原子時計
原子時計(げんしどけい、atomic clock)とは原子や分子のスペクトル線を用いて正確な時間を計る時計である。高精度のものは10-15(3000万年に1秒)程度、小型化された精度の低いものでも10-11(3000年に1秒)程度の誤差である。現在のSI秒および国際原子時(International Atomic Time)は原子時計に基づく。
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原理 [編集]
原子や分子には、それぞれに決まっている周波数の電磁波を吸収あるいは放射する性質がある(スペクトルにおける吸収線と輝線)ため、元になる水晶振動子から放射された電波よりも高精度な周波数を求めることができる。周波数は時間の逆数であるから、時間を高精度で測定できる。1967年に定められた秒の定義もこの性質を利用している。原子時計は一般的な時計とは異なり本来は「原子周波数標準器」と呼ばれるもので、時刻を表示する仕組みは備えていない。元になる超高精度のクォーツ時計を修正している。
原子時計を元に作られた正確な時刻情報は標準電波として放送されており、その電波を受信してクォーツ時計の誤差を修正しているのが電波時計である。
セシウム原子時計 [編集]
アンモニアやセシウムの他にルビジウムや水素なども用いられるが、セシウム原子時計の例について述べる。まず炉から放射されたセシウム133の蒸気を、磁場によって超微細準位の異なる2つに分離する。分離されたうち基底状態の原子に水晶振動子を基準として9,192,631,770Hzのマイクロ波を照射し、これによって励起された原子に再び磁場をかけて分離する。励起状態のセシウムの量が多くなるよう周波数を調整し、正確な9,192,631,770Hzのマイクロ波を作り出す。1967年から、国際的な1秒の定義となっている。誤差は1億年に1秒(10の-15乗)程度とされている。最高精度を実現しているのは1次標準の数台に限られており、多くは少し精度の低い商業的に作られた2次標準を用いている。
ストロンチウム光格子時計 [編集]
レーザー光の干渉定在波によって作られた光格子の中に、ストロンチウム原子約100万個をラム・ディッケ束縛により閉じこめる。光格子に閉じ込めるために原子を数μKまでレーザー冷却する。ラム・ディッケ束縛によりドップラーシフトおよび反跳シフトを排除できる。また、光格子を構成するレーザーの波長を適当に選ぶと、時計遷移(線幅はmHzオーダー)の基底状態と励起状態の光シフトを打ち消すことができるため、光シフトの影響がきわめて少ない。2001年、東京大学の香取秀俊[1]によって提唱され[2]、2003年に基礎実験に成功した。セシウム原子時計を超える原子時計として期待されている[3][4]。「光コム」(光周波数コム。レーザー光を利用して光の周波数を精密に測定する仕組み)を使い、より高い周波数(マイクロ波ではなく光波)の使用により安定度を上げる。
理論的にはセシウム原子時計の1000倍の「300億年に1秒」の精度がある。2009年現在16桁の精度が実現している(429,228,004,229,877Hz)。2006年10月の国際度量衡委員会で、「秒」の二次表現として採択された[5]。
イッテルビウム光格子時計 [編集]
ストロンチウム光格子時計をしのぐ精度をもつ可能性のあるものとして、イッテルビウム171光格子時計の開発が進んでいる。産業技術総合研究所計測標準研究部門時間周波数科の洪鋒雷・研究科長、安田正美・主任研究員らの開発による。黒体輻射や核スピンの影響が少なく精度が高いと考えられている。2010年現在の周波数は518,295,836,590,864Hz(2009年測定、不確かさは28Hz=60万年に1秒)である[6]。 その後、装置の改善等を行い、2012年現在の周波数は518,295,836,590,863.1 Hz (2012年測定、不確かさは2.0Hz。相対不確かさ=3.9×10-15)[7]。 2012年10月の国際度量衡委員会で、秒の二次表現として採択された[8]。
歴史 [編集]
