双子のパラドックス

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双子のパラドックス(ふたごのパラドックス)とは、特殊相対性理論1905年)による運動系の時間の遅れに関して提案されたパラドックスである。初めは、相対性理論に内部矛盾があるかどうかについて、アインシュタイン本人が時計のパラドックスとして出した問題であるが、1911年ポール・ランジュバンが双子をモデルしたパラドックスに仕立てたため、双子のパラドックスとして有名になった。

なお、アインシュタインは26歳のときに出した、特殊相対性理論の論文「動いている物体の電気力学」において、「同じ時刻を刻む2つの時計がA点に置かれているとき、そのうちのひとつを、A点を通る任意の閉曲線にそって一定の速さv で動かし、t 秒後に再びA点に戻ったとき、この時計は動かさなかった時計よりt (v/c)^2/2 秒だけ遅れている。」と書いている。

双子のパラドックスのストーリー[編集]

双子のパラドックスのストーリーは次のようになる。双子の兄弟がいて、弟は地球に残り、兄は光速に近い速度で飛ぶことができるロケットに乗って、宇宙の遠くまで旅行したのちに地球に戻ってくるものとする。このとき、弟から見れば兄の方が動いているため、特殊相対性理論が示すように兄の時間が遅れるはずである。すなわち、ロケットが地球に戻ってきたときは、兄の方が弟よりも加齢が進んでいない。一方、運動が相対的であると考えるならば、兄から見れば弟の方が動いているため、特殊相対性理論が示すように弟の時間が遅れるはずである。すなわち、ロケットが地球に戻ってきたときは、弟の方が兄よりも加齢が進んでいない。これは前の結果と逆になっており、パラドックスである。

このパラドックスは、双子の兄弟の運動が対称ではないことから解決される。弟は地球(慣性系と仮定してよい)にいるのに対し、ロケットに乗った兄は、出発するときおよび、Uターンするときに加速されるため、少なくとも加速系に一時期いることになる。すなわち、ずっと慣性系にいる弟とは条件が異なるのである。

兄弟それぞれの年齢は固有時を積分することで算出できる。

誤解[編集]

以下の相対論に関わるパラドックスは、ときに「双子のパラドックス」として誤って紹介される事がある。これらは双子のパラドックスとは別物である。

  • ロケットに乗っている兄の方が歳を取りにくくなる(ウラシマ効果)。
  • 兄の乗ったロケットが慣性運動(等速直線運動)をしているとき、相対性により、弟から見ると兄のほうが歳を取りにくく見え、兄のほうから見ると弟のほうが歳を取りにくく見える。

なお、双子のパラドックスは、光速に近い速度で動いた兄が、再び弟のところに戻ってきたときに起こる現象の事であるとされるが、これは光速に近い速度でなければ双子のパラドックスが起こらないものと誤解されやすい。先に述べたとおり、兄が弟よりも速く動いていさえすれば、兄の方が弟よりも若くなる。ただし、兄を光速度にほど遠い低速なロケットに乗せるならば、時間の遅れは微々たるものであって、ストーリーとして面白みに欠ける。これが光速に近い速度のロケットに兄を乗せねばならない理由である。また、加速度を扱うのだから特殊相対性理論では扱えないとするのは誤りである。一般相対性理論で使われている公式を利用するのはかまわない。一般相対性理論では、加速度も相対的であるが、Uターンをすることによって、宇宙船に乗っている側は一貫した加速系にいないことになるため矛盾は生じない。地球上と同じ重力加速度gで宇宙船で加速航行していたとしてもUターンによって+gと-gという符号が逆の加速系が生じるため、地球上で受ける重力加速度+gとは条件が異なることになる。

具体例[編集]

地球に滞在する人の座標系、宇宙船に乗っている人についての座標系をそれぞれK系とK'系と呼ぶことにする。いま旅行の手順の時間については地球にいる人からみた計画で行われるとする。ここでは地球の影響による時間の流れの変化は無視するとする。

2000年1月1日から2006年1月1日までの旅行を考える。2192日間を365.3日の6つの段階に分ける。

  • 段階1 - 宇宙船が静止した状態から一定の固有加速度を受け、K系から見た時間で1年間で光速の90%の速度に加速される。
  • 段階2 - 宇宙船は光速の90%の速度で、K系から見た時間で1年間等速直線運動をする。
  • 段階3 - 宇宙船は一定の固有加速度を受け、光速の90%の速度からK系から見た時間で1年間かけて減速し目的の場所に到着静止する。
  • 段階4 - 宇宙船は静止した状態から一定の固有加速度を受け、K系から見た時間で1年間で地球向きに光速の90%の速度に加速される。
  • 段階5 - 宇宙船は光速の90%の速度で、K系から見た時間で1年間等速直線運動をする。
  • 段階6 - 宇宙船は一定の固有加速度を受け、K系で見た時間で1年間かけて減速し地球に到着静止する。

このそれぞれの段階について宇宙船に乗っている人から見た時間、固有時間を求める。

宇宙船の固有時間と静止した状態との時間との関係は次の式で与えられる[1]

\Delta \tau = \int \sqrt{ 1 - (v(t)/c)^2 } \ dt \

加速と減速の物理現象の対称性から段階1、3、4、6は同じ時間を宇宙船からみて感じる固有時間は等しいので段階1についてのみ考える。

段階1について[編集]

固有時間を求める式は次のように表される。

段階1 :\quad c / a \ \text{arcsinh}( a A/c )\,

ここでAはK系からみた時間で今考えている例では一年である。aは固有加速度である。ここでaとAと最終的な速度には次の関係がある

a A = v / \sqrt{ 1 - v^2/c^2 }

これからaは19.624m/s^{2}となり

よってこの段階の宇宙船の固有時間は2.25\times 10^{7}秒となる。

方向が異なる等速直線運動なので段階2,段階5は同じ時間を宇宙船からみて感じる固有時間は等しい、よって段階2についてのみ考える。

段階2について[編集]

段階2 :\quad T \ \sqrt{ 1 - v^2/c^2 }

ここでTはK系から見た時間を表していて、例の場合には1年である。

よって宇宙船が感じる固有時間は1.38\times10^{7}秒となる。

以上の結果からすべての時間を足し合わせると宇宙船が旅行から戻ってきたときには宇宙船の時計はだいたい2003年9月22日の時刻を表していると求められる。

参考文献[編集]

  1. ^ Jones, Preston; Wanex, L.F. (February 2006). “The clock paradox in a static homogeneous gravitational field”. Foundations of Physics Letters 19 (1): 75–85. doi:10.1007/s10702-006-1850-3. http://arxiv.org/abs/physics/0604025. 

関連項目[編集]