「国立健康危機管理研究機構」の版間の差分

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[[国立国際医療研究センター]]|設立者=[[岸田文雄]]|廃止年月日=|後身=|上位組織=|所管=[[厚生労働省]]|下位組織=|関連組織=|拠点=|保有施設=|保有装置=|保有物分類1=<!--施設でも装置でもない何かを保有している場合に、ここにその種別を記入。例えば船舶、衛星など-->|保有物名称1=<!--すぐ上の種別に属する保有物の名称をここに記入。例えばしんかい6500、など-->|保有物分類2=|保有物名称2=|保有物分類3=|保有物名称3=|提供サービス=|プロジェクト=|参加プロジェクト=|発行雑誌=|出版物=|特記事項=|公式サイト=}}'''国立健康危機管理研究機構'''(こくりつけんこうききかんりけんきゅうきこう)は、[[厚生労働省]]が所管する予定の[[日本]]の[[特殊法人]]。2020年の[[新型コロナウイルス感染症]]の流行を契機として、国の機関であった[[国立感染症研究所]]と国立研究開発法人であった[[国立国際医療研究センター]]が合併する形で2025年に創設される。
[[国立国際医療研究センター]]|設立者=[[岸田文雄]]|廃止年月日=|後身=|上位組織=|所管=[[厚生労働省]]|下位組織=|関連組織=|拠点=|保有施設=|保有装置=|保有物分類1=<!--施設でも装置でもない何かを保有している場合に、ここにその種別を記入。例えば船舶、衛星など-->|保有物名称1=<!--すぐ上の種別に属する保有物の名称をここに記入。例えばしんかい6500、など-->|保有物分類2=|保有物名称2=|保有物分類3=|保有物名称3=|提供サービス=|プロジェクト=|参加プロジェクト=|発行雑誌=|出版物=|特記事項=|公式サイト=}}'''国立健康危機管理研究機構'''(こくりつけんこうききかんりけんきゅうきこう)は、[[厚生労働省]]が所管する予定の[[日本]]の[[特殊法人]]。2020年の[[新型コロナウイルス感染症]]の流行を契機として、国の機関であった[[国立感染症研究所]]と国立研究開発法人であった[[国立国際医療研究センター]]が合併する形で2025年に創設される。


創設のための法案が国会で審議された2023年において、総理大臣[[岸田文雄]]は本機構を「日本版[[アメリカ疾病予防管理センター|CDC]]」と呼称した。創設に係る国会答弁は主に[[加藤勝信]]厚生労働大臣や[[浅沼一成]]審議官<ref name=":0">{{Cite web |title=感染研の法人化反対/宮本徹氏「命・健康に関わる」/衆院厚労委 |url=https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-05-19/2023051904_03_0.html |website=www.jcp.or.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>が行った。
創設のための法案が国会で審議された2023年において、総理大臣[[岸田文雄]]は本機構を「日本版[[アメリカ疾病予防管理センター|CDC]]」と呼称した。創設に係る国会答弁は主に[[加藤勝信]]厚生労働大臣や[[浅沼一成]]厚生労働省審議官<ref name=":0">{{Cite web |title=感染研の法人化反対/宮本徹氏「命・健康に関わる」/衆院厚労委 |url=https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-05-19/2023051904_03_0.html |website=www.jcp.or.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>が行った。法案可決時の[[医務技監]]は[[宮崎美子]]のデビューのきっかけを創出した[[福島靖正]]である<ref>{{Cite web |title=宮崎美子“奇跡の61歳”をビキニにさせたのは厚労省No.2だった |url=https://bunshun.jp/denshiban/articles/b197 |website=週刊文春 電子版 |date=2020-10-28 |access-date=2023-06-06 |last=「週刊文春」編集部}}</ref>


この創設によって2021年に定員が倍増した国立感染症研究所の所員は全員[[非公務員化]]され、[[国家公務員]]定員削減計画のノルマ達成に大きく貢献した。
この創設によって2021年に定員が倍増した国立感染症研究所の所員は全員[[非公務員化]]され、[[国家公務員]]定員削減計画のノルマ達成に厚生労働省は大きく貢献した。


後は、[[祖父江元]]が座長を務める厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会<ref>{{Cite web |title=国立研究開発法人審議会 (高度専門医療研究評価部会) |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000090645_284064.html |website=www.mhlw.go.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>で業務評価を定期的に受けることになる。
後は、[[祖父江元]]が座長を務める厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会<ref>{{Cite web |title=国立研究開発法人審議会 (高度専門医療研究評価部会) |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000090645_284064.html |website=www.mhlw.go.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>で業務評価を定期的に受けることになる。


