山小屋

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日本最大規模の山小屋・白馬山荘と北アルプスの山々
北アルプス・蝶ヶ岳の蝶ヶ岳ヒュッテ
飛騨山脈乗鞍岳山頂直下北にある「肩ノ小屋」
福小屋沢岳と爺ヶ岳の間にある種池山荘

山小屋(やまごや)とは、山(山頂稜線、麓など)にある宿泊・休憩・避難施設であり、小屋番(管理人)のいる有人小屋と、無人の避難小屋に大別される。

概要[編集]

単に「山小屋」という場合、一般には有人小屋をさすことが多い。主に登山者が登山行程中に宿泊や食事の便宜を図る施設である。

なお、広義では山にある林業や農業関係の小屋、あるいは山にある小住居も「山小屋」と称する事があるが、本項では宿泊施設としての山小屋について解説する。また、自然にできた洞窟や岩庇を宿泊に利用する例もあるが、これらは「岩小屋」あるいは「岩室」と呼ばれ、人工の建造物である無人小屋の避難小屋とは区別する。

日本の現存最古の山小屋建築は登拝者向けの宿泊施設であった立山室堂小屋である[1]。宗教に関連しない日本最古の営業山小屋は、1907年明治40年)に開業した白馬山荘である[2]。それに続いて槍沢ロッジ、常念小屋燕山荘穂高岳山荘槍ヶ岳山荘などが相次いで開業した。

諸外国では、多くの国に数多くの山小屋が存在する。登山の盛んなヨーロッパアルプスロッキー山脈は特にその数が多い。「山のホテル」と呼称したほうがふさわしい、設備の整った山小屋が、登山をしないと到達できない場所に設置されている例も多い。なお本項では日本における山小屋について解説する。

名称[編集]

山小屋を指す言葉は、「小屋」のほかに「ヒュッテ」・「山荘」・「ロッジ」・「・・荘」などがある。ただし、これらの言葉を冠しているからと言っても、その宿泊施設が必ずしも山小屋であるとは限らない。登山口の山小屋の中には、その後の山麓地域の観光開発により、一般の旅館になったものの、名称は「・・小屋」のままのところもある。また温泉を持つ山小屋の中には単に「・・温泉」と名乗る所もある。

避難小屋の場合は、基本的に「○○避難小屋」と名乗ることになっている。

ヒュッテという呼称について
山小屋を指す言葉の中にドイツ語由来のヒュッテ (Hütte) という呼称があるが、これは高山や高原にある山小屋を指すことが多い。
ヒュッテという言葉は、オーストリア陸軍のレルヒ少佐1910年、日本にスキーを伝えた際に、いっしょに導入された登山用語のひとつ。この時期にもたらされた言葉には、今でも登山スキー用語として用いられているものも多い。
小屋のことを英語では「hut(ハット)」というが、これはドイツ語のヒュッテと同語源である。なお、ファーストフードチェーンの「ピザハット」もPizza-Hutであって「ピザ小屋」の意味である。

設備等に拠る分類[編集]

富士山吉田口頂上にある「扇屋」の売店

有人小屋[編集]

有人小屋では寝具が備え付けてあり、一部の例外を除き、朝夕食の2食付き宿泊が可能であるが、東北地方の山小屋などは有人小屋でも寝具も食事の提供もないところも多い。売店で缶詰などの食料品・スナック菓子清涼飲料水ビールタバコなどやバッジ絵葉書バンダナTシャツ等の記念品を売っているところもある。有人小屋の中には素泊まりの宿泊客用の炊事場があり、また幕場(あるいは天場)といってテントを利用する登山者のために指定されたスペース、指定キャンプ地がある場合もある。大規模な山小屋の中には談話室や図書室を備えたところもあり、小規模な山小屋でも、消灯時間まで食堂を談話室として開放するところも多い。

雨具などを乾燥させるための乾燥室を備えた小屋もある。専用の乾燥機を設置したところや、発電機の余熱を使ったところ、単にハンガーが並んでいるだけで、全く加熱を行っていないところなど、小屋によって乾燥室に大きな差がある。

国有林内に位置する山小屋近くのキャンプ地の場合は、最寄りの有人小屋が林野庁の森林管理署(旧営林署)からキャンプ地の管理を委託されている場合が多く、この場合は山小屋がキャンプ地を経営している訳ではない。臨時診療所等の施設の場合も同様である。

