関数 (数学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

数学における関数(かんすう、: function、函数とも)とは、ある変数に依存して決まる値あるいはその対応を表す式の事である。この言葉はライプニッツによって導入された。その後定義が一般化されて行き、現代的には集合に値をとる写像の一種であると理解される。

表記の歴史[編集]

日本語としての関数はもともと「函数」と書く。函数という語の初出といわれる『代微積拾級』(1859年) には「凡此變數中函彼變數則此為彼之函數」[1]とあり、また変数に天、地などの文字を用いて「天 = 函(地)」という表記もある。「函」の字義はつつむ、つつみこむであるから、「天 = 函(地)」という表現は「天は地を函む」ようにみえ[2]、従属変数(の表現)に独立変数が容れられている[3]という意味である。関数をブラックボックスとして説明することがある[3][4][5]が、函数の字義と function の意味は関係がない[2]。これは英語 function の中国における訳語(音訳)である: 函数 (: hánshù) をそのまま輸入したものである。

微積分について日本語で書かれた最初の本、花井静校・福田半編『筆算微積入門』(1880年) では「函数」が用いられている[2][3]。それに続く長沢亀之助訳『微分学』(1881年)、岡本則録訳『査氏微分積分学』(1883年) のいずれも用語を『代微積拾級』、『微積遡源』(1874年) などによっている[3]。明治初期に東京數學會社で数学用語の日本語訳を検討する譯語會が毎月開催され、その結果が『東京數學會社雑誌』で逐次報告されている。この報告に function の訳語は第62号 (1884年) の「原數」[6]と第64号 (1884年) の「三角法函數」[7]の二種類が登場する。一方、同誌の本文では61号 (1884年) や63号 (1884年) で「函數」が用いられている[8]

「函」が漢字制限による当用漢字に含まれなかったことから、1950年代以降同音の「関」へと書き換えがすすめられた[9]。この他、「干数」案もあった[10]学習指導要領に「関数」が登場するのは中学校で1958年、高等学校で1960年であり、それまでは「函数」が用いられている[11]。「関数」表記は 1985 年頃までには日本の初等教育の段階でほぼ定着した[12]

定義[編集]

二つの変数 xy があり、入力 x に対して、出力 y の値を決定する規則(x に特定の値を代入するごとに y の値が確定する)が与えられているとき、変数 y を「x独立変数 (independent variable) とする関数」或いは簡単に「x の関数」という。対応規則を明示するときは、適当な文字列(特に何か理由がなければ、function の頭文字から f が選ばれることが多い)を使って

y = f(x)

のように対応規則に名前を付与する。x の関数 yf(x) と書いて、x = a を代入したときに決まる関数の値を f(a) と表すのである。しかしここで、定数関数の例に示されるように、個々の y の値について対応する x の値が一つに決まるとは限らない事に注意しなければならない。この f(x) という表記法は18世紀数学者オイラーによるものである。オイラー自身は、変数や定数を組み合わせてできた数式の事を関数と定義していたが、コーシーは上に述べたように、 y と言う変数を関数と定義した。

yx の関数であることの別の表現として、変数 y は変数 x従属するとも言い、y従属変数 (dependent variable) と言い表す。独立変数がとりうる値の全体(変域)を、この関数の定義域 (domain) といい、独立変数が定義域のあらゆる値をとるときに、従属変数がとりうる値(変域)を、この関数の値域 (range) という。

関数の値域は実数 R複素数 C の部分集合であることが多い。値域が実数の集合となる関数を実数値関数 (real valued function) といい、値域が複素数の集合となる関数を複素数値関数 (complex valued function) という。それぞれ定義域がどのような集合であるかは問わないが、定義域も値域も実数の集合であるような関数を実関数 (real function) といい、定義域も値域も複素数の集合であるような関数を複素関数 (complex function) という。

現代的解釈[編集]

ディリクレは、 xf(x) の対応関係に対して一定の法則性を持たせる必要は無いとした。つまり、個々の独立変数と従属変数の対応そのものが関数であり、その対応は数式などで表す必要はないという、オイラーとは異なる立場をとっている。

