ミーム

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ミーム(meme)とは、動物行動学者であり、ダーウィン進化論者であるR・ドーキンスが自身の著書「利己的な遺伝子」のなかで、自己複製子の遺伝子以外の例として唱えた、いわゆる文化の複製遺伝子で、文化内の「情報」が非遺伝的に承継され、「自然選択(淘汰)」される様子をダーウィン進化論を基盤とした遺伝子の進化の過程になぞらえたとき、遺伝子に相当する仮想の主体である。例として災害時に飛び交うデマ、流行語ファッション言語などの文化情報の伝承伝播の仕組みを、論者の定義に基づいてすべてミームという仮想の主体を用いて説明されることがある。例えば「ジーパンを履く」という風習が広がった過程をある論者のミームの遺伝子との類推から捉え直せば、『1840年代後半のアメリカで「ジーパンを履く」というミームが突然変異により発生し、以後このミームは口コミ、商店でのディスプレイ、メディアなどを通して世界中の人々の脳あるいは心に数多くの自己「情報」の複製(複製における忠実度は突然変異率が高く、ラマルク的変異の傾向をもつとされる。)を送り込むことに成功した。』となる。訳語としては 摸倣子摸伝子意伝子 がある。

目次

[編集] いくつかの定義

「ミーム」の概念は、ドーキンスが唱えたミーム=情報伝達における単位としての定義を超えて、何でもかんでもミームであると誤解され論じられることが多く、論者によって、また同じ論者でも研究の発展に応じて、その指し示す対象にはかなりのずれと合理的解釈があるので、各ミーム論者の理論に対する信憑性の判断にはミーム論争自体への客観的な知識と、文化研究を専門とする人類学をはじめとした社会科学分野への理解が必要である。ここではいくつかの定義を例示する。 [1] [2]

  • 文化複製の単位 (Dawkins, 1976)
  • 脳内にある情報の単位 (Dawkins, 1982)
  • 文化的に伝播された教訓の単位 (Dennett, 1995)
  • 心の中で影響力を持ち、かつ複製可能な情報の単位 (Brodie, 1996)
  • 強い伝染力を持つ知識、アイデア、概念 (Lynch, 1996)
  • 脳に貯蔵され突然変異によって変質した習性に近い教訓 (Blackmore, 1999: 邦訳106ページ)

ミームの分類[3]

  • 流行ミーム : すでに広まっているもの。定着したものは、習慣あるいは伝統ミームへと移行する
  • 習慣ミーム : 意識されることなく繰り返されているもの。
  • 伝統ミーム : 意識的な活動によって維持されているもの。
  • 掟ミーム : 規範としての正式な承認を受けたもの。ルールなど。
  • 仕掛けミーム : 広めることを意図して人為的に作られたもの。
  • 伝道ミーム : 他者にも伝えようという呼びかけが含まれているもの。
  • 伝説&物語ミーム : 事実かどうか判断のつかないもの。あるいはフィクション
  • ミームに関するミーム : ミームの視点から問題を捉えなおしたもの。メタミーム。

[編集] 別の分類[4]

  • 条件づけ(反復) : ミームとの接触を繰り返させること。ときには快ないし不快による強化を伴うこともある(オペラント条件づけ)。
  • 認知的不協和(矛盾の解決) :第三のミームを作り出すことで、対立していたミームを双方とも存続させること。あるいは、当のミームを解決手段として必要とさせるような問題を故意に作り出すこと。
  • トロイの木馬(どさくさ) : 関心をひきやすいミームをおとりとして利用し、本命のミームを、相手に気づかれないように送り込むこと。

[編集] 歴史

ミームは、「進化論というアルゴリズムに支配される遺伝子」というパラダイムの、文化への適用という形で提案された。「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス 1976)で初めてこの語が用いられ、定着した。ドーキンスは「ミーム」という語を文化伝達や模倣の単位という概念を意味する名詞として作り出した。模倣を意味するギリシャ語の語根 mimeme から遺伝子 (gene) に発音を似せてミーム (meme) としたという。以降、進化論・遺伝学で培われた手法を用いて文化をより客観的に分析するための手段として有用性が検討されている。

