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図形

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
タッパーウェア製の幼児向け玩具「Shape‑O」。さまざまな図形の学習に用いられる。

図形(ずけい、英:shape)は、物体の形態、すなわちその外部境界・輪郭・外表面の図的表現。これは、質感材質といった他の属性とは区別される。幾何学においては、形状は物体の位置大きさ向きキラリティに関する情報を含まない[1]が、図形は、形状と大きさの双方を含む。

平面図形は立体図形と異なり平面上に制約される。二次元図形は曲面二次元空間)上に置かれることもある。

概要

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ものの視覚認識によって得られる直観的な「かたち」を、全く感覚によらず明確な定義公理のみを用いて、演繹的に研究する論理的な学問としての幾何学の一つの典型は、ユークリッド原論に見られる。ユークリッド幾何学においては、図形は定規とコンパスによって作図され、直線、また平面、あるいはそれらの部分から構成される。

1872年クラインによって提出されたエルランゲン目録は、それまでの古典的なユークリッド幾何学、非ユークリッド幾何学射影幾何学などの種々の幾何学に対して、変換という視点を通して統一的に記述することを目的とした。クラインのこの立場からは、図形は運動あるいは変換と呼ばれる操作に関して不変であるような性質によって記述される点集合のことであると言うことができる。

同時期にリーマンは、ガウスによって詳しく研究されていた曲面における曲率などの計量を基礎に、曲面をそれが存在する空間に拠らない一つの幾何学的対象として扱うことに成功し、リーマン幾何学あるいはリーマン多様体の概念の基礎を築いた。この立場において図形は、空間内の点集合という概念ではなく(一般には曲がったり重なったりした)空間そのものを指すと理解できる。

分類

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多様な多角形

いくつかの単純な形状は大きな範疇に分類できる。たとえば多角形は、辺の本数によって三角形四角形五角形などに分類される。各分類はさらに細分され、三角形には正三角形二等辺三角形鈍角三角形鋭角三角形不等辺三角形などがあり、四角形には長方形菱形台形正方形などがある。

そのほか一般的な形として、直線・平面、および楕円放物線などの円錐曲線が挙げられる。

三次元における代表的な形としては、平面から成る多面体、卵形・球状の楕円体円柱円錐などがある。

ある物体が、これらのカテゴリーのいずれかに厳密に、あるいは近似的に当てはまる場合、その物体の形状を記述するためにそれらの名称を用いることができる。たとえば、マンホールの蓋の形は円板であると言われるのは、それが幾何学的な円板と概ね同じ対象であるからである。

幾何学

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二次元の幾何学的図形の例:平行四辺形、三角形、円。
三次元の幾何学的図形の例:角錐立方体

幾何学的形状とは、幾何学的対象の記述から位置・尺度・向き・鏡映に関する情報を取り除いたときに残る幾何学的情報である[1]。すなわち、形を平行移動したり拡大・縮小したり回転させたり鏡映したりしても、それは元の形と同一の形であり、別個の形ではない。

多くの二次元の幾何学的形状は、頂点の集合と、それらを結ぶ線分、内部点によって定義できる。これらは多角形と呼ばれ、三角形・正方形・五角形などが含まれる。その他の形として、円や楕円のように曲線で境界づけられるものもある。

多くの三次元の幾何学的形状は、頂点の集合、それらを結ぶ線分、およびそれらに囲まれた二次元の面、さらにその内部点によって定義できる。これらは多面体と呼ばれ、立方体や、四面体に代表される角錐などが含まれる。その他の三次元形状として、楕円体や球のように曲面で境界づけられるものがある。

ある形状がであるとは、その形状内の任意の二点を結ぶ線分上の全ての点がその形状に含まれる場合をいう。

性質

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二つの物体の形状を比較する方法には複数ある。

  • 合同:一方を回転・平行移動・鏡映の組合せによって他方に一致させられるとき、二つの物体は合同である。
  • 相似:一方を一様な拡大縮小と、回転・平行移動・鏡映の組合せによって他方に一致させられるとき、二つの物体は相似である。
  • 同位:切断や穿孔を伴わない連続変形の過程で一方を他方に移り変えられるとき、二つの物体は同位である。
同じ色で示された図は互いに同じ形をもつとされ、相似であると言われる。