例外的であるが、期間を限って簡易郵便局を開設するところや、本格的なレストランを併設するところ、ホテル並みの個室を備えるところや、天然温泉が湧出しているところもある。

開設期間外は完全に閉鎖する山小屋がほとんどであるが、一部のスペースを冬季避難小屋として開放するところもある。雪崩の多発する谷間の山小屋の中には、冬季は建物を解体し、翌年の初夏に組立てなおすところも多く、容易に解体できる構造となっており、プレハブ小屋そのものの山小屋も存在する。

避難小屋[編集]

山形県蔵王山頂避難小屋
白山の登山道(平瀬道)にある大倉山避難小屋

避難小屋には緊急避難専用の小屋と、自炊寝具持参の宿泊を念頭に置いた小屋がある。緊急避難専用の小屋は、や大雨等で一時的に避難することを念頭に作られており、トイレも水場もない小屋もある。このような小屋に最初から宿泊するプランを立てることは避けるべきである。宿泊を念頭に置いている避難小屋は、トイレや水場の用意があるうえに、自炊スペースが確保されている小屋もある。その場合も寝具はないことがほとんどで、自分で食料、寝具(シュラフ)や炊事道具(コッヘル(クッカー、登山などで使う組み合わせ鍋。アルコールストーブなどの熱源が組み込まれている場合もある)、ストーブなど)を持参して宿泊する必要がある。設備が破損している場合もあるため、事前に管理者に確認したほうが良い。

ただし、南アルプスなどにおいては、避難小屋の名称を名乗りながら夏期のみ管理人が入り、寝具や食事(レトルト食品のようなものが大半)の提供を行い、事実上有人小屋に近い営業を行っている例も増えてきた。この場合も管理人が入る期間は通常の有人小屋より短いことが多いので、事前に確認を行った方がよい。ただし、避難小屋である以上、管理人がいない時期も小屋は無人小屋として一部が開放される。北アルプスの南岳小屋(旧・南岳避難小屋)のように「避難」の文字を削って正式に有人小屋になったところもある。

夏山診療所[編集]

大規模な山小屋や主要な山小屋では、夏季に大学医学部などが運営する臨時の夏山診療所が併設されることがある。夏山診療所のある山小屋は、ほとんどが北アルプスに集中しており、それ以外は南アルプス北岳富士山白山にあるが、数は少ない。立山剱岳付近にも夏山診療所はあるが、山小屋には併設されていない。

宿泊[編集]

営業期間[編集]

高山の有人小屋の場合、北アルプスなど多くの登山者が訪れる地域では、営業期間は、6月中旬から10月中旬(あるいは11月初め)というところが多いが、メインルートから外れている小屋では、登山者の多い夏季だけの営業のところもある。西穂山荘新穂高ロープウェイが通年運行しており、その山頂駅から近い標高2,360 mの高地で通年営業を行っている北アルプス中では唯一の山小屋である[3]。また、標高が高く気象条件の厳しい富士山の山小屋は7・8月の2ヶ月しか営業しないところが多い。ただし5合目にある佐藤小屋は富士山で唯一通年営業を行っている[4]。高山であっても、八ヶ岳の一部の小屋のように、四季にわたって入山・宿泊者が見込める小屋では、通年営業をしている場合もある。

予約[編集]

予約をせずに「飛び込み」利用をする利用者も多い。これは、多くの山小屋では予約をしても基本的には旅館ホテルと違い、大部屋・相部屋での雑魚寝となり、予約無しで宿泊した場合と待遇の違いに大差がないからである。これは、山小屋がホテルや旅館等の宿泊施設とは異なり、緊急避難場所の役割も担っているという事情による。多くの山小屋は基本的には宿泊希望者を拒めないために、最混雑時は廊下や食堂に布団を敷いて就寝したり、他人と同じ布団で就寝することも起こりうる。ただし、いくら予約無しでも宿泊可能だとしても、あまり遅い時間に到着すると夕食の提供ができなくなったり、相部屋の人々に迷惑をかけることになる。また、山の天気は夕方に雨となることが多く、早着は山小屋宿泊の基本である。

