アイスランド語

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アイスランド語
íslenska
発音 IPA: [is(t)lɛnska]
話される国 アイスランドの旗 アイスランド
地域 ヨーロッパ
母語話者数 30万人
言語系統
インド・ヨーロッパ語族
表記体系 ラテン文字
公的地位
公用語 アイスランドの旗 アイスランド
統制機関 Íslensk málstöð (The Icelandic Language Institute)
言語コード
ISO 639-1 is
ISO 639-2 isl
ISO 639-3 isl
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アイスランド語インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派北ゲルマン語群に属する言語。使用範囲はアイスランドのみで、使用人口は約30万人。

アイスランドを「氷島」と表記することから「氷島語」略して「氷語」や「氷」とも言う。

9世紀にノルウェーから移住したヴァイキングがもたらしたものであり、他の北ゲルマン語(デンマーク語ノルウェー語スウェーデン語)の中ではノルウェー語と一番近い。

他の北ゲルマン語が失った3性(他の北ゲルマン語は両性名詞(共性名詞)と中性名詞だけ)や格変化などを保持し、また格変化などの必要性により、英語フランス語などからの借用語を極力排しているため、古風な色合いを強く残している。

歴史[編集]

アイスランド語の歴史は、ヴァイキングの一派であるノース人(及びブリテン島アイルランドケルト人)がアイスランドに初上陸し、その後定住し始めた874年に始まる。当時のノース人は北ゲルマン語の1つである古ノルド語の西方言(古西ノルド語)を話しており、これが言語の歴史的変化によって古アイスランド語、そして現代アイスランド語と呼ばれるものへと変化していったものである。

ただ、中世から言語が変化してきたとはいえ、音韻を除けばほとんど変化しておらず、特に文法の基本構造にいたっては何一つ変化していない。そのため、現代のアイスランド人は、現代と中世における言葉遣いの違いを少し把握しさえすれば、中世に古ノルド語及び古アイスランド語により編纂されたエッダ(Edda, 北欧ゲルマン神話や英雄伝を題材とした詩歌の口承文学)及びサガ(saga, 主に当時のヴァイキングによる歴史的活動を年代記風にした散文形式の口承文学)が読解できるといわれる[1]。これらの古典作品は文学的に大きな価値があるだけでなく、言語学歴史学文化人類学などの分野においても貴重な資料である。

このようなアイスランド語の保守性は、ルーツを同じく古ノルド語とする大陸の北ゲルマン諸語(デンマーク語・ノルウェー語・スウェーデン語)と比べると顕著であり、大陸の諸言語が揃って動詞人称変化や名詞の曲用格変化)などの複雑な文法的性質を失っていった(屈折性の退化)のに対し、孤島の言語という地理的要因によりアイスランド語は大陸諸語のような変化を被らず、古ノルド語のもっていた文法の複雑性をそのまま保存している。

現代では、言語の保守性を保つなどの理由により、海外から続々とやってくる外国語の語彙に対してできるだけ外来語として吸収しようとせず、語彙を意訳した上での造語がよく行われている。例えばテレビを意味する "sjónvarp" は、英語 television などからの外来語ではなく、sjón (「風景」「見ること」、英語:sight)と verpa (投げる)からなる造語であり、「投影機」と意訳してできたものである。

なお、現代のアイスランド語において方言差はほとんど認められない。強いて挙げるとすれば、若者言葉という社会方言がある程度であるといわれている。

表記[編集]

ラテン文字を用いる。母音字母には、アクセント記号リガチャ、またはウムラウトの付加により改造した字母も含まれている(ただし、アイスランド語におけるアクセント記号はアクセントを表すものではなく、母音の長母音化または二重母音化を表す)。Dに短い横棒の加わった Ð はその文字の名をエーズ(eð, 発音: /ɛːð/)とよび、国際音声記号 (IPA) でいう /ð/ (有声歯摩擦音)を表す。また、Þ(小文字:þ)は、中世に北欧で使用されていたルーン文字の内の一字母「ソーン」(thorn)を借用したまま現代に至るまで使用され続けてきたものである。現代アイスランド語における "Þ" の文字名は þorn (発音: /θɔtn/)であり、/θ/の音素を表す。なお、c, q, w の3文字は外来語や固有名詞にのみ使用される。z は1974年まで使用されていたが、現在は廃止され、外来語の他に古語でまれに用いられる。

入植してきた頃の初期のアイスランド人は文字を持たなかったが、11世紀にアイスランドにキリスト教が流入したことによりラテン文字が使用されはじめた。前述のエッダやサガなどは文字の流入より1~2世紀後に編纂され始めたものである。

