懐中電灯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
懐中電灯

懐中電灯(かいちゅうでんとう)とは、商用電源のない所で用いるための携帯用照明器具の一つである。

アメリカ英語では flashlight(フラッシュライト、カメラのフラッシュは「エレクトロニックフラッシュ」が本来の呼称)、イギリス英語では electric torch(エレクトリック・トーチ、直訳すれば電気松明)、また松明が一般的でなくなった現代では単に torchトーチ)とも。

概要[編集]

懐中電灯は、反射レンズにより光束を集中させ、少ないエネルギーで十分な照度が得られるようすることで、携帯が可能なサイズになった照明である。用途は、夜間もしくは暗所においての光源であり、災害時などにも威力を発揮する。対象となるものを明るく照らし出すものと、ランタンのように周囲を明るく照らすために利用されるものがあり、以下に述べる光源の種類によって性質が異なる。

従来は光源に豆電球を用いたものが多かったが、近年は消費電力が小さく素子の寿命も長い高輝度LEDを用いた製品も見かけるようになった。これらは光源が点であることから、特定の方向を明るく照らす用途に向く。一方で面的な光源である蛍光灯エレクトロルミネセンスを利用したものは、周辺を明るく照らす用途に向く。

人力発電LEDライト
ハンドルを手回しして充電する。

多くは乾電池電源としているが、非常用にと普段余り顧みずに放置していると、液漏れ自然放電によって、いざという時に使用できない可能性がある。また、非常時には乾電池の入手が困難な場合もあるため、蓄電池を内蔵し、太陽電池や手動の発電機によって充電する機種もある。

特殊用途として、天体観測が電灯の明るさに慣れ、暗視に必要な視紅素が失われてしまい、暗いが見えなくなることを防ぐため、色光を発する天体観測用の補助照明がある。また、警察にて使用されるシュアファイアストリームライト等もあり、これは捜索目的だけでなく、強い光で敵の目を眩ませる効果を狙ったものであるが、これら軍・警察用の製品は頑強に作られ、鈍器警棒の類)としても使用される。

有名な懐中電灯のブランドとして、マグライトが挙げられる。他にも総合家電メーカーの多くから多様な製品も発売されているほか、大小様々なメーカーからも各々が個性的な製品も発売されており、安価なものは100円ショップコンビニエンスストアで購入できるほか、電器店家電量販店ホームセンターアウトドアショップなどでも様々な製品を見ることができる。

多機能化製品では、被災時に役立つようラジオ放送が受信できるものや、テレビ受像機が内蔵されているものもある(2011年7月以降はラジオの“テレビ音声受信”とテレビは使用出できない。詳細は日本の地上デジタルテレビ放送を参照)。小型のものでは防犯ブザーと一体化している製品も見られる。

歴史[編集]

ミゼルの特許 617,592号 1899年製懐中電灯
ミゼルの特許 617,592号
1899年製懐中電灯

1896年に最初の乾電池が発明され、それまでの液体を利用した電池に比べて持ち運びの安全性が増したことが懐中電灯開発の背景にある。 1899年1月10日、アメリカン・エレクトリカル・ノベルティ・アンド・マニファクチャリング・カンパニー(現在のエナジャイザー。「エバレディ」ブランドの乾電池で知られる)がイギリスの発明家のデヴィッド・ミゼルから特許(U.S. Patent No. 617,592 1898年3月12日)を取得した[1]。ミゼルの発明品は今日の懐中電灯であり、紙製の円筒の中に乾電池を収め、その終端に電球と真鍮製の反射板を収めたものだった[2][3]。同社は開発した懐中電灯をニューヨーク市警に寄付し好意的な反応を得た[4]

当初の懐中電灯はマンガン乾電池を使用していたが、安定した電力を供給することが難しく、電流を時々切って休ませないと稼動させ続けることができなかった[5]。しかも電球はエネルギー効率の悪い炭素性フィラメントを用いた電球だったため、短い間隔で電流を切って休ませなければならなかった。こうしたことから初期の懐中電灯は短い時間にパッと光を浴びせることしかできなかったため、「フラッシュライト」の名で呼ばれるようになった[3]

構造[編集]