ただし、宿泊者を制限することにより入山者の総量制限を行っている尾瀬や、夜間登山が盛んで夜間でも道に迷う心配の少ない富士山伊吹山交通機関の整っている上高地など登山口の山小屋などは定員以上の宿泊を受け付けない。このような山小屋においては予約をしないと宿泊できない場合もありうるほか、宿泊できても食事の提供を受けられない場合がある。大峰山地域の山小屋のように、登山口に予約がない場合は宿泊ができないことを看板などで明示している場合もある。また、個室の利用を希望する場合も、予約がないと満室の場合がある。団体で利用する場合はどのような小屋でも、基本的には予約を必要とする。何人以上だと予約が必要かは小屋によって異なるので、予め問い合わせたほうが良い。逆に予約をしたからといって、暴風雨や雷雨といった極めて悪条件の中を無理をして予約を入れた山小屋に向かうことは禁物である。そのような場合はほぼすべての山小屋が無連絡のキャンセルであっても違約金を請求しないが、携帯電話や山小屋の公衆電話などで連絡がつけられる場合はキャンセルの連絡を入れるべきなのは当然である。

その他、シーズンオフは予約がない日は小屋を閉める山小屋もあるので、このような山小屋をシーズンオフに使用するときの予約も必須である。また、山小屋によっては予約客と非予約客で部屋のグレードや、宿泊者の詰め込み具合、食事内容などに差をつけ、予約客を優遇する山小屋もある。

山小屋の中には大学や山岳会・スキー部・企業などが所有している小屋もある。これらは基本的には関係者や関係者に伴われた人しか宿泊できない。谷川岳の毛渡沢(新潟県側の登山口)の「群馬大ヒュッテ」や栂池の複数の大学小屋などがある。このような小屋でも登山地図に記載されていることがあるが、一般人が宿泊することでできないだけでなく、利用者のないときは鍵がかかっていて、緊急避難にさえ利用できないことも多いため、予めの情報で利用しないようにすることが必要である。

山小屋の食堂・売店[編集]

有人小屋は昼間時間帯に食堂売店を営業することが多く、登山者に昼食を提供したり清涼飲料水菓子類を販売している。これらの施設を利用すると少々価格が高いことを考慮しても、食事等の荷物を減らすことができるメリットがある。また、水の確保の困難な稜線上の登山路においては飲料水を販売しており、トイレの利用も可能のため、登山者にとってはルート上の宿泊地以外の小屋も欠かせない存在であるが、営業期間や非営業日および、昼食や売店の営業の有無・営業時間の確認は必要である。

富山県立山の大汝休憩所。休憩専用の山小屋

なお、山小屋の中にも、北アルプスの燕岳へ登る合戦尾根にある「合戦小屋」や、乗鞍岳の「頂上小屋」・立山大汝山山頂の「大汝休憩所」などのように売店のみで宿泊できないところもあるので、よく調べて売店専用小屋に宿泊を予定するようなプランを立ててはいけない(このような小屋であっても、激しい雷雨や集中豪雨等の天候が極めて悪い時や、登山道が寸断された時などには緊急避難場所として仮眠させてくれる)。なお、売店専用の小屋はすべてが毎日営業しているとは限らないし、有人小屋もシーズンオフを中心に、昼間時間帯は数少ない従業員がボッカや登山道整備等のために小屋を不在にし、一時閉鎖することがある。その間は売店はもちろん、トイレの利用もできない場合があるので、特にシーズンオフに利用の際は事前に確認するべきである。

山小屋での食事[編集]

大抵の有人小屋は1泊2食付の宿泊ができるため、希望者には夕食および朝食が提供される。かつての山小屋の夕食は作り置きが容易なカレーライスが定番であった。現在はカレーライスを夕食に出す山小屋は少数派になったが、それでも富士山の多くの山小屋や南アルプスや東北地方などの一部山小屋や、不便な場所にある小規模な山小屋の一部では今でも毎日カレーライスが出される。ただ、多くの山小屋ではヘリコプターなどにより、比較的生鮮食料品の輸送が楽になったことや、大規模な自家発電を行うことにより冷蔵が可能になったことなどにより、バラエティに富んだ夕食を提供できるようになった。山小屋によっては予約することにより、本格的なコース料理を出すところさえある。ただ、最盛期は多くの宿泊者に対応するために、多くの小屋では味噌汁スープを除いては、何時間も前から予め皿に盛ることができる冷たいおかずがメインとなる。