場合によっては、一方を他方に一致させるのに鏡映が必要なとき、相似あるいは合同であっても同じ形とは見なされないことがある。たとえば、文字「b」と「d」は互いに鏡映の関係にあり、合同かつ相似ではあるが、文脈によっては同じ形とは見なされない。また、対象の形状を決める際に、その外形・外部境界のみを考えることがある。たとえば、中空の球は実心の球と同じ形と見なされ得る。プロクラステス分析英語版は、二つの対象が同じ形かどうか、または形状差を測定するために、多くの科学分野で用いられる。高等数学においては、準等距離写像英語版を基準として、二つの形状がおおよそ同じであると述べることができる。

単純な形状は、直線・曲線・平面・平面図形(正方形や円など)・立体図形(立方体や球など)といった基本的な幾何学対象に分類できることが多い。しかし、現実世界に現れる形状の多くは複雑である。植物の構造や海岸線のように、従来の数学的記述に抵抗するほど複雑なものもあり、その場合は微分幾何学によって分析されたり、フラクタル図形として分析される。

同値性

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幾何学において、ユークリッド空間の二つの部分集合は、平行移動・回転(これらを併せて剛体変換英語版と呼ぶ)・一様な拡大縮小英語版の組合せによって一致させられるとき、同じ形をもつといわれる。言い換えれば、点集合の形とは、平行移動・回転・大きさの変化に対して不変な幾何学的情報の全体である。同じ形であることは同値関係であり、したがって形という概念は、ユークリッド空間の部分集合を「同じ形である」という同値関係で割って得られる同値類として厳密に定式化できる。

数学者・統計学者のデイヴィッド・ジョージ・ケンダル英語版は次のように記す[1]

本稿における「形」は通俗的な意味で用いられ、通常期待される意味を持つ。(中略)ここでは非公式に「形」を、対象から位置・拡大縮小[注釈 1]・回転の効果を取り除いたときに残る幾何学的情報の全て、と定義する。

物理的対象の形が等しいとは、対象が占めている空間の部分集合が上記の定義を満たすことをいう。とりわけ、形は対象の大きさや空間内での配置に依存しない。たとえば、「d」と「P」は、dを右へ平行移動し、上下を回転させ、さらに一定比率で拡大すれば完全に重ね合わせられるので、同じ形である。

一方で鏡像は異なる形と考えられることもある。たとえば「b」と「p」は、二次元空間に動きを制限すると、平行移動と回転だけでは完全に重ねられないので形が異なると考えることができる。同様に三次元空間では、右手と左手は互いに鏡像であっても形は異なる。対象を非一様に拡大・縮小すると形は変化しうる(例:球は垂直方向と水平方向で異なる倍率のスケーリングにより楕円体となる)。言い換えると、対称軸の保存は形の保存に重要である。また、形は対象の外形(外部境界)のみによって決定される。

合同と相似

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剛体変換と鏡映(ただし拡大縮小は除く)によって互いに移り合う二つの対象は合同である。したがって、ある対象は自分の鏡像と合同だが、拡大縮小されたものとは合同ではない。合同な対象は、常に同じ形または鏡像の形をもち、かつ大きさも同一である。

同じ形(または鏡像の形)をもつ対象は、幾何学的に相似と呼ばれ、大きさが同じかどうかは問わない。すなわち、剛体変換と鏡映に一様な拡大縮小を加えた変換で互いに一致する対象は相似である。相似性は一方を一様に拡大・縮小しても保存されるが、合同性は保存されない。ゆえに、合同ならば必ず相似だが、相似でも大きさが異なれば合同ではない。

位相同型

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形状のより柔軟な定義は、現実的な形がしばしば変形可能である事実を考慮する(例:人の姿勢の違い、風でたわむの広げ方が異なる)。同相写像は非剛体の運動をモデル化する一方法であり、粗くいえば、連続的な引き伸ばしや曲げによってある対象を新たな形へ移すものである。したがって、正方形と円は互いに同相だが、球とトーラスは同相ではない。有名な数学的ジョークに「位相幾何学者はコーヒーカップとドーナツを見分けられない」というものがある[2]。これは、十分に曲げやすいドーナツは、穴を保存したまま窪みを作って徐々に広げればカップの取っ手付きの形へ変形できる、という趣旨である。

また、記述される形は、視認可能な外形線から構成され、それが形を成す。座標平面上に点を配置すれば、形が見える位置に線を引いて輪郭を示せるが、任意の座標配置が常に形を成すとは限らない。形は明確な輪郭と境界をもち、単なる紙上の点列ではない。