1949年、アメリカ国立標準局においてアンモニアの吸収線を用いた原子時計が物理学者ハロルド・ライオンズによって発明された[9][10]。またアメリカで発明され、イギリス国立物理学研究所(NPL)のルイ・エッセンらによって開発されたセシウム原子時計は1955年から1958年まで国際原子時(TAI)を刻み実用化第1号となった。その後、1967年の第13回国際度量衡総会において現在用いられている国際単位系(SI)の秒の定義「セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍に等しい時間」(計量単位令)が決定された。2011年8月の発表によると情報通信研究機構(NICT)と東京大学が独立に開発した原子時計を超高精度光伝送技術を用いて結び、6500万年に1秒(16桁)の精度を確かめた[11][12]。米国には70億年に1秒の精度とされる原子時計がある[13]。
うるう秒 [編集]
原子時計が進歩し、太陽を利用した地球の予定回転精度(1日は24時間、86,400秒ぴったりのはず)を上回った正確さで1日がはかれるようになった。そこで原子時計そのままの時間を使うと、普段地球上で使う時計があわなくなる。そのため何年かに1回うるう秒を挿入して(現在は地球の方が早いので)時間調整をしている(協定世界時(UTC) 、国際原子時(TAI)を参照のこと)。
利用 [編集]
- 高精度の時計を一番に必要としているのは長さの計測である。長さを正確に測るためには、正確な時計が必要である。現在ではレーザー波で、正確に長さが測れる(以前は白金・イリジウム合金製の標準メートル原器を元にしていたため、温度や摩耗の問題があった)。
- また電波において、正確な周波数同調が出来るようになった。
- 時間、長さ、周波数の3つは重さや電気を正確に測るために必要である。
- GPS衛星には原子時計を搭載して、正しい位置を表すための正確な電波を出す。
将来 [編集]
- 時計の精度が上がると相対性理論により時計がある場所の速度、重力、電磁場が精度に大きく関係してくる(セシウム原子時計でも地球上と人工衛星軌道での時間の進む速さの違いが検出される)。逆に考えると、電磁場や重力場(重力波?)を高精度で測定できる可能性を秘めている。
- 物理学の基本量(光速、プランク定数、素電荷、万有引力定数、微細構造定数など)を正確に決定できる。これらの数字のつながりが解明される可能性がある。
- 相対性理論と量子力学の2つは根本の部分で分かっていなかったり、微妙に整合性がとれていない。どちらが正しいかわかるようになり、統合・調整できる可能性がある。
参考資料 [編集]
脚注 [編集]
- ^ 2011年度朝日賞「光格子時計に関する研究」
- ^ 東京大学香取研究室の研究テーマ
- ^ 産総研計量標準報告 Vol.4, No.3 光格子時計を用いた光周波数標準
- ^ 応用物理、第74巻、第6号(2005)
- ^ 情報通信研究機構 > 新世代ネットワーク研究センター > 光・時空標準グループ > 次世代時刻周波数標準プロジェクト > 研究紹介 > Sr光格子時計>ストロンチウム(Sr)原子を用いた光格子時計の研究開発
- ^ イッテルビウム光格子時計の開発に成功 産業技術総合研究所 2009年7月29日
- ^ Applied Physics Express Vol. 5 (2012) Article No:102401 "Improved Absolute Frequency Measurement of the 171Yb Optical Lattice Clock towards a Candidate for the Redefinition of the Second".
- ^ イッテルビウム光格子時計が新しい秒の定義の候補に 産業技術総合研究所 2012年11月1日
- ^ Smithsonian Institution Research Information Systemの記述
- ^ 1949年7月に成立した特許の内容
- ^ 6500万年にわずか1秒の誤差!光格子時計の精度を世界で初めて光ファイバで結び実証
- ^ Applied Physics Express Vol.4(2011) No.8 Article No:082203 “Direct Comparison of Distant Optical Lattice Clocks at the 10-16 Uncertainty”
- ^ 6500万年に1秒しか狂わない時計 東大など精度実証 朝日新聞 2011年8月5日
関連項目 [編集]
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