正多面体

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正多面体(せいためんたい、: regular polyhedron)、またはプラトン(の)立体(プラトン(の)りったい、: Platonic solid[1]とは、すべての面が同一の正多角形で構成されてあり、かつすべての頂点において接する面の数が等しい凸多面体のこと。正多面体には正四面体正六面体正八面体正十二面体正二十面体の五種類がある。

正多面体の構成面を正 p 角形、頂点に集まる面の数を q として {p, q} のように表すことができる。これをシュレーフリ記号という。シュレーフリ記号は半正多面体(別名:アルキメデスの立体)にも拡張することができる。

三次元空間の中に一つの頂点を取り、その周りに取ることが可能な正多角形の数に関する制限から、正多面体が存在する必要条件が、{3,3}、{3,4}、{3,5}、{4,3}、{5,3} の五種類のみであることを示すことができる。同じことは、オイラーの多面体公式あるいはデカルトの不足角の定理からも示すことができる。

しかし、条件を緩めることによって、正多面体の拡張を考えることができる(参照:星型正多面体ねじれ正多面体正平面充填形)。

正多面体の定義[編集]

ユークリッド『原論』第13巻で、球に内接する5つの正多面体の構成が論じられ、最後に、「いま述べた五つの図形以外に、等辺等角で互いに等しい図形に囲まれるほかの図形は作られない」[2]と記述されている。このことから、正多面体とは、

  1. 面は等しい
  2. 面は正多角形である
  3. すべての頂点は同一球面上にある

という条件をすべて満たす多面体である、と理解できる[3]

条件3については、1、2を満たす凸多面体であることを前提とすれば、

  • すべての二面角は等しい
  • すべての頂点形は正多角形である
  • すべての立体角は合同
  • すべての頂点に同数の面が集まる

と言い換えることもできる。

また、コクセターは、同心の外接球・中接球・内接球をもつことを正多面体の定義とした。

正多面体の諸量[編集]

正多面体の一辺を a とすれば、概略下記となる。

名前と図 構成面 頂点 シュレーフリ記号 表面積 体積 内接球半径 中接球半径 外接球半径 二面角
正四面体
120px-Tetrahedron-slowturn.gif
正三角形 4 6 4 {3,3}

≃0.204a ≃0.354a ≃0.612a ≃70.53°
正六面体
120px-Hexahedron-slowturn.gif
正方形 6 12 8 {4,3} 0.5a ≃0.707a ≃0.866a 90°
正八面体
120px-Octahedron-slowturn.gif
正三角形 8 12 6 {3,4}

≃0.408a 0.5a ≃0.707a ≃109.47°
正十二面体
120px-Dodecahedron-slowturn.gif
正五角形 12 30 20 {5,3}

≃1.114a ≃1.309a ≃1.401a ≃116.56°
正二十面体
120px-Icosahedron-slowturn.gif
正三角形 20 30 12 {3,5}

≃0.756a ≃0.809a ≃0.951a ≃138.19°

相互関係[編集]

正多面体どうしの間には、もれなく内接・外接の関係がある。[4]

双対[編集]

いずれの正多面体の各面の中心を頂点とする立体もまた、正多面体となる。これを正多面体の双対関係という。

具体的には、

  • 正四面体 ↔ 正四面体
  • 正六面体 ↔ 正八面体
  • 正十二面体 ↔ 正二十面体

以上の3通りであるが、正四面体どうしの場合は特に自己双対という。

面接触関係[編集]

外接する正多面体に対して、内接する正多面体が複数の面を接する関係には次の3通りがある。( )内に内接正多面体を示す。

  • 正四面体(正八面体)
  • 正四面体(正二十面体)
  • 正八面体(正二十面体)

辺接触関係[編集]

外接する正多面体の各面に対して、内接する正多面体の辺が接する関係には次の4通りがある。

  • 正六面体(正四面体)
  • 正六面体(正十二面体)
  • 正六面体(正二十面体)
  • 正十二面体(正六面体)

点接触関係[編集]

