順序集合

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数学において順序集合(じゅんじょしゅうごう、: ordered set)とは 「順序」の概念が定義された集合の事で、「順序」とは大小、高低、長短等の序列に関わる概念を抽象化したものである。

ただし順序集合内の2つの元ab に順序関係が定まっている必要はなく、両者が「比較不能」であってもよい。よってab の関係は「ab 以上である」、「ba 以上である」、「ab は比較不能である」の3通りのいずれかとなる。

順序集合で特に「比較不能」のケースを許容しないものを全順序集合(totally ordered set)という。全順序集合であれば比較不能のケースはないので集合内の元を小さい方から順番に一列に(すなわち線形に)並べる事ができる。この為全順序集合の事を線型順序集合ともいう。

順序集合は必ずしも全順序とは限らないので、この事を強調して順序集合の事を半順序集合(はんじゅんじょしゅうごう、: partially ordered set, poset)ともいう。(「半順序」という言葉が「全順序」の対義語ではない事に注意。全順序集合も半順序集合の一種である)。

全順序集合の簡単な例は整数の集合や実数の集合で、通常の大小比較を順序とみなしたものがある。 一方、全順序ではない半順序集合の例としては(2つ以上元を含む)集合の冪集合で、包含関係を順序とみなしたものがある。例えば3元集合P ={a,b,c}において{a,b}と{b,c}はいずれも他方を包含していないのでP の冪集合は全順序ではない。実生活に近い例では、「AさんはBさんの子孫である」という事を「A<B」という大小関係とみなす事で人間全体の集合を半順序集合とみなせる。AさんとBさんはどちらも他方の子孫でない事もありうる(兄弟同士、叔父と甥、赤の他人等)ので、この順序集合は全順序ではない。

定義[編集]

全順序集合、半順序集合、およびこれらよりさらに弱い概念である前順序集合の定義を述べる為にまず以下の性質を考える。ここでP は集合であり、「≤」をP 上で定義された二項関係 である。

反射律 
\forall a \in P : a \le a
推移律 
\forall a, b, c \in P : a \le b \land b \le c \to a \le c
反対称律 
\forall a, b \in P : a \le b \land b \le a \to a = b
全順序律 
\forall a, b \in P : a \le b \lor b \le a

「≤」が全順序律を満たさない場合、「ab」でも「ba」でもないケースがある。このような第三のケースにあるときab比較不能であるという。したがって全順序律は、abが比較不能である事はない、と言い換える事ができる。

前順序・半順序・全順序[編集]

P を集合とし、「≤」をP 上で定義された二項関係 とする。

  • 「≤」が反射律と推移律を満たすとき「≤」をP 上の前順序という。
  • 前順序な「≤」が反対称律をも満たすとき「≤」をP 上の半順序という。
  • 半順序な「≤」が全順序律をも満たすとき「≤」をP 上の全順序という。

「≤」が前順序、半順序、全順序であるとき組(P, ≤)をそれぞれ前順序集合半順序集合全順序集合といい、P を(P, ≤)の (support)という。紛れがなければ「≤」を省略し、P の事を(前、半、もしくは全)順序集合という。 |}

(前、半、もしくは全)順序集合(P, ≤)に対し、「≤」の事をP 上の順序関係 ともいう。 なお数学では単に順序あるいは順序集合といった場合はそれぞれ半順序、半順序集合を意味するが、主な研究対象が(前もしくは全)順序集合であるような分野では(前もしくは全)順序集合の意味で「順序集合」を使うことがあるので注意が必要である。

上では順序を記号「≤」で表したが、必ずしもこの記号で表現する必要はない。 整数の大小を表す記号「≤」と区別する為、順序の記号として「\prec」や「\ll」を使う事もある。

全順序の事を線型順序ともいい、全順序集合のことをと呼ぶこともある。また半順序集合の部分集合AA の任意の相異なる二元が比較不能であるものを反鎖英語版という。

半順序集合の元 a が他の元 b によって被覆される英語版 a <: b とは、ab よりも真に小さく、かつそれらの間に別の元が入ることは無いこと(後述する狭義の記号を使って書けば a < b かつ任意の c に対して a < c < b が偽となること)をいう。

逆順序と狭義の順序[編集]

上で述べた順序関係「≤」は直観的には左辺が右辺よりも「小さい、もしくは等しい」事を意味しているが、逆に左辺が右辺よりも「大きい、もしくは等しい」順序関係や等しい事を許容しない順序関係を考える事もできる。

