百日紅の下にて

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金田一耕助 > 百日紅の下にて

百日紅の下にて』(さるすべりのしたにて)は、横溝正史の短編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一つ。

概要と解説[編集]

本作は、『改造昭和26年11月号に発表されたもので、角川文庫『殺人鬼』(ISBN 4-04-355504-0) と、角川文庫『真山仁が語る横溝正史 私のこだわり人物伝』(ISBN 4-04-394369-5) に収録されている。

本作は『獄門島』事件の直前を描いた物語であり、ラストが『獄門島』へと繋がる形となっている。

ストーリー[編集]

1946年(昭和21年)9月の初め頃の夕刻のことである。市谷八幡の近所の坂の上で、空襲で焼け落ちた屋敷の前に佇む佐伯一郎の前に川地謙三の戦友だという復員者風の男が訪れた。その男は、川地はニューギニヤで戦死したが、死の直前まで昭和18年春頃に起こったある事件について心を悩ましていた。そして、復員者風の男が自分と話し合えば事件の謎が解けるという。それにあたって川地はまず、佐伯に由美という女性について語ってもらってくれということであった。

川地の思惑が分からないまま、佐伯は昭和17年春頃に自殺した彼女について語り始めた。由美は8歳で母親に芸者屋に売られた後、9歳のときに佐伯に引き取られて妻にすべく育てられた若く美しい女性であった。彼女の周囲にはいろんな若い男が集まり、そのうちの1人が川地であった。由美と同様に孤児だった川地は横浜で育った不良少年で、類い稀な美少年であった。

1941年(昭和16年)の夏の初め、当時36歳だった佐伯に赤紙が届き、彼は21歳となった妻の由美を4人の友人、川地・五味謹之助・志賀久平・鬼頭準一に託して戦地に赴いた。そして足にひどい負傷をして左の膝関節から下を切断され、義足をはめて佐伯が帰ってきた昭和17年の春、その1週間後に由美は服毒自殺を遂げた。遺書も遺言も残されていなかった。

1943年(昭和18年)の春、佐伯は前述の4人を由美の命日の2日前から自宅に招き、その命日に一周忌法事を行った。それがある程度進んだところで、佐伯がジンを用意し皆に配った。すると、それを飲んだ五味が死んだ。五味のグラスにだけ青酸カリが入っていたのである。

最初に疑われたのはジンを用意した佐伯であったが、グラスが皆に配られるまでには幾重もの予見不可能な紆余曲折があったので、すぐに容疑から外された。それでは青酸カリはグラスが配られてから混入されたのではということになり、五味のそばにいた川地が疑われることになった。さらに川地が自分のグラスをこっそり五味のグラスとすり替えたことも判明し、疑いは濃厚なものとなった。しかし、そのすりかえの理由がグラスに短い髪の毛が浮かんでいたということだったので、もしやそれが毒入りの目印なのではということになったが、グラスが配られる過程を考慮しても、やはり青酸カリはあとから混入されたということになった。しかも、川地のかばんには、青酸カリの入った小瓶があった。

川地の疑いは濃厚なものとなったが、たまたま川地は用事で事件の前夜から他の家に泊まっていて不在であり、青酸カリ入りの小瓶の入ったかばんを佐伯家に置いたままであった。その不在の間に佐伯の愛犬のネロが血を吐いて死んでおり、調べると餌に混ぜられた青酸カリによる中毒死だった。その食物は佐伯家の爺やが朝起きてから作って与えたものであり、何者かがネロに小瓶に入ったものを食物に混ぜて食べさせてその効果を試してから人間に用いたのではないかということになり、そうすると川地にはネロに青酸カリを飲ませることができないことから彼の疑いは晴れた。

結局、爺やの証言からネロの食物を用意した後、五味自身が台所に出入りしていたことが判明し、五味の自殺説が浮かび上がってきた。さらに当時の五味は、勤めていた商事会社が潰れて生活に困窮し、健康も害していたことから自暴自棄となり、自殺もしかねない状況にあった。そのことから、事件は五味の自殺として処理された。

しかし、この解決に満足していなかった川地は青酸カリ入りのグラスは自分に配られたもので、自身を殺そうとしたのは佐伯であると戦友である復員者風の男に語っていた。佐伯の応召中に暴力をもって由美を犯して性病を伝染(うつ)し彼女を自殺させた犯人は川地であると、佐伯は誤解しているのだと。

佐伯は、もしそうだとしてどうやってやったというのかと尋ねると、復員者風の男は言った。「不可能ではありません。もし、あなた自身も毒をのむつもりだったとしたら……」

復員者風の男の推理を聞いた佐伯はそれを認め、川地が由美を犯した犯人と決めつけた理由を話した。美少年で女たらしという偏見と由美が川地の額に接吻をしたのを目撃していたことから、犯人は川地以外にいないと思っていたのだった。復員者風の男は、川地が青酸カリを持っていたのは五味こそが由美を犯した憎むべき犯人だと知り、復讐のために毒殺しようとしていたと佐伯に語ると、佐伯は頑なに川地を大噓つきの犯人だと罵った。すると復員者風の男は、佐伯に彼が知らなかったある事実を語る。

実は川地は由美が2歳の頃、情夫と駆け落ちした生母が産み落とした父親の違う弟だった。佐伯は相手を間違えて殺したと思っていたが、偶然ながら川地と二人がかりで真の由美の仇を討っていたのだった。復員者風の男が真相を解き明かして去ろうとすると、佐伯は名前を問うた。彼は「金田一耕助」と答えた。

そして、金田一は瀬戸内海の孤島「獄門島」に急ぐため、去っていった。

登場人物[編集]

  • 佐伯一郎 - 資産家。
  • 佐伯由美 - 佐伯の妻。
  • 川地謙三 - 横浜で育った不良少年。由美の異父弟。
  • 復員者風の男 - 川地謙三の戦友。私立探偵・金田一耕助
  • 五味謹之助 - 佐伯の中学時代の後輩。築地の商事会社に勤務。佐伯と川地が知らずして憎んだ由美の仇。
  • 志賀久平 - 佐伯の大学時代の同窓。詩人。私立大学の講師。
  • 鬼頭準一 - かつての佐伯家の書生。軍需会社に勤務。

メディアミックス[編集]

舞台[編集]

  • 百日紅の下にて (2002年12月28日・12月29日、一徳会、演出:石井幸水、金田一:青木奈々
  • 百日紅の下にて (2003年12月20日、綜合正義企画、金田一:林正樹

漫画[編集]

テレビドラマ[編集]

NHK BSプレミアムの『シリーズ横溝正史短編集 金田一耕助登場!』の第3回として、2016年11月26日に放送[1] 。演出は渋江修平

キャスト[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]