アーチ

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アーチは、中央部が上方向に凸な曲線形状をした、もしくは上方向に凸な曲線形状そのものを言う。大拱門とも。

概要[編集]

梁の2つの支点間を長く取ったり、カーブの曲率を上げて高く大きな下部空間を得ることが可能であるため、大スパンを掛け渡すや、大きな開口部を持つを造る際に使われる。アーチ形状の構造物内では、鉛直方向の荷重の大部分の力は圧縮力であり両端の支点まで伝えられる。これは、大部分が曲げモーメントせん断力として力が伝わる直線形状の梁と対照的である。したがってアーチは、圧縮力に強く、せん断力や引張力(曲げモーメントは構造物内に引っ張り力を引き起こす)に弱い組積造の構造物において特に有効であるといえる。なお、開口部が開口しておらず壁になっている(通り抜けできない)アーチもあり、これは特にブラインド・アーチと呼ばれる[1]

西洋に残る建築物の多くは石造、すなわち組積造であるため、技術としてのアーチの発展は、建築史を語る上で非常に重要な要素である。アーチは古代エジプトバビロニアギリシャアッシリアなどで古くから使われていたが、その多くは地下の構造物であり、地上において大きく発展させたのは古代ローマであろう。ユゼスの湧き水を50km離れたニームにまで運んだアーチ橋ポン・デュ・ガールは、古代ローマ人がアーチの効果を深く理解していたことを示すものであると言える。また、コロッセオではオーダーと組み合わせることで、装飾的な外壁を生み出している。

アーチは2次元内に収まるものであるが、これを3次元に展開したものがヴォールトドームである。ヴォールトはアーチに属する平面に垂直な直線上を移動させた際の軌跡が描く立体であり、ドームはアーチの対称軸周りにアーチを回転させた際の軌跡が描く立体である。いずれも大きな空間を、組積造にて実現するには欠かせない技術である。

アーチの構造[編集]

アーチの構造

アーチの力学的効果は、その形状が完成してはじめて得られるものである。つまり組積造のアーチの建設中においては、アーチ下部を支保工にて支えて施工しなければならない。そして最後に楔状の石を、アーチ中央部に上から打ち込むことによって、アーチ構造が完成する。最後に打ち込むこの石をキーストーン(楔石、要石)といい、組積造ではないアーチにおいても、これをモチーフとした装飾を見ることができる。

擬似アーチ[編集]

擬似アーチの構造

擬似アーチとは、図のようにアーチ部分の石を水平に少しずらしながら空間を得る構造である。持送りアーチまたは迫り出しアーチとも呼ばれる。ただし力学的にはアーチと異なる。クメール様式で知られるアンコール遺跡に残る遺跡に数多く見ることができる。

歴史[編集]

ローマ橋の半円アーチ(スペイン アルカンタラ
高さ65mにも及ぶアグアス・リーブル水道橋の尖頭アーチ(リスボン
モスク内の馬蹄形アーチ(チュニジア ケルアン

アーチはメソポタミアウラルトゥペルシアハラッパー古代エジプトバビロン古代ギリシアアッシリアといった文明で知られていたが、それほど多用されることはなく、側面からの推す力の問題がほとんどない排水路などの地下構造物にほぼ限定されていた。アーチを使った最古の都市の門は、青銅器時代中ごろのもので、イスラエルのアシュケロンで8フィートの幅のものが見つかっている。

古代ローマ人エトルリア人からアーチを学び、それを洗練させ、初めて地上の建造物でアーチを多用するようになった。

「アーチ、アーチ型屋根やドームの利点を最大限利用した、ヨーロッパ初、いやおそらく世界初の建築者は、ローマ人である」[2]

ローマ帝国では、ローマ橋ローマ水道、門などのアーチ構造が建設された。また、軍事的記念碑として凱旋門が作られるようになった。さらにホールや寺院など広い部屋の天井に、ドーム構造の一種でもあるヴォールトが紀元前1世紀ごろから使われ始めた。

ローマのアーチは半円形で、奇数個のアーチ用の石(迫石)で構成されている。奇数個の石になるのは、アーチの頂上に要石が1つ必要だったからである。ローマのアーチは建設が容易だが、強度は最強というわけではない。側面が外側にふくらむ傾向があり、それを相殺するために石積みの重量が逆方向にかかるよう余分に石が必要になる。ローマ人は水道、宮殿、円形競技場などの建築物に、この半円形のアーチを多用した。

ヨーロッパでは、半円アーチに続いてゴシックアーチまたは尖頭アーチが生まれた。これらは中心に向かってより大きな力がかかるようになっており、したがって半円アーチよりも強い。半円アーチを少しつぶした形の楕円アーチはサンタ・トリニタ橋などに見られる。ゴシック建築の体系を賞賛していたスペインの建築家アントニ・ガウディは、自然法則に見られる形状を建築に導入することに熱心で、そのひとつがカテナリーを上下逆にしたアーチ「カテナリーアーチ」である。それは彼が「建築学的松葉杖」と呼ぶ扶壁のためだった。カテナリーアーチは、今日では力学的に安定であることがわかっている(直感的には、懸垂状態において部材の引っ張り力のみでバランスが取れている形状なのだから、それを逆にしたものは圧縮力のみでバランスが取れる、と理解できる)。こんにちでは、カテナリに似た、放物線その他の曲線が使われることもある。

馬蹄形アーチは半円アーチに基づいているが、両側が一旦広がってから窄んでいる。この形状のアーチとしては、紀元1世紀のインドで岩に彫ったものが知られているが、くみ上げられた馬蹄形アーチとしては、3世紀から4世紀のアクスム王国(現在のエチオピアからエトルリア)のものとシリアのものが知られている[3]。スペインの西ゴート様式の建築、イスラーム建築ムデハル様式の建築で使われ、ダマスカスモスクムーア風建築に見られる。馬蹄形アーチは強度よりも装飾性を重視したものである。

メソアメリカの文明では、様々な擬似アーチ(迫り出しアーチ)が使われていた。例えばチョルーラの大ピラミッドの内部通路など、マヤ文明でよく使われていた。ペルーではインカ帝国の建築物に台形アーチがよく使われていた。

アーチはなどで今日も使われている。

ギャラリー[編集]

エアアーチ[編集]

マラソン大会や橋梁の開通式などの屋外イベントに用いられる仮設の構造物として、空気を入れて設置するエアアーチがある。

脚注・出典[編集]

  1. ^ 辻本敬子/ダーリング常田益代 2003, p. 44
  2. ^ Robertson, D.S.: Greek and Roman Architecture, 2nd edn., Cambridge 1943, p.231
  3. ^ Stuart Munro-Hay, Aksum: A Civilization of Late Antiquity. Edinburgh: University Press. 1991. ISBN 0-7486-0106-6, p.111.

参考文献[編集]

  • Roth, Leland M (1993). Understanding Architecture: Its Elements History and Meaning. Oxford, UK: Westview Press. ISBN 0-06-430158-3.  pp. 27-8
  • 辻本敬子/ダーリング常田益代 『ロマネスクの教会堂』、2003年ISBN 4-309-76027-92013年3月閲覧。


関連項目[編集]

外部リンク[編集]