集合論的立場に立つ現代数学では、ディリクレのように関数を対応規則 f のことであると解釈する。それは二項関係の特別の場合として関数を定義するということであり、関数を集合から「数」のつくる集合への写像であると捉えると言う事である。よって、写像に用いる言葉をそのまま流用する事がある:

などを挙げることができるだろう。一方で、関数は一般の写像とは異なる性質も持つ。たとえば、による演算が定義できることである: x を任意として、

  • (f + g)(x) := f(x) + g(x),
  •  (f - g)(x) := f(x) - g(x),
  • (fg)(x) := f(x)g(x),
  • (f/g)(x) := f(x) / g(x)

などが挙げられる。

ブラックボックスモデルによる説明[編集]

とくに教育において関数はブラックボックスで説明されることがあると前に述べたが関数は入力と出力が定義されたブラックボックスとして説明される[4]

例えば120円のジュースを自動販売機で購入することを考えよう。ここで投入する金額が入力、ジュースとお釣りが出力である[4]。更に同一の金額でも様々な組合せがある。120円といっても10円玉12枚、50円玉1枚と10円玉7枚など組み合わせがあるが、自動販売機内部では硬貨が違っても金額が同じなら全て同一と見なされる、つまり入力が変化しても出力が一定であるがこれも関数である[4]。これは数学的には定数関数と認識される。

関数の例[編集]

  • 一次関数f(x) = ax + ba, b は定数, a ≠ 0)。
    • とくに、b = 0 のとき線型写像a = 1 かつ b = 0 のとき恒等関数(恒等写像、identity)になる。
  • 二次関数f(x) = ax2 + bx + ca, b, c は定数で a ≠ 0)。
  • 指示関数
    \chi_A(x) = \begin{cases}
  1 & (x \in A), \\
  0 & (x \notin A).
\end{cases}

以下に代表的な関数とその具体例の一覧表を掲げる[4][13]。全てのものを網羅しているわけではないことに注意されたい。

関数 具体例
代数関数
有理関数
整関数
一次関数 f(x)=ax+b
二次関数 f(x)=ax2+bx+c
三次関数 f(x)=ax3+bx2+cx+d
分数関数 f(x)=\frac{a}{x}
無理関数 f(x)=\sqrt{x}
初等関数
指数関数 ax,ex,2x
対数関数 log(x),ln(x),loga(x)
三角関数 sin(x),cos(x),tan(x)
逆三角関数 sin-1(x),cos-1(x),tan-1(x)
双曲線関数 sinh(x),cosh(x),tanh(x)
特殊関数
ガンマ関数 Γ(x)
ベータ関数 Β(x,y)
誤差関数 erf(x)
テータ関数
ゼータ関数 ζ(x)
マチウ関数
母関数

多変数関数と多価関数[編集]

複数の変数によって値が決定される関数を多変数関数と言う。これは複数の数の集合たちの直積集合から数の集合への写像であると解釈される。ベクトルの集合を定義域とする独立変数をもつ関数と解釈することもある。n 個の変数で決まる関数であれば、n 変数関数とも呼ばれ

y = f(x_1,x_2, \ldots,x_n)

のように書かれる。例えば

y = x_1^2 + x_2^2

は二変数関数である。

一つの入力に複数の出力を返すような対応規則を関数の仲間として捉えるとき多価関数 (multi-valued function) と言う。常に n 個の出力を得る関数は n 価であるといい、その n を多価関数の価数と呼ぶ。例えば正の実数にその平方根を与える操作は正と負の二つ値を持つので、二価関数である。多価関数に対し、普通の一つの値しか返さない関数は一価関数といわれる。

多変数関数は独立変数がベクトルに値をとるものと解釈できるということを上に述べたが、逆に従属変数がベクトルの値を持つような写像も考えられ、それをベクトル値関数という。ベクトル値関数が与えられたとき、像のベクトルに対してその各成分をとり出す写像を合成してやることにより、通常の一価関数が複数得られる。つまり、定義域を共有するいくつかの関数を一つのベクトルとしてまとめて扱ったものがベクトル値関数であるということができる。