最盛期は食堂の収容者数の数倍の宿泊者に対応するために、山小屋に到着した順番に数交代制で時間を決めて夕食を摂る場合もあり、食後に食堂でビールなどを飲んでゆっくりとできない時期もある。そのような時期は、最終回の夕食後にすぐ翌朝の朝食の準備が始まることが多く、食堂の談話室としての利用も時間が制限されることがある。もちろんシーズンオフや宿泊者の少ない小規模な山小屋では、ゆっくりと小屋のオーナーや管理人などと語らいながらの食事ができる場合もある。

食器は多くの小屋ではプラスチックの食器となるが、小屋によっては小屋の名前が入った特製の陶磁器の食器を用意しているところもある。水が極めて不足している小屋では、洗浄の必要のない使い捨ての発泡スチロール製の食器が使われる。

朝食は多くの小屋では、前日の夜にある程度の準備ができる佃煮漬物が使われることが多い。調理せずにそのまま出せる海苔納豆生卵もよく使われる。味噌汁もなく、朝食で暖かいものはご飯とお茶だけという場合も多いが、時期によっては止むを得ない。最近はバイキング形式にするところも多くなった。山小屋の朝食は極めて早い時間に用意されることが多く、従業員の一部はご飯を炊いたりを沸かしたりするために、午前3時台に起床するところもある。

宿泊者の中には朝食時間より前の、まだ暗いうちに出発することを希望する人もいる。それらの人で朝食を希望する人には、前日の夜のうちに弁当が渡される。ただ、相部屋がメインの山小屋においては、弁当を宿泊室で未明に食べるわけにはいかず、多くは屋外で(特に出発後に)明るくなってから食べるケースが多い。

昼は食堂で簡単な昼食を滞在客や通過登山者に提供する山小屋が多い。メニューはカレーライスやラーメンうどん等が多いが、最近は麺類を生麺にするところが増えている。コーヒー紅茶等の喫茶メニューや生ビールを出すところも多くなった。しかし、小規模な小屋を中心に袋入りインスタントラーメンを調理したものやカップラーメンしか用意できない小屋もある。

山小屋では素泊まりや1食のみの利用も可能である。それらの利用者のために自炊スペースを用意した小屋もあるが、自炊スペースがない小屋の場合、食堂の片隅で自炊を認めるところや、晴天時は屋外のベンチ等でしか自炊を認めないところもある。

登山は多くのカロリーを消費するため、山小屋では大抵の人は普段よりも多食になる傾向がある。多くの山小屋はおかずのお替りは無いが、味噌汁やご飯のお替りは残りがある限り自由にできることが多いので、缶詰やふりかけ等の副食を持参する人も多い。

トイレ[編集]

トイレ排泄物の処理に苦労している山小屋が多く、宿泊者以外からは使用料を徴収することが多い。従来はほとんどが垂れ流し式であった[5]。便槽もなく、直接山の斜面や谷川に放流されるものや、一旦便槽に貯蔵して、秋の小屋閉めの時に便槽内に水を貯めてから一斉に放流する方法などがあった。常時放流式のトイレの中には、川の水を常時便器内に流すという、見かけは非常に清潔なものも存在する。従来型の便槽式の場合、便槽の壁や底をコンクリートなどではなく石垣等の隙間のあるものにし、液体はある程度周辺の土に浸透させることが多い。いずれにせよ周辺環境に与える問題や美観・悪臭の問題があったものの、もし便槽を空にしないまま冬を迎えると、便槽の内容物が完全に凍結し、翌年は使用できなくなる問題があったため、放流は止むを得なかった面がある。ただ、利用者が少ないトイレの常時少量放流の場合は自然にある程度分解するのも事実である。

その後環境意識の高まりや富士山における世界遺産登録問題もあり、少しずつ環境配慮型トイレが登場している[5]1999年(平成11年)から環境省による「山岳環境等浄化・安全対策緊急事業」で、国が費用の半額を補助して環境対策が行われている[5]。主なものは焼却型・バイオ型・簡易浄化槽型・内容物輸送型などがある。焼却型は石油プロパンガスで内容物を焼却する方法であるが、燃料コストが大きくなる上に、化石燃料の大量使用は地球環境全体には決して「環境配慮」とはいえない欠点がある。バイオ型と簡易浄化槽型は、低温の高山においてはそのままでは微生物の活動が充分に期待できない欠点があり、あまり多くの利用者があるトイレには利用できない。そのため常時自家発電機を運転して保温するなどの対策が立てられているトイレもあるが、燃料コストと化石燃料大量使用問題が、焼却型同様に発生する。内容物輸送型は便槽ごとヘリコプターなどで輸送する方法であるが、維持コストが非常に大きくなる上にヘリコプターが化石燃料を多く消費することは焼却型と同じである。山小屋でのトイレ維持管理のコスト対策として、チップ制を導入している山小屋もある[6]