外接する正多面体の各面の面心に対して、内接する正多面体の一部の頂点が接する関係には次の3通りがある。

  • 正四面体(正六面体)
  • 正四面体(正十二面体)
  • 正八面体(正十二面体)

外接する正多面体の一部の面心に対して、内接する正多面体のすべての頂点が接する関係には次の3通りがある。

  • 正八面体(正四面体)
  • 正二十面体(正四面体)
  • 正二十面体(正六面体)

外接する正多面体の一部の辺の中点に対して、内接する正多面体のすべての頂点が接する関係には次の2通りがある。

  • 正十二面体(正八面体)
  • 正二十面体(正八面体)

外接する正多面体の一部の頂点に対して、内接する正多面体のすべての頂点が接する関係は次のとおり。

  • 正十二面体(正四面体)

一覧表[編集]

正多面体の相互関係を次の表に示す。赤丸は接触点、太線は接触辺、塗りつぶし面は接触面である。ただし、裏側は図に描かれていない。

外接\内接 正四面体 正六面体 正八面体 正十二面体 正二十面体
正四面体 Tetra in tetra.png Cube in tetra.png Octa in tetra.png Dodeca in tetra.png Icosi in tetra.png
正六面体 Tetra in cube.png Octa in cube.png Dodeca in cube.png Icosi in cube.png
正八面体 Tetra in octa.png Cube in octa.png Dodeca in octa.png Icosi in octa.png
正十二面体 Tetra in dodeca.png Cube in dodeca.png Octa in dodeca.png Icosi in dodeca.png
正二十面体 Tetra in icosi.png Cube in icosi.png Octa in icosi.png Dodeca in icosi.png

なお、上の表に掲げた外接する正多面体の投影図においては、それらの輪郭は正方形(正四面体の辺中心直投影)、正六角形(正六面体の頂点中心直投影)、正六角形(正八面体の面中心直投影)、正十角形(正十二面体の面中心直投影)、正十角形(正二十面体の頂点中心直投影)と、いずれも正多角形となっている。実際の立体図形においては、その頂点は同一平面にはなく、平行な二平面に一つ置きに属するジグザグ多角形英語版であって、正多面体のペトリ―多角形Petrie polygon)と呼ばれる。

正多面体群[編集]

正多面体を自分自身に重ねる三次元空間中の回転操作(回転変換)全体のなすをいう[5]。これは三次元回転群の部分群になる。

個々のものは「正何面体群」と呼ぶが、互いに双対の正六面体群と正八面体群、正十二面体群と正二十面体群はそれぞれ群として同じものになるので、後者に代表させて、正四面体群、正八面体群、正二十面体群と呼ぶことが多い。

シュレーフリ記号を用いて{p, q}と書ける正多面体を自分自身に移す回転には次の3つのタイプがある。ただし、正四面体の場合は面の中心と頂点とが相対するので①と②が融合したものとみなす。

  • ① 相対する面の中心を結ぶ軸のまわりに 2π/p の整数倍回転する操作
  • ② 相対する頂点を結ぶ軸のまわりに 2π/q の整数倍回転する操作
  • ③ 相対する辺の中点を結ぶ軸のまわりに π (の整数倍)回転する操作

次の表において、①,②,③には単位元でないものの数を示した。

正多面体の変換群
p q 単位元 合計(位数) 2回対称軸 3回対称軸 4回対称軸 5回対称軸
正四面体 3 3 8 3 1 12 3 4 - -
正六面体 4 3 9 8 6 1 24 6 4 3 -
正八面体 3 4 8 9 6 1 24 6 4 3 -
正十二面体 5 3 24 20 15 1 60 15 10 - 6
正二十面体 3 5 20 24 15 1 60 15 10 - 6

これらの群の位数はさまざまな方法で記述できる。

位数=①の数+②の数+③の数+1
位数=面の数×p
位数=頂点の数×q
位数=1+(2-1)×2回対称軸の数+(3-1)×3回対称軸の数+(4-1)×4回対称軸の数+(5-1)×5回対称軸の数

正多面体の歴史[編集]