発光素子(豆電球、高輝度LED蛍光灯)、電源(乾電池、二次電池発電機)、スイッチ、反射鏡などから構成されている。構造が簡素な物では頭部を回すことで点・消灯させている。これは、スイッチを別に設ける必要が無く、防水パッキンなどで比較的簡単に防水構造を作れるからである。また、爆発性ガスの充満しているような現場で使うために、極めて気密性の高い構造にしているものもある(防爆型)。そのほか、旅館などで見られる常備灯のようにスイッチが無く、台座から取り外すと点灯するものがある。このタイプは懐中電灯を支える部分が電池と電池の間の絶縁スペーサーも兼ねていて、壁から取り外すと電池が接続されて点灯する。

光源[編集]

豆電球
電球は消耗品だが、キセノンクリプトンなどの希ガスハロゲンなどを封入し寿命を延長したものもよく使われる。長時間利用したり点灯中に強い衝撃を与えると断線することがある。照らせる範囲に幅があり、反射鏡を調節することで任意の範囲を照らせるなど融通が利く。反射鏡の形状によっては、光線の照射ムラが発生するため、読書や細かい作業を行う照明に向かないことがある。古くからあるため多様な製品が存在する。他の光源と比べ不利な部分も多いが、大出力を要する軍用ライトでは、その単純な構造ならではの高い完成度、信頼性から好まれて使用されている。
蛍光灯
テントの中など広く照らしたい用途向け。面発光であるため、広範囲を照らすことができ、光線のムラが少ないなどの特徴がある。ただ消費電力は大きく、アルカリ電池など容量の大きい電池が必要である。遠くを照らす用途には向かない。消耗品である蛍光灯サイズの制約から中型~大型の製品が多い。
LED
白色LEDが用いられるが、簡易的なものでは赤や青、緑なども使われる。また、特殊用途向けでは、赤外線紫外線を発するものもある。豆電球と違って衝撃で断線することがなく、また、消費電力が小さいことから、長時間利用したり、より小型の電池で利用できることからキーホルダー型など小型の製品も多い。消費電力の小ささから、発電式のものでも一度の発電で長く点灯できる。発生熱量も格段に小さいため、小型軽量で密閉防水構造の製品も多い。高光量を得るには、複数個LEDを使用したり、通常の数倍以上の明るさを持つLEDを使用している。2008年以降はアウトドア向けの懐中電灯を中心に、500ルーメン以上の明るさを持つ製品も数多く登場している。また、光源が極めて小さい点であるため、陰影がはっきりしている。
エレクトロルミネッセンス (EL)
上記LEDもELの一種ではあるが、この他に薄膜EL素子(→有機エレクトロルミネッセンス)を使って面発光するものがある。現行では懐中電灯というよりも表示機材の一種ではあるが、将来的には面発光することにより蛍光灯並みの明るさを、遥かに少ない電力で照らせるものの開発も期待されている。
HIDライト(High Intensity Discharged lamp)
HID(放電光)を光源としたもので、いわゆるメタルハライドランプもこの一種。動作電圧が高いため、電池を電源とする懐中電灯には向かなかったが、軍用懐中電灯などに使用するものが出始めている。従来より自動車ヘッドライトプロジェクタ光源として利用されており、フィラメントを使用する電球一般より寿命が長く、突然断線するということがない。また、色温度の高い白色光で高輝度を特徴とする。エネルギー効率も高いが、電圧安定器を必要とすることから、照明器具本体が重くなり、値段も高い。放電光ランプの常として発生熱も大きめであり、密閉防水構造が取りにくいことから、防水性の高い製品は限られる。

種類[編集]