新しく作られたトイレは、従来の山小屋のトイレのイメージを覆すものも多く、簡易水洗トイレや洋式トイレはもちろん、シャワートイレウォシュレット等)を設置する例もあり、山小屋のトイレは臭い・汚い・暗いというイメージは少しずつ改善されつつある。トイレがない山小屋や山域では携帯トイレの利用をする場所が設置され、その使用を推奨している例もある[6]

いずれにせよトイレによっては、指示に従ってトイレットペーパーを備え付けのゴミ箱に捨てたり、宿泊者以外は利用料金を必ず払うなど、登山者側の協力も大切である。また、自然環境に対する悪影響をできるだけ少なくするために、トイレ以外での用便は緊急時以外は慎むべきである。

従来型の便槽式トイレは、低温により微生物の働きが弱いため、トイレのアンモニア臭がひどく、大抵山小屋の宿泊棟や食堂からは離れて建てられており、深夜に行く場合や雨天時に行く場合は非常に面倒である。険しい場所にある山小屋の中には、トイレに行くためには岩場を少し下らないと到達できないため、小屋に備え付けのサンダル履きでは少し危険なところもある。

風呂[編集]

露天風呂の温泉から日の出が眺められる貴重な山小屋『白馬鑓温泉

当然のことながら、ごく一部の例外を除いて、山小屋に宿泊者用の風呂シャワーはない。水の貴重な稜線上の小屋はもちろん、谷川沿いの水が豊富な山小屋でも燃料の輸送の問題により、宿泊客用の風呂はないことがほとんどである(#水の確保も参照されたい)。

例外は尾瀬の大部分の山小屋・上高地エリアの槍沢ロッヂや横尾山荘富山県の剣山荘などの谷川に面した山小屋のごく一部や、御嶽山の二ノ池周辺の小屋のように高山湖の水が使用できる小屋、赤岳鉱泉・本沢温泉白馬鑓温泉法華院温泉など温泉鉱泉の出る山小屋などが挙げられるが、極めて稀な例ではあるが、八ヶ岳の赤岳天望荘や富山県の仙人池小屋、大峰山山上ヶ岳の宿坊群のように稜線上の小屋にもかかわらず宿泊者用の風呂を備えたところや、徳島県剣山頂上ヒュッテのように山頂にもかかわらず宿泊者用の風呂を備えたところもある。小屋の近くに残雪が残っている間だけ風呂を提供する山小屋もある。剣沢小屋などシャワーを備えた小屋も増加傾向である。ただし、排水が自然環境に与える影響を少なくするため、及びお湯の使用量をできるだけ少なくするために、宿泊者の石鹸シャンプーの使用が禁じられている。なお、上高地の山小屋の一部や登山口の山小屋の一部などは、石鹸類の使用が可能のところもあるが例外的である。

なお、従業員用の風呂は、富士山のように水が極めて不足している山域を除くほぼ全ての山小屋にあるが、水の貴重な山小屋や燃料の輸送が難しい山小屋では従業員の入浴回数も制限される。

宿泊料金[編集]

有人小屋[編集]

避難小屋の維持や周辺の環境保全のために協力金(1000円)を受け付けている空木平避難小屋

有人小屋の宿泊料金は山域によって異なるものの、素泊まり相部屋(食事と寝具自弁の宿泊)では一泊3000~6000円程度、2食つき相部屋では5000~9000円程度である(一般には輸送コストの大きな高山や奥山ほど高額になるが、山域によって宿泊料金を統一しているところも多く、その場合は稜線上であろうと登山口であろうと同じ宿泊料金になる)。個室を備えた山小屋もあるが、かなり高額の個室利用料が必要となる。

山小屋によっては閑散期にはグループごとに部屋を分けてくれて事実上の個室にするところもあり、この場合は個室料は不要だが、多くの小屋は閑散期でも清掃の問題から一部の部屋だけに詰め込む傾向がある。

