保健物理学

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保健物理学(ほけんぶつりがく、英語health physics)は、職業上または環境から浴びる放射線の安全性に関する基礎的から応用までの広範な学術分野であり[1]、放射線の有害な影響から人体を防護するための放射線安全管理に関する研究分野である[2]

目次

語義[編集]

保健物理学は英語のhealth physicsを直訳したものであり、広い意味での放射線の防護に対する系統的な研究ならびに応用を担当する分野を指す。ニュアンスの違いはあるが、放射線防護、放射線管理、保健物理の3者はほぼ同義語として用いられている場合が多い。

原爆製造のためのマンハッタン計画の初期において、作業者の放射線および放射能にかかわる健康管理、すなわち放射線防護は、当時の主として医学放射線分野でのそれとは質的に違った大規模で複雑なものであると認識されていた。この観点から、放射線防護面を担当する保健(health)部が設けられ、部内はさらに医学、生物、物理の3セクションに分けられた。物理セクションを、他の部門の物理セクションと区別するために、health physicsと呼んだのが始まりとされ[3]、外部に悟られないように付けた隠語のようなものだといわれている[4]

その後軍事発電とともに医療や一般産業における放射線の利用も進展し、現在では発生源を問わずすべての放射線に関して保健物理という用語が用いられている。ただし、アメリカその他若干の国を除くと、特にヨーロッパでは放射線防護と呼ばれている。

日本では、1957年日本原子力研究所の中の放射線防護を主管する部の名として初めて使われた。[2]

日本保健物理学会は、任意団体から一般社団法人への移行を目指す中で、2010年に「学会名称アンケート」を実施。理事会提案の「一般社団法人 日本放射線防護学会」が良い、とするものが「一般社団法人 日本保健物理学会」が良い、を回答数でわずかに上回る一方で、名称変更反対の意見が多数寄せられた[5]

研究対象[編集]

保健物理の内容は、放射線および放射性物質の測定、施設内や環境における放射線および放射性物質の挙動の追跡、施設及び作業者の放射線管理、外部被曝線量評価、生体内での放射性物質の挙動の追跡、内部被曝線量評価、環境における放射性物質の拡散・移行挙動の解明・管理、個人被曝管理、放射線障碍の機構の解明、放射線防護剤と放射能防護具の開発、緊急医療対策、放射性廃棄物の処理処分とその管理などである。したがって、保健物理学とは放射線あるいは放射性物質にかかわる産業医学放射線医学公衆衛生学物理学化学工学農学気象学地質学生態学教育学応用心理学など諸科学の境界領域ということができる。[2]

学会[編集]

1956年アメリカ保健物理学会Health Physics Society ; HPS が設立された。1961年6月19日、Health Physics Society から日本に支部を作ってはどうかと言う話が持ち込まれ、検討の結果要請を受け入れることになり、同日日本支部結成準備委員会が発足した。1962年2月5日にHealth Physics Society 役員会で日本支部設立願が承認され、同月15日には日本保健物理協議会の発起人会総会が開かれた。同年10月1日に「日本保健物理協議会ニュース」第1号が発刊され、1966年2月に第1回研究発表会が東京工業大学で行われた。

1963年6月10日、Health Physics Society 役員会は、放射線防護に関する国際学会を結成する方針を決定、そのための委員会を発足させた。1964年3月20日、国際学会設立に向けて米、英、日、仏14人委員で構成する幹部会が発足。1965年12月国際放射線防護学会 International Radiation Protection Association(IRPA)が結成され、最初の国際会議および総会は1966年ローマで開催された。

国際放射線防護学会結成時に日本保健物理協議会の会員約300名が創立会員として入会し、これを機にHealth Physics Society 日本支部は解散した。日本保健物理協議会は国際放射線防護学会の日本における唯一の加盟団体として認められている。1974年3月に日本保健物理協議会は日本保健物理学会と改称した。[6][2]日本保健物理学会は、現在会員数約1000人規模の学会である。

また、1950年国際放射線防護委員会(ICRP)や1955年原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の発足、1945年の原爆投下や1954年第五福竜丸被爆等を背景に、1959年放射線医学総合研究所の開所と同時に日本放射線影響学会が発足した[7]

日本ではほかに、日本原子力学会保健物理・環境科学部会、日本放射線研究連合などでも保健物理学が研究されている。

脚注[編集]

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  1. ^ 原子力百科事典ATOMICA「日本保健物理学会 (13-02-02-07)
  2. ^ a b c d 稲葉次郎「保健物理学 ほけんぶつりがく health physics」「放射線防護 ほうしゃせんぼうご radiation protection」、平凡社世界大百科事典
  3. ^ 原子力百科事典ATOMICA「保健物理」
  4. ^ 安斎育郎 退職記念講義「生き越し方を振り返って」(PDF)『立命館国際研究』18-3、2006年3月、p.437
  5. ^ 一般社団法人への移行にあたっての学会名称について 平成23年6月6日日本保健物理学会 理事会(PDF)
  6. ^ 辻本忠「これまでの保健物理」(PDF)保物セミナー2009での講演、2009年10月29-30日、大阪科学技術センター
  7. ^ 原子力百科事典ATOMICA「日本放射線影響学会 (13-02-02-08)」

外部リンク[編集]