== 創設の経緯 ==
== 創設の経緯 ==


* 2020年(令和2年)1月 - [[新型コロナウイルス感染症]]の[[パンデミック]]が発生した
* 2020年(令和2年)1月 - [[新型コロナウイルス感染症]]の[[パンデミック]]が発生した
* 2020年(令和2年)9月4日 - [[自由民主党 (日本)|自由民主党]]の「感染症対策ガバナンス小委員会」([[武見敬三]]委員長)において、[[塩崎恭久]]などの意向を踏まえ「感染症対策ガバナンス小委員会提言」が了承された。この提言の中に国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して健康危機管理機構を創設することが盛り込まれた<ref>{{Cite web |title=感染症国家ガバナンスの大改革 |url=https://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?start=45&id=1321 |website=やすひさの独り言 |access-date=2023-06-05 |language=ja |publisher=塩崎恭久}}</ref>
* 2020年(令和2年)9月4日 - [[自由民主党 (日本)|自由民主党]]の「感染症対策ガバナンス小委員会」([[武見敬三]]委員長)において、元厚生労働大臣[[塩崎恭久]]などの意向を踏まえ「感染症対策ガバナンス小委員会提言」が了承された。この提言の中に国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して健康危機管理機構を創設することが盛り込まれた<ref>{{Cite web |title=感染症国家ガバナンスの大改革 |url=https://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?start=45&id=1321 |website=やすひさの独り言 |access-date=2023-06-05 |language=ja |publisher=塩崎恭久}}</ref>
* 2021年(令和3年)10月4日 - [[加藤の乱]]において[[血判状]]をしたためて[[塩崎恭久]]と行動を共にした[[岸田文雄]]が[[内閣総理大臣|総理大臣]]に就任した
* 2021年(令和3年)10月4日 - [[加藤の乱]]において[[血判状]]をしたためて[[塩崎恭久]]と行動を共にした[[岸田文雄]]が[[内閣総理大臣|総理大臣]]に就任した
* 2022年(令和4年)6月15日 - [[岸田文雄]]の高校の同窓生である[[永井良三]]が座長を務める[[新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議]]が報告書を発表した
* 2022年(令和4年)6月15日 - [[岸田文雄]]の高校の同窓生である[[永井良三]]が座長を務める[[新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議]]が報告書を発表した
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* 2023年(令和5年)5月31日 - 創設に係る法律が[[参議院]]本会議で可決した
* 2023年(令和5年)5月31日 - 創設に係る法律が[[参議院]]本会議で可決した


== 創設当初に指摘された問題点 ==
== 創設時の問題点 ==


==== 創設論拠が不明 ====
=== 理念と名称問題 ===

[[東京大学]]名誉教授の[[山田章雄]]は、2023年2月9日の第71回厚生科学審議会感染症部会で次のように述べ<ref>{{Cite web |title=第71回厚生科学審議会感染症部会 議事録 |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31438.html |website=www.mhlw.go.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>。{{Quotation|私はこの有識者会議(註:[[永井良三]]座長の[[新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議]]のこと)の報告を読ませていただいたところ、確かにいろいろな問題があったことは事実ですけれども、その中で特に感染研(註:国立感染症研究所のこと)だとかNCGM(註:国立国際医療研究センターのこと)が今回の対応で問題があったという指摘は読み取れていません。にもかかわらず、司令塔組織が必要だというところは全くそのとおりだと思うのですけれども、そこの部分が拡大解釈されて、次の2つ目の対応案か何かの中に突如として感染研とNCGMをCDC化するというのが出てくるので、私は個人的には違和感を覚えています。
* 創設の根拠が意味不明

[[東京大学]]名誉教授の[[山田章雄]]は、2023年2月9日の第71回厚生科学審議会感染症部会で次のように述べている<ref name=":1">{{Cite web |title=第71回厚生科学審議会感染症部会 議事録 |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31438.html |website=www.mhlw.go.jp |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>。{{Quotation|私はこの有識者会議(註:[[永井良三]]座長の[[新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議]]のこと)の報告を読ませていただいたところ、確かにいろいろな問題があったことは事実ですけれども、その中で特に感染研(註:国立感染症研究所のこと)だとかNCGM(註:国立国際医療研究センターのこと)が今回の対応で問題があったという指摘は読み取れていません。にもかかわらず、司令塔組織が必要だというところは全くそのとおりだと思うのですけれども、そこの部分が拡大解釈されて、次の2つ目の対応案か何かの中に突如として感染研とNCGMをCDC化するというのが出てくるので、私は個人的には違和感を覚えています。


というのは、何かやるときには振り返って、ここに問題があって、これを解決するためにはこういうことをすればいいのだ、そういう線上で出てこなければいけないのに、感染研、NCGMの統合というのはそういう線上で出てきているようには私には思えません。かといって反対するわけではなくて、以前からCDC化が必要だというのは私自身も思っていました。ただ、そのときに足かせになるのは、感染研のFDA機能(註:アメリカの[[アメリカ食品医薬品局]]のこと)とNIH機能(註:[[アメリカ国立衛生研究所]]のこと)と言われるものをどのようにするのか、そこをきちんと考えておかないと混乱を生ずると思っています。
というのは、何かやるときには振り返って、ここに問題があって、これを解決するためにはこういうことをすればいいのだ、そういう線上で出てこなければいけないのに、感染研、NCGMの統合というのはそういう線上で出てきているようには私には思えません。かといって反対するわけではなくて、以前からCDC化が必要だというのは私自身も思っていました。ただ、そのときに足かせになるのは、感染研のFDA機能(註:アメリカの[[アメリカ食品医薬品局]]のこと)とNIH機能(註:[[アメリカ国立衛生研究所]]のこと)と言われるものをどのようにするのか、そこをきちんと考えておかないと混乱を生ずると思っています。
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一方、CDCに関しては、先ほど調委員からも御指摘がありましたように、年間1兆5000億円の予算並びに1万1000人の職員を抱えた巨大組織であるにもかかわらず、今回のコロナ対応では大失敗をして、国民から物すごい勢いで突き上げられて、ワレンスキー所長が職員にeメールを送って、今後改革をしていくというお話であると理解しています。したがって、どんなに大きな立派な組織であっても必ずしも危機対応がうまくいかない。だから、組織の中で何をするか、どういう組織にしていくかを常に考えながらやっていかなければいけないのだと思っています。
一方、CDCに関しては、先ほど調委員からも御指摘がありましたように、年間1兆5000億円の予算並びに1万1000人の職員を抱えた巨大組織であるにもかかわらず、今回のコロナ対応では大失敗をして、国民から物すごい勢いで突き上げられて、ワレンスキー所長が職員にeメールを送って、今後改革をしていくというお話であると理解しています。したがって、どんなに大きな立派な組織であっても必ずしも危機対応がうまくいかない。だから、組織の中で何をするか、どういう組織にしていくかを常に考えながらやっていかなければいけないのだと思っています。