休憩するだけの登山者にや茶請けを無料で提供するところもあるが、出来れば茶代を払うことが望ましい。

山小屋の宿泊料が施設やサービス内容の割に高価になるのは、冬は営業できなくなる小屋が多いうえ、夏の2ヶ月ほどしか客が多くないにもかかわらず、緊急避難場所としての役割もあるため、無雪期の閑散期も営業する小屋が多く、それらの維持コストが加算されているからである。安全な山旅のためにはやむを得ない価格設定と考えざるをえない。

避難小屋[編集]

避難小屋は一般には無料で利用できるが、利用料金がかかるところ、あるいは寄付を受け付けているところもある。利用料金がかかる避難小屋の場合、事前に山麓の所有者や管理人宅で代金を支払って鍵を受け取る必要のあるところもある。この場合下山後に鍵の返却が必要になる。避難小屋のうち、時期によっては管理人が入る小屋の場合は、その期間のみ有料になることが多い。

経営・運営[編集]

山のガイド出身者や地元の元猟師・林業関係者など、及びその子孫による単独経営・あるいは近隣の数軒の小屋の経営を行っているケースが多い。その後代替わりにより、経営権が元登山愛好者などに移っている場合も近年は増えている。数は少ないが、地元の地方自治体第3セクターが経営している場合や、株式会社組織による大規模な経営を行っているところもある。希に石鎚神社頂上山荘や山上ヶ岳宿坊のように宗教法人が運営しているものもある。

中高年登山ブームの影響[編集]

かつては登山は比較的若年層の行うスポーツであった。そのため山小屋に宿泊する人は仕事や学校が休みとなる週末夏休みお盆に集中し、それ以外の期間はあまり宿泊者や利用者がいなかった。しかし中高年世代の人々の間で登山が盛んになるにつれて、山域にもよるがピーク時以外もそこそこの宿泊者が見込めるようになっている。また、中高年層はできるだけ荷物を少なくするため、その分を山小屋で飲食・購入するようになった。これらの現象は山小屋の経営にとっては良い傾向と言える。ただ、中高年層は週間天気予報が良くないと山行の計画を中止する傾向があり、天候不順な年は宿泊者が以前よりも少なくなる。

長野県木曽駒ケ岳・頂上木曽小屋

山小屋のアルバイト従業員[編集]

小規模な山小屋では経営者(いわゆる「小屋主」)だけで小屋を守っていたり、管理人が1人で切り盛りしているケースもあるものの、大規模な山小屋や最盛期の山小屋を支えているのはアルバイト従業員である。以前は山の雑誌やガイドブックに掲載されたアルバイト募集広告等を見て、大学生などが応募するケースが多かったが、現在は他業種のアルバイトと同様にインターネットウェブサイトを見て応募するケースが増えている。

山小屋のアルバイトの主な仕事内容

(他の宿泊施設と共通する仕事)

  • 食事の用意や食器の後片付け・食器洗い
  • 売店の店番
  • 小屋の清掃
  • 寝具の上げ下ろし
  • 宿泊客への接客

(山小屋特有の仕事や体力が必要な仕事)

  • 小屋周辺の清掃や登山道の草刈り
  • 屋根の上での布団干し
  • ディーゼル発電機の給油(電気の通じていない小屋)
  • 食料品のボッカ
  • ランプのガラス(ほや)掃除(ランプを使用している小屋)


山小屋に到達するまでに難所があり、きちんとした装備がないと危険な場合もある。自動車道の通じた登山口の山小屋などは別にして、一般的には登山経験者以外は困難な仕事である。運が良いと荷物輸送用のヘリコプターに便乗できる時がある。

日給は決して高くはないが、アルバイト従業員の食事や宿泊の費用は山小屋側が負担するか、或いは安価な料金で給料から天引きとなるために、他に金銭を使うような娯楽施設もない山小屋での勤務期間はまったく金銭を使わずに過ごすことも可能である。しかし、携帯電話の通じる山小屋では知人への電話が多くなり、下山後思わぬ出費になることに気付く者や、給料からの天引きで割高な小屋のビールを毎日飲んだ結果、給料支払い時にその金額の大きさに気付く者などもいる。

なお、アルバイトに応じた者の居住地から山小屋までの交通費は支払う山小屋と支払わない山小屋がある。アルバイト従業員の宿泊部屋は、一人一人に個室が与えられる山小屋もあるが、多くは男女別相部屋の従業員部屋である。

