⇔ x = 0 。
  2. 任意のスカラー α, β ∈ KV の任意のベクトル x1, x2, y に対して、
    • x1 + βx2, y> = α<x1, y> + β<x2, y> 。
  3. <x, y> = < y, x>

性質 1 の前半を正値性あるいは正定値性といい、後半を正則性という。性質 2 は内積が第一の変数について線型であるということである。性質 3 は対称性といわれ、これと性質 2 から、内積は第二の変数についても線型となることがわかる(つまり内積は双線型写像である)。

係数体が複素数体 C (あるいは四元数体 H)であるとき、性質 3 の代わりに

  • エルミート対称性: <x, y> = < y, x>* ( "*" は複素共役(あるいは四元数の共役))

を満たすなら、エルミート内積(あるいは四元数のエルミート内積)という。エルミート内積を単に内積と呼ぶことも多い。

[編集] 内積の幾何学性

1 つのベクトル空間に定義される内積は 1 つとは限らない。また、ある内積 <·, ·> に対して

 \left\| x \right\| :=  \sqrt{ \left\langle x, x \right\rangle}

と定めると、1 つのノルム ||·|| が定義できる(これを内積 <·, ·> が定めるノルムと呼ぶ)。この意味で内積はベクトル空間に計量 (metric) を定めるという。すなわち、ここでいうノルムとは与えられた内積ではかった "ベクトルの大きさ" であり、

\cos\theta = \frac{\left\langle \mathbf{a}, \mathbf{b} \right\rangle}{\left\| a \right\|\left\| b \right\|}

とおくことで、二つのベクトルのなす角が定められる(コーシー・シュワルツの不等式を参照)。

こうして定義されたノルムについては、次の幾何学的な性質を表す中線定理が成り立つ。


\left \| x+y \right \| ^2 + \left \| x-y \right \| ^2
= 2( \left \| x \right \| ^2 + \left \| y \right \| ^2 )

また、さらに内積で定めたノルムと内積について、次の関係式が成り立つ。 実数体R上の内積空間の元x, yに対して、


\langle x,y \rangle =\frac{1}{4} \{\left \| x+y \right \| ^2 - \left \| x-y \right \| ^2 \}

もしくは複素数体C上の内積空間の元x, yに対して、


\langle x,y \rangle =\frac{1}{4} 
\{
(\left \| x+y \right \| ^2 - \left \| x-y \right \| ^2)
+i(\left \| x+iy \right \| ^2 - \left \| x-iy \right \| ^2)
 \} \quad i=\sqrt{-1}

この関係式を分極公式、または偏極公式(polarization identity)という。

このように、内積はベクトル空間の代数的な性質幾何的な性質の橋渡しをするものである。詳細については計量ベクトル空間の項を参照されたい。

[編集] 種々の内積

Rnにおける内積

n-次元数ベクトル空間 Rn において、任意の二元 x = (x1, x2, ..., xn), y = (y1, y2, ..., yn) に対し、

 \langle x,y \rangle := x \, y^{\mathrm{T}}
  = \sum_{i=1}^{n} x_iy_i

(右肩の T は行列の転置をとる意で、中辺は行列としての積)とすると、この <·, ·> は(正定値な)内積の性質を満たす。これを、Rn標準内積と呼ぶ。また、n 次の(正定値)対称行列 A を用いて

 \langle x,y \rangle_A := x^{\rm T}Ay

とおくと、これも(正定値)内積の性質を満たす。

Cnにおける内積

複素n-次元数ベクトル空間 Cn において、任意の二元 x = (x1, x2, ..., xn), y = (y1, y2, ..., yn) に対し、

 \langle x,y \rangle := x \, \overline{y}^{\mathrm{T}}
  = \sum_{i=1}^{n} x_i \overline{y_i}

とすると、この <·, ·> はエルミート内積の性質を満たす。

対称行列の空間Sn×nにおける内積

n対称行列の空間Sn×n について、X, YSn×n に対して

 \langle X,Y \rangle := \mathrm{Tr}(XY)

と取ると、これは内積を与える。

L2(Ω)における内積

Ω をユークリッド空間の開集合とする。Ω 上の二乗可積分な関数全体の成す集合を関数がほとんど至る所等しい測度零の集合上でとる値を除いて等しい)という同値関係で割って得られる空間 L2(Ω) には、二乗可積分関数 f, g について

 \langle f,g \rangle := \int_{\Omega}f(x)\overline{g(x)}dx

と置いて、エルミート内積が定まる。より一般に、(Ω, F, μ) を測度空間とすると、L2(Ω, μ) の 2 元 f, g について

 \langle f,g \rangle := \int_{\Omega}f(x)\overline{g(x)}d{\mu}(x)

と置いたものはエルミート内積の性質を満たす。

[編集] 一般化

[編集] 正則対称双一次形式

一般の体 K 上のベクトル空間 V に対し、V 上の対称双一次形式対称双線型形式あるいは内積とは、次の性質を満たす二変数の写像 f: V × VK のことである:

  1. 双線型性: f(x + y, z) = f(x, z) + f(y, z), f(x, y + z) = f(x, y) + f(x, z), f(cx, y) = f(x, cy) = cf(x, y)
  2. 対称性: f(x, y) = f(y, x)

for all x, y, zV, cK 。ただし、内積と呼ぶときは、多くの場合さらに

  • 非退化性: [f(x, β) = 0 for all β ∈ Vx = 0] かつ [f(α, y) = 0 for all α ∈ Vy = 0]。

が仮定されている。すなわち、非退化双線型形式のことを内積と呼ぶのである。

非退化性は正則性とも呼ばれ、非退化な内積であることを強調して、非退化内積あるいは正則内積という場合が稀にある。ただし、普通は "内積の非退化性" というときは、双線型形式としての非退化性の話である。

今述べた意味での内積は、f の像 Im fK順序体であって、次の条件

  • 正値性: f(x, x) ≥ 0 (for all xV)

をみたすとき、正値あるい正定値(正確には半正値あるいは半正定値)であるといい、正値あるいは正定値である内積のことを正値内積あるいは正定値内積という。

冒頭で述べた意味での内積は、今述べた意味での(非退化な)正値内積になっている。また、複素ベクトル空間(あるいは四元数上のベクトル空間)では、双一次形式をエルミート双一次形式(あるいは四元数のエルミート形式)にとりかえてエルミート内積に到達する。

[編集] 関連項目

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