そのワレンスキー所長は、議会に対して1兆5000億円という年間予算をもらっているそうですけれども、今回自由に使える予算を確保するように議会に申し出るという報道も出ています。ということは、CDCですら自由な活動が例えばこういうエマージェンシーのときにできなかったのだということを如実に語っていると思います。したがって、組織だけをCDCをまねてつくっても全くそれによって今後の感染症対策が担保されるわけではなくて、こういうときにどさくさに紛れて組織をいじろうとするよりは、基本的に何が必要なのか、何が足りないのかをじっくり考えて、そのために必要なことをやっていけばよいと。}}
そのワレンスキー所長は、議会に対して1兆5000億円という年間予算をもらっているそうですけれども、今回自由に使える予算を確保するように議会に申し出るという報道も出ています。ということは、CDCですら自由な活動が例えばこういうエマージェンシーのときにできなかったのだということを如実に語っていると思います。したがって、組織だけをCDCをまねてつくっても全くそれによって今後の感染症対策が担保されるわけではなくて、こういうときにどさくさに紛れて組織をいじろうとするよりは、基本的に何が必要なのか、何が足りないのかをじっくり考えて、そのために必要なことをやっていけばよいと。}}一方、[[新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議|有識者会議]]の座長である[[永井良三]]は、2023年2月3日の日本公衆衛生協会の講演で、報告書について「有識者会議、えらくメディアから評判が悪く」「メディアの勉強不足なんだろう」「お前たち何も分かっていない」と発言している<ref>{{Citation|和書|title=公衆衛生1207|year=|url=https://www.youtube.com/watch?v=hWGkpeAFI2o&t=4407s|language=ja-JP|access-date=2023-06-06}}</ref>。

* 感染症を目的とする組織でなくなる可能性がある

「国立健康危機管理研究機構」という名称には、「感染症」という言葉は含まれていない。[[川崎医科大学]]の中野貴司教授は2023年2月9日の第71回厚生科学審議会感染症部会で「もう少し感染症というものを前面に押し出した組織のお名前にしていただいていいのではないか」と発言したが<ref name=":1" />、それは無視された。2023年5月10日の衆議院厚生労働委員会において[[松本尚]]が将来的に感染症以外の業務を対象にしていく可能性について質問したところ、浅沼一成厚生労働省審議官は「将来どのようになっていくかというのはその時々でご議論をいただければ」と答弁し、否定はしなかった。

* 通称の「CDC」は合併により新たに生み出されるものと無関係

アメリカの[[アメリカ疾病予防管理センター|本家CDC]][[国立国際医療研究センター]]のような病院機能を持っていない。また、[[感染症]]に特化した組織ではない。2023年4月20日の[[参議院]]の審議で[[岸田文雄]]総理大臣は「日本版CDCを創設することにより、基礎から臨床までの一体的な研究基盤」と述べ<ref>{{Cite web |title=第211回国会 参議院 内閣委員会 第10号 令和5年4月20日 |url=https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121114889X01020230420 |website=kokkai.ndl.go.jp |access-date=2023-06-06}}</ref>、また関連審議でも多くの答弁で「基礎から臨床までの一体的な」という語句が政府から発せられたが、本家CDCには基礎から臨床までの一体的な研究基盤は存在しない。[[仁木博文]]は[[衆議院]]の内閣委員会や厚生労働委員会において、国立健康危機管理研究機構を「日本版CDC」ではなく「岸田版CDC」と呼称した<ref>{{Cite web |title=第211回国会 内閣委員会 第7号(令和5年3月17日(金曜日)) |url=https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000221120230317007.htm |website=www.shugiin.go.jp |access-date=2023-06-05}}</ref>。

=== 組織の問題 ===

* 指揮命令系統や情報伝達機構が崩壊している

岸田文雄は国立健康危機管理研究機構と同時に[[内閣府]]に[[内閣感染症危機管理統括庁]]を創設することも決定した。国立健康危機管理研究機構は厚生労働省に所管されるが、この[[内閣感染症危機管理統括庁]]にも科学的知見を提供することとされている。すなわち、国立健康危機管理研究機構には事実上2つの上部機関が存在する。少なくとも報告は2系統に行わなければならない。感染症発生時に司令塔機能を担うために[[内閣感染症危機管理統括庁]]は創設されたことになっているが<ref>{{Cite web |title=危機管理庁、今秋めどに設置 感染症対策の司令塔 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA196PZ0Z10C23A4000000/ |website=日本経済新聞 |date=2023-04-21 |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>、国立健康危機管理研究機構は制度設計の時点で[[内閣府]][[厚生労働省]]の板挟みになっており、正常な指揮命令系統や情報伝達機構制度上は成立

=== 人事の問題 ===

* ほとんどの構成員は感染症を専門としていない

もっとも大きな母胎である国立国際医療研究センターは基本的に総合病院であり、感染症のみを対象とした機関ではない。2023年6月1日に、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は、患者や入職者の不安払拭のため、今後も「総合病院として進化し続け」ると宣言するプレスリリースを行っていることから<ref name=":2">{{Cite web |url=https://www.ncgm.go.jp/news/FY2023/files/20230601.pdf |title=NCGMにおかかりの患者さん 及び NCGMへの入職をお考えの方々へ(国立感染症研究所との統合によって創設される国立健康危機管理研究機構に関連して)(PDF:415KB) |access-date=2023-06-05 |publisher=国立国際医療研究センター}}</ref>、国立国際医療研究センターの総合病院としての機能は維持されると思われる。すなわち、少なくとも創設時には国立健康危機管理研究機構の構成員のほとんどが感染症を専門としていないことになる

