立喰師列伝
『立喰師列伝』(たちぐいしれつでん)は、押井守による日本の小説作品、映画作品。
小説
角川書店のライトノベル雑誌「ザ・スニーカー」にて、2000年12月号、及び2001年8月号から2003年6月号にかけて連載された。単行本は角川書店より2004年2月に出版されている。
小説だが、起承転結のある物語ではなく、戦後から現代に至り日本に存在したとされる「立喰師」に関する資料、伝承などをまとめ、その実態に迫らんとする研究書であるという設定で書かれている。
表紙および挿絵として挿入される写真に、押井の知人であるアニメ制作業界の人間が登場している(後述の映画版出演者を参照)。
書籍情報: ISBN 4048735160
登場人物
- 月見の銀二
- 戦後間もない頃、闇市のそば屋で月見そばを注文しては、薀蓄と説教を武器にただ食いを成した伝説的人物。元ネタは『紅い眼鏡』に登場する同名の人物。映画版では、逆に銀二の伝承が作品化された例として『紅い眼鏡』の写真が一瞬登場する。
- ケツネコロッケのお銀
- 昭和30年代、きつねそばとコロッケを注文し、弁舌巧みに店主を煙に巻いてただ食いしたとされる人物。後に『女立喰師列伝』の主人公としても登場する。
- なお、同名の人物は押井が監督したアニメ版のうる星やつらの他、複数の作品に登場している。
- 哭きの犬丸
- 東京から逃げ落ちた青年を装い、全国各地でただ食いを試みては露見し袋叩きに合っていたという。ただし、結果的に金銭の支払いは行っておらず、無銭飲食そのものは成立してしまっている。元ネタは『御先祖様万々歳!』の主人公、四方田犬丸。映画版では、逆に犬丸の伝承が作品化された例として『御先祖様万々歳!』のイラストが一瞬登場する。
- 冷やしタヌキの政
- 半端な立喰師だったが、そば屋「マッハ軒」において衆人環視の中で撲殺される。元ネタは『犬狼伝説 完結編』に登場する冷やしタヌキの賢。映画版では、逆に賢の伝承が作品化された例として『犬狼伝説』の一コマが一瞬登場する。
- 牛丼の牛五郎
- 徒党を組んで牛丼チェーン店「予知野屋」(映画版では「予知野家」)に乗り込んでは、材料が底をつくまで牛丼を食い尽くす怪人。調理の不備を指摘し、作り直させたものは支払い対象外であるが、食べた分の支払いは行っており、無銭飲食ではない。
- ハンバーガーの哲
- ハンバーガーチェーン店「******」(映画版では「ロッテリア」)に乗り込んでは、キッチンが破綻をきたすまでハンバーガーを食い尽くす怪人。最初の注文はイートインでのハンバーガー100個。追加注文でダブルバーガー100個。
- 牛五郎と同じく、食事に対する支払いは行っているため無銭飲食には当たらないのではないかとの指摘も作中で行われている。
- フランクフルトの辰
- ディズニーランド(小説版では******ランドと表記され、映画版ではピー音であからさまに消去されるが、後の『女立喰師列伝 ケツネコロッケのお銀 -パレスチナ死闘編-』において、大塚ギチ男が読む資料中に『ディズニーランドを夢見て』が確認できる)で持ち込みのフランクフルトを喰う事に執着する男。
- 中辛のサブ
- カレースタンドチェーンに現われては、その異様な雰囲気のみを武器に店主を圧倒し、ただ食いを成す人物。浅黒い肌とターバン姿により何処から見てもインド人にしか見えないが、インド人ではない。「中辛」と聞こえなくもない怪しい発音で注文を行い、食後に物悲しそうな瞳で店主を見つめ再び「中辛」と聞こえなくもない怪しい発音を呟く。店主のほうでは辛さの程度を間違えたかと思い、追加注文を通す。これを延々と繰り返す。
- 『うる星やつら』においては、どんな微妙な辛さの違いも判じ分け、サブがスプーンを投げた店は潰れる……と称されていた。