一つの例として、実数全体 R で定義された二価の関数

f(x) = \pm\sqrt{1+x^2}

はベクトル値関数

f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}^2;\ x \to f(x) = (\sqrt{1+x^2}, - \sqrt{1+x^2})

として扱うことができる。また、定義域の "コピー" を作って定義域を広げてやることで、その拡張された定義域上の一価の関数

f\colon A \sqcup B \to \mathbb{R} \quad(A=B=\mathbb{R})
f(x)=\begin{cases}
  -\sqrt{1+x^2} & (x\in A)\\
  \sqrt{1+x^2} & (x\in B)
\end{cases}

と見なすこともある。複素変数の対数関数 ln は素朴には無限多価関数であるが、これを ln のリーマン面上の一価関数と見なすなど、定義域を広げて一価にする手法は解析的な関数に対してしばしば用いられる。

陽表式と陰伏式[編集]

多変数方程式がいくつかの関数関係を定義することもある。例えば

F(x,y) = 0

のような式が与えられているとき、xy は独立に別々の値をとることはできない。x に勝手な値を与えるならば、yx の値のよってとりうる値の制約を受けるからである。このことを以って、独立変数 x と従属変数 y が対応付けられると考えるとき、方程式 F(x, y) = 0 は x の関数 y (implicit) に定めるといい、yx陰伏関数または陰関数 (implicit function) という。これに対して、y = f(x) と表されるような関数関係を、yx陽関数 (explicit function) である、あるいは yx (explicit) に表されているなどと言い表す。

陰伏的な関数関係が F(x, y) = 0 によって与えられていて、陽な関数関係 y = f(x) が適当な集合 D を定義域として F(x, f(x)) = 0 を満たすなら、この陽関数 y = f(x) は D 上で関係式 F(x, y) = 0 から陰伏的に得られるという。関数の概念を広くとらず、一価で連続である場合や一価正則な場合などに考察を限ることはしばしば行われることであるが、そのような仮定のもとでは陰関数から陰伏的に得られる陽関数は一つとは限らず、一般に一つの陰関数は(定義域や値域でより分けることにより)複数の陽関数に分解される。このとき、陰伏的に得られた個々の陽関数をもとの陰関数のという。また、陰関数の複数の枝を総じて扱うならば、陰関数の概念から多価関数の概念を得ることになる。例えば、方程式

y^2 - x^2 = 1

が定める陰関数 y は全域で 2 つの一価連続な枝

f_1(x) = \sqrt{1+x^2},
f_2(x) = -\sqrt{1+x^2}

をもつ二価関数である。

また、媒介変数を導入して関係式を分解し、各変数を媒介変数の陽関数として表すことによって、陰関数を表すこともある。例えば、方程式 2x − 3y = 0 は、媒介変数 t を導入して

\begin{cases}
 x = 3t \\
 y = 2t
\end{cases}

と表すことができるが、これによって yx の陰伏的な関数関係が表されていると考えるのである。

一般化[編集]

数列[編集]

有限集合からの関数は実質的に数の組あるいは数列と呼ばれるものになる(適当な演算をいれてベクトルと見ることもできる)。それはつまり、集合の各元に序列を与えて {1, 2, ..., n} と並べるとき、k = 1, 2, ..., n に対して xk = x(k) を対応付ける関数 x

(x_1,x_2,\ldots,x_n) \in \mathbb{R}^n

のかたちに表すのである。これは有限列であるが、無限列

(s_n)_{n\in\mathbb{N}} \in \mathbb{R}^\mathbb{N}

を考えれば、それは各自然数 n に対して、数 sn を対応させる

s\colon \mathbb{N} \to \mathbb{R};\,n \mapsto s_n

という関数を考えていることに他ならない。もっと一般に数のを考慮に入れれば、通常の実関数 f = f(x) を x を添字に持つ実数の族

(f_x)_{x\in\mathbb{R}} \in \mathbb{R}^\mathbb{R}

と読みかえることができる。

汎関数[編集]

関数を変数に取る関数はとくに汎関数 (functional) と呼ばれる。特にある集合上の関数の作るベクトル空間から係数体への線型写像線型汎関数 (linear functional) という。文脈によっては単に汎関数といえば線型汎関数を指すこともある。たとえば積分

