循環小数
循環小数(じゅんかんしょうすう、recurring decimal, repeating decimal)とは、ある桁から先で同じ数字の列が無限に繰り返される小数のことである。繰り返される数字の列を循環節という。
より細かく、小数第一位から循環が始まる類を純循環小数(pure recurring decimal)、小数第二位以降から始まる類を混合循環小数(mixed recurring decimal)といい、混合循環小数は冒頭の有限小数とそれ以降の循環小数の二つに分離される[1]。
目次
循環節[編集]
例えば、十進法の1⁄3 = 0.3333… は小数点以下「3」が無限に続くので、循環小数であり、この循環節は 3 である。この小数は「33」や「333」等の繰り返しでもあるが、これを循環節とはせず、最短の数列を循環節とする。
もう少し複雑な例としては、十進法の1234⁄555 = 2.2234234… は小数第三位以下の「234」を無限に繰り返すので、循環節が 234 の循環小数である。同じく、十二進法の1⁄A(十分の一) = 0.124972497… は小数第二位以下の「2497」を無限に繰り返すので、循環節が 2497 の循環小数である。
小数の表示は、十進法に限らず他のN進法で同様である。例えば、2⁄3 を二進法の小数で表すと、0.101010… であり、循環節が 10 の循環小数である。他にも、六進法の1⁄5 = 0.1111… であり、循環節が 1 の循環小数である。二十進法の4⁄B (十一分の四) = 0.7591G… であり、循環節が 7591G の循環小数である。
有限小数も循環小数の一つであり(後述)、例えば十進法の1/2 = 0.500000…と「0」を無限に繰り返す循環小数である(但し、循環節が0の場合は特に明記する必要はない)。
他の小数との比較[編集]
有限小数[編集]
割り切れる有限小数も、循環小数として表すことができ、その循環節は0(0桁ではなく、1桁の「0」)である。しかし、小数第一位が「商-1」で小数第二位以降が「桁の底-1」から成る循環小数と見なす見解もある。
例えば、十二進法の 1⁄3 は通常 0.4 と表すが、これは 0.4000… ということであり、循環節が 0 の循環小数である(つまり有限小数は循環小数(無限小数)の特別な場合と見ることもできる)。一方、0.3BBB… と表す見解もあり、これは循環節が B(十一)の循環小数となる。
同じく、二十進法の 1⁄5 も通常 0.4 と表すが、これは 0.4000… ということであり、循環節が 0 の循環小数である(つまり有限小数は循環小数(無限小数)の特別な場合と見ることもできる)。一方、0.3JJJ… と表す見解もあり、これは循環節が J(十九)の循環小数となる。
一般に正の実数について、有限小数は二種類の循環小数で表せ、逆に、二通りに小数表示できるのはその一方が有限小数である場合に限る。
有理数が有限小数表示を持つのは、六進法や十二進法なら分母の素因数が2と3(一般には、基数の約数たる素数)、十進法や二十進法なら分母の素因数が2と5(一般には、基数の約数たる素数)のみである時で、またその時に限る。
無理数[編集]
円周率や2の平方根といった、循環小数でない小数は無理数である[2]。有理数は循環小数に表示でき、逆に、循環小数に表示できる実数は有理数に限る[3]。
表記法[編集]
2.2234234… のような表記では、循環節がどの部分であるのか一見して分かりにくいため、循環節を明示する表記法がいくつかある。例えば、循環節の始まりと終わりを点で示し、
などと書く。前者の例では 3 が繰り返されることを意味し、後者の例では 234 が繰り返されることを意味する。他に、循環節を上線または下線で指定したり、括弧ではさんで指定する方法もある。例えば、2.2234, 2.2234 や 2.2(234) といった表記である。
循環節は整数部にかかってはならない。つまり、100⁄11 = 9.09090… = 9.09 を 9.0 としたり、1000⁄11 = 90.9090… = 90.90 を 90 としてはならない。
分数表現との関係[編集]
無限小数の厳密な意味は、極限の概念を用いて定義される。特に、循環小数が表す数は無限等比級数、すなわち等比数列の和の極限と見なすことができ、ゆえに有理数である。例えば、
である。より一般的には、冒頭のループしていない有限小数部分を分離しaとおき、ループ部分すなわち循環節の小数表記をb、節の長さ(桁数、0.370370...ならば0.37のループであるから3)をnとすれば
となる。ところで、級数部分の総和は
であるから