「大きい、もしくは等しい」事を意味する順序関係は「≤」の逆順序と呼ばれ、

a \ge b \iff b \le a

により定義される。

また等しい事を許容しない順序は狭義の(半)順序と呼ばれ、以下のように定義される:

a < b \iff (a \le b \and a \ne b) ...(1)

狭義の逆順序「>」も自然に定義される。

狭義の順序「<」の対義語として、等しい事も許容する順序「≤」の事を広義の(半)順序(もしくは弱い意味 (weak) の(半)順序、反射的 (reflexive) な(半)順序)という。

(1)式で定義された「<」を「≤」の反射的簡約 (reflexive reduction) という。

「≤」が半順序であるとき、その反射的簡約「<」は任意のa, b, cP に対して以下を満たす:

狭義の順序の性質[編集]

非反射性 
¬(a < a);
非対称性 
a < b ならば ¬(b < a);
推移性 
a < b かつ b < c ならば a < c

以上では広義の順序からスタートして狭義の順序を定義したが、逆に上の三性質を満たすものを狭義の順序として定義し、広義の順序を

a \le b \iff a < b \or a = b ...(2)

により定義する事もできる。 この場合、(2)式で定義された「≤」を「<」の反射閉包英語版という。 「<」が前述の3条件を満たせば反射閉包「≤」が半順序である事を簡単に示す事ができる。

順序集合の例[編集]

  • 自然数全体の集合 N整数全体の集合 Z有理数全体の集合 Q実数全体の集合 R は通常の代数的な大小関係によって全順序集合になるが、複素数はそうではない。複素数全体の集合 CR × R としての辞書式順序を定めたものは全順序集合であるが、この順序は複素数の乗法とは両立しない。
  • 自然数全体の成す集合は整除関係を順序として半順序集合である。
  • ある集合の冪集合は部分集合の包含関係を順序として半順序集合となる。これは一般には全順序ではない。例えば {1, 2, 3} の冪集合
    
\{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{2, 3\}, \{1, 2, 3\}\}
    について、たとえば {1, 2} と {2, 3} を考えれば、これらは比較不能である({1, 2} ≤ {2, 3} でも {2, 3} ≤ {1, 2} でもない)。
  • ベクトル空間の部分空間全体は包含関係で順序付けられた半順序集合である。
  • 半順序集合 P に対し、P の元の列全体の成す集合は、列 a, b に対し、
    a=(a_n)_{n\in\mathbb{N}} \le b=(b_n)_{n\in\mathbb{N}} \iff a_n \le b_n (\forall n \in \mathbb{N})
    と定めると半順序集合となる。
  • 集合 X と半順序集合 P に対し、X から P への写像全体の成す写像空間は、ふたつの写像 f, g に対して、fgX の任意の元 x に対して f(x) ≤ g(x) となることとして定義すると、半順序集合になる。
  • 非循環有向グラフの頂点集合は、到達不可能性によって順序付けられる。
  • 半順序集合における順序関係の向きが a < b > c < d ... というように交互に入れ替わる列をフェンスと呼ぶ。

ハッセ図[編集]

三元集合 {x, y, z} の部分集合の全体を包含関係を順序とする順序集合とみたときのハッセ図

P を有限集合とし、「<」をP 上の狭義の半順序とするとき、以下のようにしてP を自然に単純有向グラフとみなせる:

頂点:Pの元
aP から bP への辺がある⇔ a < b であり、しかもa < c < bを満たすcPが存在しない。(すなわちba を被覆している)。

この有向グラフを図示したものをハッセ図という。

右に示した図がハッセ図の例である。この図では三元集合 {x, y, z}の 部分集合の全体を包含関係を順序とする順序集合とみなしたものをハッセ図として表している。

ハッセ図を用いると、順序関係に関する基本的な概念が図示できる。 例えばこの図で {x} と {x,y,z} は比較可能だが、{x} と {y} は比較不能である。 また一元集合の族 {{x}, {y}, {z}}は反鎖である。 さらに{x} は {x,z} によって被覆されるが、{x,y,z} には被覆されない。

なお、有限半順序集合から前述の方法で作ったグラフは閉路を持たない。 逆に(V , E )を閉路を持たない有限な単純有向グラフとすると、V 上に以下の順序を入れる事でV を半順序集合とみなせる:

a < ba からb への道がある

したがって有限半順序集合は閉路を持たない有限な単純有向グラフと自然に同一視できる。

上界、最大、極大、上限、上方集合[編集]