登山や自然に興味を持つ者の応募が多く、少々賃金が低くても山に住めるだけでも満足している者も多い反面、相部屋での長期間の共同生活に起因するトラブルが発生することもある。ただ、無事勤務期間を満了できた者は、翌シーズンも山小屋での勤務を希望する傾向がある。

物資の輸送[編集]

登山口の山小屋等、車道が通じている山小屋や、ロープウェイ・リフトが通じている山小屋は別として、多くの山小屋にとって物資の輸送は重要な問題である。

人力による輸送
従来から主に行われて、現在でも小規模な山小屋を中心に行われているのが、人力による輸送である。山小屋の従業員・アルバイトや物資専門を職業としている人(ボッカ)が登山口から物資を人力で担ぎ上げる。訓練された人では100kgを超える物資を一度に担ぎ上げることができる。ヘリコプター輸送も併用し、ガスボンベや石油等の食品以外や米などの重くて腐らないものは小規模な小屋でもヘリコプターを使ってまとめて輸送し、生鮮食料品は人力輸送する所は今でも多い。
ヘリコプターによる輸送
少し規模が大きい小屋や、小規模な山小屋でも大きな荷物やまとまった量の物資輸送に使われるのがヘリコプター輸送である。山麓のヘリポートから山小屋まで物資を吊り下げて輸送し、山小屋の敷地で物資を下ろす。この方法の欠点は有視界飛行に頼るために、視界が利く強風ではない雨が降らない日しか輸送できないことである。天候が悪い日が続いた時は、生鮮食料品を中心に人力輸送を行わざるを得なくなる。また、距離によって運搬料金が大きく変わるために、できるだけ山奥にヘリポートが作られるが、それでも輸送コストは大きい。
特殊車輌(ブルドーザー等)による輸送
富士山の山小屋の場合はブルドーザーによる物資輸送が行われている。そのために登山口から山頂に至るブルドーザー専用の通行路が作られている。ブルドーザーの維持費や減価償却費、燃料費、ブルドーザー道の借地料なども輸送コストになる。大分県法華院温泉山荘などのように、山道を通行できる小型車両で物資を輸送しているケースもある。
専用索道による輸送
数は少ないが、道路から山小屋まで(あるいは途中まで)専用の荷物用索道を設置し、物資輸送に使っている例もある。この場合は索道の運転費用の他に索道の維持費用や索道通過用地の借地料なども山小屋の輸送コストになる。

どの方法でも輸送コストは非常に大きくなる。そのことは宿泊料金や売店で売られている商品の販売価格に反映される。商品の場合はメーカー希望小売価格でなく、重量と大きさにより加算額が大きくなるために、ハンカチガムなどよりも清涼飲料水や缶ビールなどの値段がメーカー希望小売価格よりも高くなる。これら缶飲料は空き缶を麓に下ろすコストも販売代金に加えられている。

水の確保[編集]

谷川沿いの山小屋は別として、多くの山小屋ではの確保に大変苦労しており、登山者は“水は貴重品である”との認識で節水に心がけるようにしたい。

水源がある場合
谷川沿いの小屋の場合谷川の水を使う。ただし本流は大抵の場合、さらに上流にある山小屋のトイレなどが原因で細菌で汚染されており、支沢の奥の水源から長大なゴムホースで飲料水を得ているところが多く、大雨の後などは取水地点の修復が必要になる。また秋は水源が涸れることもあり、この場合は稜線上の山小屋と同じ苦労をすることになる。
ポンプ(電動)
稜線上の小屋の場合は白馬山荘など大規模な山小屋の中には、大規模な自家発電により得られた電気を使って大規模な水のポンプアップを行っており、比較的水が豊富なところもある。
雨水
小規模な稜線上の山小屋で多く採用されている方法は天水(雨水)の貯蔵である。山小屋の屋根に降った雨水を樋を使ってたくさんの空きドラム缶に貯蔵する方法が一般的である。この場合、飲用にする場合は煮沸が必要になる。
ヘリコプターによる輸送
極端な渇水の年などは、秋に水源が涸れることが稀にある。このような場合は飲料水をヘリコプター輸送する山小屋もある。
ボッカによる輸送
大都市近郊の山小屋の中には、大気汚染により保健所から天水の飲用許可がおりず、天水は飲用以外の用途のみに利用し、飲用水は水源からボッカにより得ているところもある。
残雪の利用
近くに残雪がある山小屋の中には、残雪が消えるまでは水が豊富に使えるところもある。