映画
押井守自らの手によりアニメ映画化され2006年に公開された。
登場人物に扮する役者をデジタルカメラで撮影し、それを3DCGの人形に貼り付けて動かすという、かつての『ミニパト』を彷彿とさせるペープサート状アニメーションで制作するという手法が採られ、「スーパーライヴメーション」と命名されている。その技術を駆使し、アニメーションと実写の新たな融合に挑んだ。
石川光久が「もしイノセンスがカンヌ国際映画祭で賞を取れなかったら、押井さんに好きな映画を1本撮らせる」と言ったのがこの映画をつくる契機になったという話もある。
メインの登場人物は、小説『立喰師列伝』でキャラクターのモデルとなっていたのと同じ人物が演じる形となっており、さらに役者の全てが押井の知人である。これは、制作予算を抑えるのと同時に、押井曰く「今まで自分が仕事を通じて関わってきた人々を、この映画で記録として残したい。それに、知っている人間じゃないと、CGでいじくるときにつまらない」という話である。
スタッフ
出演
- 吉祥寺怪人 - 月見の銀二
- 兵藤まこ - ケツネコロッケのお銀
- 石川光久 - 哭きの犬丸(芝居担当)
- 鈴木敏夫 - 冷やしタヌキの政(台詞なし)
- 樋口真嗣 - 牛丼の牛五郎(芝居担当)
- 川井憲次 - ハンバーガーの哲(芝居担当)
- 寺田克也 - フランクフルトの辰(芝居担当)
- 河森正治 - 中辛のサブ
- 品田冬樹 - 品田徳満(芝居担当)
- 神山健治 - 「予知野家」店長神山、ロッテリア店長神山
- 山寺宏一 - ナレーション、フランクフルトの辰(声担当)、哭きの犬丸(声担当)
- 榊原良子 - 監察医・榊原芳子(写真と声)、フランクフルトの辰の母親(声のみ)、他
- 押井友絵 - ロッテリア店員
- 山田正紀 - 山田正樹
- 今野敏 - 紺野敏
- 乙一 - デラックスメケメケ団
- 滝本竜彦
- 藤木義勝 - 小白丸忠一
- 佐藤友哉
- 森岡浩之
- 大川俊道
- 冲方丁
- きうちかずひろ
- きうちえり子
- 立木文彦 - 品田徳満(声担当)、牛丼の牛五郎(声担当)、ハンバーガーの哲(声担当)、予告編ナレーション
女立喰師列伝
『女立喰師列伝 ケツネコロッケのお銀 -パレスチナ死闘篇-』は、本作のスピンオフ作品。元々は徳間書店の月刊COMICリュウ創刊号DVD付録に収録されたものであったが、2006年12月に単品販売もされている。こちらは通常の実写作品である。
ストーリー
伝説の立喰師「ケツネコロッケのお銀」の目撃情報を確かめるべく、フリーのルポライター大塚ギチ男は単身パレスチナへ向かう。そこでギチ男が見たものは…。
スタッフ
- 原作・脚本・監督 - 押井守
- エグゼクティブ・プロデューサー - 牧田謙吾、磯貝昌彦
- 企画 - 大野修一、菅谷洋一、正岡篤
- プロデューサー - 久保淳
- 演出・撮影・編集 - 湯浅弘章
- 音楽 - 川井憲次
- 音響演出 - 若林和弘
- ガンエフェクト・スーパーバイザー - 納富貴久男
- ガンエフェクト - BIG SHOT、近藤力、田渕寿雄
- エンディング曲 - 「灰色の花びら」兵藤まこ
- 制作 - デイズ
出演
- 兵藤まこ - ケツネコロッケのお銀/AKの銀子
- 大塚ギチ - 大塚ギチ男
- 村山太 - アリ・ダエイ
- 木野幸男、塩田昌之、正岡篤 - 編集部員たち
- 神谷誠、鈴木稔浩、福原健雄、猪飼幹太、黒田仁子 - プロデューサーたち
- 大野修一 - 大野編集長
真・女立喰師列伝
2007年11月に日本で公開されたオムニバス映画。6本のオムニバスから成り、それぞれの監督、および主演は以下の通り。