数学 (教科)
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数学(すうがく)は、中等教育の課程(中学校の課程・高等学校の課程・中等教育学校の課程など)における教科の一つである。
本項目では、主として現在の学校教育における数学について取り扱う。関連する理論・実践・歴史などについては「算数・数学教育」を参照。
概要[編集]
数学においては、学問などにおける数学の基礎が学ばれる。初等教育(小学校など)課程における算数を引き継ぎ、さらに高度な数理的な考え方を身に付けることを目的とした教科である。数学は、「国語」・「英語」と共に主要3教科と呼ばれる。
ちなみに算数との違いは、計算式において文字および負の数を扱うか否かである。それに伴い数学では方程式を本格的に扱うことになる[注 1]。また、前期中等教育課程では無理数[注 2]が、後期中等教育課程では虚数と複素数が登場し、数の概念がさらに拡大される。
学習内容[編集]
以下に、現行の日本における教科「数学」における学習範囲を示すが、その具体的な内容は、各記事を参照されたい。
前期中等教育(中学校・中等教育学校の前期課程など)[編集]
※本項での「公立中学(校)」は前期中等教育のみを行う3年制の市区町村立中学校のみを指し、公立中等教育学校・中高一貫校は含まないことを予め断っておく。
学習指導要領により、前期中等教育では以下のことが学習される(詳細は中学校数学(Wikibooks)を参照)。新しい学習指導要領が先行実施されてから統計学の内容が全面的に復活したことに伴い、「数量関係」が「関数」と「資料の活用」に分けられた。
中高一貫校によっては代数・関数・確率・統計を「代数」、図形・計量を「幾何」と分け、並行して授業が行なわれることがある。システム数学や体系数学をはじめこのような分け方に対応した検定外教科書も販売されている。特に幾何分野は検定教科書では体系的な学習が不可能なので採用されることが多い。
後期中等教育(高等学校・中等教育学校の後期課程など)[編集]
後期中等教育「数学」の内容は学習指導要領の改訂時に何度かその名称を変えてきた。戦後間もない頃や1978年告示、および1982年度から1993年度入学生に対して実施のものでは具体的な内容表記(「代数・幾何」「基礎解析」など)だったが、それ以外は1956年告示、1960年告示[注 4]、1971年告示[注 5]、1989年告示[注 6]、1999年告示[注 7]、2009年告示[注 8]のように、すべてローマ数字とアルファベットの組み合わせの科目名(「数学II[注 9]」「数学III」など)が採用されている。また、「応用数学」(71年告示)「数学基礎」(99年告示)のように新設・廃止されたものもある。
解析学を中心に学ぶ(特に関数がメイン)のが「数学I、II」であるが、現在は代数学の内容も一部含む「数学I、II、III」と、幾何学・代数学・確率・統計・コンピュータを学ぶ「数学A、B」が中心となっている[1]。大体において、高校1年次に「数学I」・「数学A」を、2年次に「数学II」・「数学B」、3年次に「数学III」を履修する[注 10]。
以下に示す内容は、2012~2021年度に入学した場合のものである。「前課程」とは2003~2011年度に入学した場合である。「前々課程」とは1994~2002年度に入学した場合である。また新課程は2022年度から実施されている。
普通教科「数学」における学習内容[編集]
- 「数学I」(初等代数学・数理論理学・初等関数論・初等幾何学・統計学)(標準単位数3単位)
- 「数学II」(初等代数学・解析幾何学・初等関数論・微分積分学)(標準単位数4単位)
- 「数学III」(複素関数論・解析幾何学・初等関数論・微分積分学)(標準単位数5単位)
- 複素平面(現課程で復活、前々課程では数学Bで学習)
- 複素平面
- 極形式、ド・モアブルの定理
- 図形の複素平面での表現
- 式と曲線(前々課程では数学Cで学習)
- 二次曲線 - 放物線・楕円と双曲線
- 媒介変数表示と極座標 - 曲線の媒介変数表示・極座標と極方程式・焦点・準線
- 関数と極限
- いろいろな関数 - 分数関数と無理関数・合成関数と逆関数
- 数列の極限 - 数列の極限・無限級数の和
- 関数の極限 - 関数値の極限
- 微分法
- 導関数 - 関数の和・差・積・商の導関数・合成関数の導関数・三角関数・指数関数・対数関数の導関数・高次導関数