=== 予算の問題 ===

* 予算はおそらく減少していく

2000年頃の独法化によって国から離れた[[国立大学]]が予算の削減により国際ランキングをほぼ例外なく大幅に下げていることから<ref>{{Cite web |title=日本の知、どこへ|日本評論社 |url=https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8821.html |website=www.nippyo.co.jp |access-date=2023-06-06 |language=ja |date=2022年6月}}</ref>、同様に予算が減っていくであろう国立健康危機管理研究機構の国際的な地位は今後ほぼ確実に下がっていく。国立感染症研究所は2023年でも競争的研究費以外の研究費は皆無であり、電気代が払えないため冷凍庫の電源を切ることすらあるとされる<ref name=":0" />。

=== 実効性の問題 ===

* 2020年に出来たことが出来なくなる可能性がある

2020年の新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、日本は高齢化が進んでいるにもかかわらず諸外国と比べると対応に比較的成功した国と言われている<ref>{{Cite web |title=パンデミックなき未来へ 僕たちにできること |url=https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015156/ |website=ハヤカワ・オンライン |access-date=2023-06-06 |author=ビルゲイツ |date=2022-06-25}}</ref>。比較的成功した要因は国立感染症研究所や国立国際医療研究センターだけのものでは全くないが、

国立感染症研究所が

- 配列判明後の数日で検査に成功し2週間で検査マニュアルを整備し全国に展開したこと<ref>{{Cite web |url=https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/1_shirato.pdf |title=令和2年度 希少感染症診断技術研修 新型コロナウイルス 病原体検出マニュアルについて |access-date=2023-06-07 |publisher=国立感染症研究所}}</ref>

- ごく少人数の疫学体制にもかかわらず[[押谷仁]]や[[西浦博]]などと共に疫学調査で世界的にも最初期に有効に機能していたこと<ref>{{Cite web |title=日本国内の新型コロナウイルス感染症第一例を契機に検知された中国武漢市における市中感染の発生 |url=https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9729-485p04.html |website=www.niid.go.jp |access-date=2023-06-06}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.28.20029272v2.full-text |title=Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19) |access-date=2023-06-07 |publisher=medrxiv}}</ref><ref>{{Cite web |title=新宿区繁華街におけるいわゆる「接待を伴う飲食店」における新型コロナウイルス感染症の感染リスクに関する調査研究(中間報告) |url=https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10081-491p04.html |website=www.niid.go.jp |access-date=2023-06-06}}</ref>

- 脂質に包まれたmRNAという新しいモダリティのワクチンについて承認体制を整えたこと<ref>{{Cite web |url=https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kentei-info/old/wakuchin__r2.pdf |title=検定合格情報 |access-date=2023-06-07 |publisher=国立感染症研究所}}</ref>

国立国際医療研究センターが

- 幅広い事態に臨機応変に対応できる優れた著名な総合病院であったこと<ref name=":2" />

- [[体外式膜型人工肺|ECMO]]を導入していたこと

- 感染症について一般人にも専門家にも通じる全国的な発信能力を予め有している医師を雇用していたこと<ref>{{Cite web |title=忽那賢志の記事一覧 - 個人 |url=https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi |website=Yahoo!ニュース |access-date=2023-06-06 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=保健所の「コロナ戦記」 TOKYO2020-2021 関なおみ 巻末特別対談 「病院から見たコロナ、保健所から見たコロナ」 大曲貴夫(国立国際医療研究センター病院)×関なおみ  {{!}} 光文社新書 {{!}} 光文社 |url=https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045784 |website=www.kobunsha.com |access-date=2023-06-06}}</ref>

は、経過において重要な意味を持っている。


今後特殊法人になる国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの構成員は、国内的にも国際的にも立場や地位が低下した上で業務実態と合わない名称の組織に属することになる。機構等に統合されることにより諸権限が奪われ情報発信量等が極端に低下した法人は各省庁に数多く存在するため、国立健康危機管理研究機構が同じ経過をたどり、上記のことが出来なくなる可能性はある。少なくとも数日での検査成功は、上部組織の[[内閣府]]と[[厚生労働省]]の意向を気にするような非自立的な状況になればあり得ない。パンデミック時に専門家会議のような組織を急ぎ作っても国立健康危機管理研究機構の不全を補完出来る保証はない。[[クメール・ルージュ|クメールルージュ]]やかつての[[中国共産党]]と交渉しアジア西太平洋地域でのポリオ撲滅を達成した[[尾身茂]]や、[[C型肝炎ウイルス|C型肝炎ウイルス]]の培養系を確立することで[[C型肝炎|C型肝炎]]を治癒可能な病気にした立役者である[[脇田隆字]]のような世界史的に見ても誰もが敬意を直ちに払わざるを得ない業績を持つ人材が次のパンデミックにおいて日本に存在する可能性は多くはない。すなわち、人材に依存した危険な状態<ref>{{Cite web |title=【音声配信】特集「議事録、PCR検査、東京の感染者増加~専門家会議・座長を務めた脇田隆字氏に聞く」▼2020年7月6日放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」22時~) |url=https://www.tbsradio.jp/archives/?id=p-497432 |website=TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~ |access-date=2023-06-06 |language=ja}}</ref>になる可能性がある。
==== 国立国際医療研究センターは感染症に特化した法人ではない ====
国立国際医療研究センターは基本的に総合病院であり、感染症のみを専門とした機関ではない。2023年6月1日に、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は、患者や入職者の不安払拭のため、今後も「総合病院として進化し続け」ると宣言するプレスリリースを行っ<ref>{{Cite web |url=https://www.ncgm.go.jp/news/FY2023/files/20230601.pdf |title=NCGMにおかかりの患者さん 及び NCGMへの入職をお考えの方々へ(国立感染症研究所との統合によって創設される国立健康危機管理研究機構に関連して)(PDF:415KB) |access-date=2023-06-05 |publisher=国立国際医療研究センター}}</ref>。
国立国際医療研究センターの定員は国立感染症研究所よりはるかに多いことから、創設時には国立健康危機管理研究機構の構成員のほぼ全員が感染症の業務を行っていないことになる。あたかも大半が感染症に関わっているとカモフラージュするような言い訳のような業務が公的に増える可能性がある。