P を半順序集合とし、Aをその部分集合とし、xP の元とする。 このとき上界、最大、極大、上限の概念、およびこれらの双対概念である下界、最小、極小、下限は以下のように定義される:

定義[編集]

  • xA上界(resp. 下界) ⇔ ∀ yA : yx (resp. yx)
  • xA最大元(resp. 最小元)⇔xA の元でしかもxA の上界(resp. 下界)である
  • xA極大元(resp. 極小元)⇔xA の元でしかも「y \gneqq x」(resp. 「y \lneqq x」)を満たすyA が存在しない
  • xA上限(resp. 下限)⇔x は集合{yP | yA の上界(resp. 下界)}の最小元(resp. 最大元)

上界および上限の定義においてxA に属している必要はない事に注意されたい。

極大元の概念と最大元の概念は以下の点で異なる。 まずxA の極大元であるとは、A の元は「x以下である」かもしくは「x とは大小が比較不能である」かのいずれかである事を意味する。一方xA の最大元であるとはA の元は常に(x と比較可能であり、しかも) x 以下である事を意味する。したがって「最大元⇒極大元」であるが逆は一般には成り立たない。

さらにAP上方集合英語版(resp. 下方集合)であるとは、任意のaAx > a (resp. x < a )を満たす任意のP の元に対しxA となる事を言う。

具体例[編集]

三元集合の冪集合のハッセ図から最大元と最小元を取り除いたもの。この図の一番上の行にある各元がこの半順序の極大元であり、一番下の行の各元は極小元である。最大元と最小元はない。集合 {x, y} は元の族 {{x}, {y}} に対する上界を与える。
整除性によって順序付けられた非負整数のハッセ図

正整数英語版全体の成す集合を整除関係で順序付ける時、1 は任意の正整数を割り切るという意味において 1 は最小元である。しかしこの半順序集合には最大元は存在しない(任意の正整数の倍数としての 0 を追加して考えたとするならば、それが最大元になる)。この半順序集合には極大元も存在しない。実際、任意の元 g はそれとは異なる例えば 2g を割り切るから g は極大ではありえない。この半順序集合から最小元である 1 を除いて、順序はそのまま整除関係によって入れるならば、最小元は無くなるが、極小元として任意の素数をとることができる。この半順序に関して 60 は部分集合 {2,3,5,10} の上界(上限ではない)を与えるが、1 は除かれているので下界は持たない。他方、2 の冪全体の成す部分集合に対して 2 はその下界(これは下限でもある)を与えるが、上界は存在しない。

写像と順序[編集]

順序に関する写像の概念に以下のものがある:

定義[編集]

ST を順序集合とし、f: ST を写像とする。このとき

  • f: ST順序を保つorder-preserving英語版単調(monotone)、同調 (isotone)とも) であるとは、任意の x, yS に対して xyf (x) ≤ f (y) である事を言う。
  • f順序を反映する (order-reflecting) とは任意の x, yS に対して f (x) ≤ f (y) ⇒ xy であることを言う。
  • f順序埋め込み英語版であるとは、任意の x, yS に対しxyf (x) ≤ f (y) である事を言う。
  • f順序同型写像英語版であるとは、f が順序埋め込みな全単射である事を言う。

f: ST が順序埋め込みであるとき、Sf によって T に(順序集合として)埋め込まれるという。 またf: ST が順序同型なとき、ST順序同型あるいは単に同型であるという。

性質[編集]

上で述べた概念は以下の性質を満たす:

  • 順序を反映する写像は単射である。実際f (x) = f (y) ⇒f (x) ≤ f (y) かつ f (x) ≥ f (y) ⇒ xy かつ xyx = y である。
  • f が順序埋め込みである必要十分条件はf が順序を保存し、しかも順序を反映する事である。またf: ST とその逆関数 f -1: TS が順序同型ならfg は順序同型である。
  • 順序を保つ写像と順序を保つ写像の合成は順序を保つ。 順序を反映する写像と順序を反映する写像の合成も順序を反映する。

具体例[編集]

順序を保つが順序を反映しない写像 (f(u)≤f(v) だが uv でない)
120 の約数全体の成す半順序集合(整除関係で順序を入れる)と {2,3,4,5,8} の整除関係で閉じた部分集合族(包含関係で順序を入れる)との間の順序同型