話者について[編集]

現在アイスランド語話者は約30万人おり、その内大多数はアイスランドに居住している。他にはデンマークノルウェーカナダアメリカ合衆国にそれぞれ数千人程度の話者が居住・移住している。

現在アイスランドでは、小学校にて自国語の他に英語及び、旧宗主国であった国の言語であるデンマーク語が教科として教育されており、そのためアイスランド人はこれらの言語も多少話せる。

アイスランド人名の例:名前の後には、「父親の名+息子(娘)」という形で名付けられる。アイスランド人名にはない。

アイスランド人の言語慣習について特筆すべきことの1つとして、アイスランド人名に、換言すれば苗字が無いことが挙げられる。人名は通常「人名(ファーストネーム) + 父称」のように名付けられる。父称とは、「父親の名の属格形 + 息子(あるいは娘)」という形をとる。例えば世界的に有名なシンガーソングライターであるビョークの本名 “Björk Guðmundsdóttir” は、ファーストネームは一般の西欧人と同様に “Björk” であるが、その次は 「“Guðmund” の娘 (dóttir)」と続いている(”Guðmunds”は属格形)。また、男性名の場合、父親名(の属格形)に “-son” (「息子」の意の “sonur” と同語源)を付けて父称とする。例を挙げると、画家エイナル・ハウコナルソンen:Einar Hákonarson” の名の父称部分は「"Hákon”(属格形 Hákonar)の息子」となっている。ただし、外国人を祖先にもつ人には必ずしも適用されておらず、一例を挙げると、父がノルウェー人であるアイスランドの前首相ゲイル・ホルデの本名は “Geir Hilmar Haarde” であり、ラストネームが ”-son” で終わっていないため姓であることが分かる。アイスランドでのこのような慣習は、中世のある時期まで北方ゲルマン民族では一般的だったが、大陸では後に姓を付けるようになり、孤島のアイスランドだけが現代まで変えることなく受け継いできた。なお、元々姓を持たないアイスランド人には、婚姻により氏名を変更するようなことは(外国人と婚姻する場合を除き)ない。つまり、家族内でも同性兄弟の場合のみ、同じ父称であり、例えば父・母、兄、妹という組み合わせの家族であれば、全て違う父称となることが通例である。

音韻[編集]

母音[編集]

前舌 中舌 後舌
非円唇 円唇 非円唇 円唇 非円唇 円唇
i y u
ɪ ʏ ʊ
半狭 e o
半広 ɛː œ ɔ
a

子音[編集]

両唇 唇歯 歯茎 硬口蓋 軟口蓋 声門
鼻音 [m̥] [m]     [n̥] [n]     [ɲ̊] [ɲ] [ŋ̊] [ŋ]    
破裂音 [pʰ] [p]     [tʰ] [t]     [cʰ] [c] [kʰ] [k] ʔ  
摩擦音     [f] [v] [θ] [ð] [s]   [ç] [j] [x] [ɣ] [h]  
接近音         [l̥]  [ɫ] [l ɫ]        
はじき音             [r̥] [r]            


アクセント[編集]

アイスランド語におけるアクセントは英語などと同じく強弱アクセントである。これは日本語のように母音の音程が上下する高低アクセント(ピッチアクセント)とは異なり、単語中の特定の音節の母音を特別に強く明瞭に発音することを指す。

アイスランド語のアクセントは(英語を除いた)他のゲルマン派言語と同じく、大抵は各単語における第1音節に置かれ、単語によっては第2音節に置かれる。

文法[編集]

現代のアイスランド語は、他の北ゲルマン語と同じく、標準的な文における語順が「主語」-「動詞」-「目的語」の順になるSVO型言語である。

名詞[編集]

アイスランド語の名詞は男性・女性・中性の3種のを持ち、各々の名詞は単数・複数の2種の数変化及び主格対格与格属格の4種の格変化を伴う。格変化には強変化弱変化の2種がある。また、冠詞は存在しないが不特定のものや一般的なものを示す不定形と話し手と聞き手の両者に了解されているものを示す定形という2種の区別があり、変化語尾により表される。

弱変化規則名詞の格変化[編集]