* 2020年に出来なかったことが出来る見込みはない
==== アメリカのCDCとは組織や目標が異なる ====
アメリカのCDCは病院機能を持っていない。また、感染症に特化した組織ではない。[[仁木博文]]は[[衆議院]]の内閣委員会や厚生労働委員会国立健康危機管理研究機構を「日本版CDC」ではなく「岸田版CDC」と呼称した<ref>{{Cite web |title=第211回国会 内閣委員会 第7号(令和5年3月17日(金曜日)) |url=https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000221120230317007.htm |website=www.shugiin.go.jp |access-date=2023-06-05}}</ref>。


治療薬とワクチンの開発は、大規模な臨床研究が可能な土壌が日本に整わなければありえない。大規模な臨床研究不正事件である[[ディオバン事件]]に係る責任著者の一人が、基礎研究における多数の疑惑や死亡診断書の改ざん事件すら抱えながらも今でも責任をとっておらず[[国際医療福祉大学|有名大学]]の副学長へと栄転している日本の状況では、正常な臨床研究体制の構築は難しい。有名な[[科学における不正行為|研究不正]]問題への適切な対処に伴う日本全体の研究倫理の向上は必要である。
==== 指揮命令系統や情報伝達壊している ====
岸田文雄は国立健康危機管理研究機構と同時に内閣府に[[内閣感染症危機管理統括庁]]を創設することも決定した。国立健康危機管理研究機構は厚生労働省に所管されるが、この[[内閣感染症危機管理統括庁]]にも科学的知見を提供することとされている。すなわち、国立健康危機管理研究機構にはあたかも2つの上部機関が存在する。少なくとも報告は2系統に行わなければならない。感染症発生時に司令塔機能を担うために[[内閣感染症危機管理統括庁]]は創設されたことになっているが<ref>{{Cite web |title=危機管理庁、今秋めどに設置 感染症対策の司令塔 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA196PZ0Z10C23A4000000/ |website=日本経済新聞 |date=2023-04-21 |access-date=2023-06-05 |language=ja}}</ref>、国立健康危機管理研究機構は内閣府と厚生労働省の板挟みになり、くとも一方のみを立てることは許されないので、指揮命令系統や情報伝達は現状よりむろ壊れることに


日本の新型コロナワクチンの開発で最大の100億円近い公的資金が交付されながらもワクチン開発から撤退した[[アンジェス]]社の創業者である循環器内科医は、前述の[[永井良三]]と共に長年内閣府の健康・医療戦略参与を務めている。この状況を指摘することもなく国立感染症研究所や国立国際医療研究センターが治療薬やワクチンを作れなかったことを問題視しても改善は難しい。資金は必要である。
==== 感染症業務の弱体化が進む ====
「国立健康危機管理研究機構」という名称には、「感染症」や「医療」といった言葉は含まれていない。将来的に感染症以外の業務に傾倒していく可能性について、厚生労働省の[[浅沼一成]]審議官は2023年の厚生労働委員会における国会答弁で否定しなかった。また、2000年頃の独法化によって国から離れた[[国立大学]]が予算の削減により国際ランキングをほぼ例外なく大幅に下げていることから、同様に予算が減っていく国立健康危機管理研究機構の国際的な地位は今後ほぼ確実に下がっていく。国立感染症研究所は2023年でも競争的研究費以外の研究費は皆無であり、電気代が払えないため冷凍庫の電源を切ることあるとされる<ref name=":0" />。2020年に出来た対応が今後出来なくなっていく可能性は高い


== BSL4の問題 ==
== BSL4の問題 ==
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* [[2006年]]、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターの複数の論文についての内部告発の存在が報道された<ref>{{Cite web |title=エイズワクチン論文を訂正 国立感染研 |url=https://web.archive.org/web/20060812045632/http://www.asahi.com/science/news/TKY200608030553.html |website=web.archive.org |date=2006-08-12 |access-date=2022-10-16 |publisher=朝日新聞}}</ref>。
* [[2006年]]、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターの複数の論文についての内部告発の存在が報道された<ref>{{Cite web |title=エイズワクチン論文を訂正 国立感染研 |url=https://web.archive.org/web/20060812045632/http://www.asahi.com/science/news/TKY200608030553.html |website=web.archive.org |date=2006-08-12 |access-date=2022-10-16 |publisher=朝日新聞}}</ref>。
* [[2015年]]、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターやウイルス第三部の複数の論文に不自然な改変や酷似画像があることが指摘された([[匿名Aによる論文大量不正疑義事件]])。
* [[2015年]]、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターやウイルス第三部の複数の論文に不自然な改変や酷似画像があることが指摘された([[匿名Aによる論文大量不正疑義事件]])。
* [[2020年]]、前身の国立感染症研究所において、ウイルス第三部の過去の論文に問題があることが指摘された<ref>{{Cite web |title=「不正実験データ」で感染研所長が論文取り下げを要求 |url=https://web.archive.org/web/20210309024216/https://bunshun.jp/articles/-/36831 |website=文春オンライン |accessdate=2020-11-11 |last=「週刊文春」 |publisher= |date=2020-03-26}}</ref>。


== 出典 ==
== 出典 ==

2023年6月6日 (火) 19:14時点における版

国立健康危機管理研究機構
戸山庁舎正門、2007年3月
正式名称 国立健康危機管理研究機構
組織形態 特殊法人
戸山庁舎所在地 日本の旗 日本
162-8640
東京都新宿区戸山1丁目23番1号
北緯35度42分15.02秒 東経139度43分2.56秒 / 北緯35.7041722度 東経139.7173778度 / 35.7041722; 139.7173778 (国立健康危機管理研究機構)座標: 北緯35度42分15.02秒 東経139度43分2.56秒 / 北緯35.7041722度 東経139.7173778度 / 35.7041722; 139.7173778 (国立健康危機管理研究機構)
理事長 未定
活動領域

