SARSコロナウイルス2-イプシロン株

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新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) > SARS-CoV-2の変異株 > イプシロン株 (系統 B.1.427/B.1.429)
2021年7月1日時点でイプシロン株の症例が確認されている国・地域と確認症例数(GISAID発表)

凡例:
  10,000 +
  1,000 – 9,999
  100 – 999
  10 – 99
  2 – 9
  1
  0 / またはデータなし

SARSコロナウイルス2-イプシロン株(サーズコロナウイルスツー イプシロンかぶ、英語: SARS-CoV-2 Epsilon variant、別名: 系統 B.1.427/B.1.429CAL.20C)は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の原因ウイルスとして知られるSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) の変異株である。2020年7月にアメリカ合衆国カリフォルニア州で最初に検出された[1]カリフォルニア型変異株と呼称されることもある。

世界保健機関 (WHO) は注目すべき変異株 (VOI) に指定し、WHOラベルではイプシロン株 (Epsilon variant) に分類していた[2]が、2021年7月にVOIから除外された[2][3][4]

経緯[編集]

イプシロン株は、2020年7月にカリフォルニア州ロサンゼルスで確認された変異ウイルスで[1]、同年11月には収集された検体のサンプルの全体の36%を占めるようになった。また、2021年1月までにイプシロン株の割合は、カリフォルニア州で50%に上っている[5]カリフォルニア大学などは、声明で、北カリフォルニアの複数の郡でもイプシロン株が検出されたことが発表されている。2020年11月から12月にかけて、北カリフォルニアでは、イプシロン株の割合が、3%から25%にまで上昇しているなど、アメリカ西海岸を中心に感染が拡大している[6]。ただ、アメリカ全体では2021年1月の時点で、アルファ株が感染のほとんどを占め、イプシロン株の確認は少ない。しかし1月を過ぎてから、ヨーロッパアジアオーストラリアで相次いでイプシロン株が検出されている[7][8]。ただし、同年2月からカリフォルニア州でイプシロン株の感染割合は、急速に低下し、その後、4月ごろに世界中で殆ど感染が確認されなくなり、事実上姿を消した。ウイルスが消滅したとみられる原因は、75%以上当初から占めていたアルファ株の更なる置き換わりと、デルタ株の出現とされている[9]

分類[編集]

命名[編集]

2020年3月、アメリカのカリフォルニア州で初めて記録され、後に系統 B.1.427 (lineage B.1.427) および系統 B.1.429 (lineage B.1.429) と命名された[2][10]。2021年5月末、WHOは懸念される変異株 (VOC) や注目すべき変異株 (VOI) にギリシャ文字を使用する新しい方針を導入した後、系統 B.1.427/B.1.429に対しイプシロン (ε:Epsilon) のラベルを割り当てた[2][10]

変異の特徴[編集]

イプシロン株は、I4205VとD1183Y・L452Rという遺伝子の変異が著しいとしていて、遺伝子変異の一つである、L452Rは、デルタ株にもみられる変異である[5]。また、この変異株は、従来株と比べて、感染力が高まっている可能性があるとされているが、これを確認するにはさらなる研究を要する。アメリカ疾病対策センター (CDC)[5]は、感染率や重症化率が20%程度増加した可能性があるとし、この変異株は、承認されている治療薬で、重症化するリスクを低減することができるとした。

また、以前にウイルスに感染したことがあるか、新型コロナウイルス (COVID-19) のワクチンを受けたことがある人でも感染する可能性があるともしている[11][12]

統計[編集]

世界のイプシロン株の感染者数
国名 感染者数(人) 最後に感染が確認された日
アメリカ合衆国 50,723 2021年7月23日
メキシコ 474 2021年6月8日
カナダ 326 2021年5月7日
韓国 103 2021年4月26日
アルバ 57 2021年4月24日
デンマーク 37 2021年3月21日
チリ 30 2021年6月7日
アルゼンチン 28 2021年5月12日
イギリス 21 2021年5月10日
日本 20 2021年4月16日
オーストラリア 20 2021年4月12日
コスタリカ 12 2021年5月5日
ドイツ 10 2021年6月8日
イスラエル 10 2021年2月25日
グアム 8 2021年3月27日
台湾 8 2021年1月31日
グアテマラ 7 不明
フランス 7 2021年3月1日
アイルランド 7 2021年4月28日
オランダ 5 2021年3月10日
スペイン 5 2021年6月3日
ニュージーランド 4 2020年12月28日
シンガポール 4 2021年3月27日
スイス 4 2021年3月1日
カメルーン 3 2021年2月5日
グアドループ 3 2021年1月30日
ノルウェー 3 2021年4月12日
カンボジア 2 2021年1月20日
フィンランド 2 2021年2月6日
イタリア 2 2021年2月11日
ペルー 2 2021年2月24日
スウェーデン 2 2021年1月28日
トルコ 2 2021年2月11日
アイスランド 2 2021年3月22日
コロンビア 2 2021年1月8日
アンギラ 1 2021年3月19日
アンティグア・バーブーダ 1 2021年4月24日
バルバドス 1 2021年4月12日
ベルギー 1 2021年1月18日
イギリス領ヴァージン諸島 1 2021年1月7日
キュラソー 1 2021年3月19日
インド 1 2021年3月2日
北マケドニア 1 2021年1月26日
北マリアナ諸島 1 2021年1月16日
シント・マールテン 1 2021年2月16日
ドミニカ共和国 1 詳細不明
46か国合計 計51,966

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b "Local COVID-19 Strain Found in Over One-Third of Los Angeles Patients" (Press release). Cedars Sinai Medical Center. 19 January 2021. 2021年3月3日閲覧
  2. ^ a b c d Tracking SARS-CoV-2 variants” (英語). who.int. World Health Organization. 2021年10月1日閲覧。
  3. ^ 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第11報) - 国立感染症研究所 (2021年7⽉17⽇) 、2021年8月15日閲覧。
  4. ^ 当センターにおける新型コロナウイルス変異株のスクリーニング検査結果について(2021年10月12日更新)”. 東京都健康安全研究センター. 2021年10月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月13日閲覧。
  5. ^ a b c “New California Variant May Be Driving Virus Surge There, Study Suggests”. The New York Times. (2021年1月19日). https://www.nytimes.com/2021/01/19/health/coronavirus-variant-california.html 
  6. ^ New strains of COVID swiftly moving through the US need careful watch, scientists say” (英語). USA Today. 2021年1月30日閲覧。
  7. ^ B.1.429”. Rambaut Group, University of Edinburgh. PANGO Lineages (2021年2月15日). 2021年2月16日閲覧。
  8. ^ B.1.429 Lineage Report”. Scripps Research. outbreak.info (2021年2月15日). 2021年2月16日閲覧。
  9. ^ Zimmer, Carl; Mandavilli, Apoorva (2021年5月14日). “How the United States Beat the Variants, for Now”. New York Times. https://www.nytimes.com/2021/05/14/health/coronavirus-variants-united-states-of-america.html 2021年5月17日閲覧。 
  10. ^ a b “新型コロナウイルス感染症の世界の状況報告”. 厚生労働省. (2021年6月8日). https://www.forth.go.jp/topics/20210611.html 2021年10月2日閲覧。 
  11. ^ SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions”. CDC.gov. Centers for Disease Control and Prevention (2021年3月24日). 2021年4月4日閲覧。
  12. ^ “Neutralization of SARS-CoV-2 Variants B.1.429 and B.1.351”. The New England Journal of Medicine 384 (24): 2352–2354. (April 2021). doi:10.1056/NEJMc2103740. PMC 8063884. PMID 33826819. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8063884/. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]