男性名詞banki(銀行)、女性名詞vika(週)、中性名詞auga(目)の格変化。 弱変化名詞は単数不定形の対格・与格・属格が同形且つ末尾が母音。

男性 女性 中性
不定 不定 不定
単数 主格 bank i banki nn vik a vika n aug a auga ð
対格 bank a banka nn vik u viku na aug a auga ð
与格 bank a banka num vik u viku nni aug a auga nu
属格 bank a banka ns vik u viku nnar aug a auga ns
複数 主格 bank ar bankar nir vik ur vikur nar aug u augu n
対格 bank a banka na vik ur vikur nar aug u augu n
与格 bönk um bönk unum vik um vik unum aug um aug unum
属格 bank a banka nna vik na vikna nna aug na augna nna

変化語尾にuが現れる語において、幹母音a→öの変化が起こる。しかし、定形語尾中のuは影響を与えない。

(例)hjarta(n 心臓)
  • hjarta(単・不)→hjörtu(複・不・主、対)
  • hjarta(単・与・不)→hjartanu(単・与・定)

強変化規則名詞の格変化[編集]

男性名詞[編集]

hestur(馬)、dynkur(騒音)、vinur(友人)の格変化

不定 不定 不定
単数 主格 hest ur hestur inn dynk ur dynkur inn vin ur vinur inn
対格 hest hest inn dynk dynk inn vin vin inn
与格 hest i hesti num dynk dynk num vin vin num
属格 hest s hests ins dynk s dynks ins vin ar vinar ins
複数 主格 hest ar hestar nir dynk ir dynkir nir vin ir vinir nir
対格 hest a hesta na dynk i dynki na vin i vini na
与格 hest um hest unum dynk um dynk unum vin um vin unum
属格 hest a hesta nna dynk a dynka nna vin a vinanna
女性名詞[編集]

kinn(頬)、borg(町)の格変化

不定 不定
単数 主格 kinn kinn in borg borg in
対格 kinn kinn ina borg borg ina
与格 kinn kinn inni borg borg inni
属格 kinn ar kinnar innar borg ar borgar innar
複数 主格 kinn ar kinnar nar borg ir borgir nar
対格 kinn ar kinnar nar borg ar borgar nar
与格 kinn um kinn unum borg um borg unum
属格 kinn a kinna nna borg a borga nna
中性名詞[編集]

skip(船)の格変化

不定
単数 主格 skip skip
対格 skip skip
与格 skip i skipi nu
属格 skip s skips ins
複数 主格 skip skip in
対格 skip skip in
与格 skip um skip unum
属格 skip a skipa nna

人称代名詞[編集]

アイスランド語の人称代名詞は、三人称で男性・女性・中性の3つの性を持つ。主格・対格・与格・属格の4つの格でそれぞれ異なる形をとる。

単数 複数
主格 対格 与格 属格 主格 対格 与格 属格
一人称 ég mig mér mín við okkur okkur okkar
二人称 þú þig þér þín þið ykkur ykkur ykkar
三人称・男性 hann hann honum hans þeir þá þeim þeirra
三人称・女性 hún hana henni hennar þær þær þeim þeirra
三人称・中性 það það því þess þau þau þeim þeirra

数詞[編集]

基数[編集]

1 eitt 11 ellefu 1000 (eitt) þúsund
2 tvö 12 tólf 10000 tíu þúsund
3 þrjú 13 þrettán 30 þrjátíu
4 fjögur 14 fjórtán 40 fjörutíu
5 fimm 15 fimmtán 50 fimmtíu
6 sex 16 sextán 60 sextíu
7 sjö 17 sautján 70 sjötíu
8 átta 18 átján 80 áttatíu
9 níu 19 nítján 90 níutíu
10 tíu 20 tuttugu 100 hundrað

序数[編集]

1 fyrsti 11 ellefti 1000 þúsundasti
2 annar 12 tólfti 10000 tíuþúsundasti
3 þriðji 13 þrettándi 30 þrítugasti
4 fjórði 14 fjórtándi 40 fertugasti
5 fimmti 15 fimmtándi 50 fimmtugasti
6 sjötti 16 sextándi 60 sextugasti
7 sjöundi 17 sautjándi 70 sjötugasti
8 áttundi 18 átjándi 80 áttugasti
9 níundi 19 nítjándi 90 nítugasti
10 tíundi 20 tuttugasti 100 hundraðasti

脚注[編集]

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  1. ^ 森田貞雄「アイスランド語」小学館日本大百科全書』(Yahoo!百科事典

参考文献[編集]

  • 森田貞雄(1981) 『アイスランド語文法』 大学書林  
  • Jónsdóttir,Hildur(2003) Teach Youself Icelandic Complete Course Package McGraw-Hill(英語で書かれた文法書)

関連項目[編集]