感染症
総合病院

看護大学校
前身

国立感染症研究所

国立国際医療研究センター
設立者 岸田文雄
所管 厚生労働省
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国立健康危機管理研究機構(こくりつけんこうききかんりけんきゅうきこう)は、厚生労働省が所管する予定の日本特殊法人。2020年の新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、国の機関であった国立感染症研究所と国立研究開発法人であった国立国際医療研究センターが合併する形で2025年に創設される。

創設のための法案が国会で審議された2023年において、総理大臣の岸田文雄は本機構を「日本版CDC」と呼称した。創設に係る国会答弁は主に加藤勝信厚生労働大臣や浅沼一成厚生労働省審議官[1]が行った。法案可決時の医務技監宮崎美子のデビューのきっかけを創出した福島靖正である[2]

この創設によって2021年に定員が倍増した国立感染症研究所の所員は全員非公務員化され、国家公務員定員削減計画のノルマ達成に厚生労働省は大きく貢献した。

創設後は、祖父江元が座長を務める厚生労働省国立研究開発法人審議会高度専門医療研究評価部会[3]で業務評価を定期的に受けることになる。

創設の経緯

創設時の問題点

理念と名称の問題

  • 創設の根拠が意味不明

東京大学名誉教授の山田章雄は、2023年2月9日の第71回厚生科学審議会感染症部会で次のように述べている[6]

私はこの有識者会議(註:永井良三座長の新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議のこと)の報告を読ませていただいたところ、確かにいろいろな問題があったことは事実ですけれども、その中で特に感染研(註:国立感染症研究所のこと)だとかNCGM(註:国立国際医療研究センターのこと)が今回の対応で問題があったという指摘は読み取れていません。にもかかわらず、司令塔組織が必要だというところは全くそのとおりだと思うのですけれども、そこの部分が拡大解釈されて、次の2つ目の対応案か何かの中に突如として感染研とNCGMをCDC化するというのが出てくるので、私は個人的には違和感を覚えています。

というのは、何かやるときには振り返って、ここに問題があって、これを解決するためにはこういうことをすればいいのだ、そういう線上で出てこなければいけないのに、感染研、NCGMの統合というのはそういう線上で出てきているようには私には思えません。かといって反対するわけではなくて、以前からCDC化が必要だというのは私自身も思っていました。ただ、そのときに足かせになるのは、感染研のFDA機能(註:アメリカのアメリカ食品医薬品局のこと)とNIH機能(註:アメリカ国立衛生研究所のこと)と言われるものをどのようにするのか、そこをきちんと考えておかないと混乱を生ずると思っています。

一方、CDCに関しては、先ほど調委員からも御指摘がありましたように、年間1兆5000億円の予算並びに1万1000人の職員を抱えた巨大組織であるにもかかわらず、今回のコロナ対応では大失敗をして、国民から物すごい勢いで突き上げられて、ワレンスキー所長が職員にeメールを送って、今後改革をしていくというお話であると理解しています。したがって、どんなに大きな立派な組織であっても必ずしも危機対応がうまくいかない。だから、組織の中で何をするか、どういう組織にしていくかを常に考えながらやっていかなければいけないのだと思っています。

そのワレンスキー所長は、議会に対して1兆5000億円という年間予算をもらっているそうですけれども、今回自由に使える予算を確保するように議会に申し出るという報道も出ています。ということは、CDCですら自由な活動が例えばこういうエマージェンシーのときにできなかったのだということを如実に語っていると思います。したがって、組織だけをCDCをまねてつくっても全くそれによって今後の感染症対策が担保されるわけではなくて、こういうときにどさくさに紛れて組織をいじろうとするよりは、基本的に何が必要なのか、何が足りないのかをじっくり考えて、そのために必要なことをやっていけばよいと。

一方、有識者会議の座長である永井良三は、2023年2月3日の日本公衆衛生協会の講演で、報告書について「有識者会議、えらくメディアから評判が悪く」「メディアの勉強不足なんだろう」「お前たち何も分かっていない」と発言している[7]

  • 感染症を目的とする組織でなくなる可能性がある

「国立健康危機管理研究機構」という名称には、「感染症」という言葉は含まれていない。川崎医科大学の中野貴司教授は2023年2月9日の第71回厚生科学審議会感染症部会で「もう少し感染症というものを前面に押し出した組織のお名前にしていただいていいのではないか」と発言したが[6]、それは無視された。2023年5月10日の衆議院厚生労働委員会において松本尚が将来的に感染症以外の業務を対象にしていく可能性について質問したところ、浅沼一成厚生労働省審議官は「将来どのようになっていくかというのはその時々でご議論をいただければ」と答弁し、否定はしなかった。

  • 通称の「CDC」は合併により新たに生み出されるものと無関係

アメリカの本家CDC国立国際医療研究センターのような病院機能を持っていない。また、感染症に特化した組織ではない。2023年4月20日の参議院の審議で岸田文雄総理大臣は「日本版CDCを創設することにより、基礎から臨床までの一体的な研究基盤」と述べ[8]、また関連審議でも多くの答弁で「基礎から臨床までの一体的な」という語句が政府から発せられたが、本家CDCには基礎から臨床までの一体的な研究基盤は存在しない。仁木博文は、衆議院の内閣委員会や厚生労働委員会において、国立健康危機管理研究機構を「日本版CDC」ではなく「岸田版CDC」と呼称した[9]