文化遺伝子のような単位で伝達されるという考え方はドーキンス以前にもあった。旧制度学派経済学者のヴェブレンは社会や経済の進化がダーウィン的だという考え方を持っていた。人類学者クロークは、1975年に断片的な「文化的な指示」を人々が模倣しあうことで文化が伝達されると考えた。最近では、イギリスの生物学者ジュリアン・ハクスリーやドイツの生物学者リヒァルト・ゼーモンらも、20世紀初頭に類似の概念を提唱していたことが指摘されている。とくにゼーモンは1904年に「ムネーメ(mneme)」という用語を提唱している。さらに歴史をさかのぼると、18世紀啓蒙思想による社会や文化の進歩思想の影響が大きい。もともと生物の進化論は社会の進歩論を自然界に適用したものであり、ミームの考えかたは、進化生物学経由でもういちどこの考えかたが社会現象や文化に回帰してきたとみなすこともできる。
また、ミームなどの文化的な複製子による文化の進化と遺伝子による人間の生物的な進化とが相互に影響を与えあって共進化するという考え方二重伝承理論(Dual Inhertance Theory, DIT)が、ロバート・ボイド(Robert Boyd)とピーター・リチャーソン(Peter Richerson)によって1985年に提唱され、注目を集めた。 日本では佐倉統(東京大学情報学環)などが研究している。

しかし、文化研究において有効な概念かどうかについて支持されているとは言えない。『ダーウィン文化論―科学としてのミーム 』[5]などに全否定する論文がみられる。このようにミームは生物学はもちろん、文化人類学や社会学、心理学において支持されている概念にはなっていない。これはミームは支持されるような生物学的な証拠、または理論的な背景を持たず、従来の文化理論や学習理論の代替物になっていないことが原因に考えられる。

[編集] 類語

  • 文化遺伝子 (culturgen) (Lumsden and Wilson, 1981)

[編集] 派生語

ミームに関する派生語として、次のようなものがある。 [6]

  • ミーム型(memotype) 遺伝学における遺伝子型に相当する概念。
  • ミーム学者(memeticist) ミーム学を学ぶ人、またはミーム技術者のこと。
  • ミモイド(memeoid, memoid) 自身の命さえも危険にさらす程の強い影響をミームから受けている人。例えば神風特攻隊自爆テロ犯など。
  • レトロミーム(retromeme) 既存のミーム複合体に自身の分身を送り込もうとするミーム。
  • メタミーム(metameme) ミームに関するミーム。
  • ミーム複合体(memeplex, coadapted meme complex) 相互に支えあいながら進化してきたミームの複合体。例えば宗教、科学など。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  1. ^ Geoffrey M. Hodgson (2001) "Is Social Evolution Lamarckian or Darwinian?", in Laurent, John and Nightingale, John (eds) Darwinism and Evolutionary Economics (Cheltenham: Edward Elgar), pp. 87-118. 原文(一部相違あり)
  2. ^ Oxford English Dictionary にミームの項目有り(有料)。
  3. ^ 佐倉統ほか(2001)「ミーム力とは?」数研出版
  4. ^ ブロディ(1998)「ミーム―心を操るウイルス」(講談社)
  5. ^ アンジェ, R (編), デネット, D 等, (訳)佐倉統 , 巌谷薫, 鈴木崇史, 坪井りん, 2004, ダーウィン文化論―科学としてのミーム, 産業図書, ISBN-10: 4782801491
  6. ^ リチャード・ドーキンス 『ミーム・マシーンとしての私』序文より(スーザン・ブラックモア著垂水雄二訳、草思社)

[編集] 外部リンク