とかけることがわかる。この方法をロバートソン(J.Robertson,1712-1776)の方法という[1]。
やや厳密さに欠ける説明として、以下のようなものがある。
- x = 2.423423423…
とおき、両辺を1000倍した式
- 1000x = 2423.423423…
と辺々引くと「循環部分が打ち消しあって」
- 999x = 2421
となる。よって、x = 269⁄111 が分かる。循環部分が打ち消しあうという部分が曖昧であるが、無限等比級数の値の計算と同等であることからこの計算は正当化される。
循環節の長さ[編集]
素数の逆数[編集]
2 と 5[4](一般には、基数の約数たる素数)以外の素数 p の逆数の循環節の長さは、p - 1 の約数である。有限小数の循環節の長さを1とするなら、2 と 5(基数の約数たる素数)もこの条件を満たす。
このことは、1⁄p の循環節の長さが k であることと、10k ≡ 1 (mod p) が同値であることから、初等的な群論より導かれる。
これがちょうど p - 1 となるような素数 p は、小さな順より(2を除いて)
- 7, 17, 19, 23, 29, 47, 59, 61, 97, …(オンライン整数列大辞典の数列 A1913)
である。このような p に対する 1⁄p の循環節は、巡回数となる。例えば、1⁄7 の循環節 142857 や、1⁄17 の循環節 0588235294117647 は巡回数である。
素数を、逆数の循環節の長さが奇数のものと偶数のものに分けると、2⁄3 が偶数、1⁄3 が奇数である(より厳密な表現では、N 以下の素数について数え上げた場合の N → ∞ への極限がその比率となる)。
一般の有理数[編集]
10 と(一般には基数と)互いに素な自然数 n の逆数の循環節の長さは、カーマイケルの定理のλ関数を用いた場合、たかだか λ(n) 桁である。また有理数を整数倍したり、分母 n に対して基数に含まれる素因数を掛けた場合、循環節の長さが増すことはない。
循環節の求め方[編集]
定義に則った方法[編集]
最も素朴には、十分な桁数の小数表記を求め、その繰返し周期を見つける。
ただし、同じ数字の並びが表れてもより長い周期の一部かもしれない(たとえば 1212123⁄9999999 = 0.1212123 の循環節を 12 と求めてしまうかもしれない)ので、循環節の長さの上限を事前に知っておかなければならず、それだけの桁数まで求めて初めて、循環節を求められる。上限としては#一般の有理数にて挙げたものがあるほか、素因数分解の手間をかけたくなければ「分母 - 1」が使える。
筆算[編集]
割り算を筆算で求めれば、余りに同じ数が現れた時点で、繰り返しに入ったことがわかる。例えば、十進法の1⁄7 を小数表示する場合、次のような計算を行う。
0.142857 7 ) 1.000000 7 30 28 20 14 60 56 40 35 50 49 1
これ以降は同じ計算の繰り返しとなるので、1⁄7 = 0.(142857) であることが分かる。この例では、整数を 7 で割った商と余りを計算することを繰り返している。一般に、a を b で割る筆算では、ある整数を b で割った商と余りを計算することを繰り返すが、b で割った余りは 0 から b - 1 の b 通りしかないため、余りが 0 になって計算が終わるのでなければ、必ずどこかで同じ余りが出現して同じ計算の繰り返しとなる。ゆえに、有理数を小数表示すると循環小数になる。この方法では循環節の長さの上限を事前に知っておく必要はないが、「分母 - 1」以下であることがこれによりわかる。
素数の逆数の場合[編集]
基数に素因数として含まれない素数 p の逆数に対しては、循環節を m 桁とすると 10m - 1 は p で割り切れ、商が循環節となるので、p - 1 の約数それぞれに対し 10m - 1 が p で割り切れるかを試せばよい。m が小さい順に試せば、計算量を節約できる(たとえば 1⁄3 = 0.333… に対しては 3 (m = 1) も 33 (m = 2) もこれを満たすので、小さい順でなければならない)。
脚注[編集]
- ^ a b 吉田武 『新装版オイラーの贈物』 東海大学出版会、2010年、14頁。ISBN 978-4-486-01863-6。
- ^ 小平邦彦 2003, pp. 14-15.
- ^ 小平邦彦 2003, p. 5.
- ^ 循環節 県立松戸高等学校 広川久晴
参考文献[編集]
- 小平邦彦 『軽装版 解析入門Ⅰ』 岩波書店、2003年4月22日。ISBN 4-00-005192-X。