組織の問題

  • 指揮命令系統や情報伝達機構が崩壊している

岸田文雄は国立健康危機管理研究機構と同時に内閣府内閣感染症危機管理統括庁を創設することも決定した。国立健康危機管理研究機構は厚生労働省に所管されるが、この内閣感染症危機管理統括庁にも科学的知見を提供することとされている。すなわち、国立健康危機管理研究機構には事実上2つの上部機関が存在する。少なくとも報告は2系統に行わなければならない。感染症発生時に司令塔機能を担うために内閣感染症危機管理統括庁は創設されたことになっているが[10]、国立健康危機管理研究機構は制度設計の時点で内閣府厚生労働省の板挟みになっており、正常な指揮命令系統や情報伝達機構は制度上は成立し得ない。

人事の問題

  • ほとんどの構成員は感染症を専門としていない

もっとも大きな母胎である国立国際医療研究センターは基本的に総合病院であり、感染症のみを対象とした機関ではない。2023年6月1日に、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は、患者や入職者の不安払拭のため、今後も「総合病院として進化し続け」ると宣言するプレスリリースを行っていることから[11]、国立国際医療研究センターの総合病院としての機能は維持されると思われる。すなわち、少なくとも創設時には国立健康危機管理研究機構の構成員のほとんどが感染症を専門としていないことになる。

予算の問題

  • 予算はおそらく減少していく

2000年頃の独法化によって国から離れた国立大学が予算の削減により国際ランキングをほぼ例外なく大幅に下げていることから[12]、同様に予算が減っていくであろう国立健康危機管理研究機構の国際的な地位は今後ほぼ確実に下がっていく。国立感染症研究所は2023年でも競争的研究費以外の研究費は皆無であり、電気代が払えないため冷凍庫の電源を切ることすらあるとされる[1]

実効性の問題

  • 2020年に出来たことが出来なくなる可能性がある

2020年の新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、日本は高齢化が進んでいるにもかかわらず諸外国と比べると対応に比較的成功した国と言われている[13]。比較的成功した要因は国立感染症研究所や国立国際医療研究センターだけのものでは全くないが、

国立感染症研究所が

- 配列判明後の数日で検査に成功し2週間で検査マニュアルを整備し全国に展開したこと[14]

- ごく少人数の疫学体制にもかかわらず押谷仁西浦博などと共に疫学調査で世界的にも最初期に有効に機能していたこと[15][16][17]

- 脂質に包まれたmRNAという新しいモダリティのワクチンについて承認体制を整えたこと[18]

国立国際医療研究センターが

- 幅広い事態に臨機応変に対応できる優れた著名な総合病院であったこと[11]

- ECMOを導入していたこと

- 感染症について一般人にも専門家にも通じる全国的な発信能力を予め有している医師を雇用していたこと[19][20]

は、経過において重要な意味を持っている。

今後特殊法人になる国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの構成員は、国内的にも国際的にも立場や地位が低下した上で業務実態と合わない名称の組織に属することになる。機構等に統合されることにより諸権限が奪われ情報発信量等が極端に低下した法人は各省庁に数多く存在するため、国立健康危機管理研究機構が同じ経過をたどり、上記のことが出来なくなる可能性はある。少なくとも数日での検査成功は、上部組織の内閣府厚生労働省の意向を気にするような非自立的な状況になればあり得ない。パンデミック時に専門家会議のような組織を急ぎ作っても国立健康危機管理研究機構の不全を補完出来る保証はない。クメールルージュやかつての中国共産党と交渉しアジア西太平洋地域でのポリオ撲滅を達成した尾身茂や、C型肝炎ウイルスの培養系を確立することでC型肝炎を治癒可能な病気にした立役者である脇田隆字のような世界史的に見ても誰もが敬意を直ちに払わざるを得ない業績を持つ人材が次のパンデミックにおいて日本に存在する可能性は多くはない。すなわち、人材に依存した危険な状態[21]になる可能性がある。

  • 2020年に出来なかったことが出来る見込みはない

治療薬とワクチンの開発は、大規模な臨床研究が可能な土壌が日本に整わなければありえない。大規模な臨床研究不正事件であるディオバン事件に係る責任著者の一人が、基礎研究における多数の疑惑や死亡診断書の改ざん事件すら抱えながらも今でも責任をとっておらず有名大学の副学長へと栄転している日本の状況では、正常な臨床研究体制の構築は難しい。有名な研究不正問題への適切な対処に伴う日本全体の研究倫理の向上は必要である。

日本の新型コロナワクチンの開発で最大の100億円近い公的資金が交付されながらもワクチン開発から撤退したアンジェス社の創業者である循環器内科医は、前述の永井良三と共に長年内閣府の健康・医療戦略参与を務めている。この状況を指摘することもなく国立感染症研究所や国立国際医療研究センターが治療薬やワクチンを作れなかったことを問題視しても改善は難しい。資金は必要である。

BSL4の問題

村山庁舎は、理研筑波研究所と並びバイオセーフティーレベル4 (BSL4、当時はP4施設と呼ばれていた)の実験施設として設計され、1981年(昭和56年)に完成していたが、両施設とも近隣住民や武蔵村山市からの反対により、運用は当面の間BSL3までとされ、BSL4が要求される研究は行えなかった[22]

2014年の西アフリカエボラ出血熱流行に伴い、エボラ出血熱感染が疑われる患者の詳細な検査や治療薬の開発のため、2014年11月より厚生労働大臣が武蔵村山市長と協議を開始[23]。翌2015年8月7日に村山庁舎が日本で初めてBSL4施設に指定された[24]

ただしこの際のBSL4施設稼働については、将来的な移転を市が条件としていたことと、村山庁舎の老朽化が指摘されていたことから、厚生労働省は2020年8月5日、武蔵村山市に対しBSL4施設の移転を検討開始することを伝えた[25]