- 導関数の応用 - 接線・法線・関数値の増減・第二次導関数の応用(グラフの凹凸)・速度・加速度
- 積分法
- 不定積分と定積分 - 積分とその基本的な性質・簡単な置換積分法・部分積分法・いろいろな関数の積分
- 積分の応用 - 面積・体積・曲線の長さ
- 複素平面(現課程で復活、前々課程では数学Bで学習)
- 「数学A」(初等幾何学・確率論)(標準単位数2単位)
- 「数学B」(初等代数学・線形代数学・統計学)[注 11]
- 「数学活用」
- 数学と人間や社会とのかかわりについて学習し、数学を活用する能力を養う。将来上級学校での学習や職業でより高度な数学を使う生徒以外を対象として、数学に将来にわたって親しむ力を身に着けることを目的とする。
なお、「数学C」(線形代数など)は現課程では廃止されている。
普通教科「数学」における新課程の学習内容[編集]
- 「数学I」(標準単位数3単位)
- 「数学II」(標準単位数4単位)
- 「数学III」(標準単位数3単位)
- 「数学A」(標準単位数2単位:以下の項目から適宜選択して履修する)
- 図形の性質
- 三角形の性質 - 三角形の辺の比・三角形の五心・チェバの定理・メネラウスの定理
- 円の性質 - 内接四角形・円と直線・方べきの定理・2円の位置関係
- 作図
- 空間図形 - 直線と平面・多面体・オイラーの多面体定理・多面体から切り取る立体
- 場合の数と確率
- 数学と人間の活動
- 図形の性質
- 「数学B」(標準単位数2単位:以下の項目から適宜選択して履修する)
- 「数学C」(標準単位数2単位:以下の項目から適宜選択して履修する)
専門学科設置校「数学」における学習内容[編集]
- 「数学I」(標準単位数4単位)※必須科目
専門教科「理数」における学習内容[編集]
- 理数数学I
- 方程式と不等式
- 二次関数
- 図形と計量
- 場合の数と確率
- 理数数学II
- 整式と高次方程式
- 数列
- 命題と論理
- 図形と方程式
- いろいろな関数
- 極限
- 微分法
- 積分法
- 理数数学探究
- ベクトル
- 統計とコンピュータ
- 数値計算とコンピュータ
- 行列とその応用
- 式と曲線
- 確率分布
- 統計処理
- 課題研究
新学習指導要領における専門教科「理数」における学習内容[編集]
- 理数数学I
- 数と式 - ユークリッドの互除法・二進法を含む
- 図形と計量
- 二次関数
- 指数関数・対数関数
- データの分析
- 場合の数と確率
- 理数数学II
- いろいろな式 - 最小公約数・最大公倍数を含む
- 数列
- 三角関数と複素数平面
- 図形と方程式 - 円と円の共有点を含む
- 極限
- 微分法
- 積分法 - 簡単な微分方程式を含む
- 統計的な推測
- 理数数学探究(以下の項目から適宜選択して履修する)
- ベクトル - 空間における直線や平面の方程式を含む
- 行列とその応用 - 行列・逆行列・連立一次方程式の解法・点の移動
- 離散グラフ
- 数学と生活や社会との関わり
大学入試における数学[編集]
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2019年現在の文系諸学部では、数学IIIは全て課されない。
- 文系学部では、私立大学の場合は数学は不要か、数学I,A(+II, B)と地理歴史の選択ができる場合が多い。国立大学文系では大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)で必須、難関大学では二次試験でも学部学科によらず必須とするのが通常であるが、出題範囲は私立文系と概ね同じである。私立文系が経済学部であっても入学試験で数学を必須としないのは、必須とすると受験者が減ってしまうためであって、入学後、数学が不要であるからではない。大学進学後は、文科系の学部学科においても経済学・統計学など数学を必要とする分野が広範囲に存在する上、数学III程度の内容は理解していることを前提に数学教育がおこなわれることも少なくない。
- 理系学部では大多数の大学で必須I・II・III・A・B又は理科と選択をしなければならない。そのため、大学入試を考慮した上で文系と理系の区別がなされる高等学校においては、通常文系が数学I・II・A・Bを学習し、理系はそこから更にIIIを学習する。