形状解析

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ここまで記述してきたような剛体的・非剛体的な形の数学的定義は、統計的形状解析の分野で発展してきた。とくにプロクラステス分析は、類似した対象の形の比較(例:異なる動物の骨)や、変形可能な対象の変形量の測定に用いられる。他にも、非剛体(曲げ可能)な対象に対する手法もあり、姿勢に依存しない形状検索のためのスペクトル形状解析英語版などがある。

相似類

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全ての相似な三角形は同じ形をもつ。J・A・レスター[3]ラファエル・アーツィ英語版によれば、三角形の頂点を複素数 u, v, w で表すとき、 を三角形 (u, v, w)の形と定義できる。たとえば、正三角形は頂点 0, 1, (1 + i√3)/2 で表せ、その形は である。

複素平面の任意のアフィン変換 によって三角形は別の三角形へ写るが、形は変化しない。したがって、形はアフィン幾何不変量である。 形p = S(u,v,w)引数の順序に依存するが、置換により以下の関係が得られる。 また これらを組み合わせて

さらに これらは三角形の「変換規則」である。

四角形の形は二つの複素数 p, qと結び付けられる。四角形の頂点を u, v, w, x, とするとき、 p = S(u,v,w)q = S(v,w,x)と定義する。アーツィは次を示す。

  1. もしなら、その四角形は平行四辺形である。
  2. 平行四辺形が| arg p | = | arg q |(argは偏角)を満たすとき、それは菱形である。
  3. p = 1 + iかつq = (1 + i)/2のとき、その四角形は正方形である。
  4. かつ sgn r = sgn(Im p)(sgn は符号関数、Im は虚部)なら、その四角形は台形である。

一般のn角形の形は、というn−2個の複素数で与えられる。また、これらの形状成分の虚部の符号が全て同じであるとき、その多角形は凸集合を境界づける[4]

形の人間による知覚

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人の視覚は、広範な形に依拠している[5][6]。一部の心理学者は、人間が心的にイメージを円錐や球などの単純幾何形英語版へ分解するという仮説を提唱した[7]。他方で、形は分節可能性、コンパクトさ、尖鋭性など、形の変化傾向を記述する特徴(次元)へ分解されるとする見解もある[8]。もっとも、形の類似性を比較するには、自然界の形の多様性を説明するために少なくとも22の独立な次元が必要であることが示されている[5]

さらに、形が人間の注意を誘導することを示す明確な証拠も存在する[9]

脚注

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注釈

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  1. ^ ここでは一様なもののみ。

出典

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  1. ^ a b c Kendall, D.G. (1984). “Shape Manifolds, Procrustean Metrics, and Complex Projective Spaces”. Bulletin of the London Mathematical Society 16 (2): 81–121. doi:10.1112/blms/16.2.81. 
  2. ^ Hubbard, John H.; West, Beverly H. (1995). Differential Equations: A Dynamical Systems Approach. Part II: Higher-Dimensional Systems. Texts in Applied Mathematics. Vol. 18. Springer. p. 204. ISBN 978-0-387-94377-0.
  3. ^ J.A. Lester (1996) "Triangles I: Shapes", Aequationes Mathematicae 52:30–54
  4. ^ Rafael Artzy (1994) "Shapes of Polygons", Journal of Geometry 50(1–2):11–15
  5. ^ a b Morgenstern, Yaniv; Hartmann, Frieder; Schmidt, Filipp; Tiedemann, Henning; Prokott, Eugen; Maiello, Guido; Fleming, Roland (2021). "An image-computable model of visual shape similarity". PLOS Computational Biology. 17 (6): 34. doi:10.1371/journal.pcbi.1008981. PMC 8195351. PMID 34061825.
  6. ^ Andreopoulos, Alexander; Tsotsos, John K. (2013). "50 Years of object recognition: Directions forward". Computer Vision and Image Understanding. 117 (8): 827–891. doi:10.1016/j.cviu.2013.04.005.
  7. ^ Marr, D., & Nishihara, H. (1978). Representation and recognition of the spatial organization of three-dimensional shapes. Proceedings of the Royal Society of London, 200, 269–294.
  8. ^ Huang, Liqiang (2020). "Space of preattentive shape features". Journal of Vision. 20 (4): 10. doi:10.1167/jov.20.4.10. PMC 7405702. PMID 32315405.
  9. ^ Alexander, R. G.; Schmidt, J.; Zelinsky, G.Z. (2014). "Are summary statistics enough? Evidence for the importance of shape in guiding visual search". Visual Cognition. 22 (3–4): 595–609. doi:10.1080/13506285.2014.890989. PMC 4500174. PMID 26180505.

関連項目

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