水が貴重な小屋においては、水といえども無料とは限らない。宿泊者に対しては水を無料にしているところもあるが、一定量までは無料でそれ以上になると有料になる所も多い。また、そのような小屋では宿泊者以外は多くの場合有料となり、水が極端に不足している小屋では宿泊者以外には水を売らない小屋もある。

電気・通信[編集]

電気[編集]

夜間の照明は、ディーゼル発電機による自家発電によって、日没後午後9時くらいまで時間を限って電灯をつける小屋が多い。

近年は多くの小屋で、自然エネルギーの活用がなされている。尾根筋の小屋では風力発電、沢筋の小屋では小規模水力。屋根の上に太陽電池を設置して、蓄電池と併用して夜間照明としている事例もある。白馬山荘のようにNEDOの補助金を受け、風力・太陽光のハイブリッドシステムを採用し電力のかなりの部分を賄っている小屋もある。

小規模な小屋の中には未だに石油ランプを使うところもあり、自家発電が普通になった現代においては、逆に「ランプの小屋」を売り物にしている小屋もある。

消灯時間後は真っ暗になって懐中電灯が欠かせない小屋と、蓄電池や石油ランプにより最低限の常夜灯を点灯するところがあるので、利用の際は予め確かめた方が良い。ただし、蓄電池の高性能化と省電力のLED電球の普及により、常夜灯が点灯される小屋が増えている。真っ暗になる小屋では就寝時に枕元に懐中電灯を置く人が多い。

登山口の山小屋や近辺に自動車道が通じている山小屋の中には、送電線が通じていて通常の電気が供給されているところもある。

例外的には富士山の一部の山小屋や徳島県剣山頂上ヒュッテのように、近くの測候所に電気を供給する地下ケーブルが設置されたために、山小屋にも通常の電気が供給されているところもある。

通信[編集]

従来から一部の山小屋には電話が設置されている。登山口の山小屋は別として、以前は無線電話が一般的だった。そのため天候などにより音質が劣化した。今は通信衛星静止衛星)を利用したNTTドコモ衛星電話ワイドスター)が一般的であるため、パラボラアンテナさえあればどこでも電話を設置できるようになり音質も安定したが、衛星まで36,000kmもあるため衛星中継同様に応答の遅延時間が大きくなり、通話料も無線電話よりも高くなるのが欠点である。なお、公衆電話と山小屋の業務用の電話は、回線が共通の1回線だけの場合がほとんどなので、山小屋に問い合わせの電話が入った時や山小屋側が電話を使用中の時などは、公衆電話は使えなくなる。小屋によっては受付カウンターに公衆電話機を設置し、その電話機を業務用にも併用しているケースも多い。

稜線の山小屋などでは携帯電話電波が送受信できることが多くなり、このような小屋では以前ほど通信に苦労しなくなった。ただ、このような小屋においても全ての携帯電話会社の電波が送受信可能ではないことが多い。以前は同じ会社でも2G3Gの違いで、片方だけしか電波が送受信できない場合があった。

電話もなく、携帯電話も送受信できない小屋で通信の主流になっているものは、専用無線通信である。山小屋と山小屋のオーナーや管理人の自宅・あるいはチェーンの山小屋の場合は本社とを結んでいる無線通信である。このような山小屋に緊急に連絡を取りたい場合は、連絡先に電話をすると、無線通信で用件を伝えてくれる。昼は自家発電を行わない山小屋がほとんどであるため、無線機には蓄電池が欠かせない。

脚注[編集]

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  1. ^ 国の重要文化財 日本最古の山小屋 「立山室堂」”. 立山に行こう (2009年9月28日). 2011年4月15日閲覧。
  2. ^ 『目で見る日本登山史』 山と溪谷社、2005年10月、pp.172-173。ISBN 4635178145
  3. ^ 西穂山荘”. 西穂山荘. 2011年4月15日閲覧。
  4. ^ 佐藤小屋”. 佐藤小屋. 2011年4月15日閲覧。
  5. ^ a b c 「山岳環境等浄化・安全対策緊急事業費補助」の概要 (PDF)”. 環境省. 2013年2月4日閲覧。
  6. ^ a b 信州山岳環境保全のあり方研究会第1次報告書(山岳地におけるトイレ対策) (PDF)”. 信州山岳環境保全のあり方研究会 (2002年11月). 2013年2月4日閲覧。

関連図書[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]