F(f)=\int_{-\infty}^\infty f(x)dx

は可積分関数 f を変数と見なして様々に取り替えることによって汎関数 F を与える。積分は線型性を持つから、F は線型汎関数である。

有限個の変数の組を考えることも関数の一種であったから、汎関数

\mathcal{F}(f)=\mathcal{F}(f(x))

はひとつまたは複数のパラメータ添字付けられる一般には無限個の変数をもつ関数の一種

\mathcal{F}\left((f_x)_{x\in\mathbb{R}}\right)

と見なすことができる。また、有限次元ベクトル空間は基底を固定することにより、その座標で表される係数体の有限個の直積同型であるから、そこからの汎関数は多変数関数

F(x_1,x_2,x_3, \ldots, x_n)

と同一視できる。

関数に対して数を対応付けるという汎関数の概念は、さらに関数に関数を対応付ける作用素の概念に一般化される。

超関数[編集]

シュワルツの超関数(分布、distribution)の理論は、汎関数の一種(コンパクトな台を持つ無限階微分可能関数の作る空間上の連続線型汎関数)として超関数を定義する。通常の局所可積分関数に測度を掛けて積分作用素として見ると、この意味で超関数と見なされる。

この様な連続線型汎関数を用いた定式化の方向で distribution よりも大きいクラスとしては、超分布 (ultradistribution) が知られている。

一方、佐藤の超関数 (hyperfunction) は層係数コホモロジー等の代数的手法を用いて定義される。この代数的手法の解析学への導入により、線型微分方程式系の代数化である D 加群の理論等、代数解析学と呼ばれる分野が開かれた。以上の超関数のクラスは局所化可能、言い換えれば層を成すという事が重要である。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ (美国) 羅密士撰 『代微積拾級』巻十、(英国) 偉烈亜力口訳、(清) 李善蘭筆述、咸豊9年、1丁裏。東北大学附属図書館林文庫蔵。東北大学和算資料データベースで「代微積拾級」を検索することにより、画像ファイルを見ることができる。
  2. ^ a b c 片野善一郎 (1988)『数学用語の由来』明治図書出版 ISBN 4-18-543002-7
  3. ^ a b c d 片野善一郎 (2003)『数学用語と記号ものがたり』裳華房 ISBN 4-7853-1533-4
  4. ^ a b c d e 飯島徹穂編著、『数の単語帖』、共立出版、2003年、「関数」より。ISBN 978-4-320-01728-3
  5. ^ 遠山啓、『関数を考える』、岩波書店、〈岩波現代文庫〉、2011年。ISBN 978-4-00-603215-9
  6. ^ 譯語會記事」、『東京數學會社雑誌』第62号、數學會社假事務所、 p. 9。
  7. ^ 譯語會記事」、『東京數學會社雑誌』第64号、數學會社假事務所、 p. 14。
  8. ^ 菊池大麓「雜録」、『東京數學會社雑誌』第61号、數學會社假事務所、 p. 1。菊池大麓「雜録」、『東京數學會社雑誌』第63号、數學會社假事務所、 p. 1。
  9. ^ この経緯については、島田茂 (1981)「学校数学での用語と記号」福原満州雄他『数学と日本語』共立出版 ISBN 4-320-01315-8 pp.135-169 に詳しい。
  10. ^ 一松信 (1999)「当用漢字による書き替え」数学セミナー編集部編『数学の言葉づかい100』日本評論社 ISBN 4-535-60613-7 p.5
  11. ^ 但し、1958年の中学校学習指導要領では用語として「一次関数(一次函(かん)数)」と併記しており、「関数」のみになるのは1969年の中学校学習指導要領である。
  12. ^ 小松勇作「関数」『数学100の慣用語』数学セミナー1985 年9月増刊、数学セミナー編集部編『数学の言葉づかい100』日本評論社 ISBN 4-535-60613-7 p.58 に再録
  13. ^ 日本数学会編、『岩波数学辞典 第4版』、岩波書店、2007年、項目「特殊関数」より。ISBN 978-4-00-080309-0 C3541

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]