自然数全体が整除関係に関して成す半順序集合から、その冪集合が包含関係に関して成す半順序集合への写像 f: ℕ → ℙ(ℕ) を各自然数にその素因数全体の成す集合を対応させることにより定まる。これは順序を保つ集合である(すなわち、xy を割るならば x の各素因数は y の素因数にもなる)が単射ではない(例えば 12 も 6 もこの写像で {2,3} に写る)し、順序を反映もしない(例えば 12 は 6 を割らない)。少し設定を変えて、各自然数にその素冪因子英語版の集合を対応させる写像 g: ℕ → ℙ(ℕ) を考えれば、これは順序を保ち、かつ順序を反映するから、従って順序埋め込みになる。一方、これは順序同型ではない(実際、たとえば単元集合 {4} に写る数は無い)が終域g値域 g(ℕ) に変更すれば順序同型にすることができる。このような冪集合の中への順序同型の構成は、より広汎な分配束英語版と呼ばれる半順序集合のクラスに対して一般化することができる(バーコフの表現定理英語版の項を参照)。

双対順序集合[編集]

(P , ≤)を順序集合とするとき、P 上の二項関係「\preccurlyeq」を

 a \preccurlyeq b \iff b \le a

と定義する(すなわち「\preccurlyeq」は「≤」の逆順序を順序とみなしたものである)。すると、「\preccurlyeq」もP 上の順序になっている事が簡単に示せる。(P,\preccurlyeq)(P , ≤)双対順序集合という。

双対順序集合はその定義(P,\preccurlyeq)よりもとの順序集合(P , ≤)とは大小が逆転している。したがって(P , ≤)における上限、極大元、最大元は(P,\preccurlyeq)ではそれぞれ下限、極小元、最小元になる。

区間[編集]

P を順序集合とし、abP の元とする時、閉区間 [a, b] と開区間 (a, b)を以下のように定義する:

[a,b]:=\{x\in P\mid a\le x\le b\}
(a,b):=\{x\in P\mid a < x < b\}

さらに[a,b) および (a,b] を以下のように定義し、半開区間と呼ぶ:

[a,b):=\{x\in P\mid a\le x< b\}
(a,b]:=\{x\in P\mid a < x \le b\}

文献によっては(a, b)、[a,b)、 (a,b] の事を ]a, b[、[a,b[、 ]a,b] と表す場合もある。

半順序集合が局所有限英語版であるとは、すべての区間が有限集合であることを言う。たとえば、整数全体の成す集合は通常の大小関係による半順序に関して局所有限である(端点の無い無限区間のようなものは今考えていない)。

順序集合における区間の概念と、区間順序英語版として知られる特定の半順序の類いとを混同してはならない。

順序構造と位相構造[編集]

全順序集合の位相[編集]

順序位相[編集]

全順序集合A に対し、無限半開区間

(-\infty,b)=\{x \in A \mid x< b\}
(a,\infty)=\{x \in A \mid a< x\}

全体の集合を準開基とする位相を順序位相(order topology)という[1]。例えば、通常の大小関係 ≤ によって実数全体の集合\mathbb{R}を全順序集合と見ると、その順序位相は通常の距離により定められる位相と同等になる。

全順序集合Aの部分集合B には、B を全順序集合とみなした時の順序位相と A の順序位相から誘導される位相との2つの位相が入る。しかしこの2つの位相は一致するとは限らない。(Bの順序位相における開集合は誘導位相でも開集合であるが逆は一般には成り立たない)。

例えばA を実数全体の集合とし、A の部分集合

B=\{x\mid 0<x<1\}\cup \{2\}

を考えると、A からB に誘導される位相では一元集合 {2} は明らかに開集合であるが、B は順序集合としてみたときはそうではない。実際B は(2を1に移す写像により)C=\{x\mid 0<x\le 1\}と順序同型だが、C の順序位相で {1} は開集合ではないのでB の順序位相で {2} は開集合ではない。

上極限位相、下極限位相[編集]

単に「実数体上の位相」といった場合、前述の順序位相を指すがその他の位相を考える事も(主に反例として用いる為に)できる。

実数体\mathbb{R}上の上極限位相とは

(a,b] = \{x\in\mathbb{R}~:~a<x \le b \}

全体の集合を開基とする位相の事であり、同様に\mathbb{R}上の下極限位相英語版とは逆向きの半開区間

[a,b) = \{x\in\mathbb{R}~:~a \le x < b \}

全体の集合を開基とする位相の事である[2]