正多面体(Platonic solids)という幾何学的概念の成立についての伝承としては、紀元前後のユークリッド『原論』の写本に残された次のようなメモが広く信頼されている。

この第13巻では5個のいわゆるプラトン立体を扱っているが、これはプラトンによるものではない。前述の5個の図形のうち3つ、つまり立方体、正四面体、正十二面体はピタゴラス学派によるものであり、正八面体と正二十面体はテアイテトスによる。プラトンが『ティマイオス』においてこれらに言及したためにプラトンの名前が付いたのである。この巻にユークリッドの名前も載っているのは、かれがこの巻を原論に収録したからである。

鉱物結晶にみられる正多面体[編集]

日本産鉱物の結晶のなかで正多面体状結晶形態をとることが記録されている主な鉱物種は以下の通り[6]

  • 正四面体
    • 安四面銅鉱 (Tetrahedrite) などの四面銅鉱グループや閃亜鉛鉱 (Sphalerite)、ズニ石 (Zunyite) など
  • 正六面体
    • 黄鉄鉱 (Pyrite)、方鉛鉱 (Galena)、自然銅 (Native copper)、黒辰砂 (Metacinnabar)、蛍石 (Fluorite)、角銀鉱 (Chlorargyrite)、閃マンガン鉱 (Alabandite)、毒鉄鉱 (Pharmacosiderite) など
  • 正八面体
    • 黄鉄鉱 (Pyrite)、自然金 (native gold)、自然銅 (Native copper)、ハウエル鉱 (Hauerite)、輝コバルト鉱 (Cobaltite)、蛍石 (Fluorite)、赤銅鉱 (Cuprite)、緑マンガン鉱 (Manganosite)、尖晶石 (Spinel)、磁鉄鉱 (Magnetite)、クロム鉄鉱 (Chromite) など
  • (正五角形ではない)五角十二面体
    • 黄鉄鉱 (Pyrite)
  • (一部は正三角形ではない)三角二十面体
    • 黄鉄鉱 (Pyrite)
Sphalerite.png Pyritecube.png Spinel3.png Pyrite12.jpg Pyrite delta 20.png
閃亜鉛鉱 黄鉄鉱 尖晶石 黄鉄鉱 黄鉄鉱
正四面体 正六面体 正八面体 五角十二面体 三角二十面体
面指数 {111} 面指数 {100} 面指数 {111} 面指数 {210} 面指数 {111} {210}

正多面体による空間充填[編集]

正多面体のみによる空間充填には次の2通りがある。

  • 正六面体(立方体)単独
  • 正四面体と正八面体による空間充填。構成比は2:1。

正十二面体は単独で空間を埋め尽くすことはできないが、単純立方格子状に配置すると、正六面体とジョンソン立体91番とによって空間充填する[7]。 構成比は1:1:3。

正二十面体も単独で空間を埋め尽くすことはできないが、単純立方格子状に配置すると、下図の三角二十面体と楔形の黄金四面体(辺の比1:φ)とによって空間充填する。構成比は1:1:6。

Cubicfilling.png Tetra+octa.png Dodecacub91.png ICOSAHEDRON-GOLD.png
正六面体 正四面体 2 正十二面体 1 正二十面体 1
正八面体 1 正六面体 1 三角二十面体 {1φ0} {111} 1
ジョンソン立体91番 3 黄金四面体 {1φ0} {111} 6

脚注[編集]

  1. ^ プラトンの対話篇『ティマイオス』において、四元素説と結びつけられて言及されたことに因む。
  2. ^ ユークリッド原論(追補版). 共立出版. (2015/2/25) 
  3. ^ 多面体. シュプリンガー・フェアラーク東京. (2001/12/5) 
  4. ^ 多面体百科. 丸善出版. (2016/10/31) 
  5. ^ 正多面体を解く. 東海大学出版会. (2002/5/20) 
  6. ^ 日本産鉱物の結晶形態. 高田雅介. (2010/4/20) 
  7. ^ 多面体木工(増補版). 特定非営利活動法人 科学協力学際センター. (2011/3/1) 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]