  • ペンライト、ポケットライト - ペンのように細長い形状。
  • キーホルダーライト - アルカリボタン電池またはリチウム電池を使ったものが多い。
  • フレキシブルライト - 自由に曲がるフレキシブルパイプの先端に電球が付いている。
  • ヘッドランプ - 頭に取り付けて使用。
  • ランタン - 360度の全方向を照明するもの。
  • 水中ライト - 防水・防滴仕様。
  • 常備灯 - 普段は電池を分離するスペーサーが付いた専用の支持台に取り付けられており、そこから取り外すと電池が繋がって点灯する。
  • 自動巻発電方式 - 内部にコイルと強力磁石を内蔵しており、本体を振ると磁石が動いて電磁誘導の原理により発電する。自動巻発電腕時計と同じ原理。余った電力はコンデンサバッテリーに蓄えられる。
  • ダイナモライト - 手回し式または弾み車とワインダーを組み合わせて回す発電機を搭載。下記の多機能ライトの機能をいくつか取り込んだものもある。災害など非常用のものに多い。
  • 多機能ライト - ラジオ、時計、非常用サイレンまたはブザー、テレビ、カセットプレイヤー携帯電話充電器などの機能を搭載。大型で“懐中”とは言い難い製品もある。
  • コードレス蛍光灯 - 安定器を用いずインバータにより、電池の電圧を昇圧して蛍光灯を点灯させる。そのためグロースタータ(グロー球)の必要性はない。豆電球も内蔵しているものが多い。乾電池は単1電池より下になると電池寿命が早い。初期のナショナル製品などでは大ぶりで多機能ライト並みの本体サイズであったが現在では単3電池で照らす方式の場合ポケットに入るサイズにまで小型化されている。
  • ウェポンライト - ハンドガードと一体になっている、ピカティニー・レールに取り付ける等、アサルトライフル短機関銃と合体させて使用。暗がりを照らしたり標的に向けて目を眩ませたりする。タクティカルライトとも呼ばれる。
  • 非常信号灯 - 懐中電灯から派生した製品。赤色で広範囲を照らせる散光タイプが多い。スイッチ切り替えで通常の懐中電灯として使用できるものもある。自動車向けのものでは、発炎筒の補助や代替用として販売されている。底面に磁石が付いており自動車のボデー等に取り付けて点灯できるものもある。

電池に関する注意[編集]

電池を用いた懐中電灯の場合、その能力を正しく発揮するため、その機種に適した電池を使用する必要がある。

長期保管を前提とした常備灯などではマンガン乾電池、高光量を求めたものはアルカリ乾電池での使用を想定して設計されたものが多い。

ニカド電池やニッケル水素電池は電圧が低いため、アルカリ乾電池やマンガン乾電池の代わりに用いた場合は十分な光量が得られない場合がある。かつて販売されていたオキシライド乾電池は電圧が高いため、短時間で電球のフィラメントを焼き切ってしまう危険性がある(注意書によると、実験ではフィラメントの高熱で豆電球が溶けた例もある)。そのため、オキシライド乾電池の製造元である松下電器産業(現:パナソニック)では、豆電球を使った機器に使用しないよう呼びかけている。

電池の液漏れによる腐食を防ぐため、長期間使用しない場合は電池を外しておくことが望ましい。常備灯にあっては、定期的な点検を心がけたい。なお、リチウム電池(一次電池)を利用するタイプには長期間放置しても大丈夫なタイプもある。

懐中電灯の使用に関する注意[編集]

強力な光を発する懐中電灯全般に言えることだが、注意書きにもあるように人の顔めがけて照射してはならない(目を傷めたり白内障の原因となるため これを応用してSWATは容疑者の目潰しと確保に用いている)。

高出力タイプの中には、連続点灯時間が規定されているものがある。これは連続使用による温度上昇で故障する可能性があるためである。電球を使うタイプでは、フィラメントが切れたり電球自体が破損し、短時間で使用不能となる。LEDを使うタイプでも、LEDは熱による劣化が大きく、本来長寿命であるはずだがLED素子が破壊されて点灯しなくなったり光量が著しく落ちる。また、光源以外にも反射鏡や電源回路も熱によるダメージを受ける場合がある。

防水型では、防水性能を維持するため、防水用のOリングなどを手入れすることが重要である。定期的なOリングへシリコンオイル(通常の機械油ではゴムが劣化する)の塗布や交換を必要とする。

主な懐中電灯メーカー&ブランド名[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Patent number: 617592 by David Misell
  2. ^ History of Batteries (and other things)
  3. ^ a b Flashlight Museum
  4. ^ Steve Hathcock. “Give Me a Light”. Island Breeze. 2007年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年2月5日閲覧。
  5. ^ Brooke Schumm. “Nonrechargeable Batteries”. The Electrochemistry Encyclopedia. 2010年12月13日閲覧。

関連項目[編集]