なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

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なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(なぜ、エヴァンズにたのまなかったのか?、原題:Why Didn't They Ask Evans?)は、1934年イギリス小説家アガサ・クリスティが発表した長編推理小説である。

あらすじ[編集]

ウェールズの海岸沿いの村、マーチボルドの牧師館に住むボビイ・ジョーンズがトーマス医師とゴルフをしている最中、断崖の先端の地面の割れ目に男が落ちているのを発見する。2人は崖下に降りていくが、男は既に虫の息であった。トーマス医師が応援を求めに村に向い、ボビイが1人になって数分後に男の意識が突然戻り「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と言い残して死んでしまう。ボビイが男のポケットに入っていた美しい女性の写真を見た後、ロジャー・バッシントン=フレンチと名乗る男が現れ、4時に牧師館に戻らなければならないボビーはこの男に後を任せて帰宅する。

翌日、友人に会いにロンドンへ行ったボビイは、帰りの汽車の中で幼なじみで「お城」のお嬢様のフランシス(フランキー)・ダーウェントと再会する。フランキーが指し示す新聞記事でボビイは、死んだ男が持っていた写真はケイマン夫人で、死んだ男はケイマン夫人の兄のアレックス・プリッチャードであることが判明したことを知る。翌日、検死審問でケイマン夫人を見たボビイは、写真のチャーミングな美人から変わり果てた中年婦人の姿に失望する。事故死の評決が下された後、夫とともに訪ねてきたケイマン夫人から何か兄の遺言がなかったかと尋ねられたボビイは、その場では特に何もなかったと答えるが、後日、「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」と言っていたことを思い出し、夫人に手紙で知らせる。

その後、ボビイはブエノス・アイレスから年1千ポンドの仕事の話が舞い込むが、友人とガレージを開業する準備を進めていたために、ブエノス・アイレスには行かなかった。さらにボビイは数日後、ピクニックに行って昼食で飲んだビールに致死量のモルヒネが入っていたため命を落としそうになる。奇跡的に一命を取り留めたボビイを見舞いに来たフランキーにボビイは、『マーチボルト週報』に掲載されていた死んだ男のポケットに入っていたケイマン夫人の写真が、ボビイが見た写真とは別のものであることを示し、2人は写真がすり替えられたもので、すり替えたのがロジャー・バッシントン=フレンチであり、ケイマン夫妻も事件に関係していることを知る。さらに2人は、死んだ男は実はアレックス・プリッチャードではなく身元不明のXで、ロジャーがXを崖から突き落として殺し、Xの身元を知られたくなかったため写真をすり替えたのだと推理する。そして、「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」は犯人たちにとって何か重要な言葉ではないかと。

事件の解明のため2人は、バッシントン=フレンチ家がハンプシャーにあるステイヴァリイ村のメロウェイ・コートに所在することを突き止め、屋敷の前でフランキーがわざと事故を起こして屋敷に担ぎ込まれるように仕組み、伯爵令嬢の身分も利用してバッシントン=フレンチ家の客として潜入する。フランキーはロジャーから、屋敷の当主で兄のヘンリイがモルヒネ中毒になっていること、屋敷の近くに中毒患者を治療する病院があり、カナダ人のニコルソン博士が経営していると聞く。フランキーが晩餐の席で崖から落ちて死んだ男の話を話題に持って行き、新聞の切り抜きで写真をヘンリイの妻のシルヴィアに見せると、少し前までいたカナダ人の博物学者で探検家のアラン・カーステアーズにそっくりだという。

一方、ボビイはフランキーの運転手のホウキンスとして地元のパブで情報収集し、ニコルソン博士の病院には身内に見捨てられた患者が監禁されていると聞き、試みに夜中に庭に侵入すると、そこで写真の女性に出会う。その場では引き返したボビイだが、後日、宿泊している旅館に彼女の訪問を受ける。彼女はニコルソン博士の妻モイラであった。モイラは夫がシルヴィアと結婚したがっており、そのため自分を殺し、さらにヘンリイも入院させて殺そうとしている、そのためにロジャーにヘンリイを入院させようと口説いているという。ボビイは彼女にアラン・カーステアーズを知っているかと尋ね、彼女は結婚前から知っており写真を上げたことがあるという。

そこで彼女とフランキーを引き合わせ、3人でこれまでの情報を確認しあい、ボビイは崖から落ちて死んだ男、アランを殺したのはロジャーだと説明するが、モイラはたった1度しか会ったことがないロジャーがアランを殺すとは考えられないと答える。フランキーはニコルソン博士犯人説を主張する。そして3人が別れた後、ロジャーに出会ったフランキーは、写真のすり替えのことを尋ねる。

ロジャーは、見知らぬ男の死体のポケットからモイラの写真がはみ出ているのを見て、彼女を巻き込まないために写真を抜き取ったのだという。また、死体の顔はハンカチで覆われていて見なかったので、アランだとは知らなかったのだと。そして、ニコルソン博士犯人説を主張するフランキーに、ロジャーは虚偽の証言をしたり死んだ男の言葉を執拗に知りたがったケイマン夫妻こそが怪しいという。

しかし、フランキーの話を聞いてヘンリイの入院を思い直したロジャーだが、ちょうどそのとき、シルヴィアがヘンリイに入院を同意させたと知らせにくる。2人でシルヴィアに思い止まらせようとしたが説得は失敗する。そして、シルヴィアが立ち去った直後、突然、屋敷の中から銃声が聞こえる。ヘンリイの書斎に行くと鍵がかかっており、窓の外から見ると机にうつぶせになっていたヘンリイのこめかみに弾痕が見え、ピストルが手から落ちて床に転がっていた……。

登場人物[編集]

  • ボビイ・ジョーンズ - 元海軍軍人。
  • トーマス・ジョーンズ - ボビイの父。牧師
  • フランシス(フランキー)・ダーウェント - 伯爵令嬢
  • マーチントン卿 - フランキーの父。伯爵。
  • ヘンリイ・バッシントン=フレンチ - 地方名家の当主。
  • シルヴィア・バッシントン=フレンチ - ヘンリイの妻。
  • ロジャー・バッシントン=フレンチ - ヘンリイの弟。
  • アレックス・プリッチャード - 探検家ふうの男。
  • アメリヤ・ケイマン - プリッチャードの妹。
  • ジョージ・アーバスノット - 医者。フランキーの友人。
  • ジャスパー・ニコルソン - 医者。カナダ人。
  • モイラ・ニコルソン - ジャスパーの妻。
  • アラン・カーステアーズ - 博物学者狩猟家
  • ジョン・サヴィッジ - 億万長者。
  • スプラッゲ - 弁護士。
  • ロバーツ夫人 - ジョーンズ家の家政婦。

補足[編集]

  • 作者長編作品中で、主犯が生きたまま自らの手で逃げおおせることに成功しているのは、『茶色の服の男』と本作のみである[1]

脚注[編集]

  1. ^ 探偵が敢えて犯人を見逃した作品(『オリエント急行の殺人』)、犯人が自殺や逃走中の事故などで死亡した作品(前者は『そして誰もいなくなった』『ナイルに死す』など、後者は『魔術の殺人』)、過去の事件で逮捕するには証拠が揃わない、あるいは既に犯人が死亡している作品(前者は『五匹の子豚』、後者は『象は忘れない』など)を除く。

関連項目[編集]