- 数学A・Bは、内容を選択して履修する科目である。教科書で設定されている授業時間どおりに履修する場合、各3 - 4分野のうち2分野を履修するとちょうど規定の授業時間に相当するようになっている。大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)の「数学I・数学A」・「数学II・数学B」でも、数学Bについては2分野を履修していることを想定した出題となっている(3 - 4分野それぞれの問題を出題し、2分野を選択解答する)。ただし多くの高等学校では生徒が自由に選択するのではなく、あらかじめ履修する分野が指定されて開講される。大学入試を目標とする進学校の場合、大学入試では数学Bの「確率分布」・「統計処理」が出題範囲から外されるか、他の分野との選択となっている場合が多く、この分野の授業を行わない高等学校もある。参考書でも、多くのものがこれらの分野を省いたかたちで販売している。
- 京都大学は2005年より文系学部において数学Cの「行列とその応用」を入試に課していたが、2008年より再び課されないことになった。ただし、数学Cの「確率分布」のうち「確率の計算」(含、条件付き確率)[注 13]については、他の幾つかの大学と同様、引き続き文系・理系を問わず出題範囲に含まれている。
備考[編集]
1994年度から2002年度に高校に入学した場合の課程では複素平面を数学Bで扱っていた。この内容は、2012年度以降入学生の課程において数学IIIで再登場している。(2022年度入学生から、数学Cに移行される。)ゆとり教育他の弊害も加わって、2020年9月の高校数学は大学進学率が16%を切っていた世代の2/3ほどの内容である。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ 未知数xを求めるのに方程式では移項を行う。しかし、これは負の数の演算を伴うことがあるので、負の数を学習しない算数では逆算するよりほかない。また、算数では文字同士の演算を習わないため未知数同士の加法と減法が原則不可能である(分配法則を活用することでこれを計算できるため、「小学生には絶対にできない」ということはないが、一般の小学生はほとんど習わない)。したがって、算数では逆算可能で未知数同士の演算がない、ごく簡単な一次方程式の考え方を学ぶにとどまる。
- ^ 初等教育課程でも無理数である円周率が出る。しかし、これは近似値を用い、事実上有理数として扱うため、結局無理数は登場しないに等しい。
- ^ x2+4x+4=5のように左辺をそのまま因数分解すると(ax+p)2=qとなる形のものは現行課程でも習得するが、どのようなax2+bx+c=0でも平方完成を用いて実数解を出せるようにするのは2010年度から復活している。
- ^ 1963年度~1972年度入学生に対して実施
- ^ 1973年度~1981年度入学生に対して実施
- ^ 1994年度~2002年度入学生に対して実施
- ^ 2003年度~2011年度入学生に対して実施
- ^ 2012年度以降入学生に対して実施
- ^ 80年代のものにも「数学II」という科目はあり、大学入試センター試験(「共通一次試験」時代を含む)の科目でもあったが、内容は「代数・幾何」・「基礎解析」・「確率・統計」の抜粋のようなものだった。このため、前述の3科目を学べば「数学II」に対応できた上、二次試験に文系でも数学を課す難関国公立大学では「数学II」ではなく3科目からの出題が多く、進学校では文系でも「数学II」を扱うことは少なかった(理系学部の入試では国公私立問わず先の分野からの出題に加え、現在の「数学III」に大体相当する「微分・積分」が加わった。よって、「数学II」を学ぶメリットは無かった)。また、「数学I」は名称の導入以来、科目名としての変更は無いが、内容面の変更は度々行われている。
- ^ これはあくまで目安であり、学校やコースによってペースは異なる。例えば「大学入試における数学」で述べたように文系では「数学III」は扱わない学校も多い。また、中高一貫校では2年の終わりか、遅くとも3年生の夏ごろには「数学III」まで終わらせ、受験対策に入ることも珍しくない。
- ^ 3分野のうち、標準単位数では2分野を履修。
- ^ 旧課程における数学C「行列」のような体系的な学習ではなく、あくまでも行列を用いた表現方法と簡単な演算を紹介する程度である。しかし、旧課程で教えられていた逆行列・掃き出し法・一次変換などを授業で扱うことは(教科書の範囲外であるが)可能である。
- ^ 現在は数学Aの範囲内