不祥事

新薬スパイ事件

1983年、前身の国立予防衛生研究所において、新薬スパイ事件と抗生物質不正検定事件が発生、職員が逮捕され、所長と抗生物質部長が引責辞職した。

収賄と官製談合

2010年、前身の国立感染症研究所において、総務部会計課係長が収賄容疑で逮捕された[26]

論文捏造

  • 2006年、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターの複数の論文についての内部告発の存在が報道された[27]
  • 2015年、前身の国立感染症研究所において、エイズ研究センターやウイルス第三部の複数の論文に不自然な改変や酷似画像があることが指摘された(匿名Aによる論文大量不正疑義事件)。
  • 2020年、前身の国立感染症研究所において、ウイルス第三部の過去の論文に問題があることが指摘された[28]

出典

  1. ^ a b 感染研の法人化反対/宮本徹氏「命・健康に関わる」/衆院厚労委”. www.jcp.or.jp. 2023年6月5日閲覧。
  2. ^ 「週刊文春」編集部 (2020年10月28日). “宮崎美子“奇跡の61歳”をビキニにさせたのは厚労省No.2だった”. 週刊文春 電子版. 2023年6月6日閲覧。
  3. ^ 国立研究開発法人審議会 (高度専門医療研究評価部会)”. www.mhlw.go.jp. 2023年6月5日閲覧。
  4. ^ 感染症国家ガバナンスの大改革”. やすひさの独り言. 塩崎恭久. 2023年6月5日閲覧。
  5. ^ 日本放送協会 (2022年6月17日). “政府 内閣感染症危機管理庁の設置決定 対策の司令塔機能を強化 | NHK”. NHKニュース. 2023年6月5日閲覧。
  6. ^ a b 第71回厚生科学審議会感染症部会 議事録”. www.mhlw.go.jp. 2023年6月5日閲覧。
  7. ^ (日本語)『公衆衛生1207https://www.youtube.com/watch?v=hWGkpeAFI2o&t=4407s2023年6月6日閲覧 
  8. ^ 第211回国会 参議院 内閣委員会 第10号 令和5年4月20日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年6月6日閲覧。
  9. ^ 第211回国会 内閣委員会 第7号(令和5年3月17日(金曜日))”. www.shugiin.go.jp. 2023年6月5日閲覧。
  10. ^ 危機管理庁、今秋めどに設置 感染症対策の司令塔”. 日本経済新聞 (2023年4月21日). 2023年6月5日閲覧。
  11. ^ a b NCGMにおかかりの患者さん 及び NCGMへの入職をお考えの方々へ(国立感染症研究所との統合によって創設される国立健康危機管理研究機構に関連して)(PDF:415KB)”. 国立国際医療研究センター. 2023年6月5日閲覧。
  12. ^ 日本の知、どこへ|日本評論社”. www.nippyo.co.jp (2022年6月). 2023年6月6日閲覧。
  13. ^ ビルゲイツ (2022年6月25日). “パンデミックなき未来へ 僕たちにできること”. ハヤカワ・オンライン. 2023年6月6日閲覧。
  14. ^ 令和2年度 希少感染症診断技術研修 新型コロナウイルス 病原体検出マニュアルについて”. 国立感染症研究所. 2023年6月7日閲覧。
  15. ^ 日本国内の新型コロナウイルス感染症第一例を契機に検知された中国武漢市における市中感染の発生”. www.niid.go.jp. 2023年6月6日閲覧。
  16. ^ Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)”. medrxiv. 2023年6月7日閲覧。
  17. ^ 新宿区繁華街におけるいわゆる「接待を伴う飲食店」における新型コロナウイルス感染症の感染リスクに関する調査研究(中間報告)”. www.niid.go.jp. 2023年6月6日閲覧。
  18. ^ 検定合格情報”. 国立感染症研究所. 2023年6月7日閲覧。
  19. ^ 忽那賢志の記事一覧 - 個人”. Yahoo!ニュース. 2023年6月6日閲覧。
  20. ^ 保健所の「コロナ戦記」 TOKYO2020-2021 関なおみ 巻末特別対談 「病院から見たコロナ、保健所から見たコロナ」 大曲貴夫(国立国際医療研究センター病院)×関なおみ  | 光文社新書 | 光文社”. www.kobunsha.com. 2023年6月6日閲覧。
  21. ^ 【音声配信】特集「議事録、PCR検査、東京の感染者増加~専門家会議・座長を務めた脇田隆字氏に聞く」▼2020年7月6日放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」22時~)”. TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~. 2023年6月6日閲覧。
  22. ^ 藤野基文 (2014年11月17日). “エボラ出血熱:国立感染研村山庁舎の施設稼働で協議”. 毎日新聞. オリジナルの2014年12月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141214020141/http://mainichi.jp/select/news/20141118k0000m040061000c.html 2014年11月18日閲覧。 
  23. ^ “【エボラ出血熱】実験施設稼働に向け協議へ 塩崎厚労相が武蔵村山市長と合意”. 産経ニュース. (2014年11月17日). http://www.sankei.com/life/news/141117/lif1411170029-n1.html 2014年11月18日閲覧。 
  24. ^ 日本経済新聞社 (2015年8月7日). “「BSL4」施設、国内初の指定 国立感染症研・村山庁舎”. 2016年2月6日閲覧。
  25. ^ 東京 武蔵村山市の病原体扱う施設 移転先など具体的に検討へ NHKニュースWeb、2020年8月5日
  26. ^ 元感染研職員ら逮捕 東京地検、200万円贈収賄容疑 日本経済新聞 2010年6月22日付
  27. ^ エイズワクチン論文を訂正 国立感染研”. web.archive.org. 朝日新聞 (2006年8月12日). 2022年10月16日閲覧。
  28. ^ 「週刊文春」 (2020年3月26日). “「不正実験データ」で感染研所長が論文取り下げを要求”. 文春オンライン. 2020年11月11日閲覧。

関連項目