実数体に下限位相を入れた空間はしばし\mathbb{R}_{\ell}と書かれ、ゾルゲンフライ直線と呼ばれる。またゾルゲンフライ直線2つの直積\mathbb{R}_{\ell}\times\mathbb{R}_{\ell}ゾルゲンフライ平面英語版と呼ばれる。

overlapping interval topology[編集]

区間[-1,1]上のoverlapping interval topologyとは

[-1,a) for 0<a
(b,1] for b<0

を準開基とする位相である。

半順序集合の位相[編集]

半順序空間[編集]

位相構造を持つ半順序集合P で以下の性質を満たすものを半順序空間英語版という:

半順序集合P 上の位相構造として、{(a, b) ∈ P × P | ab } が直積位相に関する閉部分集合になる。

P の位相構造でこの性質を満たすものは1つとは限らないが、それらを全て半順序空間という。) なお、半順序空間と名前の似たposet topology英語版は別概念であるので注意が必要である。

半順序空間では半順序関係は aia, bib かつ任意の i に対して aibi ならば ab が成り立つ[3]という意味で数列の極限に関してよく振舞う英語版

半順序空間は常にハウスドルフ性を満たす。

位相構造を持つ半順序集合P が半順序空間である必要十分条件は以下を満たす事である:

  • a < b を満たす任意のa, bP に対し、a の開近傍Uで上方集合であるものとb の開近傍V で下方集合であるものが存在する事である。

2つ半順序空間の間の順序を保つ連続写像の事をdimapという。

上方位相、下方位相[編集]

順序集合P 上の以下の2つの位相は同一である事が簡単に示せる。以下のいずれか一方(したがって両方)の条件を満たす位相を上方位相英語版という。

  1. {xP | x ≥ a} for aP を全て閉集合とする最弱の位相
  2. 任意のaP に対し、一点集合{a} の閉包が{xP | x ≥ a}と一致する最弱の位相

下方位相も同様にして定義できる。

アレクサンドロフ空間[編集]

位相空間Pアレクサンドロフ空間英語版であるとは、P上の(有限または無限個の)任意の開集合の共通部分が必ず開集合になる事を言う。

アレクサンドロフ空間は前順序集合と自然に1対1対応している事が知られている。 実際任意の前順序集合P に対し、

UP の開集合 ⇔ UP の上方集合

によりP に位相を入れたものはアレクサンドロフ空間になる。(この位相をPアレクサンドロフ位相という。)

逆に任意のアレクサンドロフ空間P に対しP 上の「specialization preorder英語版」を前順序とする事でP を前順序集合とみなす事ができる。

ここで位相空間Pspecialization preorderとは

x \le y \iff \overline{\{x\}} \subset \overline{\{y\}}

で定義される前順序の事である。上式で\overline{\{x\}}は一元集合 {x }閉包[要曖昧さ回避]である。(なお、PT0空間であればspecialization preorderは半順序である事が知られている。)

以上の対応関係により、集合P におけるアレクサンドロフ空間としての構造とP 上の前順序は1対1対応する。

specialization preorderはアレクサンドロフ空間でなくとも定義可能であるが、アレクサンドロフ空間でない位相空間上ではspecialization preorderに対して上方集合でない開集合も存在する。(なおこの場合でも開集合は常に上方集合である)。したがって前述したような、上方集合を開集合とする位相を考えても元の位相は復元できない。

実数体における例[編集]

実数体(に通常の順序をいれたもの)を前順序集合とみなす事で実数体にアレクサンドロフ位相を入れる事ができる。アレクサンドロフ位相における実数体上の開集合(すなわち上方集合)は以下のもののいずれかになる:

  • (a,\infty) for some a
  • [a, \infty) for some a
  • 空集合\emptyset、全体集合\mathbb{R}

スコット位相[編集]

上で述べたようにアレクサンドロフ位相は[a, \infty)のような「下に閉じた」集合すらも開集合とみなしてしまう。アレクサンドロフ位相からこのような不自然さを取り除いたのがスコット位相である。 順序集合P 上のスコット位相(Scott topology)とは、以下の2条件を満たすP の部分集合O 全体の集合を開集合族とする位相である:

  1. OP は上方集合である
  2. P有向部分集合 A で(A を自然に有向点族とみなしたときの)A の極限がO に入っていれば、A の点でO に含まれるものが存在する

後者の条件は内点概念の点列による特徴づけ(O の内点x に収束する点列はO と共通部分を持つ)に類似しているおり、この条件が「下に閉じた」集合を排除する。

よって実数体にスコット位相を入れた際、実数体上の開集合は以下のもののいずれかになる:

  • (a,\infty) for some a
  • 空集合\emptyset、全体集合\mathbb{R}

スコット位相を入れた順序集合をスコット空間といい、スコット空間からスコット空間への連続写像をスコット連続(Scott continuity)という。順序集合P から順序集合Q への写像f がスコット連続である必要十分条件は以下の性質が成り立つ事である事が知られている:

  • P の任意の有向部分集合A に対し、AP 内の上限を持てばf (A )もQ 内の上限を持ち、sup f (A) = f (sup A )が成立する。

スコット連続な関数は順序を保つ。実際、xy ⇒ sup{x , y } = x であるので、上述した条件よりsup{f (x ), f (y )}が存在し、しかもsup{f (x ), f (y )} = f (sup{x , y }) = f (x )となる。これはf (x ) ≥ f (y )を意味する。

なお、スコット位相と下方位相のいずれよりも強い位相構造の中で最弱のものをローソン位相英語版という。

ストーン双対性[編集]

位相空間の開集合全体の集合は包含関係により順序集合とみなせる。位相空間が「sober性」という弱い性質を満たす時はこの順序構造のみで位相空間の構造が特徴づけられる事が知られている(ストーンの双対性定理)。 したがってsober性を満たす空間に話を限定すれば、点集合論に頼らなくても順序構造のみで位相空間論を展開できる(ポイントレス位相空間論)。

直積集合上の順序[編集]

ふたつの半順序集合(の台集合)の直積集合上の半順序としては次の三種類が考えられる。

最後の順序は対応する狭義全順序の直積の反射閉包である。これらの三種類の順序はいずれもふたつよりも多くの半順序集合の直積に対しても同様に定義される。

上の順序線型空間に対してこれらの構成を適用すれば、結果として得られる順序集合はいずれもふたたび順序線型空間となる。

圏としての順序集合[編集]

任意の半順序集合(および前順序集合)は、任意の射集合が高々一つの元からなると看做すことができる。具体的には、射の集合を xy ならば hom(x, y) = {(x, y)} (それ以外の場合は空集合) とし、(y, z)∘(x, y) = (x, z) と定義する。二つの半順序集合が圏として同値となるのは、それらが順序集合として同型であるときであり、かつその時に限る。半順序集合に最小元が存在すればそれは始対象であり、最大元が存在すればそれは終対象となる。また、任意の前順序集合はある半順序集合に圏同値であり、半順序集合の任意の部分圏は同型射について閉じて英語版いる。

半順序集合からの函手、すなわち半順序圏で添字付けられた図式英語版は、可換図式である。

その他[編集]

 

関連項目[編集]

注記[編集]

  1. ^ 原理的には半順序集合であっても同様の概念を定義できるが、本稿の英語版をはじめ、筆者が調べた範囲では全順序集合に対してのみorder topologyを定義している為、ここでは全順序のみに話を限定した。
  2. ^ 実数体でなくとも上極限位相と下極限位相を考える事ができるが、これも実数体以外に対してこれらの位相を定義した文献が見つけられなかったので、ここでは実数体のみを対象にした。
  3. ^ Ward, L. E. Jr (1954). “Partially Ordered Topological Spaces”. Proceedings of the American Mathematical Society 5 (1): 144–161. doi:10.1090/S0002-9939-1954-0063016-5. 
  4. ^ Jech, Thomas (2008) [originally published in 1973]. The Axiom of Choice. Dover Publications. ISBN 0-486-46624-8. 

参考文献[編集]

  • Deshpande, Jayant V. (1968). “On Continuity of a Partial Order”. Proceedings of the American Mathematical Society 19 (2): 383–386. doi:10.1090/S0002-9939-1968-0236071-7. 
  • Schröder, Bernd S. W. (2003). Ordered Sets: An Introduction. Birkhäuser, Boston. 
  • Stanley, Richard P.. Enumerative Combinatorics 1. Cambridge Studies in Advanced Mathematics. 49. Cambridge University Press. ISBN 0-521-66351-2. 

外部リンク[編集]